機動戦士ガンダムSEED Free……Dream ―ミカイが見た夢― 作:黒瀬夜明 リベイク
アルテミス要塞を目指す道すがら、キャバリアーの管制室ではラクス救出作戦の最終確認が行われていた。最初にアスランが口を開き、初動の動きを確認する。
「まず俺がフリーダム*1でアルテミスに攻撃を仕掛ける。恐らくファウンデーション側は迎撃のためにモビルスーツを出撃させてくると思う。その隙に―――」
「ミラージュコロイドを展開したズゴックが、傘が開いた隙をついて要塞内部に侵入する。だったな」
深海がアスランの言った作戦の続きを口にする。今、アスランのズゴックはストライクフリーダムガンダム弐式を抱えた状態でいる。ストライクフリーダムガンダム弐式を持ってきたのはラクス救出の為の囮として使うのは勿論だが、ラクス救出後にキラが月面へすぐに迎えるようにとの配慮も含まれている。そして、アルテミス要塞の「傘」と呼ばれる光波防御帯シールドは完璧に近い防御力を誇る。しかし、モビルスーツを出撃する際にはその一部を消さなければならない。その一瞬の隙をつき、深海たちが乗せたズゴックが要塞内部に侵入してラクスを救出する。
「だがこれは、相手がアルテミスの傘を解除してくれなければ成功することが出来ない。もしファウンデーション側が、モビルスーツの出撃を止め、傘を閉じたままにすれば、この作戦は破綻するかもしれない」
「そうだね。問題はそこだと、僕も思うよ」
アスランがこの作戦の唯一にして最大の懸念を口にする。キラも同意した言葉呟き、苦い表情を浮かべる。だが深海は腕を組んだまま、思っていたことを口にする。心なしか、深海はファウンデーション側の心情を察しているようにも見えた。
「それについては問題は無いと思うな。フリーダムが単機でアルテミスに向かってくるんだ。相手の心が読めて、勝つことが当たり前だと思っているアコードなら、必ず出てくる。特に、あの戦闘狂な近衛師団長ならな」
「何でそう言い切れるんですか?」
キラが深海の考えに真剣な表情で質問を投げかけた。これから始まるラクス救出作戦は、アコードたちのデスティニープランによる支配を瓦解させられるか。それがハッキリと決まる作戦だ。慎重になるのもわかる。だが深海は、今日まで世界中の誰もがアコードを知らなかった。その事実から、導き出した答えを語った。
「アコードは、言ってしまえば温室でぬくぬくと育った人間たちだ。故に失敗を知らない。ついさっき、キラが姿を明かすまで、あいつらは「自分たちに失敗はない。何でも自分たちの思うがままに出来るのだ」そう思っていただろう。そう言った人間が、たった1度の失敗で、それを認めて克服しようとはする訳がない。「次で挽回すればいい、自分たちは何でもできるのだから」とな。なら答えは簡単だ、「キラが乗るフリーダムがのこのこやられに来た。ここでフリーダムを墜として、全てを挽回してしまえばいい。自分たちは相手の心が読める、負ける通りは無い」……奴らは必ず出てくる」
深海の発した言葉にその場にいた全員が息を呑んでていた。アスランでさえ、少し驚いた表情で深海の言葉を聞いていた。
「凄いですねクロノ大尉。流石の俺も、そこまで考えていませんでした」
「あくまでも予想だ。全部が全部あっている訳じゃないだろうさ……それと、俺の事も名前だけで呼んでくれないか?少しこそばゆい」
アスランの言葉に深海は頭を掻きながら、照れ臭そうに言った。アスランはその深海の顔を見て、あ。と零す。だがどうやら、引き受けてはくれたみたいだった。
「すみません。どうにも、慣れていなくて……」
「気にするなアスラン。それに、この作戦はお前の親しい友人が立てた作戦なんだろ?なら、その友人の事を信じてやれ」
「そうですね。ミカイさん、キラの事を頼みます」
アスランの言葉に、任せておけ。と自信に溢れた笑みで答える深海。アルテミス要塞を陥落させる手段は既に決まっていたが、それでもキラは対人戦には不慣れだ。キサカ一佐がいるとは言え、万が一に備えている事は悪い事ではない。深海は今一度気合を入れ直した。すると当のキラ本人が、ずっと気になっていたんですけど。と深海に切り出した。
「ミカイさんはどうして、ラクス救出作戦に同行させてほしい。って言ったんですか?確かに僕は、対人戦は頼りないですけど、キサカ一佐もいますし………」
深海はキラの言葉に意表を突かれたようで、少しだけ表情が驚いた者へと変わった。だがすぐに、いつもの顔に戻ると、口元に小さく笑みを浮かべて言った。
俺にも、助け出したい奴がいるんだ
「え、それって誰なんですか?」
キラが困惑した顔で深海に尋ねる。すると深海は小さく首を振ってみせた。
「それはまだ秘密だ。だが、俺たちの行動に少なからずいい影響を与えることが出来る。とだけは言っておこう」
深海の言葉にはぐらかされたキラは、そうですか。とあっけなく引き下がった。この人は自分たちには思いもよらないことを考えているのだろう。そう感じさせる表情だった。そしてメイリンが、その場にいた全員に聞こえる声で告げた。
「もうすぐアルテミスです」
メイリンの言葉を受け、深海たちその場にいた全員が頷き、行動を開始した。
アスランがストライクフリーダムガンダム弐式で出撃し、その後をミラージュコロイドを展開したズゴックが追随する。ストライクフリーダムガンダム弐式とズゴック。この2機が息の合った動きをしなければ、アルテミス要塞侵入は叶わない。そして、ストライクフリーダムガンダム弐式がアルテミス要塞の少し手前で動きを止めると、ズゴックのいる方へ向かって、その頭部を頷かせた。
「合図だ。行くとしようか」
「了解」
ストライクフリーダムガンダム弐式はその場でしばらく留まり、先行するズゴックを見送る。ミラージュコロイドを使っている以上、スラスターなどの熱源を発生させることは出来ない。2機の速度差を考えれば、ズゴックが先行し後からストライクフリーダムガンダム弐式がズゴックを抜き去って囮とならなければならない。深海はズゴックの進む先、傘を開いたアルテミス要塞を見据えていた。キラ達は装備の点検などをしているが、深海は手持ちの自動拳銃だけ確認をして、今こうしてアルテミス要塞を見据えている。それからしばらく時間が経過し、ズゴックがアルテミス要塞にある程度接近したタイミングで、後方からストライクフリーダムガンダム弐式が高速で通り過ぎていった。今頃はアルテミス要塞の司令室でも、接近してくるストライクフリーダムガンダム弐式を見つけているだろう。
(さあ出て来い)
深海はそんな事を独り言ちていた。やがてズゴックはアルテミス要塞の港口に最も近い光波防御帯の位置に陣取り、動きを止めた。そしてそれから1分も経たない内に、1機の黒いモビルスーツがアルテミス要塞から発進してきた。ブラックナイトスコード・シヴァだ。その瞬間、港口に最も近い光波防御帯が遮断され、守りの空白箇所が生まれた。その瞬間を待っていたズゴックは、音も発さずに傘の内側へと潜り込んだ。余りに呆気ない傘の突破に、深海は通り過ぎていったブラックナイトスコード・シヴァに向かって投げかけた。
「ご苦労さま、「自称」新人類さん」
「ミカイさん!」
「わかった。今行く」
ズゴックはそのまま、あっという間に港口からドックの内部へと侵入した。キラの言葉に反応した深海は、ラクス捜索のため、キャバリアーから外へ通じる扉の前にいたキラ達の所へ向かった。そしてズゴックに装備されたビームとミサイルが、一斉に放たれるのと同時に、深海たちはキャバリアーから飛び出した。