機動戦士ガンダムSEED Free……Dream ―ミカイが見た夢― 作:黒瀬夜明 リベイク
コックピットが大気圏突入による激しく揺れる中、深海は操縦桿を握り締めながら正面モニターを見つめていた。
(大気圏突入まで体験することになるとは……シードフリーダムの夢、恐ろしいな)
深海はそんなことを考えていた。だがその内に深海たちの駆る機体は大気圏を突破した。先程までの激しい揺れは収まり、モニターが暗い夜空と白い雲で覆われる。そしてそのままキラのライジングフリーダムを先頭に5機は雲の中へと突入した。正面左右のモニターが全て雲の白色に変わったがそれもほんの一瞬だった。雲を抜け、地上が見えた。
(なんだあれは!?)
暗闇の中に照らし出された赤い光が深海の視界に入ってきた。赤い光は揺れながら周囲の地形を浮かび上がらせ、その周囲から黒煙が立ち昇っている。そしてその中を無数の光線が飛び交っていた。自分も現実で何度も見たことがある光景にそっくりな物がそこでは繰り広げられていた。
(市街地で戦闘が起こっている…戦闘をしている機体は……)
深海はモニターをズームさせ眼下の光景を観察した。ザフトの旧型MS「ジン」が建物の物陰から「76㎜銃突撃機銃」を撃ちかけている。その銃口の先には地球連合軍の主力量産MS「ウィンダム」そして「105ダガー」がビームライフルを撃ち返している姿があった。両軍ともにそれぞれが放った射弾に撃ち抜かれた機体はその場でオレンジの閃光を纏って爆散している。物陰から姿を晒したジンが、河の上空で射弾を浴びた105ダガーが、弾けて散っていく。そして一際目を引く巨大な機体が1機、空中を浮遊しながら市街地へと迫っていた。
(デストロイだと!?)
地球連合軍の戦略機動兵器「デストロイガンダム」だ。頭頂部に4門の巨大ビーム砲を備えた円盤を背負い、下部にある4基のホバースラスターでゆっくりと浮遊している。そして4門の巨砲が前方へと向けられた直後、その砲口から巨大な赤いビームが放たれた。放たれたビームは正面を一条の元に薙ぎ払い、そこにあった全ての物を物言わぬ残骸へと変えていく。
(クソッ!まだ射程外か!)
深海は口内で苦しそうに叫んだ。ムラサメストライクが装備している射撃武装はビームライフルと頭部の75㎜対空自動バルカン砲塔システム「イーゲルシュテルン」だけだ。どう足掻いても届くはずがない。そして深海はジンたちが防衛線を敷いている市街地の奥に目を向けた。米粒のように見える小さな物体がジンたちの背後に向かって動いている。
(っ!まさか民間人―――なっ!?)
深海がそう思った直後民間人を護っているのであろうジンの横をすり抜けた105ダガーがその民間人の波にビームライフルを撃ったのだ。慌ててその場にいたジンが105ダガーに76㎜銃突撃機銃を撃ちかけるが煙の晴れた地上には何も残っていない。
(あいつら―――)
深海の内側に黒い感情が浮かび上がっていく。そして背後を見せたジンにジェットストライカーを背部に装備したウィンダムが、ビームサーベルを抜き放って斬りかかった。それに気づいたジンが振り向こうとしたが、ウィンダムのビームサーベルはジンの右前腕を切り落としその戦闘力を奪った。止めとばかりにウィンダムは側頭部のバルカンをジンに撃ちかける。何とか反撃しようとするジンだったがウィンダムのバルカンの射弾を無数に浴び、力尽きる様に仰向けに倒れて動きを止める。そしてその背後には無数の人混みが出来ていた。逃げ遅れた民間人だ。と深海は直感した。直後に地上の民間人を威嚇するようにウィンダムのメインカメラが光を放つ。
(マズい―――)
そしてウィンダムがゆっくりと歩を進め、二歩目を踏んだ時だった。深海の目前を飛翔していたライジングフリーダムの下部にマウントされたビームライフルから緑色の閃光が走った。放たれた閃光は歩を進めていたウィンダムの頭部に命中し爆散させる。これ程の遠距離で地上目標を精密に撃ち抜いてみせたキラの技量に深海は思わず舌を巻いた。そして上空から一気に地上付近へと舞い降りMS形態に戻ったライジングフリーダム、イモータルジャスティス、ムラサメストライクはゲルググメナース、ギャンシュトロ-ムと共に五角形の陣形を組み、戦場の上空を飛ぶ。深海のムラサメストライクの隣にはシンのイモータルジャスティスが飛んでいた。
〈こちらは、世界平和監視機構「コンパス」攻撃部隊に告ぐ、直ちに戦闘を停止せよ!〉
そしてキラが攻撃部隊。市街地を攻撃している地球連合軍への警告を発した。だが、その程度の行為で戦闘が止まる訳もなく、デストロイの円盤の縁から放たれた光線が地上を凪ぐようにしてジンを撃破していく。そして地上に足を下ろしたデストロイはその円盤を自身の背後へ移動させ、MS形態へと変形した。かと思うと深海の耳にロックオンアラートが聞こえてきた。MS形態に変形したデストロイがまるで自分たちを歓迎するかのように口部と胸部の大口径ビーム砲をこちらに撃ってこようとしていたのだ。
(あんなものに当たれば即死だなッ!)
深海は操縦桿を左へ倒してその場から離れた。直後に四条のビームが上空を駆け抜ける。他のヤマト隊各機も散開し、キラの指示の通りに行動を開始する。シンとルナマリア、アグネスのイモータルジャスティス、ゲルググメナース、ギャンシュトロームは地上へ向かい、キラのライジングフリーダムは単機でデストロイへと向かっていく。そして深海は高度を落としながらも空中で戦場の状況を見極める。
(部隊の後方支援なら、このくらいの高度が良いだろう)
〈またこんなものを…ッ!〉
キラの声が聞こえたと思った直後、深海の駆るムラサメストライクに向かってくる105ダガーとウィンダムが1機ずつ現れた。ジェットストライカーを装備したウィンダムは上空から105ダガーは地上からこちらへ射撃を加えてくる。
「そんなもの!」
だが、単調な攻撃が深海に通用するわけもなく、ムラサメストライクは身を翻しながら相手の射弾を避けていく。そしてムラサメストライクが上空のウィンダムに銃口を向けた時、深海の脳裏にある言葉が浮かび上がった。
もう
いつだったか、自分の愛しき妻「時雨」が発した言葉だ。深海棲艦と人間との間に生まれた深海は、軍から追われながら長期間過ごしてきた過去がある。その間に幾人もの人間を自身の手で葬ってきたことは自分自身がよく覚えている。生きる為だったとは言え、人を殺して生きてきた血塗れの自分を受け入れてくれたのが時雨だった。そして彼女の発した言葉が深海の脳裏に焼き付いていたのだ。
「時雨が言ったなら、仕方ない…なっ!」
ビームライフルがその銃声を上げる直前、深海は手元の操縦桿を少しだけ操作して銃口を僅かにずらした。そして銃口から放たれたビームはウィンダムの右肘に着弾し、関節部分を根こそぎ焼き切った。ウィンダムの右前腕部がビームライフルを握ったまま落下していく。続け様に深海はビームライフルを4発放った。狙ったのは頭部、左肘、ジェットストライカーの両主翼だ。敵が空中にいる以上、墜落させてしまえば良い。と深海は考えたのだ。狙いは
(他は大丈夫か?)
ふぅ、と息を吐きながら深海は周囲を見回した。今だ戦闘は集結しておらず、デストロイも依然健在だ。深海の目にルナマリアのゲルググメナースがビームシールドを展開してデストロイの砲撃を防いでいるのが見えると、今度は通信でシンの声が聞こえてくる。
〈アグネス、援護しろ!〉
シンの駆るイモータルジャスティスが地上で民間人を護りながら戦っている。そして上空から迫ったのであろうMSに見事な三連射を浴びせて撃墜し、迫ってきた105ダガーの右足を「MA-F2D2ヴィーセルナーゲル ビームブーメラン」で切り裂いている。
〈何言ってんの?私の機体は近接戦用、援護はアンタよ!〉
アグネスの反論が飛んだかと思えば、ギャンシュトロームが「MMI-KX8E4 自航防盾」のビーム刃を高速回転させて105ダガーを切り刻み、背後から迫った別の105ダガーに「MMI-T818 トリデンティ3銃身回転ビーム機銃」を浴びせかけて撃破する。
(あいつらの援護って…必要なのか?)
シンとルナマリアは言うまでもないが、あのアグネスという人物も相当の腕の持ち主のようだ。キラから「シンたちの援護」を頼まれた深海ではあったが、相手のパイロットが弱すぎるのか、それともこちらのメンバーが強すぎるのか。まるで援護を必要としていない戦いぶりだ。そして上空でデストロイと戦っていたキラのライジングフリーダムも、完全にデストロイを圧倒している。目で追うのが難しいくらいの速度でデストロイから分離された両椀を「MA-FZ51 ヴェルシーナビームサーベル」とシールドブーメランであっという間に破壊すると、背面の「MA-BBF75 400㎜超高インパルス砲シュトゥルムスヴァーハー」腰部の「MMI-M2020 ヴァイパー3レールガン」そしてビームライフルとシールドブーメランのハイマットフルバーストをデストロイに見舞い、デストロイの砲門を次々に破壊して止めとばかりにシールドブーメランが胸部を切り裂く。そのままデストロイは沈黙し崩れるようにして地面に倒れた。キラの実力は知っていたし、デストロイが接近戦に物凄く弱いという事は知っていたが、ここまで呆気なく、ましてや接近もせずにデストロイを沈黙させるとは思ってもいなかった深海は度肝を抜かれたような感覚を味わっていた。