機動戦士ガンダムSEED Free……Dream ―ミカイが見た夢―   作:黒瀬夜明 リベイク

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PHASE-29 彼女だけに伝える秘密

深海はラクス救出作戦の前にやっていたムラサメストライクのOS調整を急ピッチで進めていた。コックピットの中には深海のキーボードをたたく音で満たされていたが、時折外にいる整備員と声をかけあって、何度かの確認を行う。そして深海が、キーボードの最後のエンターキーを押した。ピー!と高い音が鳴り、ムラサメストライクのOS調整は完了した。ふぅ、と深海が息をついた。

(ラクスとアスランが出てから、どれくらい経った?)

ラクスの演説から10分もしない内に、ラクスの乗るプラウドディフェンダー*1と、アスランのズゴックはミレニアムから飛び立っていった。深海も遅れないように、すぐにムラサメストライクのOS調整に向かった。イングリットも協力をすると言ってきたが、自分が乗り込み、彼女を送り届ける為の機体の特性は自分が1番よく知っている。と深海は断りを入れた。その時は、少しだけ気持ちが沈んだが、ここだけは譲れないと、内心で同時に呟いていたことを思いだすと、イングリットには筒抜けだったことを思い出して笑みがこぼれる。そして深海はムラサメストライクのコックピットから出ると、パイロット待機室で待っているイングリットを呼びに行った。エレベーターに乗って、待機室に上がると、隅の方の椅子に座ったイングリットが、胸の前で手を組んで目を閉じている姿が目に入ってきた。何かを祈っているようにも見えたが、深海にはその内容は分からない。深海は意を決して声を掛けた。

「イングリット」

「あ――」

深海の声を聞き、イングリットが顔を上げる。

「待たせてすまなかった。いつでも行けるぞ」

「わかりました」

少しだけ晴れやかな表情のイングリットを見て、深海は小さな安心感を得た。今の彼女なら、大丈夫だ。深海はそう無意識に思ってしまっていた。そしてエレベーターから格納庫へと降り、2人はムラサメストライクへと向かっていく。先に深海がコックピットに入ってシートに座り、イングリットがコックピットに入ってくる。

「狭苦しいかもしれないが、我慢してくれ」

「いえ、私の望みを叶えるためなら、このくらい平気です」

「そうか、なら行くとしようか」

深海はコックピットの向こう側にいる整備員に向かって親指を立てた。それを見た整備員がコックピット周辺から離れたのを確認してハッチを閉じる。システムを全て立ち上げ、モニターが点灯する。そしてブリッジとの回線を開き、マリューを呼び出した。

「ラミアス艦長、ミカイです!ムラサメストライクの発進許可願います!」

〈わかりました、許可します。ストライク、発進準備!〉

マリューからの返事はすぐに返ってきた。深海自身も、これほど早く返事が返って来るとは思わなかったが、何はともあれミレニアムから飛び立つことが出来る。あとは、自分次第だ。そんな事を考えていると、ムラサメストライクの拘束具が動き出した。すると不意に、イングリットが深海に質問してきた。

「何故、ミカイさんは敵である私を助けてくれたのですか?」

「…そうだな。放っておけなかったから、か?」

「放っておけなかった?それは、どういう……」

深海は一瞬だけ言葉に詰まった。今あるこの世界は、深海自身が見ている夢に過ぎない。つまり、いつかは終わってしまう。そして今ここにいる自分は、この世界の住民ではない。そんな事を唐突に話して、イングリットは信じるのだろうか。深海は、少し悩んだ末に切り出した。

「イングリット、お前はこことは違う、別の世界を信じるか?」

「え?」

イングリットは深海の突拍子な言葉に困惑した。無理もない反応だ。と深海は自信を納得させると、そのまま話し続けた。

「俺はこの世界、コズミック・イラの世界で生まれた人間じゃない」

「それは…あの、どういうことですか?」

そして深海は、自分の身元についてイングリットに話した。自分はこことは違う世界、人間と深海棲艦の間に生まれた人物であること。人類と深海棲艦は長い戦争の果てに、平和を掴んだこと、それ行ったのが自分だということ。自分はそんな世界の日本で、家族たちと幸せな家庭を築いて暮らしていること。そして―――

「お前に何もかもそっくりな奴が、俺の世界にはいたんだよ」

「……私に」

「ああ。そいつは、ある会社の社長秘書でな。その社長に幼少の頃から一途な思いを抱いていたが、その社長は別の女性を好意を向けていた。だから俺は、その女性と協力してお前そっくりな彼女の想いを、その社長に伝える手伝いをした。結果、その2人は結ばれることになった」

「………」

イングリットは少し俯いた様にして黙り込んでしまった。理由は分からない。今から自分がしようとしている事が果たして、そんなに上手くいくことだろうか。と考えているのか?と深海は思っていた。やがて、ムラサメストライクはミレニアムの左舷カタパルトにリフトアップされた。深海はすぐにフェイズシフト装甲を起動させた。鉄灰色だったムラサメストライクが白、青、赤のトリコロールカラーに色づく。

「信じなくても構わない。今は、目的に向かって進むだけだからな」

そう言って深海は正面を見据えた。正面に見える黒い宇宙は無数の光条と爆発の光が幾つも光っては消えていく。あの光が消えた先で1つの命が消えているのかもしれない。と深海は思ったが、今自分は傍らにいる少女、イングリットを彼女の想い人の元へ送り届けなければいけない仕事がある。深海は先程まで考えていたこと振り払い、集中する。

「いえ、信じますよ。私は「彼と結ばれる未来」を夢見てしまった……私も、そんな彼女のようになりたい

「そうか」

イングリットの言葉に、深海は小さく笑みを浮かべた。そして―――

〈進路クリア!ストライク、発進どうぞ!〉

 

 

 

ミカイ・クロノ。ストライク、出るッ!!

 

 

 

両肩にマイダスメッサ―を追加装備した「ムラサメストライクガンダム(最終決戦仕様)」はミレニアムから飛び立っていった。

 

*1
深海は後で名前を知ることになる

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