機動戦士ガンダムSEED Free……Dream ―ミカイが見た夢― 作:黒瀬夜明 リベイク
深海の言葉に、オルフェは動揺することはなかったが、その言葉の理由までは理解出来なかった。
〈2人が向き合っただと?意味のわからぬ戯言をほざくなぁー!〉
ブラックナイトスコード・カルラが対艦刀を振りかざし、ムラサメストライクに向かってくる。咄嗟に深海は武装からビームサーベルを選択した。ムラサメストライクが右腕を左脇へと回し、ビームサーベルを抜刀する。向かってくるブラックナイトスコード・カルラに「フラッシュエッジG-3シールドブーメラン」を構えて立ち向かうムラサメストライク。ブラックナイトスコード・カルラが振り下ろしてきた右手の対艦刀をシールドブーメランで受け止め、右手のビームサーベルを右上段から振り下ろす。だがこの攻撃はブラックナイトスコード・カルラの前腕部のビームシールドで防がれた。
〈そんな旧時代のモビルスーツで、我らに挑むとはなぁ!何と哀れな奴だ!〉
「そうか?お前の所の近衛師団長様は、その旧世代のモビルスーツに傷一つ付けられなかったみたいだが?」
深海はオルフェに対して挑発をする。エルドアでの戦闘でムラサメストライクはブラックナイツたちから一撃も攻撃を貰っていない。事実を述べたが、オルフェは気にしていないように、ふんっ。と鼻を鳴らした。
〈幾ら喚こうが無駄だ!ナチュラルのお前が、私に勝てる通りは無い!〉
すると、隣で見ていたイングリットがオルフェに向かって叫んだ。
「オルフェ、もう止めて!」
〈っ!〉
オルフェはその言葉に僅かに動揺を見せた。イングリットはただの人質だと思っていたのだろうか、オルフェの表情に「驚き」の二文字が現れた。
「私は貴方と戦いたくないの!お願い、もうこんな戦いは止めて―――」
〈何を馬鹿な事を言っているイングリット!役目を果たせなければ、我らに生きる意味は無いのだぞ!〉
(マズい、このままではパワー負けする!)
イングリットの言葉とは裏腹に、ムラサメストライクの操縦に集中していた深海は、ブラックナイトスコード・カルラとのパワー差にムラサメストライクが押し込まれつつあることに気づいていた。深海は咄嗟に操縦桿を動かし、ムラサメストライクの右足でブラックナイトスコード・カルラを蹴り飛ばした。ムラサメストライクとブラックナイトスコード・カルラの間合いが開き、ムラサメストライクは再びビームサーベルを構え直す。
「その役目が既に機能していないことに、何で気付かないんだ!」
深海はスラスターペダルを踏み込み、ブラックナイトスコード・カルラに立ち向かう。右上段から袈裟斬りを放ったムラサメストライクの攻撃を左腕のビームシールドで受け止めるブラックナイトスコード・カルラ。ビームシールドを構えていない右腕の対艦刀を振り上げ、上段から振り下ろしてくるブラックナイトスコード・カルラの攻撃をシールドブーメランで受け止める。
「お前たちにもう逆転の目は無い!例えここで俺たち全員を殺しても、お前たちの所業を知った世界は、誰1人としてお前たちに同調はしない!そうなったら、全世界の人間全てを殺すことになるんだぞ!」
〈ふざけるなぁー!〉
「クウッ!」
怒りに任せた弾き返しにより、ムラサメストライクは押し返された。深海は焦ることなく、姿勢を整え追撃に備える。オルフェの怒りの叫びが通信を通して深海に告げられる。
〈お前の様な旧人類が知ったような口で語るな!この怨恨に満ちた世界の原因を作りだしたのは、お前たちナチュラルなのだぞ!〉
〈そんな事はない!〉
唐突にキラの声が響いた。深海はチラと右のモニターを見るとマイティーストライクフリーダムがそこにはいた。右手には実体剣の刀「フツノミタマ」*1、左手にはビームサーベルを握っている。
〈例えナチュラルであったとしても、偏見を持たず接してくれる人たちはいる!僕たちはそれを知っている!一部の悪いものにばかり目を向けるだけじゃ、駄目なんだ!〉
〈黙れ!人はその悪い部分にしか目を向けない!恨みを忘れず、相手を憎んで殺し合う。それがこの世界なのだ!〉
「………」
オルフェの言葉はきっと正しいのだと思う。二度の大戦であれほど、痛い目や辛い目を見たというのに、ナチュラル、コーディネイター間の溝は依然として埋まっていない。故に彼らは、デスティニープランを提示しプランで世界を平和にしようとした。だが、それが実行されたとしても、世界はきっと平和へは向かわない。人種間の溝はさらに深まるだろう。
「その小さな世界しか見ていないから、お前はお前に好意を向けているたった1人の相手に気づけていないんだぞ!」
〈何をふざけたことを!私はそんな好意などいらない!私は今、姫が欲しい!!〉
「っ!!」
(諦めるなイングリット!お前が諦めたら、全てが終わりなんだぞ!)
たった1人の人間に出来ることなどたかが知れているのだ。それはナチュラル、コーディネイター、そして優秀な能力を持って生まれてきたアコードであるオルフェだとしても同じだ。だが彼らは能力を持って生まれ、その能力をデスティニープランの為だけにアウラに利用され、それしか知らない。故に、オルフェはイングリットの支えに気づけていない。それが当たり前で、彼にとっての「普通」だからだ。だが、自分の都合を相手に押し付け、それを強制させようとすることは決して許されることではない。深海は再びシールドブーメランを前に構えてムラサメストライクを突撃させた。ムラサメストライクのビームサーベルとブラックナイトスコード・カルラの対艦刀がぶつかり火花を散らす。
「ならば何故お前は、そこまでラクスに執着する!今でも彼女が自分の事を愛してくれていると思っているのか!」
〈我らは与えられた役目をこなさなければならない!その為に、貴様たちは全員消えなければならないのだぁ!それが我らに与えられた―――〉
もういいじゃないオルフェ!!
〈っ!?〉
再びオルフェがイングリットの叫びに動揺した。深海も、彼女がここまで声を張り上げたことに少し驚いたが、動揺まではしなかった。イングリットの目には大粒の涙が溜まっていて、その必死さが沸々と伝わってきた。
「もう役割なんて、どうでもいいじゃない!なんで…何でそんなに役割に固執するの!?愛してくれてもいない姫様と、デスティニープランを世界に広めることが、貴方の本当の望みなの!」
〈私たちは必要とされて生まれてきたんだぞ!それを今更―――〉
人は必要から生まれるのではありません!
唐突にラクスの言葉が、通信を介してその場にいる深海たちに向かって投げかけられる。そしてその言葉は続けられた。
愛から生まれるのです!!
直後、フツノミタマを掲げたマイティーストライクフリーダムが高速でブラックナイトスコード・カルラに迫り、通り過ぎながら斬りかかった。フツノミタマは、ブラックナイトスコード・カルラの左腕と左ウイングを切り裂き、態勢を大きく崩した。
〈なにぃ!?〉
オルフェは完全に意表を突かれる形になり、更に動揺した。そしてその動揺によって生まれた隙を、深海は見逃さなかった。
「無上の愛を向けるたった1人の女の子の想いに答えられない男が―――」
世界を導けるものかぁぁぁー!!!
一瞬の隙を突き、ブラックナイトスコード・カルラを押し返したムラサメストライクは更に踏み込み、残された右腕をビームサーベルの縦斬りで斬り裂いた。
〈っ!?〉
そして、ブラックナイトスコード・カルラが咄嗟に反撃しようとして開放した胸部のビーム砲に向け、深海はイーゲルシュテルンの引き金を引いた。ムラサメストライクの側頭部から発射された弾丸は、狙い違わず胸部ビーム砲の砲口へと吸い込まれ、被弾を受けて爆破した。
〈うわああぁぁぁー!!!〉
そしてその爆破の衝撃を受け、両腕を失ったブラックナイトスコード・カルラは月面へと墜落していった。
「オルフェ!」
イングリットは身を乗り出して、愛する者の名前を呼んだ。深海はそんなイングリットにごく普通に語り掛けた。
大丈夫だ、彼は生きている
深海はムラサメストライクを、月面へと墜落したブラックナイトスコード・カルラの元へと向かわせるのだった。