機動戦士ガンダムSEED Free……Dream ―ミカイが見た夢― 作:黒瀬夜明 リベイク
「………ん?」
深海は鎮守府本庁舎、執務室の机の上で目を覚ました。執務机から体を起こし、寝ぼけていた意識を引き戻して壁に掛けられた掛け時計に目を向けた。現在の時刻は、4時23分。窓から見える外の景色は依然真っ暗だが、振っていた雪はどうやら止んだようだ。深海は椅子に深くもたれ掛かると、さっきまで見ていた夢の事を思い出す。夢が覚める最後の瞬間、深海はオルフェとイングリットの幸せを願った。しかし、あれは夢の世界での出来事。これから上映される「劇場版 機動戦士ガンダムSEEDFREEDOM」は夢の中で見たものとは恐らく違う内容の物語になるのだろう。と深海は思った。だが、深海はそれでも、オルフェとイングリット。運命の鎖から解き放たれた2人の幸せを願わずにはいられなかった。深海はふと、視線をムラサメストライクの方へと向けた。ムラサメストライクは執務机の上で直立不動のまま立っているだけだ。夢の中で見たように、自分の前にその巨体を見せることはもうない。しかし深海はそんなムラサメストライクに向かって投げかけた。
「お前が居なかったら、俺はあの2人を結ばせることは出来なかった…ありがとうな」
ムラサメストライクは何も応えることはない。ただそこに立っているだけだ。深海の独り言が、暖炉で燃える炎のパチパチと言う音に掻き消されて、消えていく。やがて深海は椅子から立ち上がった。
「もうすぐ夜も明けるが、そろそろ寝るとするか」
深海はそう言って暖炉の火を消した。この暖炉は明石印の特別製で、スイッチ一つで炎を消せるという代物なのだ。深海はそのまま執務室の照明を続けて消すと、隣の寝室へと入って行った。
そして年が明け、全国各地の映画館で「劇場版 機動戦士ガンダムSEEDFREEDOM」の上映が始まった。深海たち黒野家の一同も、上映開始当日に映画を見に行った。そして深海は、去年の年末に見た「夢」が、如何に事が上手く運べたのかを、思い知らされることとなった。「劇場版 機動戦士ガンダムSEEDFREEDOM」の物語は、当初は深海の見た「夢」と同じ内容だった。しかしその夢の中にいた自分「ミカイ・クロノ」に当たるポジションのキャラクターは勿論存在せず、アコードたち、オルフェも、イングリットも、最後の最後でその命を散らすことになった。イングリットは、オルフェに対する愛を最後に伝えることが出来たが、そこで彼らは戦場の光となって消えてしまった。深海はその事を予想していなかったこともあって、強い衝撃を受けた。しかし「劇場版 機動戦士ガンダムSEEDFREEDOM」の物語は、「現実」にそう確定してしまった。
(やっぱりあれは、所詮夢……俺の中にある、幻想に過ぎなかったんだな)
映画を見てから1ヶ月が過ぎたこの日、深海がそう思っていながら、執務机の椅子に腰かけていた。すると、不意に手元に置いてある固定電話が鳴った。海軍内で使われる情報伝達を主とした回線の電話だ。深海は受話器を取って耳に当てた。そして、南方海域、珊瑚海の方で赤色海域が発生したことを告げられた。深海は一言、わかった。と口にし、席を立つ。深海は執務室を後にし、自分の元部下である長門、ビスマルク、プリンツ・オイゲン、大鳳、夕張、明石に声をかけ、次いで母親の空母水鬼、同居している深海棲艦、深海海月姫にも声をかけ、南方海域への出撃指令を告げた。それから1時間ほどが過ぎた頃、深海たちは艤装を纏い、艦隊の集結地点として位置付けられた「トラック環礁」を目指して、海上を進んでいた。ふと深海は、これから向かうトラック環礁についてあることを思い出した。
(そう言えば、トラック環礁はコズミック・イラの世界ではオーブの近くだったな)
オーブ連合首長国はオセアニアに位置する島国だ。オセアニアのどのあたりの島なのかは分からないが、それでもトラック環礁にはかなり近い。
(……流石に焼きが回ったな)
深海はそう思い、先程までの考えを振り払った。深海と長門を先頭にした複縦陣を展開した艦隊は、一路、トラック環礁を目指して海上を駆けていった。