機動戦士ガンダムSEED Free……Dream ―ミカイが見た夢―   作:黒瀬夜明 リベイク

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細かいことは気にせず読んでいただけると幸いです。


???

夕焼けが射す砂浜に2人の男女が歩いていた。私服姿の2人だったが、2人の左手薬指には、銀色に光る指輪が確かに填められていて、女性の方はお腹が少し膨らんでいた。彼女が妊婦であることはすぐに分かったが、その右手には、中に丸められた一枚の紙が入った透明の瓶が握りしめられていた。夕焼けが射す砂浜は、海鳥の鳴き声と海から吹き付けてくる風の音、そして寄せては返す穏やかな波の音が辺りを優しく包み込んでいた。ふと妊婦の女性が瓶を胸元まで持って来て呟いた。

「本当に届くのかしら…」

女性が握り締めている瓶、それはボトルメールだった。瓶に詰めた手紙を海へと投げ、遠く離れた誰かにその手紙を渡すというものだ。瓶は波に揺られて行く当てもなく、海を行く。だから、何処の誰に届くのかも分からない。しかし、瓶の中に入った手紙にはハッキリとした「宛先」があるのだ。この手紙を読んでほしい相手がいる。果たしてそれが、ちゃんと「宛先」の相手へ届くのか、女性は少し不安になっていた。隣に立つ男性が、そんな不安がる彼女を元気づけるべく、優しい言葉を投げかける。

「きっと届くさ。お前がそう信じていれば」

「……そうね。きっと届いてくれる。彼が、私たちの幸せを信じてくれたように、私も、この手紙が彼に届いてくれると信じるわ」

そう言ってその女性は、ボトルメールの瓶を海へと向かって放り投げた。瓶は大きな山なりの軌道を描いて、やがて海に落ち、そして2人からは見えなくなった。2人はしばらくそのまま海面を眺めていた。やがて、男性が女性を促して砂浜を後にした。2人はそのまま砂浜をしばらく歩き、近くの駐車場に停めてあったオープンカーに乗り込んだ。男性がエンジンキーを回すと、不意にラジオが気象情報を伝えてきた。

「現在、オーブ近海、太平洋上にて猛烈な低気圧が発生しており―――」

金色と青色の髪をなびかせながら、2人の男女を乗せた車は、海岸沿いの道路を走り去っていった。

 

 

晴れ渡った空の元、トラック環礁のモエン島(旧日本名「春島」)の砂浜を鵜来型海防艦の艦娘「稲木」は歩いていた。数日前、珊瑚海で発生した赤色海域への鎮圧作戦が行われ、稲木はポートモレスビーへの救援物資輸送に従事した。黒野深海提督率いる主力艦隊が珊瑚海に突入し、鎮圧作戦は成功を治めた。しかし稲木は、ポートモレスビーからの帰路の途中、太平洋上で猛烈な低気圧に遭遇し艤装に軽微な損傷を受けた。その為今は、艤装の修理を待つと共に、ちょっとした休暇を楽しんでいるのだ。

「八戸も良いところだけど、ここも波静かな良い場所だなぁ……ん?」

すると稲木は、砂浜に射しこんだ日光が、何かに当たって反射する光景を見た。一瞬は日光で目が眩んだが、目が回復した稲木は、それを拾い上げた。それは浜に打ち上げられた小さな瓶だった。海水でくすんでしまっていたが、中には1枚の紙が入っている事がわかった。

「……そうか!これ、ぼとるめぃる。と言うやつだな!」

稲木は驚愕しながらも、嬉しそうにボトルの蓋を取った。そして中から1枚の紙を取り出し、それを広げた。その紙に書かれていた内容は手紙だった。そしてその手紙の1番最初、上の方に書かれていた。「宛先」である人物の名前を見て、稲木は飛び上るように驚いた。

「えええ!?こ、これ、この手紙って―――」

稲木はその手紙と空の瓶を握りしめ、モエン島にあるトラック泊地鎮守府本庁舎へと全速力で走っていった。

 

トラック泊地鎮守府本庁舎の執務室に深海はいた。深海はトラック泊地鎮守府の提督と、今後の周辺海域の索敵計画について話し合っていたが、稲木が執務室に飛び込んできた事で、その話は一度打ち止めとなった。

「み、みみみ、深海提督!!」

勢い良く執務室の扉を開け、自分の名を叫びながら飛び込んできた稲木を見て、深海は不思議そうに稲木に尋ねた。

「どうした稲木、そんなに慌てて?」

「こ、これ!この手紙!さっき砂浜で拾ったモノなんだ!」

「手紙?」

稲木は慌てた様子でその手紙を深海に手渡した。稲木の左手にはくすんだ空瓶が握られていたから、ボトルメールか。と深海は察した。手紙を受け取った深海は―――

(よくこの島まで流れ着いたものだな)

と思いながらその手紙を読み始めた。そして手紙を読み進めると、深海は知らず知らずの内に口元に笑みを浮かべてしまっていた。深海がチラと、クリップで手紙に留められていた写真に目を移した。そこには、タキシード姿とウェディングドレス姿ではあるが、深海が良く知る2人の男女が写っていた。真っ直ぐ起立した金髪の男性と、椅子に腰かけ、花束を手にした青い髪の女性が微笑みを浮かべて写真に写っている。深海が笑みを浮かべている事に気づいた稲木が不思議そうな表情で尋ねた。

「その写真の2人、深海提督の知り合いなのか?」

「…ああ、ちょっと困った人間だが。2人共、一本芯が通った、良い奴らだよ」

深海は稲木に向き直って質問に答えると、もう1度手紙に目を向けた。そして手紙に書かれたとある一文「彼女が妊娠しました」の部分を見て、また笑みがこぼれた。そして稲木が、深海の横から写真を覗き込みながら言った。

「幸せそうな2人だな!」

「ああ。そうだな!」

深海は執務室から覗く、トラック環礁の礁湖の向こう、広大な海原に向かって投げかけた。

(お前たちが幸せそうで、安心したよ。オルフェ、イングリット)

この言葉もきっと2人に届く。深海はそう願ってやまなかった。

 




これにて「機動戦士ガンダムSEED Free……Dream ―ミカイが見た夢―」は完結となります。作者個人の願望マシマシの本作を、ここまで読んでいただいた読者の方に、深く感謝申し上げます。

また次の作品でお会いできることを願っております。ありがとうございました。
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