機動戦士ガンダムSEED Free……Dream ―ミカイが見た夢― 作:黒瀬夜明 リベイク
〈くそぉっ、出る幕ないじゃん…〉
デストロイの沈黙を見ていたシンのぼやきが通信を介して深海の耳に入ってきた。戦闘は依然続いているが連合軍の虎の子であろうデストロイが沈黙したのだ、これで戦闘も終息するだろう。と深海は思いながら向かって来たウィンダムの頭部、両腕、ジェットストライカーを撃ち抜き戦闘不能に追い込む。墜落していくウィンダムを一弁しながら深海が地上に目を向けると、案の定連合軍部隊は先程まで渡河を続けていた川に向かって後退していった。既に対岸への渡河に成功したMSも何機か存在していた。
(ふぅ、これで何とかなったか…)
深海が安堵しムラサメストライクの高度を落とした時だった―――
〈オルドリン防衛司令部より達する。この戦闘の裏にはミケールがいる!カナジを制圧し、ミケールを引きずり出せ!〉
オルドリン防衛司令部からの通信が入ってきた。
〈なんだって!?〉〈マジ!?〉
深海にとっては全く訳の分からない通信だったが、シンとアグネスの驚愕した言葉と先程まで防衛線を形成していたザフト軍が反転攻勢を開始したことから、さっきの通信はただならぬ内容だったことを物語っている事を深海は理解し、頭の中で状況を整理し始めた。
(カナジは恐らく対岸の都市…そしてミケール……これは人物だろうな。連合軍の指揮官…いや、もしかしたらブルーコスモスの現筆頭幹部なのかもしれないな…)
深海の考えは大方当たっていた。反転攻勢を開始したザフト軍は防衛戦の鬱憤を晴らすかのように、逃げ遅れた105ダガーの向かって激しく斬りかかっている。果てには拠点爆撃用のD装備と呼ばれる「M66キャニス 短距離誘導弾発射筒」から大型ミサイルを発射しているジンも見受けられる。
(もしミケールがブルーコスモスの現筆頭幹部なら、ザフト軍のこの血気盛んぶりも頷けるな)
〈警告します。進軍を中止してください、ミケール大佐はここにはいません!これ以上の戦闘継続は、市民への被害があります!〉
ムラサメストライクを地上に着地させながら思案中の深海をよそに、上空を飛ぶキラのライジングフリーダムから警告が呼びかけられた。しかしその警告を聞くザフト軍のMSは殆んどおらず、後退する連合軍MSを目指して次々に進撃を開始していた。ミサイルが降り注いだ市街地は再びその業火に焼かれて爆ぜていく。
〈形勢が変わればこれかッ………クソッ!〉
キラの色んな感情が入り混じったような言葉が通信から届いたかと思えば、ライジングフリーダムはヴェルシーナビームサーベルを抜き放って地上に降り立ち、無数のジンに高速で斬りかかっていった。素早いビームサーベルの剣劇でライジングフリーダムは次々にシンの戦闘力を奪って行く。
〈引っ込んでろ!奴らはミランの敵―――〉
〈何故わからないんだぁー!〉
不意に見知らぬ人物の声が聞こえてきたが、その声は直ぐにキラの叫びによって掻き消された。ライジングフリーダムは押し寄せてくる敵機がジンだろうが105ダガーだろうがウィンダムだろうが、関係なく次々に行動不能に追い込んでいく。ビームサーベルでジンを一掃し、飛び上って上空のウィンダムをヴァイパー3レールガンでだるま状態にする。更に地上から浴びせられる105ダガーのビームもあっという間に回避しフラッシュエッジG-3シールドブーメランを射出してもう1本のヴェルシーナビームサーベルを抜き放ち、乱れ舞う様に敵機の武器や手足を切断していく。
〈隊長……〉
不意にシンのキラを心配しているような言葉が聞こえてきた。そして当の深海もキラの操るライジングフリーダムの動きを見て違和感を感じていた。
(まるで「何か」に無理矢理突き動かされているような動きだ……デュランダルを討ってから、あいつに何があったって言うんだ?)
深海はその違和感について思案しようとしたが、周囲の状況を見てハッと我に返りスラスタースロットルを開いてムラサメストライクを飛び上がらせた。そして深海はシンたちに通信で呼びかけた。
〈3人とも聞こえるか!今の内に避難民を誘導して出来るだけ戦場から離れさせるんだ!急げ!〉
イモータルジャスティスやゲルググメナース、ギャンシュトロームの上空を飛び越え、深海は対岸で戦闘を続けているライジングフリーダムの元へと向かっていった。
〈て、おい!アンタは何処に行くんだよ!〉
「隊長の所だ!あんな無茶な戦いぶり、見てられん!」
空が白み始める中、深海のムラサメストライクは未だ戦闘を続けているライジングフリーダムの元へ向かっていった。地上では依然ライジングフリーダムが105ダガーの群れを圧倒していた。そして深海がキラの元へ向かっている途中で、キラに襲い掛かっていた全ての機体が攻撃を止めた。正確には、全ての機体が戦闘力を根こそぎ奪われたのだ。そしてライジングフリーダムがシールドブーメランを回収した時、ムラサメストライクがライジングフリーダムの上空へと辿り着いた。ライジングフリーダムの周囲には戦闘力を失った数機の105ダガーが後退っており、肩で息をするキラの荒い息遣いが通信越しに聞こえていた。
(この状態じゃ、まともに会話も出来んだろう)
キラの状態を察した深海はオープン回線を開き、眼下の連合軍ザフト軍部隊に警告を飛ばした。
「警告する。連合、及びザフト両部隊は直ちに撤退せよ。繰り返す、連合、ザフト両部隊は直ちに撤退せよ」
しばらくして、深海の警告が届いたのか連合のMS部隊もザフトのMS部隊もそれぞれの集結地へと引き返していった。なんとか両軍部隊の戦闘停止に漕ぎ付けることに成功した深海は、はぁ…と息を吐きライジングフリーダムの元へとムラサメストライクを降り立たせた。
「大丈夫か?」
深海はキラに語り掛けた。ムラサメストライクがライジングフリーダムへ近づいていくと、キラの何処か弱々しい声が返ってきた。
〈はぁ…はぁ…はい、大丈夫…です……ありがとう、ございます…ミカイさん〉
「礼には及ばない…が、あんな無茶な戦いぶり、見ていられなかったぞ」
〈……すみません〉
深海の指摘にキラは弱々しく謝罪の言葉を述べた。だが深海は今のキラの謝罪が反射的に返って来ただけの言葉に聞こえていた。つまり、キラの心には響いていない。深海はそう感じていたのだ。
(理由はどうあれ、後で話を聞く必要がありそうだな…)
深海の心にはやはり先程考えていた「キラは何かに無理矢理突き動かされている」事が引っ掛かっていた。だが、今この場で本人に話を聞けるような状態ではないし、立ち尽くしていても何も意味がない事も事実だ。
「シンたちと合流しよう」
〈…そうですね〉
ムラサメストライクは折り畳んでいた両肩の翼を展開しスラスターを噴かして飛び立った。ライジングフリーダムがその後に続く。深海がチラリと通信用の小型モニターに目を向けた。キラの表情は暗く沈んでいるように見えた。
(まるでストライクに乗っていた時みたいな顔じゃないかこいつ…)
そんな事を思いながら深海とキラは避難民の誘導をしているであろう、シンたちの元へと向かった。