機動戦士ガンダムSEED Free……Dream ―ミカイが見た夢― 作:黒瀬夜明 リベイク
白みだした空がやがてオレンジ色に染まりだす。被災した市街地での救助活動が続く中、ふと深海はモニター越しに東の空に現れた巨大な影を目撃した。
(アークエンジェル……やはりあの艦もコンパスに所属していたのか)
深海が目撃したのはガンダムSEEDを知る者、更に言えばこのコズミック・イラの世界で軍事に関わった人物であるなら知らない者はいないであろう艦。
アークエンジェル
二度に渡る地球連合・プラント間の大戦を生き延びた武勲艦中の武勲艦だ。
〈アークエンジェル!〉
その姿を見てシンが少しだけ嬉しそうな口調で呟く。心の底で何処か、やっと休める。と言っているかのような声だった。すると、地表付近まで降下したアークエンジェルの両舷にあるカタパルトのハッチが開いた。
〈こちらアークエンジェル。ヤマト隊各機は本艦に着艦してください〉
(どうやらアークエンジェルに立ち寄るらしいな)
深海が、恐らくは補給だろう。と思案を巡らせていると、周辺で警戒に当たっていたライジングフリーダム、イモータルジャスティス、ゲルググメナース、ギャンシュトロームがアークエンジェルへと向かって飛んでいった。深海もそれに倣い、ムラサメストライクの主翼を展開し飛び上った。
アークエンジェルに着艦し、機体が格納庫の拘束具に固定されたのを確認して深海はヘルメットを脱いだ。着艦した際にムラサメストライクのフェイズシフトを切った為、既に青、赤、白のトリコロールカラーは鉄灰色へと変化している。シートベルトを外し、コックピットのハッチを開いて上部ハッチに取りつけられた昇降機で格納庫の床に降り立つ。
「お疲れさまでした、クロノ大尉!」
ムラサメストライクの足元に降り立った深海に青緑色のつなぎ服を着た若い整備員が話しかけてきた。
「ありがとう、補給と整備よろしく頼む」
「はい!お任せてください!」
その整備員は元気よく声を上げて返事をした。深海はフッと笑みを浮かべると先に着艦していたシンたちが何処かへ向かって歩いているのが見えた。深海は彼らがキラの元へと歩いて行っていることに気づくと、自分もそれに倣って足を進める。そしてキラの元へと到着すると自分たちの目の前に2人の人物が立っていた。
(マリュー・ラミアスに、ムウ・ラ・フラガか…)
言わずと知れたアークエンジェルの最古参クルーの2人が目の前に立っていた。マリュー・ラミアスはアークエンジェルの艦長を務め、ムウ・ラ・フラガは彼女を支えるMSパイロットだ。
「キラ・ヤマト―――准将以下四名、乗艦許可願います」
言葉を詰まらせながらキラが形式的な乗艦許可を願い敬礼した。シンやルナマリア、アグネスもそれに続いて敬礼し、深海も敬礼する。
「許可します。お疲れさま」
マリューが凛としながらも、労いを込めた口調でキラ達に答礼しながら答える。すると横からムウが気さくな調子で話しかけてくる。
「よう!全機、特に問題は無さそうだな。どうだ?新型には慣れたか?」
「はい」
「ええ、まあ…」
ムウの言葉にルナマリアとシンが答えた。だが、シンは何処か言葉に詰まったようなハッキリとした返事をしない。
(やっぱり気にしてるんだな)
深海がシンの言葉を聞いて横目でシンの方をチラリと見る。すると、マリューとムウに続いて格納庫のエレベーターに向かって歩き出したキラ。それに続いて4人も歩を進める。道すがら、キラが2人に尋ねた。
「被害の状況は?」
「今のところは死者257名、うち民間人が68名……たぶん、もっと増えるわ」
マリューが沈みがちな表情でキラに答える。
「今回も母艦は無し。MS部隊だけで一気に奇襲だ」
続いてムウが難しそうな口調で話を引き継ぐ。
「……ミケールのネットワークですね」
キラもまた難しい口調で返す。
(そう言えば確かに母艦を見なかったな…)
3人の会話を聞きながら深海は先の戦闘中に忘れていた違和感の内容を思い出した。デストロイに目を奪われていたが、確かに母艦と呼べる物を見なかった。3人の会話は続く。
「だけど彼の参戦はフェイク。ザフトに国境侵犯させるのが狙いね」
「自分の名前をエサにすりゃ、釣り出せると確信してるんだろ?ドマ、エーロン、ライハと毎度同じ手口だ」
「ええ……」
(また知らない名前……まあ、覚える必要は無さそうだな)
深海がムウの口にした人物に対して思案を巡らせていると、不意にシンが小さな怒りのこもった口調で声を上げた。
「あいつら、こんなこといつまで続けるんすか!?」
その言葉に深海はもう一度シンに視線を向ける。
「最初っから帰還を想定しない作戦なんて、パイロットも機体も持ちませんよ!」
「………」
シンの言葉に深海は少しだけ胸が痛むのを感じた。夢から覚めた現実の世界で、人類と深海棲艦の戦争を終結させた人物と言われている深海は、深海棲艦との戦時中にそう言った話を耳にしたことが何度かあったからだ。勿論、自分の部下だった艦娘たちにそんな事をしたことは一度も無いが、やはり戦場に立ったことがある人間として、対岸の火事でよかった。と思えないのだ。するとキラが、でも続いてる。とぼそりと呟き、やがて怒りのこもった口調で悔しそうに声を上げた。
「だから問題なんだっ」
そう言ってマリューとムウ、キラの3人はエレベーターに乗り込んでいった。そしてムウがやりきれないようにため息を吐いた。
「……根の深い問題だぜ。実際」
そうしてエレベーターの扉が閉まり、格納庫には自分とシン、ルナマリアとアグネスが取り残されることとなった。
(やはり何も変わっていないのか?このコズミック・イラの世界は……)
深海は振り返ってムラサメストライクを見上げた。背後でシンが、くそ!と少し弱々しく吐き捨てているのが深海の耳に届いた。すると深海はさっきの戦闘中に唐突に彼ら3人に飛ばした指示の事を思い出した。
「そう言えば、さっきはすまなかったな」
唐突に謝罪の言葉が口を突いて出てきた。ルナマリアが、え?と聞き返してくるとシンとアグネスの2人も深海に振り返った。
「戦闘中だったとは言え、突然指示を出したことだ。すまなかった」
「そんな、ミカイ大尉が謝らないでください!」
慌ててルナマリアが弁明したが、アグネスはまるで興味が無いようで口を開かない。そして一方のシンはというと、少しだけ鋭い視線を向けてきた。
「シン、言いたいことがあったら言ってくれないか?」
深海はそんなシンに向かって話しかけた。やはりキラ以外から指示を受けるのは不服なのだろうか。と感じたからだ。
「別に何もありませんよ……でも、あのまま突っ立ってたら救えた命が減ったのかもしれないから…その、ありがとうございます」
だがどうやら、その考えは杞憂だったようだ。シンは先程の戦闘で自分が戦場の真ん中で任務を忘れて突っ立ってしまっていたことに気づいていたようだ。深海はそれを聞いてほっと胸を撫で下ろした。だが、アグネスが余計な横槍を入れてきた。
「あら、アンタがお礼なんて言えるなんて思わなかったわ?」
「アグネス!」
咄嗟にルナマリアが強い口調でアグネスの名を呼んだが、彼女は気にする様子もなくベラベラと話し続ける。
「アカデミーであれだけ上官に突っかかってたんだもの?驚いて悪いかしら?」
「やめてよアグネス」
「………」
シンは黙ってアグネスの言葉を聞いていたが、言い返そうとはしなかった。
(昔ならとっくに言い返してる…成長している途中なんだな…シン)
その姿を見て深海は、出撃前に感じていたシンの成長ぶりの無さを訂正することになった。深海はそこで咳払いをして会話を打ち切る。
「シンの昔話はそこまでだ。今は少しでも体を休めておくべきだろうからな、嫌な話を聞いていては本人の気も休まらないだろ?」
アグネスが深海の言葉を聞いて、一瞬ムッとした表情になり一方のルナマリアは少しホッとした様子だった。それを見て深海は内心で、はぁ。とため息ついた。そしてシンに視線を送るとそっぽを向いていた。