機動戦士ガンダムSEED Free……Dream ―ミカイが見た夢― 作:黒瀬夜明 リベイク
翌朝、深海は昨晩にシンたちから聞いた桜が見れるキャンプ場を目指してバイクを走らせていた。
(まさかプラントで桜を見ることになるとはな)
アプリリウスの郊外に延びる道路を深海を乗せたバイクが走っていく。ヘルメットを被ってはいるが、メットに収まらなかった白い髪が風でなびくのを感じながら深海は目的地を目指した。
それから小一時間ぐらい経ったところで深海は件のキャンプ場へと到着した。バイクから降りて鍵をかけ、ヘルメットを脱ぐ。ふぅ、と息がこぼれ目を開くと、そこには薄いピンク色の花を咲かせた木々が立ち並んでいた。
「本当に桜だな」
風に揺さぶられて薄いピンクの花弁がひらひらと舞い落ちていくのを見ながら、深海はひとりごちた。そしてヘルメットを脇に抱えて、羽織ってきた上着のフードを目深に被る。
(参ったな。癖が付いてしまっているようだ)
フードを目深に被るという何気ない行動だったが、深海は現実の世界でも外出の際にフードを目深に被る癖がある。それを夢の中でもしてしまうとは、当の本人も思わなかったのだろう。そして人気のないキャンプ場の敷地を桜を見物しながらフラフラと歩いていると、不意に男女の声が聞こえてきた。深海は反射的に近くの木の陰に身を隠した。これも何気なく付いてしまった深海の癖のひとつだ。
「ミケール大佐は、ユーラシア国境付近のエルドアに潜伏しているようですわ」
(ん?この声は…)
聞こえてきた女性の声に釣られて深海は木の影から顔を覗かせた。そこには舞い散る花弁と同じ、ピンクの長い髪が特徴の女性が茶色い短髪の男性と座っているのが見えた。女性の言葉は続く。
「その逮捕に協力したいと、ファウンデーションのアウラ陛下から親書が届きました」
「……ラクスは、どうするの?」
(っ!?キラ!それにラクス・クライン!?)
傍らに座る男性の言葉と声で深海はハッキリした。今目の前にいるのはキラ・ヤマトとラクス・クライン当人であると。よく見れば、2人の周りには緑と青のロボット鳥「トリィ」と「ブルー」そしてピンク色のハロ「ピンクちゃん」が戯れている。
「正直、迷っています…キラはどう思われます?」
「……どうして聞くの?」
(なんだ、あの微妙な距離感は…)
深海からはキラとラクスの顔は見えない。だが、声色でどういう表情をしているかは予想が付く。深海はキラとラクスの微妙な距離感に疑念を抱きながら、2人の会話を聞いていた。ラクスが、まるで腫れ物に触れられたような感じのように、それはっ。と言うと、キラは優しい口調で答えた。
「それで終わりに出来るなら、僕が反対する理由は無いよ」
「え……」
ラクスが少し驚いた口調で反応すると、キラはコロニーの外壁に囲まれた空を見上げて独り言のように言葉を紡いでいく。
「この戦いは終わりが見えない。人は簡単には変われない……何が出来て、何が出来ないのかもわかってない…僕に出来ることは………」
「キラ……」
「誰かがやらないといけないんだ。誰かがやらないと……」
「………」
キラの言葉を黙って聞いていた深海。木にもたれ掛かるようにして少しだけ思考を巡らせる。
(……こんな戦争だらけの世界で、出来る力を持って生まれてきたからそう思うのか?お前は)
キラの出自を知っている深海がそう考えた時だった。
「トリィ?」
「ん?うわっ!?」
いつの間にか自分の右肩に止まっていたキラのペットロボットである緑のロボット鳥「トリィ」の鳴き声に驚いた深海は足元にあった木の根に躓き、その場に尻もちをついてしまった。普段から人間に対しては気配などで居場所を探れる深海だが、ロボット鳥は経験が無かったのか仰天した声まで上げてしまった。ドサッ!と言う音がたち、キラとラクスの2人がこちらを向いたのが深海には見えた。最初は顔を振り向かせていただけだったキラとラクスだったが、声と転んだ主が深海であるとゆっくりと立ち上がり深海を見下ろした。
「み、ミカイさん?」
キラが深海に声をかけてきた。深海は情け無さそうにキラとラクスに返した。
「す、すまない。2人きりの時間を邪魔してしまったようだな」
「いえ、そんな事は……」
深海はゆっくりと立ち上がると少しだけ姿勢を正して頭を下げた。
「おはようございますクライン総裁。先程は申し訳ありませんでした」
アークエンジェルからミレニアムに戻るまでに聞いた通りならラクスはコンパスの総裁だ。一応はちゃんとした挨拶と謝罪をしておくべきだと深海は思ったからだ。
「そんな、頭を上げてくださいクロノ大尉」
「…いえ、お二人の話を盗み聞ぎしていたのは事実ですので」
「っ!?」
深海の言葉を聞いてラクスがハッとした顔をした。深海はそれを感じ取り口内で呟いた。
「まったく、運が無いな今日は」
結果、休暇は取り消しとなり深海たちを乗せたミレニアムは地球へ向かうこととなった。
続く