機動戦士ガンダムSEED Free……Dream ―ミカイが見た夢― 作:黒瀬夜明 リベイク
キャンプ場を後にした深海はミレニアムに戻るなり、早速部屋に籠ってファウンデーションについて調べ始めた。戦いにおいて情報は何よりも重要な物だ。深海は深海棲艦との戦争や、これまでに乗り越えてきた事件でその事を実感していた。そして深海自身の普段は慎重な性格と初対面の他人を信用しない気質が合わさり、今回味方となる筈の国家「ファウンデーション」すらも「敵」として見ることになったのだ。自室に籠った深海はパソコンのキーボードを操作し、ファウンデーションの国内事情や体制、国家方針など、多岐にわたる情報について民間情報の類いの物から、軍事的に調べられた情報などこれまた凄まじい情報量の文章を目に通していった。以前、「海軍施設の監査」と称して横須賀、呉、佐世保、舞鶴の鎮守府を回った時は書類監査が嫌で仕方なかった深海だったが、今回ばかりは自分に火の粉が降りかかってくるかもしれない。という事もあってキーボードを叩く手は全く止まることが無かった。
(ふむ、第二次連合、プラント大戦の後目覚ましい復興を遂げ、ユーラシア連邦から独立した王政国家。女王の名は「アウラ・マハ・ハイバル」、宰相の「オルフェ・ラム・タオ」、その秘書官を務めている「イングリット・トラドール」そして……)
深海は情報の映る画面を見ながら映し出された5人の男女に視線を向ける。
「ファウンデーションの近衛師団……ブラックナイツ、か」
そう独りごちながら、深海は画面の写真をズームアップさせた。
(近衛師団長であり国防長官のシュラ・サーペンタイン、そして近衛師団員のグリフィン・アルバレスト、リュー・シェンチアン、リデラード・トラドール、ダニエル・ハルパー)
そこまで調べたところで、深海はふと現実世界で事前公開された「劇場版機動戦士ガンダムSEEDFREEDOM」のMSの情報を思い出していた。
(ブラックナイトスコード・シヴァとブラックナイトスコード・ルドラ…恐らく
更に情報を漁っていくと、深海は「フリーダム強奪事件」の資料を見つけた。そこにはブラックナイトスコード・ルドラが何者かに強奪されたストライクフリーダムガンダムを撃破した。との情報とともに、新技術の装甲「フェムテク装甲」の情報が記載されていた。
(フェムテク装甲……一体どんな物なんだ?)
同時に掲載されていた当時の映像を確認する深海。画面の向こうでは直線的で武骨な装甲を纏ったブラックナイトスコード・ルドラがストライクフリーダムの放ったビームを装甲表面で弾き飛ばしながら右手に持った対艦刀でストライクフリーダムを撃破する光景が映し出されていた。
「なるほど、ビームを弾いて無効化する装甲。という事か……少し厄介かもしれんな」
深海はその後もファウンデーションについての情報を収集し続けた。ミレニアムが大気圏突入の最中だろうが、深海はお構いなくキーボードを叩き続けたのだった。
そしてミレニアムがファウンデーション上空に到着した時、不意に深海の自室の扉が開いた。
「あ、まだ自室にいたんですかミカイさん?」
深海が視線を向けると、そこにはシンとルナマリアの2人が立っていた。声を掛けてきたのはどうやらシンのようで、少しだけ怒った様子の表情をしていた。
「シン、それにルナマリアも。どうした?」
「ヤマト隊のメンバーはヘリポートに集合だって、さっき艦内放送で流れたじゃないですか。聞いてなかったんすか?」
よく見ると、シンもルナマリアもベレー帽のような物を被っていた。どうやら、情報収集に夢中になり過ぎて艦内放送を聞き逃してしまっていたようだ。
「すまない。今行く」
「早くしてくださいよ!」
深海はそう言ってロッカーからシンたちと同じ帽子を取り出して、シンたちの後を追った。
「それで、なんでわざわざヘリポートに行くんだ?」
道すがら、深海は2人に尋ねた。
「クライン総裁やヤマト隊長と一緒に、ファウンデーションの王宮に行くらしいです。たぶん、アウラ・マハ・ハイバル女王に謁見するんだと思います」
「なるほどな」
ルナマリアの答えに深海は納得した。「とりあえず」これから共同戦線を張ることになる国になるのだ。その国の女王に挨拶に行くのは当然だ。だが深海は既に警戒心を募らせていた。ファウンデーションについて調べれば調べる程、謎が多いことが分かったことが何よりの理由だった。
「ところでミカイさんは何をしてたんすか?」
不意にシンが質問を投げかけてきた。少し意外そうに深海は感じたが、よく考えればおかしい事でもない。と思い、ファウンデーションについて調べていたことを素直に話した。
「…ミカイさんって、結構まめな性格なんですね」
「まめな性格と言うよりは、情報は戦場で何よりも役に立つ物だからな。それを調べてただけさ」
「戦場って…オレたちこれから、そのファウンデーションと共同戦線張るんですよ?何で味方になる側の情報を―――」
「信用しないからだ」
深海はそこでシンの言葉をバッサリと切った。シンとルナマリアが驚いた表情で、え?と聞き返してくる。
「俺は初対面の相手を基本信用しない。そうやって生きてきたからな」
「…え、じゃあオレたちの事も最初は……」
シンは少しだけ怖がった様子で深海に尋ねた。だが深海はそんなシンを落ち着かせるように小さな笑みを浮かべて言った。
「それは無いから安心しろ。戦争を無くそうと心の底から願って戦う奴は、どちらかと言えば好感を持ってしまうんでな」
「え!?」
先程よりも驚いた表情をするシンに、深海は思わず口にしてしまった。
「お前みたいな、真っ直ぐな信念と心を持った優しい息子が欲しいものだ」
「えぇ!?お、オレ、ミカイさんの養子にはなりませんよ!」
「いや、そこまでは言ってないぞ?」
2人の会話を聞いて思わずルナマリアが噴き出していた。
「ちょ!笑うなよルナァ!」
「フフフ、ごめんごめん」
そんな和やかな会話をしながら、3人はヘリポートに向かった。
ミレニアムのヘリポートから飛び立ったヘリコプターは、途中でアークエンジェルからマリューとムウを乗せてファウンデーションの王宮近くにあるヘリポートに着陸した。ヘリの扉が開き、シン、ルナマリア、アグネスの後に続いてタラップを降りた深海。後から降りてくるラクスたちに道を開けるようにして左右に分かれ敬礼をする。そしてラクスがタラップから降り立ったところで、向かい側から若い男の声が聞こえてきた。
「ようこそ姫。ファウンデーション宰相、オルフェ・ラム・タオです。お出でを心より歓迎いたします」
深海がチラリとその男に視線を向ける。すらりとした体つきに金色の髪、繊細で端正な顔立ちをした20代くらいの男だ。
(奴がオルフェ・ラム・タオか……そしてその後ろにいるのが)
深海は更に視線を奥へと伸ばす。奥に停められた車の前に休めの姿勢立ち並ぶ6人の男女。国務秘書官のイングリット・トラドールと、近衛師団であるブラックナイツのメンバーたちだ。
「コンパス総裁、ラクス・クラインです。お目にかかれて光栄に存じます」
ラクスが自己紹介をすると、オルフェが右手を差し出してきた。深海は気にも留めなかったが、ラクスとオルフェが握手を交わした瞬間、深海は違和感を感じた。
(……なんだ?)
だが、その違和感が何なのか深海にははっきりしなかった。やがてキラが、ラクスの名前を呼んだ時にはその違和感は消え去っていた。ラクスの向かい側に立つオルフェが、どうぞこちらへ。と言うかのように振舞うと、ラクスを先頭に周囲の皆が歩き出した。深海も倣い、後に続く。そして後ろに控えていた6人の黒ずくめの者たちの横を通り過ぎた時、深海は不意に視界の右側に写り込んだ青い髪の女性に視線が剥いた。
(国務秘書官のイングリット・トラドールか……なんだ?こいつからも何か違和感を感じる―――)
深海がそう思った時だった。
(ッ!?)
深海の背筋を冷たい刃で斬りつけられるような感覚が走った。不意に深海は足をその場に止めて、鋭い視線を周囲に巡らせた。周囲には何もない。だが、深海はハッキリと感じ取っていた。
(殺気だ)
不意に腰裏のナイフに手を掛けかけたが、今そんな事をすれば問題となってしまう。深海は一瞬にして感じ取った殺気を感じながらもなんとかその衝動を抑え込んだ。そして不意に視線がキラの方へと向いた。キラも何故かその場に立ち尽くして天を仰いでいる。
(キラも感じたのか?)
そう思った深海はキラに声を掛けた。
「ヤマト隊長、どうかしましたか?」
今は仕事の場のため、深海も敬語でキラに尋ねている。深海の言葉に一瞬驚いたキラだったが、やがて少し戸惑ったような口調で口を開いた。
「い、いえ、大丈夫です」
「そうですか……何か気になったら言ってください」
「ありがとうございます」
そう言って出遅れたキラと共に深海は車に乗り込んだ。
(やはり、殺気に近い何かを感じ取ったらしいな)
深海は車内で先程のキラの様子を見て確信を得ていたのだった。
続く