記憶と遺産を求めて   作:藤咲晃

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18.シャル・ウィ・トラップ?

 通気口を覗き込むシスティナが気になって俺も覗き込んだ。

 するとそこには台座に置かれた掌程の大きな紅い宝石が在った。

 見るからにお宝を主張しながら怪しさを感じさせる台座だ。

 あからさま過ぎて素人の俺でもアレは罠だと分かる。

 第一監視室の隣に宝物庫は無い。魔人の遺産が安置されてると思われる宝物庫は罪王グレファスの寝室の隣だ。

 一見すると普通にお宝を置くための台座かもしれないけど、不自然さが際立つ。

 仮に一時的にお宝を飾る部屋。そう来客用の応接室なら観賞用に幾つか飾るだろう。

 だけどした下の部屋には他のお宝はおろか応接室に在るべきソファすら無い。むしろ殺風景過ぎて怪しさが倍増する。

 

「罠だね」

 

 これはもう罠だと判断するとシスティナが首を横に振った。

 

「確かに何処からどう見ても罠ね。だけど果たしてアレは罠かしら?」

 

 盗賊の彼女が罠だと断言したらそれはもう罠なのでは?

 

「いいアスラ? 一見すると罠に見えて実はそうじゃない可能性も有るの」

 

 目を爛々と輝かせながらキミは一体なにを言ってるんだ?

 いや、盗賊として場数を熟してるシスティナが罠じゃないと判断したなら罠じゃないのか?

 それにこんなに楽しそうなシスティナははじめて見る。

 此処は盗賊として経験が長い彼女の判断に任せるべきか。 

 この考えはなんだか思考停止に陥ってしまいそうで怖いけど。

 

「因みにあの宝石はどれくらいの価値が?」

 

「紅色宝石であのサイズとなると500万ゴールドはくだらないわ!」

 

「そっか……因みに放置する選択肢は?」

 

「無いわよ! 目の前にお宝があるのに盗らないなんてお宝への冒涜よ!」

 

 お宝への冒涜と言われても反応に困るけど、システィナがここまで熱弁するのも盗賊としての性なのかな。

 

「そこまで言うならキミに任せるよ……なにか手伝うことはある?」

 

「あんたは此処で待機、万が一は先に進んで」

 

 万が一があるなら触らない方がいいんじゃないの? なんて言葉は楽しそうなシスティナの前では口に出せないな。

 システィナは手早く通気口を開け、台座の前に静かに着地した。

 それは鮮やかな身のこなしで、飛び降りた際に落下の抵抗で揺れ動く美しい銀髪も合間って人を惹きつけるには充分なほどだった。

 思わず見惚れてしまうのも無理はないことだろう。

 そうこうしている内にシスティナは紅色宝石を掴んだ!

 あとは彼女が菅の中に戻って先を進むだけ。

 そう思っていたら突如台座を中心に鉄格子が降りた!

 

「あんたは先に進みなさいっ!」

 

 一瞬で閉じ込められたシスティナに俺が手を伸ばそうとするも、それよりも早く通気口が勝手に塞がった!

 伸ばした腕は通気口に阻まれ、地響きに近い音が鳴りだす。

 いや違う! これは部屋全体が揺れているんだ!

 

「なっ?!」

 

 前方と後方から降り始める防壁に俺は咄嗟に前方に向かって進んだ。

 そして防壁が降りる前に先に進めたが、システィナは無事なのだろうか?

 だが俺の思考とは裏腹に、地響きと共に何かが動く音が響く。

 呆然とする思考に永遠に思えるような物音が続いたかと思えば、降りた防壁が勝手に上がり始めた。

 完全に上った防壁の先は部屋一つ分の大穴……。

 

「な、なんなんだ?」

 

 いや、明白だ。システィナは罠に引っかかてしまったのだ。

 大穴から下を覗き込み、そこから見えるのは部屋の壁と通路に続くドアのみ。

 部屋ごとシスティナは消えてしまったのか?

 逸る気持ちを抑えながらもう一度大穴を調べる。

 壁の四隅に擦ったような痕が有るではないか。

 そういえばシスティナは投獄城の構造が前回と変わっていたと言っていた。

 

「嘘でしょ?」

 

 嘘だと思いたいが、俺の眼に移す光景は現実だ。

 それに仕掛けが作動してから発生した部屋を揺らした地響きと物音ーー信じられないことに部屋全体が動く仕掛けだったらしい。

 念の為に俺は大穴から天井を見上げる。

 そこには天井から吊り下がった照明だけ。

 

「システィナは部屋ごと下に移動したってこと?」

 

 確か二番侵入口は投獄城全体に繋がっているとも言っていた。

 現在居る場所は監視室の隣の菅……構造図には4Fって記されていたかな。

 ということはシスティナは3F〜4Bの階で囚われてる可能性が高いが、3Bの監獄フロアに移されてる可能性も捨てきれない。

 システィナは先に進めと言っていたけど、今回ばかりは彼女の指示には従えないな。

 菅の中から下の階を目指す。大穴に飛び込めばシスティナと合流は簡単そうだけど、落ちた後のことを考えるとそれはできないな。

 というかそれをやると俺は恐らく死ぬか両足の骨折で使い物にならなくなる。

 助けに行って動けませんでは話にならない。

 

「迅速に行動! これしかないな!」

 

 俺は来た道を引き返すように匍匐前進で菅の中を進む。

 こうして俺は予定を変更してシスティナの下を目指すのだった。

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