記憶と遺産を求めて   作:藤咲晃

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22.勝者

 不条理な人生だ。

 理不尽な暴力から逃げて逃げて逃げ続けて。

 何処に? 誰から? 俺達はなんで逃げ続けなければならない?

 俺の浅葱色の髪と頬の紋章、かつての魔人と同じ特徴。

 だが俺の背中には黒翼が在る。これは絶滅した有翼種の特徴で魔人には無い特徴だ。

 それでも髪と紋章が似てる。たったそれだけの理由ではじまった迫害。

 理不尽極まりない。俺に世界をどうこうする力など無いというのに。

 他にも同じ境遇の同胞を見付け、逃げ隠れるように過ごしてきた。

 なのに連中は必要以上に俺達を追い立て同胞を殺した。

 まだ幼いあの子もお人好しでバカなあの子も。

 おそらく明確に俺を変えたのはその時だろう。

 この不条理な暴力と長寿種に対する怒り。怒りを報復を成すための力に変え、魔人に近しい存在を拒むなら世界を恐怖のどん底に落としてやろう。

 そうでもしなければこの怒りは到底治ることを知らない。

 

 ▽ ▽ ▽

 

「主人様、起きて」

 

 自分を主人と呼び優しげな声に微睡から眼を覚ます。

 背中の黒翼を伸ばすように広げ眼を開ける。

 眼を開けると真っ先に映ったのは大いに実った果実が作り出す谷間だ。

 挟まれたい見事な谷間に食い入るように視線を向けてしまうのはどうしようもない男の性だ。

 

「目が覚めて凝視するところはそこなのね。あと散らばった羽根は片付けて」

 

 見るなというの方が無理くね? それに羽根が散らばってしまうのはもう仕方ないじゃん。

 

「そこにおっぱいが有って見ないのは、おっぱいに失礼だ」

 

「おっぱいを凝視することもまたおっぱいに失礼よ」

 

 なんだそれは!? 

 そんな露出度の高い服を着ていたらそれはもう見てくださいと言ってるようなものじゃん!

 だがおっぱいに失礼と言われたら視線を逸らすしかないな。

 それにしても彼女はやたら露出度の高い服を着てる。

 それこそ男を誘うには抜群の効果を発揮する服を。

 紫色の長髪と薄いピンク色の瞳から向けられる蠱惑的な眼差し。

 組織の中で最も付き合いが長い彼女ーーシャルテアには一つ任務を与えていたが、

 

「ああ、ところで帰って来たってことは達成したのか?」

 

 そう訊ねるとシャルテアは何処からか一振りの長剣を差出す。

 魔人の遺産と思われる内の獄炎剣、それが目の前に。

 俺は差し出された獄炎剣を掴み、鞘から刃を抜く。

 ただ抜いただけで獄炎の炎が溢れる。

 獄炎に包まれた紫色の刃は間違いなく魔剣だ。

 強大な力を秘めた魔剣が魔人の遺産かどうかは疑わしいが。

 なにせ魔剣に限らず魔を宿すほとんどの武器はゴブリン族が所持管理、ゴブリン族の戦士が所持し使用を許される武器だ。

 ただでさえ厄介な魔剣、魔槍、魔弓、魔斧が軍隊規模で装備されてるんだ。いざ戦いとなれば奪うのも容易じゃない。

 それに魔の武器はゴブリン族によって帰還の魔術が施されているため、所有者を殺したところで魔の武器はゴブリン族の集落に帰還する。

 所有者の生命より魔の武器の保持を徹底するのは、近年の情勢が原因だ。

 人間の手に渡れば戦争に利用されるからだ。

 諸々の事情を込みに考えれば罪王グラファスの手で保管されていた獄炎剣は魔人の遺産の可能性が高い。

 様々な勢力が罪人都市ゾンザイで暗躍する中、俺達は労せず魔人の遺産を確保することに成功した。

 組織力としても小規模の俺達がだ。

 ケルドブルク帝国の工作員でも、ガレイスト公国の工作員でもましてや罪王グレファスでもない。俺達が罪人都市を巡る舞台の勝利者だ。

 小規模な組織が大勢から勝利を得た。この事実を同胞の士気向上に利用しない手はないだろ。

 思考が別の方向に向いてる事に気づいた俺は思考を目の前の魔人の遺産に戻す。

 

「これが本物ならやっと一つか」

 

「あら、組織を設立してまだ2ヶ月よ。気が速いんじゃない?」

 

 気が速いことに越したことはない筈だ。

 魔人の復活は無理でも魔人を産み出す方法に繋がるなら多くの遺産を集める必要がある。

 他に魔人の遺産を集める邪魔者は始末してきたが、一つ不可解なことも有った。

 それを除けば魔人の遺産を集めているのは俺達だけ。

 

「いくら競争相手が居ないとは言えど、時間が惜しいだろ。今もこうしてる内に同胞はどんどん迫害されてるんだ」

 

「組織で匿ってる子達も含めて5,000人、各国で迫害を受けてる同胞は優に10,000人を超えてるわね」

 

 一万五千人。それは現段階で判明している浅葱色の髪か身体の何処かに紋章が在る者の数だ。

 中には自発的に染めている者や自ら紋章を刻んでいるが、俺達は紛い物とは違う。

 産まれながらにして迫害されることが宿命付けられたーー哀れとは言うまい。あえて言うなら産まれの運命に抗う者達だ。

 ふとシャルテアに視線を向けると彼女は杞憂に満ちた表情を浮かべていた。

 

「罪人都市ゾンザイでシスティナと出会ったわ」

 

 相談に乗って欲しいのか、杞憂の原因を口にする。

 

「噂の美少女盗賊で銀髪巨乳と名高いあの?」

 

 そんな子なら是非ともウチで雇いたいものだが、いやもちろん噂に違わぬ盗賊としての技量を望んでだけどな?

 

「残念だけど噂は当てにならない。実際に会ったあの子は髪こそ噂通り人目を惹きつける銀髪だったけど、胸は貧乳だったわ」

 

 胸が貧相なのか。噂とは存外当てにならないなぁ。

 

「そうかぁ……それで引き込めそうだったのか?」

 

 少し残念そうに肩を竦めながら大事なことを訊ねる。

 今後も似たような任務を同胞に与えることになるからだ。

 俺達は盗賊ギルドのような盗み専門の組織じゃない。

 今回は潜入に適したシャルテアだからこそ頼んだが、毎度彼女を潜入させるわけにもいかない。

 人材不足を少しでも補うためには外部の者を引き込む必要もある。

 その意味でも訊ねたのだが、シャルテアは顔を逸らしてしまった。

 

「……なんで顔を逸らす?」

 

「あの子は優秀だからね。手を組むことも提案したわよ?」

 

 彼女の様子からして一度提案して断られたのは明白だ。なんせシスティナはこの場に居ないからだ。

 むしろ未だ罪人都市ゾンザイから出る目処が立っていないかもしれない。

 俺はそんなことを考えながらシャルテアの言葉に耳を傾ける。

 

「居合わせた場所が……いえ、あの子が手に入れた収穫物に手を出したのが運の尽きだったわ」

 

「……なにしてんの?」

 

「無傷で罪人都市ゾンザイから脱出するためには質屋のお爺ちゃんの協力が必要不可欠だったから仕方ななかったわ」

 

 なるほど。察するに質屋の店主がシスティナが持ち込んだ獲物を掠め取り、脱出の資金に充てたのか。

 それなら共に脱出した質屋の店主はどうしたのか。

 

「事情は理解したが、質屋の店主はどうした?」

 

「元々犯罪者だったらしくて1,000万ゴールド払った途端にチョーカーが爆破されたわ」

 

 シャルテアが無事に対して質屋の店主は爆破された。

 その違いはシャルテアが目立った罪を犯してないからか?

 いや、恐らく魔人復活を目論む組織の人員で魔人の遺産を盗み出した犯人だと発覚していれば彼女も今頃は店主と同じ末路を辿っていた。

 

「随分危険な橋を渡らせたな」

 

「覚悟の上よ。それに各地で活動してるあの子達も危険なのは変わらないわ……幸い私達アポカリプスは今のところ危険視されてないからね」

 

 世界の終末を意味する単語を使った組織名を危険視しないのは幾ら何でも無理があると思うが、現段階で危険視されてないのは紛れもない事実だ。

 俺達が積極的に組織名を名乗らないから危険視されてないのも理由の一つかもしれないが。

 

「魔人の復活を目論むアポカリプス。これだけで警戒対象の筈なんだけどな」

 

「報復のために魔人が世界に終末を齎す。私だったら早急に潰すわね」

 

 特に長寿種の中で魔人に異常な執着と固執を見せるエルフ族が黙ってる筈がない。

 それこそ先祖と因縁が深い剣聖レティシアが来ても。

 彼女なら組織を一つ潰すことは容易いが、現在組織が無事なのは案外外の情勢悪化が原因かもしれない。

 

「まさか魔人復活阻止よりも戦争回避を優先するほど緊迫するとはな」

 

 もう二十年にもなるが、どういうわけかケルドブルク帝国とガレイスト公国が突如、同時に宣戦布告した。

 俺は直に当時の皇帝と公王に会ったことがあるが、どちらも戦争を目論むような人物ではなかった。

 むしろ国民からは優しき王と慕われた二人が国民を死に誘い苦しめる戦争を始めるはずがない。

 そもそも外交は円満で両国とも友好的な関係だったし、外交で戦争に発展するほど険悪な関係でもなかったはずだ。

 その事もあって俺は今でも到底信じられないのだ。

 親身になって迫害された者達を受け入れ、更に古代遺跡の一つを改修して身を隠すことを提案してくれたあの二人がーーなんで戦争なんて始めて民を苦しめる?

 なぜ匿ってくれた同胞達を罪人都市ゾンザイの近隣に送り込んで戦争の道具に扱った?

 いま思い出しても忌々しいが、好都合なのも事実だ。

 

「連中が戦争回避に夢中なら俺達は魔人の遺産集めに集中できるな」

 

「懸念はシスティナも魔人の遺産を集めているって噂ね」

 

 システィナが魔人の遺産を集める理由が分からない。

 だからこそ俺が疑問に頭を傾げるとシャルテアが眼を瞑った。

 

「ヴァルグラフ教授の研究テーマが魔人の遺産だった。忘れたわけじゃないでしょ」

 

 俺は思いがけない名に眼を瞑った。

 忘れるはずもない。

 同時に得心を得るには充分な判断材料だ。

 

「父親の意志を継いで遺産集めか。随分と親孝行者だな」

 

「こちらに引き込めないなら間違いなく障害になるけど?」

 

 組織を纏める者として時に非情な判断が求められるが、同じく魔人の遺産を集めているなら利用価値は高い。

 これから競争相手として幾度となく衝突することになるが最終的に彼女が集めた遺産を全て奪い取ればいい。

 

「今は放置でかまわないさ。それよりも次の遺産は何処に在るかだな」

 

「それに関してだけど気になる情報が在るとかで、あの子がケルドブルク帝国に潜入したわ」

 

「はい?」

 

 え、なにその話。俺は何も聞いてないんだけど?

 

「その様子だと伝えてないのね……」

 

 俺は頭を抱えてしまった。

 しかしあの子が動いてしまったのなら仕方ない。

 

「はぁ〜全くあの子はせっかちなんだから〜」

 

「久しぶりに出たわねお母さん口調」

 

 シャルテアの視線が痛いけど、次の方針は決まった。

 俺は椅子から立ち上がりシャルテアと歩き出す。

 魔人の遺産を集め世界に終末を齎すために。

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