記憶と遺産を求めて   作:藤咲晃

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24.北に向けて

 俺がシスティナと一緒に行く事を決めてから三日が経った。

 偽造はそれなりに日数を要するのかあれからギルドマスターから連絡はないらしい。

 それで日課になりつつある鍛錬を熟して、気分転換に散歩に出掛けて気付けば廃教会にまた来ていた。

 そして中心で空を見上げる先客ーー罪王グレファスに俺は、

 

「こんな場所で何してるの?」

 

 どうして此処に居るのかをなんとなく訊ねた。

 すると彼はこちらに振り向き真っ直ぐと俺を見つめた。

 システィナもそうだけど人のこと少し見つめ過ぎじゃないかな?

 別に不快感がある訳じゃないけど、俺を通して何を考えているのかは気になる。

 

「この場所でお前と会うのは二度目か」

 

 二度目? 俺が罪王グレファスにはじめて会ったのは投獄城でだ。

 此処で会ったのは名も知らない男性ーーああ、彼こそが正体を隠した罪王グレファスだったのか。

 そう理解した俺は疑問に感じていた事を訊ねることにした。

 

「前は廃教会の老シスターと長い付き合いって言っていたけど、この教会に地下室の入り口って在ったはずだよね」

 

 いつの間にか消えていた地下室に続く階段の存在に付いて訊ねると罪王グレファスは小難しい顔を浮かべた。

 

「……ふむ、わたしの記憶違いでなければ地下室など無かったはずだがエリン教会にも秘匿は多い。恐らく条件付きで出現するように細工がされていたのだろう」

 

 俺が全然考え付かない解答をあっさり導きだすなんて流石は魔術師だなぁ。

 それにしても条件付きの細工か。俺を地下室の棺に押し込んだ人物は閉じ込めて口封じを企てた?

 

「俺、この教会の地下室で全裸で目覚めたんだ。多分誰かが押し込んだんだと思うけど」

 

「だとすれば計画的な犯行か。所持品を強奪し地下室に被害者の貴様を閉じ込めればしばらくは犯行が露呈せぬな」

 

「現状俺に記憶が無いことに説明と説得力を与えるには充分な根拠かな」

 

 それでも断言はできないけど何者かの仕業だと仮定すると多少は気が紛れる。

 それに徹底して記憶を消してると考えれば今の俺の状況にしっくりくる。

 もしもそれが的外れな根拠だった場合、俺は何者で何の為に棺の中で眠っていたのか。

 その問題に直面していつか向き合わなければならない気がしてならないけど。

 

「記憶喪失の心情は分からないが今も不安か?」

 

 罪王グレファスが気遣う素振りを見せる辺り、顔に出てたのかな。

 確かに記憶が無いのは今でも不安になる。それ以上に俺の家族、知人、友人が居るのか、今もこうして心配させてるかもしれないと思うと堪らなく不安だ。

 だけど今はそれを考えても現状ではどうしようもない。

 だったら旅に出て世界を巡り、自分の記憶の手掛かりを捜す。

 それに目覚めたばかりの頃は不安だらけで余裕が無かったけど、今はそれなりに余裕がある。

 知らないことや未知に対する好奇心、世界を周りたい冒険心が俺の不安を紛らわせてくれるのだ。

 それに旅の事を考えると不思議と心が躍るんだ。

 

「今はそうでもないかな。目的も出来たからね」

 

「目的か。どんな目的か聴いても?」

 

「世界を周って記憶捜し」

 

 そこに盗賊ギルドに所属するという前提条件があるけど。

 

「ほう、世界一周か。となればいずれエルフ族の里にも行く事になるやもな」

 

「長寿種に嫌われてるなら避けて通るかな。いや、でも行ってみたいだよね、街中で見かけたエルフ族はみんなサングラスを掛けて不思議な踊りをしてて楽しそうだったから」

 

「あれはパリピというヤツらしいな。それに貴様の言う不思議な踊りはダンスの一種だぞ」

 

 激しい曲調に合わせて飛んだら跳ねたりするのもダンスの一種だったのか。

 じゃあお互いにリズムに合わせて言い合っていたのは一体?

 

「お互いにリズムに合わせて言い合うのは?」

 

「それはラップだな……ふむ、最近の流行りも知らんとは記憶喪失とは厄介だな」

 

「元々流行に疎い可能性も有るけど」

 

 あとは興味が湧くかどうかの違いも有るだろうけど、楽しそうだったのは見てるだけで伝わってきたよ。

 ただ、俺を見るなりエルフ族全員で地面に唾を吐き捨てるのだけはやめてほしい。

 

「その様子だと唾を吐き捨てられたようだな」

 

「分かるの? ってか俺って分かりやすい?」

 

「なに貴様に限らずエルフ族は、浅葱色の髪と紋章を持つ者にはな」

 

 前々から耳にしていたけど長寿種による特定の人に対する差別は根深いらしい。

 昨日もシスティナにそれとなく聴いたけど、近年は差別意識も以前と比べるとマシになりつつあるらしい。

 それ以前は迫害と理不尽な暴行は当たり前で、そんな理不尽に耐えかねた者達はみんな何処かに身を隠したとか。

 浅葱色の髪と紋章か片方だけを持つ者は忌み嫌われる続けている。それは長寿種に産まれても例外じゃない。

 大崩壊から続く負の連鎖というヤツはいつ暴発するか分からない所まで来ているのが現状だとシスティナは言っていた。

 

「なんとかならないのかな、これじゃあ他の人や幼子が危ないよ」

 

「わたしもエルフの血を引いてるが、差別は愚かだと常々感じてるさ。しかし大崩壊から続く負の感情は我々が思っている以上に根深い」

 

 簡単にはいかないと罪王グレファスは横に小さく振った。

 

「それにケルドブルクの皇帝もガレアス公国の公王も迫害者を纏める代表者を裏切ってるからな」

 

「それは……」

 

 言葉が出なかった。裏切られた代表者がどうなったのかは分からないけど、生きてるなら激しい怒りを抱いてるはずだ。

 もしかしたら魔人の復活を目論む組織はそういった迫害された者達の集まりなのかもしれない。

 俺が立ち尽くして考え事に没頭していると罪王グレファスが咳払いを。

 

「こほん……それで貴様はこれからどうするつもりだ? 丁度看守に2名欠員が出てな、望むなら採用を検討するが」

 

「魅力的な提案だけどもうシスティナと一緒に行くって決めたから……ってさらっと不穏な事を言ってたけど」

 

 二名の看守に欠員が出たのは恐らく人斬りの仕業かもしれない。

 

「看守に紛れ込んだ工作員を始末してな。それに人斬りに斬られた看守達は駆け付けた救護団によって無事だ」

 

 なにから突っ込むべきか。いや、此処は人死が出なかったと素直に安堵するべきだな。

 

「工作員以外の人死が出なかったことは喜ぶべきかな」

 

「しかし喜ばしいことばかりではない。人斬りの逃亡を許してしまったからな……旅の道中は気を付けるがいい」

 

「ああ、気を付けるよ」

 

 そろそろ俺も行かないっと。

 振り向くと廃教会の外から魔道バイクの音が響き渡る。

 何だろうかと外に向かうとそこには魔道バイクに跨り、ポニーテールに纏めた美しい銀髪を風に靡かせるシスティナが居た。

 

「あんたの身分証明書が届いたわよ」

 

 それはこの都市での生活が終わる事を意味する。

 

「じゃあすぐに出発するんだね」

 

「荷物は収納してるから後はあんたが後ろに跨りなさい」

 

 言われて俺はシスティナの後ろに跨った。

 どうしよう! 始めての乗り物に心が跳ね踊ってる!

 

「飛ばすから掴まりなさい」

 

 掴まれって言われても魔道バイクに掴まれる場所はない。

 外で度々見かけていた魔道バイクの速度はかなりのものだった。

 それを踏まえるとしっかり掴まないと振り落とされるな。

 だけど問題は掴める場所がシスティナの身体しかない。

 肩か脇のどちらか。運転する事を考えると肩は邪魔になるか。

 

「早くしてよ」

 

 考えても仕方ない! 俺はシスティナの脇を掴んだ。

 

「ひゃんっ?!」

 

 可愛らしい悲鳴、急発進する魔道バイク。そして振り落とされる俺の身体っ!

 

「アッ! イッタァァァァっ?!!」

 

 コンクリートに後頭部を打ち付けた激痛が頭を駆け巡りのたうち回る。

 

「ご、ごめん……頭の方は大丈夫?」

 

「心配するところそこなの!? もう少し身体の方を労わるとかないの!?」

 

「あんたから記憶が無くなる心配の方が大事でしょ」

 

 それを言われると弱いなぁ。

 これ以上記憶を無くしてバカになったんじゃあ旅の意味も無くなってしまう。

 それに人の頭は存外デリケートなんだ。

 改めて俺は魔道バイクに跨ってシスティナの脇をしっかり掴む。

 

「大丈夫? 不快じゃない?」

 

「これぐらい平気よ……さっきのは驚いただけだし」

 

「俺も一言声をかけるべきだったよ」

 

「別に気にすることないわよ。でもサイドカーは取り付けるべきかもね」

 

 そのサイドカーがどんな物か分からないけど、行き先についてまだ聴いても無かったなぁ。

 

「そういえば何処を目指すの?」

 

「盗賊ギルドが在るケルドブルクの首都ログレスよ」

 

「どんな場所?」

 

「季節問わず氷雪に覆われた極寒の北国で、一面雪景色とオーロラが綺麗な場所よ」

 

 それは楽しみだけどそんな寒い場所に臍出しの格好でぇ?

 俺の疑問を他所に魔道バイクが走り出し、あっという間に廃教会が見えなくなる。

 魔道バイクが風を突っ切り、罪人都市の北門に到着するのもあっという間だった。

 そこからは手続きを済ませて無事に罪人都市ゾンザイの外へ出られた訳だけど。

 一面に広がる平原と荒れ果てた地面に思わず眉が歪んでしまう。

 ただの荒れ具合じゃない。何か大きな力で破壊された地面だ。

 

「罪人都市の近郊で軍隊同士の小規模な戦闘が多発してるのよ。北に行けば行くほどケルドブルク軍が駐屯してるわ」

 

「関所も北だから駐屯地を通ることになるのか」

 

「大丈夫よ、軍隊が駐屯してる場所は関所から少し離れた地点だから多少迂回すれば問題ないわ」

 

「そっか。じゃあ進路は任せるよ」

 

「あんたは安心して景色でも楽しんでなさい。あ、でも関所に着いたら肩を揉んでもらおうかな?」

 

 運転して疲れるんだからそれぐらいお安いご用意だ。

 それに俺はまたシスティナに借金を作った。

 旅支度に必要な着替えやらの調達で。

 

「キミが気持ちよくなれるように頑張れるよ」

 

「……言い方が厭らしいわね」

 

「なんでっ!?」

 

 俺の叫び声が平原にこだまする中、魔道バイクが北の関所へと向かう。

 新しい旅が始まることに俺の心は未だ弾んでいた。

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