記憶と遺産を求めて   作:藤咲晃

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03.盗賊少女

 隠れ家で私は携帯端末のスマホンに表示される魔人の遺産に関する情報と盗賊ギルドからの連絡にため息が漏れる。

 

「はぁ〜此処もハズレの可能性が高いかなぁ」

 

 かつて視界に映る全てを破壊し続け、人類はおろか世界を滅ぼしかけた厄災の魔人。

 かの魔人に伝わっているのは浅葱色の髪と頬から全身に拡がった禍々しい紋章を持った男。

 伝説と謳われる魔人に関する情報はかつて聖女によって討伐された。

 実は残されている情報はたったそれだけなのだ。

 いや、歴史に残したく無いという意味では臭い物に蓋をするのと同じなのかもしれない。

 だけど情報も歴史から抹消されている魔人が所持していた遺産が各地に散らばっていると云う。

 私の、顔も知らない父が魔人の遺産に付いて調べていたことは確実だけど……。

 

「偽物多すぎじゃない?」

 

 実は魔人の遺産を謳う財宝や遺跡で発掘される財宝は多い。

 だけどその殆どが真っ赤な偽物だ。

 偽物だが危険な力を秘めた古代遺物から魔剣の類いまで大小関わらず、とにかく危険な物は魔人の遺産と認識されているのかも。

 だから魔人の遺産と聞けば大抵の人は偽物だと認識する。

 だけどそれが本物の可能性がある遺産なら盗み出すのが盗賊というものだ。

 それに魔人の遺産は私と父を唯一結び付ける繋がり。

 伝説が遺したとされる遺産の一つがこの罪人都市ゾンザイに在ると知り、危険を犯してまで侵入したまでは良かったけど……。

 思い出すだけで腹立たしいわね。

 目の前のお宝を手にしようと踏み込んだ矢先に警報装置が作動。

 お宝を使った狡猾な罠に引っかかた私はあっという間に捕まり罪人として選択を迫られた。

 一千万ゴールド払って罪人都市から出るか、身売りして奴隷のように扱われるかの二択を。

 正直どっちもごめんだけど、金で解決できるなら盗んだお宝を売り捌いて稼ぐ他にない。

 

「傷も癒えた、あとは盗んだこのティアラを質屋に売り捌けばそこそこの金額にはなるわね」

 

 先日暴力団--そう断言できない奇妙な連中、まあ罪人都市に関わる情勢を考えればその手の組織かもしれないけど。

 そんな連中から盗み出したティアラは五種類の宝石で装飾されてる。

 宝石一つで五十万なんてざらにするけど問題は此処が罪人都市ということだ。

 そもそも私は盗賊ギルドの一員、矜持はどうあれやってる事は犯罪だ。

 犯罪ギルドの括りに入ってる盗賊ギルドから持ち出される宝を買い取る質屋は早々いない。

 いつもなら盗賊ギルド相手でも取引に応じる闇商人に売るのが手っ取り早いが、今回はツテが使えない。

 一応罪人都市にもその手の連中が入り込んでいるけど、相場よりも安く買い叩かれてしまうだろう。

 それでも治療費と脱出の足しになればなんでも良い。

 乙女の時間は有限、こんな場所で足止めを喰らってる暇なんて無い。

 私は意気揚々と隠れ家を後に、情報に有った質屋に早速足を運ぶ。

 先日の荒くれ者や警備兵と遭遇しないように暗闇に身を隠しながら。

 

 ▽ ▽ ▽

 

「コイツは見事なティアラだ! 宝石はどれも上物で欠けも傷もないっ!」

 

 質屋の店主--歯が欠けた老人が気味の悪い笑みを浮かべてティアラを価値ある物と認めた。

 此処で表情に出したら安く買い叩かれること間違い無し、浮き足立つ気持ちを抑えながら冷静かつ無表情で金額を訊ねた。

 

「それで幾らするのよ」

 

「2500万ゴールド……っと言いたいところだが、巨乳としか取引しないと決めてるんでね」

 

 このじじい、適当なこと言ってティアラを奪うつもりだ。

 というか明らかに視線が私の胸に向けられて……哀れむな!

 何のために傷を負ってまで……浅葱色の髪の全裸少年を囮に逃げたと思っているのか。

 タダで奪われては割に合わない。だから私は二本の内片方の短剣を引き抜いて、

 

「懐に入れたティアラ……今すぐ返しなさい」

 

 声を低めに脅す。

 しかし罪人都市で商売してるだけは有って老人は脅しに屈さずーーむしろ背後から近付いた女性に弾んだ声で話しかけた。

 

「待ってたよ! これで2500万ゴールドだ。2人で明るい未来を過ごそうじゃないか」

 

 そうはさせない! 私は背後に振り向くと突如絶望感に襲われた。

 露出度の高い女性がたわわに実った果実をこれでもかっ! と言わんばかりに揺らす光景に。

 少し動くだけで激しく上下に弾む二つの果実が存在感を強調して、私は自分には無い武器で殴られたような衝撃を受けた。

 そんな錯覚に見舞われていると。

 

「あら? 失礼するわよお嬢ちゃん……ってあなたもしかしてシスティナかしら?」

 巨乳の女性が私の名を呼んだ。

 如何にも私が世間で美少女盗賊と名高いシスティナだ。

 私が威勢よく名乗る前に老人が、

 

「あのシスティナ? いやいや、噂では人目を惹きつける絹糸のように細い美しい銀色の長髪、巨乳の美少女盗賊って話じゃろ……巨乳どこ?」

 

 真顔でそんな事を口走った。

 

「じゃあ人違いかぁ。それよりもあなた、先を急ぎましょ」

 

「私がこのまま逃すわけないでしょ!」

 

 女性に踏み込んで短剣を水平に振り抜く。

 だけど手には手応えは無く、老人を抱き抱えた女性が不敵な笑みを浮かべながら窓の淵に足を掛けていた。

 あの女、ただの巨乳じゃないっ! 素早い巨乳だ!

 私が戦慄を浮かべながら体内の闘気を放出ーーしかけたその時だ。

 

「じゃあねぇ〜あ、それと足下注意よ」

 

 女性の言葉に釣られて足下に視線を向ければ、床に魔術が刻まれた球体が転がる。

 ギョッとする私の目前で球体が発光し、強烈な閃光と耳を劈くに襲われた。

 

 ▽ ▽ ▽

 

「あの巨乳女と糞爺っ!」

 

 せっかく盗んだお宝は掠め取られ、質屋は巨乳女の置き土産で爆ぜーー騒ぎを嗅ぎ付けた警備兵が魔導銃を片手に襲来。

 その場を何とか逃げ出した私は街中を途方に暮れながら歩いていた。

 

「はぁ〜どうやって1,000万ゴールド集めろってんのよぉ」

 

 預金は有るが罪人都市に銀行が無い。

 かといって真っ当に稼げるほど罪人都市は甘くない。

 何せ此処の店や公共施設は一部を除いて囚人が経営する曰く付きだ。

 かと言って真っ当な政府公認の施設で盗賊ギルドに属する私は働けない。

 こうなれば罪人都市の統治者から古代遺物と保管されてる遺産を盗み出す他にない。

 だけど流石に厳重な警備と腕の立つ用心棒が多く居る投獄城に私一人で挑むのは無謀よね。

 せめて囮役が居れば……ふと私は前方の建物に足を止めた。

 見覚えの有る廃墟に佇む古い大きな建物。

 

「ここって廃教会じゃない……そう言えばあの男の子はどうしてるのかなぁ」

 

 言動から記憶喪失らしい全裸少年。

 身包みを剥がされるのはよく有ることだ。

 このご時世自衛できない者は例えエルフ族だって身包みを剥がされるほどに世知辛い。

 いや、あの少年は記憶喪失だ。

 単なる病人かそれとも訳ありか。

 なによりも首にまだ罪人の証しであるチョーカーをしていない。

 数ある侵入ルートか正式な手順で罪人都市に入り込んだとは思うけど、それにしては記憶喪失と容姿に引っかかりを覚える。

 全裸だったから嫌でも細部に目が行った。

 細身ながらも実戦で鍛え抜かれた筋肉質な肉体、それを補って有り余る運動神経の悪さ。

 あの身体付きで運動神経が悪いという事は無いだろう。それこそチグハグと言えばいいのか、まるで身体の経験と噛み合って無いようにも思える。

 ただそれ以上に身包みを剥がされた記憶喪失の少年という情報が私に罪悪感を突き付けるには充分だった。

 まともに戦えない少年を囮に使った負目も有る。

 私は財布の中身を確認してひと息吐く。

 

「……しょうがいなぁ。服ぐらいは用意してあげるとしますか」

 

 私は一度来た道を引き返した。

 商業ギルドが経営する服屋で男性用かつ戦闘向きの服を購入。

 そしてまた戻って来た私は早速壊れかけのドアを開け廃教会に踏み込む。

 

「ちょっと……」

 

 気怠そうに瓦礫に腰降ろす全裸少年に動揺してしまった。

 私が逃げた後に盗賊団と戦って怪我をしてしまったのか、いやよく見れば怪我をした様子は無いわね。

 それに自衛のためにか手元に折れた剣を置いているが、残った刃は刃毀れと錆だらけで自衛に向かない。

 私は少年に近寄り、彼は寝てるのか眼を瞑ったまま微動だにしない。

 

 ーー全裸なところを除けば顔は悪くないわね、それに意外とまつ毛長いなぁ。

 

 珍しい浅葱色の髪と頬の紋章が印象的な少年に思わず息を呑む。

 浅葱色の髪をした人は昔は一般的に見られたらしいけど、魔人が浅葱色の髪だったから差別と迫害、人狩りの対象にされて減ったと父が遺した手記に記されてたっけ。

 手記にはこう記されていた。

 魔人による壊滅的被害とその直後に起きた天変地異から地殻変動、後に大崩壊と呼ばれる災害を生き残った人類は癒え切らない傷と怨みを彼らにぶつけたのだと。

 浅葱色の髪の人々が迫害された歴史を頭の中で浮かべていると少年の目蓋が動く。

 

「んんっ?」

 

 少年の紅い瞳と目が合う。

 

「起きたのね。って言ってももうお昼だけど」

 

「もう昼なのか……ええっと誰?」

 

 そう言えばまだお互いに名乗ってないわね。

 

「私はシスティナ・ヴァルグラフ、盗賊よ」

 

「あー、追われてた子か」

 

「そうよ、あれから3日は経つけど記憶の方は戻った?」

 

 三日も廃教会に留まってたのは驚きだけど、でもまあ行く当てが無くて記憶喪失なら無理ないかも。

 私だったら不安で一歩も踏み出せないのかもしれない。

 

「3日かかぁ。もうそんなに経つのか……いやぁ、記憶が戻ってたら名乗り返してたよ」

 

「それもそうね。ごめんなさいね野暮な質問しちゃって」

 

「いいよ……ん? 記憶喪失って話たかな?」

 

「あの場に居た全員に自分のこと訊ねてたでしょ」

 

 少年は納得したのか、あぁっと小さく呟いた。

 名前も判らない記憶喪失の少年。そう彼本人も名前を知らないから私も知りようがないのよね。

 

「……ねえ、記憶喪失のあんたをなんて呼べばいいのかしら?」

 

「名前かぁ……ケムケムとか?」

 

 ダサい。これから会う度にケムケムなんて街中で呼びたく無いなぁ。

 

「ケムケムはやめて……そうねぇ、アスラなんて如何かしら?」

 

 ふと頭に浮かんだ名前を告げれば、少年は爽やかな笑みを浮かべた。

 

「アスラか、じゃあこれからアスラって名乗ることにするよ」

 

 提案しておいてなんだが随分素直に受け入れるのね。

 純粋というか人を疑う事を知らないのかしら?

 いや、たぶん記憶喪失だから疑ってもいられないんだわ。

 

「それじゃあアスラ、早速で悪いけど流石に全裸は目のやり場に困る。だからこれに着替えて」

 

 服屋で買い揃えた洋服が入った紙袋を手渡すとアスラは苦笑しながら物陰に隠れた。

 程なくして着替え終えたアスラを私はじっと見つめる。

 汚れを気にせず戦闘に適した黒基調の洋服とロングコートを完璧に着こなし、腰には折れた直剣を携行していた。

 ただ少しファッションとしては古い。

 というのも大昔に存在していた冒険者達がよく着ていた機能的な衣服を参考にデザインされた服装だからだ。

 それでもなぜか絶妙に似合っているのよね。それこそ着慣れている印象すら受けるほどに。

 お金を気にしないならもう少し良いのも買えたけど。

 意外と男の着せ替えというのも楽しいかもしれない。そんな事を考えている私に、

 

「服をありがとう」

 

 アスラは仔犬のような純粋な笑みで礼を告げた。

 彼の純粋さにこれから提案することに対して少しだけ不安が宿る。

 それでも提案しなければ、行動しなければ何も始まらない。

 

「服ぐらい良いわよ。それはさておき私と手を組んでみない?」

 

「盗賊の仕事を手伝えって?」

 

 アスラは仔犬のような笑みを引っ込めて提案に対して訝しんだ。

 流石に記憶喪失とはいえ、善悪の判断は正常にできるようね。

 

「すぐに決めなくても良いわよ。そうねぇ、詳しい話は移動しながらでも良い?」

 

「詳しい話? 此処が何処なのかとか?」

 

「そっ、此処のルールとか色々よ」

 

「ルールかぁ、知らないとヤバいのかな」

 

 ヤバいどころか下手すると首が爆破されることになりかねない。

 ただそれを説明するには先ず罪人都市ゾンザイがどんな場所なのか説明する必要が有るのよね。

 

「その辺も含めて教えるわよ」

 

 そう言って私はアスラを連れて廃教会の外に飛び出した。

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