トランスボーダー〜秘封憑依華〜   作:リトルラ

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偽りの交響曲(Ⅴ)

【 】

 

 草や木、あらゆる動物が活動を停止する深夜二時。

 鬱蒼とする紅霧が視界を遮る中、唯一紅く輝く月だけが雲や霧が割れるように見えていた。

 

 妖怪、それも吸血鬼が住みやすい環境となった魔境の地。そこで私はワイングラスを片手に携え、煌々(こうこう)紅々(あかあか)しく地を降り注ぐ非現実的な光と、階下から鳴り響く耳触りの良い嬌声を肴にグラスの中に溜まった液体を舌先に乗せる。

 しかし、並々に注がれた液体はそれなりの時間空気に晒されていたのか、凝固・粘性を孕んでおり、喉に絡みついて離れようとしない。

 

「チッ、マズイ。やっぱり血は経口摂取に限るわね」

 

 猫のように縦長な瞳孔、それでいて異形な妖しさに輝く真紅な瞳を細め、微かに舌を打つ。

 口に含んだ液体を吐き出し、グラスを床へと投げ捨てる。カシャン、とガラスが割れ、びちゃりと床へと飛び散る液体が私の左頬へとかかってしまった。

 

 何をしてもうまくいかなかったあの頃の日々。

 皆は入場を許し、私だけが弾かれた孤独の毎日。

 当然食糧は勝手に運ばれてくるわけではなく、ただひたすらに。

 舐り、舐られ、また舐る。

 あの時に飲み続けていた嗚咽のする味は、魂の奥底まで刻み込まれる程に嫌悪していた。

 

 ああ、ひどく、不快だわ。

 

 飲み損ねたせいで、ノドは乾き、腹は満たされぬままだ。

 寧ろ潤う瞬間にお預けされたのだ。より一層強くなる食欲に辟易するように、足を組み直しては嘆息する。

 

「せっかくの月見酒なのに興が覚めたわ。お前たち、疾く床のゴミを片付けなさい」

 

 だが、そんな苦痛も、もう少しで終わる。

 想定外だが、想定内な出会いがもう少しで訪れる。

 

「ふん、咲夜がやられたのか。分かっていた事だけれど、これは盛大に歓待してやらないといけないかしらね」

 

 私はそう一人ごちると、頬にかかった"それ"を右手の親指で拭い去る。

 床には無数の蝙蝠(こうもり)が廃棄物を必死に処理している。その姿を見続ける価値はない。私はゴミをずっと見ている趣味はないからだ。

 クリムゾンレッドのレンガに囲まれた、無機質な狂気に満ちた玉座の間。

 そこに天蓋はなく、敷かれたカーペットは赤黒く染まり、最早元の柄や色が何なのかすら覚えていない。

 

「遠慮なく来るといいわ、幻想郷からの刺客よ」

 

 私は玉座から立ち上がり、背の黒い両翼を大きく振りかぶる。

 

 

「私は、偽物(くらいかげ)から本物へと至(外へと出)る。そう、本物の吸血鬼に。本物の、レミリア・スカーレットになるために」

 

 

【 】

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