眩い光に包まれたときに閉じた瞼を開けた時、私は摩天楼の只中に佇んでいた。
目が眩むほどの光は綺麗だと思う反面、一種の狂気も孕んでいたようにも、今にして思う。
元の世界。私が見限るはずだった箱庭。しかし、どういういわけか私は幻想郷の入場を許されなかった。
幻想郷に弾き出された私は、生き残る為にはみ出し者の血を吸い続けた。
これまでの地位は勿論、フランドールも、咲夜も、パチュリーも、私に従う者達もここには一人もいない。
彼女たちは、無事にたどり着く事が出来たのだろうか。それすら、私が知る余地はない。
これまで従者から提供された上質な血液とは全く異なる、苦味と臭みが酷く混ざり合った
空想が完全否定された世界において、無駄は何一つ許されない。
泥のような味であろうが溢すことなく血を飲み干し、反射的に押し寄せる嘔吐感と不快感に耐え続ける毎日が続いた。
強烈な光を放つ場所には影がべったりとへばりつく。
たちまち訪れる孤独感と漠然とした
『お前は……あの時の吸血鬼か。都合が良い、丁度貴女のようなチカラを欲していたところでね。もし良かったら、私達とつるまないか?』
そんな生活から一月程が過ぎた頃、特徴的な髪色と服装をした人らしき二人組に声をかけられた。髪の長さと羽織っている衣服を見るに、二人とも女性だというのはわかった。
"人らしき"というのは、私の視界では輪郭や顔の作りがあやふやだったからだ。
別に、涙を流していたわけではないという事だけは弁明させてもらおう。
今の私は、ただ生きる事に無我夢中だった。
そんな生活が無限に続くと想像するだけで、心がひしゃげてしまう程弱りきった状況で"ノー"と言えるはずもなく、私は半ば強制的に彼女の仲間となった。
そこからはとんとん拍子で話が進んでいき、気づくと私は湖の中心に居を構えていたのだ。
彼女たちは、
だが、条件としてこの町で異変を起こしてくれと頼まれる。
以前と変わらない暮らしを取り戻した事で、私は増長していたのかもしれない。
なので私は、幻想郷に来たら真っ先にやりたかった事をこの地で起こした。
それは紅霧を全域に発生させ、吸血鬼が住みやすい環境へと整えること。
科学が発達した世界とはいえ、私達とはベクトルが違うと踏み、このまま難なく完遂できると思っていた。
しかし、それでも彼女はやってきた。
博麗霊夢。
幻想郷における異変解決、妖怪退治の専門家。
彼女は、この世界の少女を依代にする事で自身を顕現させていた。
驚愕と焦燥感に駆られながらも、私は何処か心が躍っていた。私と同じ土俵、本物の力を持っている者が眼前に現れたのだ。昂らないわけがない。
……でも、これだけ支援をしてもらったところで、彼女に勝つことはできなかった。
揺蕩うように。
バスタブに溜まったぬるま湯の中で浮かんでいる感覚に晒されながら、私はあの時閉じた瞼を開ける。
「……咲夜、ゴメンね。パチェも、皆んなも。本当にごめんなさい。私が……私が全部、連れて行くわ。」
両腕を虚空に伸ばし、水面に浮かんでいた身体が沈み出す。
怖くはないわ。むしろ心地良いくらい。
だって、今度は皆が側にいるもの。
今度こそ離してたまるものですか。
──満足のいく笑みを浮かべながら、私は今度こそ瞼を閉じた。