トランスボーダー〜秘封憑依華〜   作:リトルラ

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11月12日……
いい秘封の日だそうで、少しだけ本編を更新したいと思います。
日を跨いでいるのは目を瞑っていただけると……



束の間の平和

窓から流れてくる車の排気音で、わたしは目を覚ます。

 

 ぎしりと揺れるポケットコイル式のベットは、相変わらずわたしを包み込んでいた。

 でも、今日も大学で講義がある私はここで時間をくってばかりではいられない。仕方なく、わたしは引き出しから取り出した靴下を履いて洗面台へと向かう。

 

 その前に、途中で通るキッチンから食パンを二枚取り出してトースターに放り込む。ついでに電子ポットにも水を注いでスイッチを人差し指で優しくプッシュ。

 昨日の今日で、同じ轍を踏むわたしではないのだ。

 

 しかし意識はまだ半覚醒なので、わたしは本来の目的である洗面台へと向かう。

 蛇口から流れる水を両手のお椀で受け止め、顔をパチパチと洗い、タオルで顔を拭う。

 

 金髪と蒼い瞳。

 何年も見慣れた顔だけれど、私は思わず鏡を二度見してしまう。思わず自分の髪の毛も触る。ふわふわのボブカット。黒髪ではない。ロングヘア特有の煩わしさもない。

 

「──あれは、夢だったのかしら?」

『そんなわけないでしょ』

 

「キャッ」と思わず声を上げて後ろを振り向く。しかし、誰もいない。今、何処からか声が聞こえてきたような……。

 

『ここよここ。貴女の寝床』

 

 洗面所を抜け、再度寝室へと向かう。そこには、昨日のわたしが寝大仏のポーズでこちらを見ていた。

 

『ふわぁ〜。寝心地の良いベッドね。このまま寝てしまっても良い?』

「……どうしてここに貴女が?」

『どうしてって言われてもねぇ。私は貴女になってしまったから……としか言えないわね』

 

 紅白の装束に身を包む少女、博麗霊夢はわたしの目の前に現れるや否や素っ頓狂な言葉を羅列する。

 

「貴女はわたし?一体どういう事??」

『そうねぇ。まずは、貴女の枕元を一度確認みてはいかがかしら?』

 

 霊夢はそう言ってこちらへ目配せをする。

 私が先程まで潜り込んでいたベッドに乗り込み、言われるがまま枕元をまさぐってみる。

 

「なに、これ」

 

 すると、指先に何か触れる感覚があった。これは……ボールだろうか。

 わたしは徐に手のひらで包み込み、自分の視界まで手繰り寄せる。

 

「これは、陰陽太極図(おんみょうたいきょくず)……の立体物?」

 

 陰陽太極図。白と黒、二つの勾玉の形を合わせた円形で描かれている、中国伝来の図柄である。と言っても、わたしは世界史に関しては大した知識を持っていない。

 フィクション作品に(なぞら)えていうならば、黒が"陰"、白を"陽"と表し、気の上昇、下降を表しているのだとか。

 

『これは陰陽玉。この世界で私が第二の拠り所としているところね』

「……第一の拠り所はどこ?」

『蛇足ね。わざわざ口に出した所で、貴方は直ぐに信じようとしないでしょ?』

 

 霊夢はそう口にして、トントンとわたしの胸の中心を人差し指で軽く小突く。

 

「……そう。で、貴女は一体何者なの?名前は分かるけれど、わたしは素性を全く知らないわ」

『勿論。そういう約束で貴女の体を借りたのだから、義理は果たすわ。でもその前に、そろそろ朝ごはんを食べないと授業、間に合わないんじゃないかしら?』

 

 ふと視線を時計へと変える。

 午前六時五十四分。今日は一限目から必修科目の授業があるため、九時には到着しておく必要がある。

 そして自宅から学校までは電車の乗り継ぎでおよそ一時間弱。

 それらを踏まえて残された私の残り時間を逆算していくと……。

 

「あと四十五分で準備しないと遅刻しちゃう!」

 

 心臓のギアが一段階跳ね上がり、のらりくらりとしていたペースを足早に精算していく。

 

『空いた時間に話してあげるから、今は自分の生活を大事にしなさい。私はもう少し眠るわね……』

 

 猫のように丸まって眠る彼女を尻目に、わたしはお皿に焼いたパン二枚を乗せ徐にバターを乗せる。そして、電子ポットで沸かしたお湯をポタージュの粉末スープが入った容器に注ぎ、くるくるとティースプーンでかき混ぜて私は着席する。

 

「いただきます」

 

 ──舌先と唇が少しヒリヒリすることに気づいたのは、少し時間が経った後のお話。

 

 

「……メリー!おはよ──って、どうしたのよ。机に突っ伏してるなんて、メリーらしくないわね」

「おはよう蓮子……なんか今日はもう、疲れちゃったわ」

「えぇ……昨日からずっと気怠そうにしてるじゃない──あっ!メリーが元に戻ってる!」

「まぁ、おかげさまでね。戻ったというべきか、まだ戻っていないというべきか……」

「?」

 

 午前八時五十六分。

 息を切らして私の隣へ座る蓮子を尻目に、私は机に突っ伏していた。それはもう、木目のついた机に頬が吸収されるのかと思うくらいべったりと。

 起床から登校までの間、とても濃厚な出来事が起こってしまった。今は、それの整理で手一杯なのだ。

 

「そうだ、蓮子、今日って何処か空いてる時間ってある?」

「え?確か今日はこの必修が終わったら終わりのはずだけど──あ、もしかしてまた夢でも見ちゃった感じ?」

「そんなところ。じゃあ予約しちゃうわね」

「何を?」

「ホテルを」

「……」

「………?」

 

 大事になると気づいたのは、付近に座る同級生達が一斉にこちらへと振り返ってコンマ数秒経った後の事だった。




本日の夕方にもう一話投稿します。
お楽しみに!
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