気づいたらデュエルアカデミア   作:りんごうさぎ

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世渡家帰省編
恐怖の世渡一家


 クロノスの力で俺はデッキを大幅に強化できた。

 

 あの教師は自分のデッキにも押収のような強力カードを入れているように、結構イイモノを持っている。カードってあるところにはあるんだな。コントロール変更関連の汎用カードなどを中心に欲しいカードをたくさん仕入れた。どんなデッキにも入るようないわゆる必須カードも増えたし、俺のデッキもある程度形になってきている。

 

 いっぺんにこれだけパワーアップできるなら……退学デュエル、案外悪くなかったかも。

 

 そして勝利した俺は退学を免れ、平穏な毎日を過ごしていた。そんなある日、俺は突然校内放送で呼び出されることになった。

 

『オシリスレッドの世渡くん、世渡くん、至急校長室まで来てください』

 

 校長が俺を呼んでいる。妙なタイミングだ。クロノスは俺に不都合なことをすれば道連れになることはわかっているはず。あいつの仕業じゃないとすると……さてさて、いったいどんな要件だ? 

 

 校長室に行くと鮫島校長がお待ちかねとばかりに俺に声をかけてきた。

 

「おぉ! やっときたか! 今君のお父さんから電話があって、もうカンカンなんだよ。とにかく電話に出て話をつけてくれたまえ」

「えっ!? いきなりですか!? ちょっと待って……」

 

 拒否する間もなく電話を押し付けられた。考えをまとめる間もなく耳元で爆発が起きた……と錯角するほどの大音量が響き渡った。

 

「バッカモォォォォォンンンン!!!!! このおぉぉぉぉぉぉバカモンがぁぁぁ!!!!! 今の今まで碌に連絡もせんで定時連絡を怠り、あげくの果てに退学騒ぎなんぞ起こしよって!!! ふざけるのもたいがいにしろ!!! 自分が何しでかしたかわかっとるんかこのタワケがっっっ!!!」

 

 自分の家族構成がどうなっているかずっと不安だったが、どうやら親父に関しては特大のハズレを引いたようだな。しかも知らない情報が出てきている。

 

「退学にはなってない。テストも良かった。何か問題あるか?」

「あるに決まっとるわこのタワケがっっ!!! まさか入学させてやったときにした約束を忘れたわけじゃあるまいな!? 最初のテストでイエローになれねば退学させると言ったはず! 覚えとるな!!」

「なんて無茶な……だが俺は上手くかけあってちゃんと昇格できるよう条件は整えてデュエルには勝ったし……」

「言い訳するな!!! みっともない!!! 結果が全て! 失敗したお前には何の価値もない! 退学を取り消そうがこっちから出ていかせる!! お前は退学じゃ! いいな!! すぐに帰ってこい!! このワシが直々にしごいてやる! 一週間以内に戻らなければ二度と家の敷居は跨がせん!!! わかったな!!!」

 

 プツッ ツー ツー ツー

 

「えっ!? 切れた!? ウソだろ、マジで帰るしかないのか……!?」

 

 どうなってんだこれは!? 入学時の約束なんざ俺が知るわけねぇ。帰るのは避けられないか。こうなれば直接出向いて俺が説得するしかない。あとはアカデミアの授業をどうするかだが……

 

「校長、しばらく休学させて下さい。すぐ戻ります」

「わかりました。さっき退学と聞こえましたが……」

 

 あの大音量なら聞こえただろうな。だがここで退学にされては困る。

 

「必ず説得して復学します。休学にしておいてください。退学になるにしてもそれはその後で間に合うはずです。あと、一週間以内で船の便はいつありますか?」

「わかりました。退学でなく休学で手続きしておきましょう。船なら明日を逃すと次は来週以降に……」

「明日?! じゃあすぐに準備しないと! すみません、俺はこれで」

「構いませんよ。体に気を付けて、元気な姿でまたアカデミアに戻ってきてください」

 

 あいさつもそこそこに急いで身支度を始めた。何もかも唐突で悪態をつくヒマもない。だが身内と向き合うことは避けては通れない試練。早めに済ませられたのは逆にラッキーかもしれない。それに島の外でカードを強化するチャンスでもある。

 

 どうやってこの危機を乗り切るか考えながら荷造りしていると案外すぐに作業は終わった。大した荷物もないし、カード整理は以前に済ませていた。

 

 ちょっとだけ休憩しようかな。

 

 ふと手にしたカードに目をやると当然のようにラヴァゴーレムのカードが鎮座していた。前世?から続く自分のフェイバリットカード。不思議で悪魔的な魅力を放つこのカードはやはり俺とは切っても切れない腐れ縁だ。

 

 実家に戻ったら俺はどうなってしまうのか、それはわからない。でもこのカードに助けてもらうことになるのは間違いないだろう。

 

「よろしくね」

 

 カードからは温かいぬくもりを感じる。当然返事が来るわけないが、きっとこいつは俺の力になってくれる。そんな気がした。

 

 翌朝、船着き場に行くと誰かがやってきた。赤い制服……あれは十代!?

 

「十代!? どうしてお前が?」

「決まってるだろ! お前が今日退学になるって聞いたから、慌ててここに来たんだ」

「退学? 誰がそんなこと」

「クロノス先生が言ってたんだけど、やっぱり違うんだな!」

 

 クロノス……話を盗み聞きしていたのかもしれない。あの爆音ならさぞや簡単に聞くことができただろう。

 

 十代はまさか俺の心配でもしていたのだろうか。アホだな。これから俺はお前の敵になるっていうのに。こいつの考えることだ、強い奴がいなくなったらイヤとかそういうノリなんだろう。

 

「ちょっと里帰りするだけだ。大げさに騒ぐなよ。心配しなくてもまたお前を叩き潰してやるよ」

「それだけ憎まれ口を叩けるなら心配なさそうだな。でもなんで急に帰っちゃうんだよ?」

 

 お人好しだな……。

 

「俺の事情だ。首を突っ込むな。お前は俺がいない間にせいぜい強くなっておくことだ。弱いままだと倒し甲斐もない」

「お前にはもう絶対に負けねぇ!! またデュエルするのを待ってるぜ!!」

 

 実にさわやかな笑顔だ。この無邪気な表情を見れるのもあと少し。異世界に行くまでのことだ。

 

「……お前、今なんのためにデュエルしてるんだ?」

「え? なんで急にそんなこときくんだよ? 楽しいからに決まってるだろ?」

「楽しいから、か」

「じゃあお前はどうなんだよ、テンシン」

「……」

 

 俺には目的がある。力を手に入れて三幻魔を支配する。弱くちゃ生きていけない。強くなければいけないんだ。だが今の十代は違う。純粋に勝負を楽しんでいるだけなんだ。

 

 そんな十代にも変わる時が来る。勝たなければいけない理由ができたとき、十代は変わってしまう。

 

「どうしたんだ?」

「お前がここを卒業するとき、果たして同じことが言えるかな?」

「……テンシン?」

「何も失わずに生きていくことはできない。お前もいつか失う時が来る」

「俺が楽しむ気持ちを失うってことかよ?」

 

 その問いには答えず船に乗った。

 

……俺はいったい何をしているんだ? ただの里帰りでナーバスになって余計なことをしゃべるなんてなぁ。ガラじゃないだろ。

 

 たしかに十代が楽しむ心を失ったことはGXではショッキングな出来事だった。だから心の中でそうはなってほしくない気持ちが残っていて、それが少し出てしまったのかもしれない。

 

 だが今の俺がそれをなんとかしてやる義理はない。敵となれば容赦なく倒す。それが俺の生き方だ。

 

 ◆

 

 さて、船に揺られて小一時間ほど、本島に帰ってきた。当たり前だが自分にとっては初めての光景ばかりだ。色んなものに目移りする。丁度いい観光になると思えば少しは今回の退学騒ぎの理不尽さも和らぐか。

 

 地図を見ながら探り探り進んでいるとやはりあちこちにカード屋が目立つ。この世界の中心とも言えるし当たり前ではあるが、やはり気になったので少し立ち寄ることにした。

 

 ついでに美容院に行って髪を切ったりして身だしなみを整えた。ペガサスヘアーともこれでおさらばだ。髪型を変えるタイミングとしては申し分ない。シワシワの制服も脱いだし見た目はかなり変わったはずだ。

 

「うわぁ、すっごくカッコいいですよ! びっくりするぐらい男前ですね!」

「そう? 自分でも生まれ変わった気分ですよ」

 

 美容師さんにおだてられて思わずニヤケてしまった。我ながら見違えたなぁ。俺って実はかなりイケてるのでは? これまであんまりちゃんと自分の顔を見てなかったが想像以上に美形な気がする。

 

 いや、この人が褒めるのはさすがにお世辞もあるだろう。実際はそこまで大したことないのかも。この顔で人前に出たことがないし客観的に見てどう映るかはわからない。

 

 とはいえ少なくとも根暗な印象は振り払えたし、これで胸張って生きていける。喜ばしいことだ!

 

 お金は減ったけど……。

 

「金は家に戻ればなんとかなるだろう。デュエルで稼ぐ方法もあるだろうし」

 

 そしてとうとう自宅にたどり着いた。携帯に住所が載っていたので合っているはず。表札も世渡だから間違いないだろう。時刻は現在夕刻6時頃。玄関に立ち、ベルを鳴らそうと思うがよく考えると自宅に入るために呼び鈴を鳴らすのは変だと思い直す。カギぐらい持っているはずだ。

 

 カギをさがしてドアを開け、いよいよ自宅に入った。

 

「ただいま」

 

 シ~~ン

 

 中からの応答は全くない。人の気配もしない。留守だったようだ。これはついていない……いや、むしろラッキーか?

 

 なんせ今回一番懸念していたのは家族とのしゃべり方だ。普段自分がどんな行動をしてどんなしゃべり方をしていたのか全くわからない。あまり変な様子を見せると怪しまれる。だから誰もいないこのスキに何か自分と家族の関係がわかるものを探す時間がとれたのは非常に大きい。

 

 写真とか、なんでもいい。いつ誰が帰って来るかわからないし、すぐに始めよう。まずは自宅の間取りを調べるために軽く家の中を一通り見て回ることにした。

 

 この家は一軒家で2階建て。下のフロアに居間や風呂場などがあり、上のフロアに個室があるようだ。個室は4つ。父、母、俺、そして姉妹と思われる人物。できればそれが姉なのか、それとも妹なのかぐらいはっきりさせておきたい。呼び間違えると面倒になる。

 

 ……入るか?

 

 いや、まずは自分の部屋だ。そこでわかれば入る必要はなくなる。何もわからないまま下手に侵入すると思わぬボロを出してしまう可能性が高い。勝手に入ったのがバレると面倒なことになる。一生付き合っていくことになる相手だ、慎重に考えた方がいい。

 

 まずは自室……入ってみるとなんともシンプルで素朴な部屋だった。飾りっけがない。少しカードはあったがやはり弱いものしかなく、家族関係がわかる写真や日記のようなものもなかった。

 

 手掛かりはなしだが、それでもまだ妹の部屋への侵入はためらわれた。先に下の階を捜索しよう。家に入ってからかれこれ30分程になるが成果なし。急いで探したのでかなり疲れてしまった。

 

 そこで目に入ったのがバスルーム。そういえば自分は慌てていたので昨日から風呂にも入っていない。寮の風呂はボロイし、たまにはちゃんとした風呂に入りたい……。丁度いいので少し入浴することにした。

 

「あー疲れた」

 

 ガラガラガラ

 

 服を脱ぎ散らかして風呂に入ると、温かい蒸気が全身を包み込む。なぜ?と思うより先に目の前の湯船に浸かる金髪の美少女と目が合った。

 

「えっ!?」

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 本気の悲鳴。

 

 すぐに「ヤバイ!」と思わされ、パニックに陥ってしまった。誰もいないはずなのに! 混乱する最中こっちに大量の水が飛んできた。

 

 バシャァァァンン!!

 

「ゲホッ!?」

 

 いきなりお湯をぶっかけられたらしい。視界が塞がった隙に今度は美少女が湯船から飛び出し俺に向かって飛び蹴りを放った。

 

「死ねテンシン!!!」

「ゴハッ!?」

 

 恐ろしい程の体重がかかっており、ぶっ飛ばされた俺は壁に激突して一瞬呼吸ができなくなった。

 

 蹴りに迸る殺意を感じ、今自分がとてつもない窮地に立たされていることを理解した。

 

「ヴヴヴゥゥゥ~~~~絶対殺す!!! 死ねッ!!!」

「ちょっと待て!?」

 

 獣のような唸り声をあげながら再び回し蹴りが飛んできた。頭を屈めて間一髪でこれを躱す。これまでの戦闘経験の賜物か? あるいは死の淵で底力が発揮されたのか? わからないがとにかく奇跡的に回避に成功した。

 

 いったん相手から距離を取り、ようやく少し落ち着いて相手の姿をはっきりとみることができた。

 

 剥き出しの殺意をこちらに向けながら前傾姿勢になっている美少女はまさに鬼の形相。恥じらうような素振りは全くみせず、堂々と俺の目の前に立っていた。

 

 真っ先に目を引いたのは目の前で揺れ動く大きな2つのカタマリ。激しい運動によりその存在感を大いに主張している。前傾姿勢もその大きさをよりいっそう際立たせていた。

 

「見事なおっ……いや、俺は何を! 今は少しでもこの状況を……」

 

 頭を振って我に返ると、まずは目の前の人物が誰なのか考えた。1番妥当な推測は俺の姉妹という線。しかし容姿を見ると俺には全く似ていない。面影とかを感じる部分すらないのだ。

 

 金髪ヘアーに透き通る白い肌。どこかエキゾチックな雰囲気と合わせて考えると外国人の血が流れてる可能性も高そうだ。とすると俺の姉妹ではない、のか?

 

 でもふつうに日本人っぽさも残している。ん~~、なんとも言えない。

 

「ヂッ! 外した!! 死ね!!! くたばれ!!! 地獄に落ちろテンシン!!!」

 

 流れるような動きで連続の回し蹴り。丁寧に見極めて1つずつ躱し、バックステップで距離をとった。近くにいるのは絶対に危険だ。

 

 こいつ、こんなに大股開いて恥ずかしくないのか? 俺は男としてみられてないのかもしれない。だったらやっぱり俺の姉妹なのか?

 

 …………しかし髪は染めているわけではなさそうだ。

 

 じゃあ俺と色が違うならやっぱり他人? でもさっきから俺の名前を呼び捨てで連呼してるしなぁ。まんざら赤の他人ってわけでもないはず。

 

「くぅぅぅ! なんで当たらないのよ!! このアホテンシン……えっ!?」

「ん?」

「…………だれ?」

「は?」

 

 今俺のことテンシンって呼んでましたよね? ずっと認識できていたのになぜ急にわからなくなる? 美少女の視線は……俺の顔? いや、顔見て誰かわからなくなるってどういうこと? 

 

「テンシン?」

「テンシンだけど」

「う……そ……あぁっ! あああっっ!!」

 

 息を飲み、驚きの表情を見せたかと思えばみるみる顔が赤くなり殺意が消えた。こんなに急激に顔が赤くなるヤツ初めて見た。もうりんごみたいに真っ赤っ赤だ。

 

「あうっ」

 

 急にしおらしい声を出したかと思えば胸と股を手で隠してモジモジと内股になった。なんだなんだ?

 

「どうした?」

「出てって! あっち行って! 覗き! 変態! うぅぅ……」

 

 さっきまで胸を張って堂々としていたし声もハキハキしていたのに今はかわいそうなほど体を丸めて縮こまり声もか細く弱弱しい。強気の物言いが一転涙交じりの懇願だ。

 

 さっきまでこっちを見下すような視線だったのにちょっぴり上目遣いになっているところも弱弱しい印象を強くしているのかも。

 

 しかしこれ以上ここにいたら本当に変態だ。それにいつまたさっきのように蹴りかかって来るとも限らない。自分の服を持って大人しく出ていった。

 

「もう入ってくんな負け犬テンシン!! 次はぶっ殺す!!」

 

 去り際に聞こえた罵声には最初の勢いが戻っていた。やはりあそこで「もうちょっとだけ」と欲をかけば蹴られていたな。さすがにもう一度入れば命はないだろう。

 

「ふぅ……」

 

 服を着直しながらさっきのことを思い返した。

 

 かなり命の危機を感じたが、あれはそれだけの価値があった。すごい光景だった。じっくり思い返して忘れないように……

 

「あらあら、もう帰ってきてたの。災難だったわね」

 

 ブホッ?! 背後から知らない声、予期せぬ第三者。心臓が大きく跳ねる感覚を味わった。

 

 まだバトルフェイズは続いていたのか……。

 




ヒロイン登場は2章からと相場が決まっておるのです。
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