気づいたらデュエルアカデミア   作:りんごうさぎ

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テンシンの生き方

「あらあら、もう帰ってきてたの。災難だったわね」

 

 油断していた。お風呂の子のことを考えていて周囲への警戒を怠っていた。いや、そもそも家の中には誰もいないんじゃなかったのか? なんか次から次へどんどん人が出てくるんだけど? 服は一応さっき着直したので自分が裸じゃないことだけはさっきよりマシか。

 

「まぁね。いたんだ」

「上のベランダにいたのよ。気づかなかったわ。あなた、またトーラを怒らせちゃったのね」

「……」

 

 口数少なく返事をし、最後も黙ってうなずいて振り返った。

 

 うわぁ……すごい。今度もこれまた美人な女性だった。恐らく母親だと思って振り返ったが……俺とはあまり似ていない気がする。逆にお風呂の子とは似ているかもしれない。髪の色などが同じだ。

 

 だが雰囲気はさっきの子とは全然違う。とても長い髪で優しそうな女性だ。口調も穏やかだし性格面で言えば似ても似つかない。しかもこの人かなり若そうな見た目をしている。親子……なのか? この家、ちゃんと家族で暮らしてるのか?

 

 まさか俺だけ橋の下で拾ってきた子供でしたとか、そんな幻のレアカードみたいな設定じゃないよな?

 

 くそっ、まずいな……。情報を集めきる前に主要人物との接触、しかも俺は大問題を起こしてそれを目撃されている。無理やり立ち去るという選択肢は潰された。人物間の関係も未知数。万一赤の他人を母さんとか姉ちゃんとか呼んだら一発アウトだし、呼び方が変わってもマズイ。クソッ、どうすりゃいいんだ。

 

 そもそもこいつが普通に部屋にいればさっきの事故も起きなかったのに、最悪のタイミングで出てきやがった……恨むぞ。

 

 いや、今は恨み言をいっても仕方ない。とりあえずは曖昧な言い方を心がけよう。そうすれば誤魔化しやすい。

 

「ウソでしょ……? あなたテンシンなの!?」

「……?」

「あらぁ~~!! どうしたの? 学園生活でイメチェンしたの? やっぱりその方がいいわよ! とってもかわいいわっ!」

 

 人の顔を見るなりいきなりテンション上げて抱き着いてきた。

 

「ちょっと!?」

「いいでしょ、久しぶりなんだし」

 

 かなりギューギュー押しつけてくる。密着しているので体越しに物凄く嬉しそうなのがよく伝わってくる。これ、本当に家族なのか? なんか変な気がする。

 

 どうも息子に対する反応とは思えないんだよな。男として見られてるというか……。まぁ他人からそんな目で見られたことなんて今までの人生でないから当てにならないけど。

 

 くっ……どうする? 状況的にはどう考えても家族のはずだし、他人が家にいるとは思えない。親戚がいるとか特殊な家庭事情とか……可能性は色々あるがこのままでは埒が明かない。ちょっと攻めるか

 

「あの、かあ……さん?」

「ん? どうしたの? 久しぶりに会えて嬉しくなった?」

 

 セーフ!

 

 はぁ……。この人、いつも俺とこういう絡みやってるのか? 人のこと何歳だと思ってんだか。母親なのは正解だったみたいだし、おそらくトーラっていうのがさっきの子だろう。名前も外国人っぽいがたぶん自分の姉妹で合ってはいるはず。

 

「別に。それよりトーラのことだけど」

 

 軽く流して続きを促すと不満そうな顔をされた。が、違和感を持たれたわけではなさそうだ。全く、家族の会話をするだけで気が抜けない。

 

「昔はもっと素直だったのにねぇ。トーラのことは災難だったわね。ほら、あの子出かけない時は学校帰りに長風呂するでしょ? タイミングが悪かったわね。しばらくここにいなかったし、気が回らなくても仕方ないわ。あなたが抜けてるのは昔からだし、悪気がないのはあの子もわかってるはずよ。かあさんからも一緒に謝ってあげるわ」

「ありがと、かあさん」

「いいのよ。あなたも急に呼び戻されて大変だったでしょ」

 

 助かった! 自分から呼び方を教えてくれたのは大きい。たぶん父親も「とうさん」でいける。風呂にいた子も「トーラ」で呼び捨てにして問題なかった。呼び方問題は一気に解決だ!

 

 しかも上手くあの子と橋渡しもしてくれるとこのお方は言う。俺は最初部屋にいなかったことを責める気持ちがあったことを心から恥じた。あんた良い人だ、聖人だ。優しいし、トーラや親父と大違い。きっとトーラは親父の悪いとこだけ吸収したに違いない!

 

 あとはクソ親父殿をなんとかするだけ。そっちも探りを入れておくか。

 

「そういえばとうさんはどこに?」

「しばらくは帰ってこないわよ? お仕事が忙しいみたいでね。あと5,6日したらくるんじゃないかしら。あなたこそどうしてこんなに早くきちゃったのよ。びっくりしたわよ」

「あいにくこれを逃すと次は1週間便がなかった。もっとちゃんと調べてから連絡してほしかったよ」

「あらら、それじゃ運が悪かったのね。たしかに次の便で来ていればカンカンになって怒ったでしょうね、あの人。……ねぇテンシン、とうさんが帰ってきたらどうするつもり? 本気でやめさせる気みたいよ? 今回は私の言うことも聞く耳なしだから助けてあげられないかもしれないの。ごめんね」

「かあさんが気にすることじゃない。大丈夫、ケジメはつける。必ず俺はアカデミアに戻る。まだやるべきことがあるから」

 

 これだけは絶対に譲れない。だから強い思いを込めてきっぱりと言い切った。

 

「テンシン……あなた、短い間にたくましくなったのね。ここを出る前はあんなにとうさんのこと怖がってたのに。しゃべり方も堂々としてるし、ずいぶんカッコよくなっちゃって……何かあったのかしら?」

「……」

 

 マズイ! 呼び方問題が解決した嬉しさで調子よくしゃべり過ぎた!

 

 やっぱりしゃべり方は誤魔化せないか。以前の俺がどうだったか全く知らないから似せることもできないし、これに関してはどうしようもない。さぁ、どうやって乗り切る? 考えろ、考え続けろ……。

 

「もしかして、好きな子でもできたのかしら?」

「…………え?」

「仲良くなったらちゃんと家に呼んでかあさんに紹介するのよ」

「はぁ……」

 

 びっくりさせんなよ。だいたいなんだその推論は! 好きな奴ができただけで変わるわけねーだろ!

 

 ほっと一安心してため息をつくと今度はやかましい奴がやってきて俺につっかかってきた。

 

「バカテンシンッ! あんたどういうつもりなのよ! 死にたいわけ!? 負け犬がノコノコ帰ってきたと思ったらいきなり身内の風呂覗きとか、キモイしみっともないしクズ過ぎて吐き気がする!! どうせアカデミアでも変態みたいなことして退学になったんでしょ!! あーキモッ!! 気持ち悪っ!!」

 

 俺には息つく暇も与えてくれないのかねぇ。あることないこと好き放題言いやがって。家族じゃなきゃ叩き潰して上下関係をわからせてやるところだが、身内であるこいつには味方になってもらえると都合がいい。なんとかして懐柔できないものか。

 

「さっきのは悪かった。ここに帰ってきたとき返事がなかったから誰もいないと思ってたんだ」

「はぁ? 服があったでしょうが服がっ!! カゴの中みてないの? というかあんたが自分の服をカゴに入れようとすらしないのがもうすでにおかしいのよ! あっちこっちにポイポイ脱ぎ散らかして、いい加減で気が回らなくてだらしないダメ人間! あんた根本的に性格が終わってんのよ、このクズ!! クズクズクズ!!」

 

 くっ……カゴなんかあることこっちは知らねぇんだよ! 疲れてたから周りを良く確認しなかったのが悪いとはいえ、そもそもあの時点では誰もいないと思ってたわけだしどうしようもない。言い訳したのが裏目で墓穴になってしまった。

 

「その辺で勘弁してあげなさい。テンシンは一日で急いでこっちまで戻ってきてとっても疲れていたのよ。悪気はなかったんだからもう許してあげなさい」

 

 俺の形勢が厳しくなったところで絶妙な助け舟をかあさんが出してくれた。本当にこの人は助かる。嬉しくなる俺とは反対にトーラはさらに機嫌が悪くなった。援護射撃がお気に召さなかったらしい。

 

「もうっ! かあさんっ!! どうしていつもそんなクズの肩ばっかり持つの!! テンシンにだけいっつもいっつも甘すぎよっ! こんなやつ生きてる価値なんてないのに! 我が家の恥だわっ!!」

「トーラ!!」

 

 かあさんはきつくトーラをたしなめるがそれでもトーラの“口撃”は止む気配がない。

 

「だってそうでしょ? アカデミアに行って見返してやるとかいって、一年も経たないうちにこのザマ! テンシン、あんたさぁ、あたしらの前にノコノコ逃げ帰ってきて恥ずかしいとか思わないわけ? どんなバカでも無様だってわかるはずよね?」

 

 心底人を見下した目で俺の方を睨んでいる。でも微妙に視線は合わない。風呂ではすぐに目が合ったのに。

 

「トーラ!! あなた言いすぎよ!!」

「うるさい!! それもこれも……全部こいつが、こいつが弱虫なのがいけないのよっ!! ふんっ!」

 

 それだけ言うとトーラは2階へいき自分の部屋に閉じこもってしまった。強く扉を閉める音が響く。相当お冠だな。

 

 今のトーラの言葉、単なる誹謗中傷なら別に気にはしないが、どうもこれには過去に何かあったんじゃないかと思わされた。

 

 負け犬、クズ、そして弱虫……そんな言葉が印象的だった。そしてトーラの言葉は抑えきれない感情の爆発のようなものに思えた。一見理不尽な言動ばかりだが、おそらくトーラにとっては正当なものなんだろう。そう感じる。俺に対して過度に攻撃的なのは何か理由がありそうだ。

 

 俺に力がなかったから、何かイヤなことがあったのだろうか?

 

 トーラの言葉は俺に裏切られた憤りのようなものを感じさせる。

 

 ただ俺がキライなのではなく、期待していたのに失望させられ、愛情がそのまま憎悪に変わったような、そんな類の感情。特に最後のセリフからそんな気持ちが滲み出ていた。“全部”っていうのはおそらく過去の出来事を指していそうだし。

 

 なまじ希望を見てからの絶望である分、根は深く憎悪は大きいのだろう。だが最初に希望を見ていたのであればそこに活路はある。しばらくは様子をみよう。幸い、親父とケンカするまでまだ時間はあるんだ。それまでにトーラを何とかしよう。

 

「テンシン、大丈夫? 気にしちゃダメよ。あなたは強い子、かあさんは知ってるわ。あの子も今とても悩んでいるのよ。だから気が立ってしまってあんなこと言っちゃったけど……あの子もあそこまで言うつもりはなかったと思うの。許してあげてね」

「気にしてないよ。いつものことだ」

 

 俺が考えこんでいる間、ずっと黙り込んでしまったので落ち込んでいると思ったのだろう。母さんが俺を励ましてくれた。

 

 いつものことだ、という発言にはかなりリスクを伴うが、反応を見る限り変だとは思われていないようだ。トーラの様子から俺に対する日頃の態度は十分想像できたので分の悪い賭けではなかった。

 

「テンシン……あなた本当に変わらないわね。あんなに嫌われてもずっと優しいままだもの。でもね、あまり一人で抱え込み過ぎてはダメよ。辛いことがあればちゃんと私に相談するのよ、いい? 私はいつもあなたの味方よ」

 

 思わぬ言葉に俺はハッと息を飲んだ。そうか、だんだんわかってきた! 

 

 まず、やっぱりこの人はとんでもなくいい人だ。言葉の端々にまっすぐな心根が現れている。そして自分もまたその血を引いているのだろう。

 

 俺が昔からいじめられていたのは間違いないが、体格は実は悪くない。現に俺はいじめっこ達を撃退できている。スタミナさえ残っていればね。

 

 なのにどうしてテンシンはいじめられていたのだろうか? 

 

 それはきっとテンシンが反撃しなかったからなのだろう。そして助けを求めることすら拒んだ可能性がある。このことは以前から少し気になっていた。テンシンには救いの手を差し伸べてくれる人はいないのか、と。

 

 この母は俺を本気で案じているし、実際なんでもしてくれるだろう。それは今はっきりと感じられた。ならいじめを見過ごすわけがない。ということは俺が助けを求めなかったとしか考えられない。

 

 それは決して恐怖故のものではなく、おそらく他人を傷つけたくないという慈愛の心故にだ。血筋がそうさせたに違いない。全くバカバカしい。なんて馬鹿げた話なんだ。

 

 なら俺が変えてやる! 自衛のみで生きていけるほど世の中甘くない。テンシンは他者を傷つけたくないがために大切な家族を失いかけている。

 

 ようやく俺のなすべきことがわかった!

 

「かあさん、これだけは言っておく」

「……なに?」

「俺はもう誰かに守ってもらうような弱虫じゃない。あいつの心は自分で取り戻す!」

 

 これは過去の自分との決別、その宣言だ! もう誰かを演じるのはやめよう。俺は俺なんだ! これからはやりたいようにやっていく!

 

 テンシンとは違う生き方を貫いてやる!

 




伏線の多さにこだわりたいので色々あります
わかりやすいのから見つけにくいものまで
意外と力が強かったのにいじめられていたとかもそうですね
完結してからもっかい読んでもおもしろい話を目指します!
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