「さぁ、お望み通りあんたのターンよ! いつもみたいに情けなく守りばっかり固めてればいいわ! 意味ないけどね!」
感じる……今から引くカード、これで全て決まる。
「ドロー!」
引いたのは……溶岩魔神ラヴァ・ゴーレムのカード!!
「さぁ、ここから何ができるっていうの!?」
「お前が切り札を出すなら、俺もこのデッキ最強のカードで応えるしかないだろ? さぁ、出すぜ! 切り札!」
「何もないこのフィールドで切り札? 適当なことを……」
「モンスターならそこにいるだろ? 今からお前の氷の仮面、引っぺがしてやる!」
「私のモンスターを使う!? まさかっ!!」
氷の女王、あのカードは今のトーラそのものだ。あいつの本心を見るためには不要なカード。この場は退場してもらおう。
「エンディミオンと氷の女王を生贄に……ラヴァ・ゴーレムを特殊召喚!」
魔法使い2体を握りつぶしてラヴァ・ゴーレムがその姿を現す。トーラの場に伏せカードはない。これでフィールドは空だ。
「バッカじゃないの?! やっぱあんた落ちこぼれね! 自分の強いカードを相手に渡してたら意味ないってわかんないわけぇ?! しかもラヴァ・ゴーレムは召喚したターンに通常召喚はできない! 終わりのようね!」
よく知ってやがる……きっとトーラには見せたことがあったんだな。
「勘違いするなよ? お前のモンスターを掃除するためにそっちに特殊召喚はした。だがそいつをやるとは言ってない」
「なんですって!? あんた何を企んでいるの……なんかいつものテンシンじゃない」
「どんな使いにくいカードもデュエリストの腕次第。どんな不利な状況もたった少しのカードで一変する。俺は所有者の刻印を発動!」
「知らないカード……!」
《所有者の刻印》
通常魔法
フィールドの全てのモンスターのコントロールは元々の持ち主に戻る。
これはクロノスから頂いたカードだ。これで俺のデッキは飛躍的に破壊力が増した。
「このカードはフィールドの全てのモンスターのコントロールを本来の持ち主に戻す。つまりラヴァ・ゴーレムは俺のフィールドに戻って来る」
いつも一緒に困難を乗り越えてきたのに、戦うときは敵同士だった不思議な関係。
背にした悪魔を一瞥すると少し笑っているような気がした。
初めて肩を並べて共に戦うことができるこの喜び……こいつも感じてくれているのだろうか。
「なんですって!? そんな、ありえないわ!! いきなり私のフィールドがガラ空きで、しかもテンシンのフィールドに攻撃力3000のモンスターですって!?」
この勝負で初めてトーラの顔に焦りの感情が見て取れた。すでにトーラはどうやってここを乗り切るか考えているはずだ。
「たしかに状況は不利になった。だがこのターン俺は召喚によりモンスターを増やせない。ラヴァ・ゴーレムの攻撃力は3000ポイント。ならなんとか凌げる。そして所有者の刻印の発動によって魔法都市に6つ目の魔力カウンターが乗った。ここを乗り切ればエンディミオンの効果を使って逆転できる」
「!!」
「賢いお前ならもうそこまで頭が回っているだろうな。内心6つ目のカウンターを乗せた俺をバカにしているかもしれない。どうだ?」
「……そうよ! 結局あんたに勝ち目なんかない!」
「さっきの威勢はどうした?」
「ぐっ……」
普段強気なトーラの性格は実は臆病な気持ちの裏返しなんだ。こうして見ているとよくわかる。自分より強い相手には委縮しあっさりと弱気になる。本当はかよわい女の子に過ぎない。
「まずはラヴァ・ゴーレムの攻撃! ゴーレム・ボルケーノ!」
LP 4000 → 1000
「ぐぅぅぅ!! ぐふっ……うふははっ!! アハハ……攻撃したわね! これでバトルフェイズは終わり! 私は耐えた! やっぱりただのハッタリだったのね! テンシンのクセに調子に乗って、次のターン私の実力を思い知らせて…」
「効果ダメージを与えるのはお前の専売特許じゃないよな」
「!!」
トーラの顔が引きつり言葉が途切れた。それは実質の死刑宣告。これでチェックメイトだ。
「手札からエクトプラズマーを発動!」
「エクトプラズマー!?」
ライフが少ないデュエルでは効果ダメージをうまく活用することの重要性が高い。それがこれまでのデュエルでよくわかった。だから思わぬカードが驚くような活躍を見せたりする。
「エンドフェイズ、ラヴァ・ゴーレムを生贄にし、その攻撃力の半分、1500のダメージをお前に与える!」
「うそ……やだっ!」
「俺の勝ちだ」
勝負に情けは無用。静かに勝利を宣言した。
LP 1000 → -500
エクトプラズマーに貫かれたトーラはライフポイントをすべて失い、体の力が抜けきったかのように膝から崩れ落ちた。
もちろんソリッドビジョンに物理的なダメージはない。ショックで力が抜けてしまったのだろう。起き上がれないまま、うわ言の様にトーラは現実を否定し続けた。
「いやよ、こんなのおかしい、ありえない、違う……絶対に負けなんてありえない……こんなに頑張って、こんなにいい手札で、本気で戦ったのに、なのにどうして!! こんなあっさり負けるなんて……よりによってテンシンに、こんな負け方……!」
黙って様子を見ていると母さんが俺に駆け寄って来て両手を掴まれた。
「あなた、すごいわ! やっぱりあの人の子なのね! こんなにすごいデュエル初めて見たわ! それにずっと追い詰められていたのに余裕をくずさないあの態度……本当にテンシンなのか信じられないぐらいすごいわっ!」
「それは、まぁ逆転できるって……」
「わかってなかったはずよ。ラヴァ・ゴーレムはドローで引いたカードだったはず。トーラのターンではまだ逆転できるかわからなかったのに、あなたはそれを確信していた。だからすごいのよ!」
この人よく見てる。ただ心配してるだけじゃなかったのか。もしやこの人もデュエリストだったりするのか? 天使みたいに優しいこの人にデュエルなんてできるとは思えないが……人は見かけによらないとも言うけど。
「そんなに褒められても照れるよ」
「よく言うわね。そんな澄まし顔で言っても説得力ないわよ。さて、トーラ! あなたもよく頑張ったわ。あんなにデッキを使いこなせるなんてすごいことよ。落ち込む必要なんてないの。負けたのは運が悪かったと思うしかないわね」
「そう……そうよ、私は運が悪かった。だから今のはナシ、そうノーカンよ」
「えっ」
俺の口から気の抜けた声が漏れる。まさかと思うがこいつもう一回なんて言い出さないだろうな?
「テンシン! もう一回私とデュエルしなさい! こんな間違い2度も起きるわけない! 次は絶対に勝つ!」
おいおい、マジで言ってるのか? 母さんも余計なこといってくれたな。
「負けを認められない奴は強くなれないぞ」
「ぐぅぅぅぅぅぅ!! うっさい!! 次は倒す!! 今度はあんたが先攻よ!」
問答無用でデュエルディスクを構えるトーラ。選択の余地なしか。本人はさっきの勝負に納得してないようだし仕方ない。もう一度倒すか。こいつが俺を認めるまで何回でも倒すしかない!
「「デュエル!!」」
「あんたのターンよ! さっさと引きなさい!」
俺に先攻を渡したか。今度は後攻ワンキルができないようにするためだろう。かなり警戒している。だが俺のデッキは本来先攻で守りを固める戦法を得意としている。それは悪手だ。
「モンスターをセットし、カードを3枚セットしてターン終了」
「やっぱり! 先攻だと守りを固めることしかできないようね! 思った通りあんたは私よりも弱い! さっきのはマグレよ! ドロー! 手札からテラ・フォーミングを発動! 魔法都市エンディミオンを手札に加える!」
「なら俺もトラップ発動! マインドクラッシュ!」
「このタイミングでトラップ!?」
「俺が1つカード名を宣言して、そのカードがお前の手札にあれば同名カードを全て捨てさせる。俺は魔法都市エンディミオンを選択する」
「なんですって!? 何よそのインチキカード! くぅぅぅ、フィールド魔法が……」
悔しそうにトーラは魔法都市エンディミオンを墓地に捨てた。あのフィールド魔法がなければトーラは魔力カウンターを貯められず神聖魔導王エンディミオンの特殊召喚も狙えない。展開力は一気に下がる。
「なら召喚僧サモンプリーストを召喚! 効果で自身は守備表示になるけど構わない! マジックカードを捨てて効果発動! デッキからブラッド・マジシャンを特殊召喚!」
《召喚僧サモンプリースト》
効果モンスター
星4/闇属性/魔法使い族/攻 800/守1600
(1):このカードが召喚・反転召喚した場合に発動する。
このカードを守備表示にする。
(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカードはリリースできない。
(3):1ターンに1度、手札から魔法カード1枚を捨てて発動できる。
デッキからレベル4モンスター1体を特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できない。
《ブラッド・マジシャン-煉獄の魔術師-》
効果モンスター
星4/炎属性/魔法使い族/攻1400/守1700
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
自分または相手が魔法カードを発動する度に、このカードに魔力カウンターを1つ置く。
このカードに乗っている魔力カウンターを任意の個数取り除く事で、
取り除いた数×700ポイント以下の攻撃力を持つフィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を破壊する。
「だが呼び出したモンスターもサモンプリーストも攻撃はできない」
「ぐっ!? そ、そんなことあんたに言われなくてもわかってるのよ! さらにディメンション・マジックを発動! ブラッド・マジシャンを生贄に氷の女王を特殊召喚! そしてあんたのモンスターを破壊!」
魔法使い族の切り札、ディメンション・マジック。たしかに便利で強力だがトーラは使い方が雑だ。それに無理やり使っている感が否めない。強引に生贄を用意して氷の女王を出すことに拘り過ぎている。
さっきのデュエルと比べるとその質は落ちていると言わざるを得ない。
「セットされていたリトル・ウインガードは墓地に送られる」
「これでジャマするものはない! 氷の女王でテンシンにダイレクトアタック!」
ありゃりゃ……やっときた好機で前のめりになり過ぎている。伏せカードに対して無警戒に突っ込んでくるとは……あいつの評価を下げる必要があるだろうな。
相手の妨害への対応力はまだまだといったところか。
「リバースカード発動、マジック・シリンダー! 攻撃を無効にし、その攻撃力分のダメージを相手に与える」
「攻撃反射カード!? しまった!!」
《魔法の筒》
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時、攻撃モンスター1体を対象として発動できる。
その攻撃モンスターの攻撃を無効にし、その攻撃力分のダメージを相手に与える。
いきなりトーラは残りライフが1100まで減ってしまった。もうトーラの表情に余裕はない。動揺して体が震えている。
「お前が最上級モンスターで攻撃してくるのはわかっていた。さっきのは不用意すぎるぞ」
「うぅぅぅぅ……うるさいっ!! もう勝ったつもり!?」
「負けたつもりになっているのはお前自身だ」
「うっ……」
押し黙るトーラ。瞳が揺れている。動揺し過ぎだ。
もはや言い返す元気すら失っている。心は弱気になりネガティブな考えしか浮かんでこなくなっているに違いない。
“どうしてこんなことになったのだろう”
“どうすれば良かったのだろう”
そんなことを考えながら目の前の現実に絶望している様子が手に取るようにわかる。あいつは表情に気持ちが出やすいみたいだ。
「もうターンは終わりか? 俺はまだ何もしていないんだが、サレンダーするか?」
「……だれが、あんたにっ!! カードを1枚セットしてターン終了!」
「そのカードは残さない。リバースカード発動、サイクロン! 伏せカードを破壊する。当然セットしたターンにカードを発動することはできない。これでお前を守るカードはなくなった」
「ミラーフォースがっ! もうっ! どうしてこんなに……何もできない!」
上手く自分のやりたいように動けないもどかしさを存分に味わっているようだな。本来デュエルというのはそういうものだ。いかに相手の勝ち筋を潰し、いかに自分の勝ち筋を通すか、それが勝負。あいつはまだ自分のやりたいことを好き勝手やることしか頭にない。
「ドロー。……さて、ここで1つ尋ねておこうか。お前はこのターンにラヴァ・ゴーレムは召喚できないと考えている。そうだろう?」
「……サモンプリーストは生贄には使えない」
「ところが、そいつを生贄にする方法は存在する。俺は月の書を発動! 効果でサモンプリーストを裏側守備表示にする!」
「裏側!? これで効果を無効にするつもり!?」
「生贄にできないのはルール効果ではなく永続効果。当然セットされていれば発動しない。さぁ、これで生贄が2体お前の場にそろったな」
「……くる!」
本日2度目のご登場だ!
「2体のモンスターを生贄にラヴァ・ゴーレムを特殊召喚! さらに所有者の刻印で俺のフィールドにコントロールを戻す!」
「またこのコンボ! 私だけジャマされて、テンシンだけあっさりとっ! くぅぅ……どうしてよっ!!」
悔しくて仕方がない表情のトーラ。その気持ちがあるならもっと強くなれる。
「それが今のお前の実力だ。ラヴァ・ゴーレムのダイレクトアタック!」
「きゃああああ!!!」
LP 1100 → -1900
静かに見守っていたかあさんがポツリと呟いた。
「これは実力の差ね。視えている世界が違うわ。テンシン、あなたいったい……」
「……」
かあさんからの刺すような視線を黙って受け流した。下手なことを言うと墓穴を掘りそうだ。何も言わずにやり過ごすしかない。
「うぅぅぅ……わたし、どうしてこんなに弱いの? どうして? 何回やっても勝てない。何回やっても勝てっこない……。テンシン以下の私っていったいなんなの……」
ライフは尽き、勝負はついた。トーラの心はもうポッキリと折れている。完全なる勝利。崩れ落ちるトーラの元へ歩み寄った。
「ひぃっ」
「……」
恐る恐るこちらをうかがうトーラの瞳には恐怖の感情が色濃く伺える。あんなに高慢ちきだったトーラが借りてきた猫のようだ。とりあえず和解して俺のことを認めてもらおうと思ってたけど……このまま会話するのはよした方がいいかもしれない。
「テンシン待って! トーラは……」
「俺は自分の部屋に上がってるよ、かあさん」
今はそのときじゃない。俺は何もせず立ち去った。
◇
「かあさん……どうしよう!! 負けちゃった……負けちゃダメなのに! テンシンいつのまにか私よりも強くなってる! しかも腕力とかも急に私より強くなってて……私、絶対に恨まれてる! 昨日もヒドイことして、昔助けてもらったのに、私はテンシンを裏切って……私、きっとこれから一生テンシンにいじめられる! もうヤダ……私、耐えられる自信なんてない! お願い、今までのこと全部反省するから、だから助けて……」
トーラの心はすでにボロボロだった。今まで自分のつまらないプライドを満たすためだけにテンシンを虐げてきたトーラ。そのツケを今払うことになる。トーラは来たるべき最悪の瞬間を想像しただけで全身の震えが止まらなくなっていた。
さきほどテンシンが近づいてきたとき、トーラは生きた心地がしなかった。少しでも暴力を振るわれていればトーラはみっともなく泣きわめいていただろう。もうそれを恥ずかしいと思う余裕すらなかった。
「トーラ、自業自得よ。テンシンに辛くあたったのはあなたの意志でしょう?」
「ごめんなさい! わかってるけど、体が震えてどうしようもなく怖いの……」
「謝りたいならテンシンに言いなさい」
「無理よ!! それを言ったらきっと余計にヒドイことされる! テンシンの力すっごく強かった。きっと暴力とかも振るわれる! 全部倍返しされるんだわっ!」
トーラは他人との力関係には敏感だ。自分より強いものには逆らわないことで今まで平穏な生活を享受してきた。だからこそテンシンとの力関係の逆転をはっきりと感じ取っていた。
「あの子はそんなことしないわよ。あんなに優しい子他にいないでしょ? さっきも何もしなかったじゃない」
「それはきっとかあさんがいたからで……だから助けてよ!」
「はぁ……」
母親はトーラの怯えっぷりに呆れていた。これまで散々自分の強さをみせつけるようにテンシンを見下しておきながら、自分の立場が弱くなると真っ先に強いものに庇護を求める。テンシンのかつての在り方とは真逆だった。
だが、トーラもまた母親にとっては愛すべき娘。見捨てることはできない。
トーラの縋るような眼差しに折れてしまい、結局味方になってあげるのだった。
「うぅぅ……」
「わかったわ。後でテンシンの様子はみておいてあげる。今トーラのことをどう思ってるのか、様子を見て来るわ。あなたは一度落ち着いてリフレッシュしなさい」
「おかあさん……! ありがとう!」
花が咲くような笑みを浮かべるトーラ。この素直さをテンシンにも向けていればこんなことにはならなかっただろう。母は深くため息をついた。
◇
「テンシン、入るわよ」
「ん?」
俺がさっきのデュエルを踏まえてデッキを再調整しているとかあさんが入ってきた。なんの用だ?
「あら、デッキの調整中? 勝ったのにカードの入れ替えかしら?」
「反省はすぐした方がいいでしょ? 1戦目はかなり危なかったし」
戦う時は負けることなど微塵も考えないが勝負が終われば別。勝つために最善を尽くすには反省と改善を繰り返し続けるしかない。
さっきのデュエル、結果的に勝てたとはいえ振り返ってみれば綱渡りもいいところだ。切り札を引けなければかなり苦しい展開だった。
「あんな大勝だったのに浮かれるどころか危なかったなんて……本当に強くなったのね」
「それより何の用?」
「そんな言い方ないでしょう! 久しぶりに帰ってきたんだから少しは親孝行もしなさい」
「……トーラのこと?」
「まぁ……! そう、お見通しなのね。いつからそんなにカンのいい子になったの?」
当たりだったようだ。親孝行しなさいなんて言うような人じゃないのは短いながらも今までの行動でわかっている。こんなこといって誤魔化すとしたら考えられるのはトーラのことぐらいだ。
「落ち込んでた?」
「そうね。ショックだったみたいね」
「今まであんな負け方したことなんてなかっただろうし、無理ないよ」
「あの子のこと、どう思う?」
なんと答えるべきか。正直なんとも思ってない。ただ少し懲らしめただけ、その程度のもんだ。でもそんなことを言えばどう思われるだろうか。
「なんとも思ってない……って顔ね」
「!!」
「別にウソを言う必要はないのよ。でも良かったわ。やっぱりあの子のことをキライになったりはしてないのね」
「……あいつ、何か言ってた? 俺がどう思ってるかを気にしてた?」
「まぁ! 本当にカンのいい子ね」
「それはお互い様でしょ」
この人どうして俺の考えてることがわかったんだろう。親だから、では説明できない。精神は本当の親子ではないのだから。謎だ。
「あの子泣いてたわ。あなたにいじめられるってね。自分がヒドイことしてきた自覚はあるのよ。今そのことをとっても後悔してる」
「俺はなんとも思ってないよ。むしろこれまでのことを謝りたいぐらい。情けなかったのは俺の方だろ?」
「……」
「俺はあいつの心を取り戻す。そのためにあのデュエルに勝たなきゃいけなかった。トーラを守ってやるのは俺の役目なんだ。……俺、あいつに会ってくるよ」
「そうね。あの子、今とっても大変な状態だから優しくしてあげるのよ。じっくり時間をかけて話をするの。いいわね?」
その言葉に頷いて下の階へ降りた。トーラは食卓テーブルに突っ伏して顔をうずめている。
「トーラ」
「えっっ!!」
驚いて体がビクリと震えるが顔はあげずに突っ伏したままだ。まだ怖いようだ。
「横に座るよ」
「……」
トーラは何も言わない。いや、恐怖で何も言えないんだ。弱いところは見せたくないが、暴力にあえば逆らうことはできない。それを恐れている。
下手なことを言えばトーラは心を開いてくれない。今はまだ待つ時だ。母さんはじっくり時間をかけろと言った。じっと横に座って様子を見ていると不意にこちらを向いたトーラと目が合った。
「あっ!」
小さく声を漏らしたトーラは再びふせってしまった。臆病な小動物を思わせる動きは今までの高飛車な態度とは正反対。だが人間は追い詰められてこそ本当の自分が出てくる。やっぱりこれが……。さらにじっと待ち続けた。
「……」
「えっ!?」
もう10分以上経過したかもしれない。しびれを切らしたトーラが再び顔を出すがばっちりと目が合った。今度は驚きのあまりなのか顔をそむけることもしない。
「いっ……いつまでそこにいるのよ!」
「別にいいだろ。今日は俺が勝ったんだし」
「うぅぅ……」
また怯えた表情に戻ってしまった。めんどくさいなぁ、もう。立場を意識させるような言葉が出るとすぐにこれだ。一度この十字架をトーラから降ろしてやらないといけないか。そのためにはこれまでの膿を出し切らないといけない。
「トーラ」
「ひっ」
名前を呼んで手を伸ばすとトーラは縮こまって頭を押さえるような仕草をした。まさか殴られるとでも思ったのだろうか。
「……」
「え?」
優しく丁寧に頭を撫でてあげるとトーラがやっと俺の目をしっかりと見てくれた。不思議そうな顔でボーっとこっちを見ている。今なら話を聞いてもらえそうだ。
「おとなしくしてるとかわいいな、お前も」
「は!? 何言ってんの!? 変なこと言うな!! 変態!!」
「おっと。手が出るのが早いのは相変わらずか」
いきなりグーパン。反射的に今までの習慣が出たんだろう。ちょっと安心したのかな。
こういうとこを見ると今までの言動もかわいく思えてくる。最初はイヤなやつだと思ったが、そうでもないな。
「お前、1人でこんなとこで何してたんだ?」
「んっ……それは……あ、あんたこそかあさんと話とかしなかったの」
「かあさんならきたよ。お前のこと気にしてたな」
「……なんであんたがこっち来るのよ、もう」
かあさんに対してなんでちゃんと足止めしないんだって思ってそうだな。俺も一度肝心な時に居なかったのを恨んだことがあるから気持ちはわかる。
「トーラ、正直に答えてくれない?」
「……」
俺の言葉にトーラの顔が引きつった。今一番訊かれたくないことを俺が口にしようとしているのがわかったのだろう。肩に力が入ったのがよくわかった。
「俺のこと、怖い?」
「……」
トーラは顔面蒼白だ。目を見開き、視線を下に逸らした。必死に返答を考えるが何も言えなくなってしまっているのだろう。今にも泣き出しそうな顔だ。
かつてのテンシンは優しすぎた。優しさだけで人は救えない。今のトーラを救うこと、それこそが悪なる心を持った俺の役目なんだ。
トーラを救うためには、優しいだけのテンシンではダメなんだ!
「そんなに怯えてちゃ丸わかりだよ。ずっと威張って人を見下して、立場が逆転したらすぐに小さくなってビクビク様子を伺って勝手に他人を怖がってる。そうだろ?」
容赦のない言葉がトーラの心に突き刺さった。
「……ごめん……ごめんなさい」
もう涙が止まらない。トーラは気づくのが遅かった。自分の行いがどういうものか、どれだけ兄を傷つけてきたのか。いや、遅いどころか俺がデュエルに勝たなければ一生今のままだっただろう。元の俺にトーラの懺悔が届くことはなかったのだろうな。
「遅いよ、お前は。本当にどうしようもないヤツだな」
「……うぅぅぅ……ごめっ……ごめん」
トーラは自分の罪を認めた。罪を認めた者には赦しを与えよう。それこそが善なるテンシンの役割だ。
「いいよ。お前のことは俺が赦す。絶対にお前を恨んだりしない」
「え……本当なの?」
当たり前だ。俺はトーラの心を取り戻すためにここにいるのだから。
「もちろん。別に俺はお前を責めるためにここに来たんじゃない。デュエルに勝った今だからこそ言いたいことがある。……トーラ」
「……なに?」
グスグス泣きながら消え入るような声。どうしてここまでテンシンとトーラの関係は悪化してしまったのだろうか。今日この妹との不和を絶対に取り除こう。
俺は自分の言葉に決意を込めた。
「俺は今日からずっと、お前のこと守ってあげるよ」
「……え? えっ? え?」
わけがわからないという表情のトーラ。ちょっといきなり過ぎた?
「なんだその反応? 嬉しくない?」
「でも、今私のことキライだって……」
「んなこと言ってないだろ! だからさ! お前のダメなところもイヤなところも俺はよくわかってるけど、お前のこと1番好きだから、ずっと守ってやるっていってんの! 何回も言わすな!」
ちょっとこじつけっぽいけど本当のことは言えない。俺は俺じゃないとか意味わからないし。言ったらトーラはどう思うんだろうな。
「えっ……でも、そんな、本当?」
「なんでそんなに疑うんだよ。お前俺のこと好きなんだろ? 今も頭撫でたら嬉しそうだったし」
これは本当にずっと感じていた。最初に会ったときも俺の素顔を見てトーラは態度を一変させた。愛憎入り混じった複雑な感情ではあったが、そこに愛があったことは間違いない。
「ん!? 違う!! んんっ! あんたみたいなデリカシーないやつキライ!!」
渾身の右ストレートが来るがしっかりかわしてトーラをなだめた。
「ごめんごめん、調子乗った。でもさ、とにかく少なくとも俺はお前のこと好きだからさ、もう俺のこと怖がらなくていいよ。あんまりいい気しないし」
「……」
「俺も、お前には謝りたいと思ってたんだ。これまで俺が不甲斐ないせいでお前にはつらい思いをさせたし、失望も大きかったと思う。だからこそ、今までの分を取り戻すためにも俺は強くなって戻ってきた。今度こそ強くてカッコいい兄になるから俺を信じてくれない?」
「うぅぅぅ……テンシン……!!」
ボロボロと大粒の涙をこぼすトーラ。色々あったに違いない。今の俺には昔のことはわからないが、少なくともこれからのことは何とかできる。兄弟になった以上、トーラだけは本当に俺が守ってあげよう。
「トーラ、こっちおいで」
「うぅぅぅ」
抱き寄せて、頭をポンポンと叩くとそのまま体重を預けてくれた。少しは信用されたのかもしれない。
「人前じゃ泣けないもんな。俺には泣き顔見せてもいいよ」
「テンシン……わたし、テンシンに守ってもらう資格なんてない。わたし、最低なの」
なんて苦しそうな声なんだ。良心の呵責に耐え切れずにこんなことを言ったのだろうか。やっぱり根はいい子なんだろう。
「大丈夫、お前のことは全部好きだから」
「違う! わたし、テンシンのこと、自分のために、犠牲にして、本当は全部、わたしのせいなのに、でもテンシンは何も言わなくて……」
何も言わないで頭を撫でてあげると堰を切ったようにトーラの懺悔の言葉が続いた。
「私がいじめられて、困ったらいつも助けてくれて、強くてかっこよくて、あこがれて、いつもいつも私のためになんでもしてくれて、何度も助けてくれて、あの約束だって今でも覚えてる! 人生で一番うれしかった誕生日プレゼント。トーラを守るってかいてくれたあの手紙、今でも大事にもってるのに!」
「……」
なんと、以前のテンシンもそんなことを……。俺が守ってあげようと思ったのは偶然だ。妹は家族だから、そして兄を奪ってしまったことへの後ろめたさがあったから、せめてもの償いの気持ちから出た言葉だった。
この話が本当なら、トーラはさぞ嬉しかったに違いない。そして今ならトーラの本心を深く知ることができる。
トーラの言葉を遮らないように黙って続きを促した。
「なのにテンシンが、誰も傷つけなくなって、仕返しをしなくなっていじめられるようになって、それでも私は見て見ぬふりをして、今度はわたしが、自分がいじめられたくなくて、強くありたくて、一緒になってテンシンをバカにして、敵になって……裏切って…………テンシン…………」
「いいんだよ、トーラ」
辛そうなトーラを許してあげたくてつい言葉を挟んでしまった。それに対してトーラは厳しく否定する。
「よくない! テンシンは許してくれて、それに甘えて、テンシンがわたしにいつも負けてたのは、本当はわざとだったんでしょ!! それが急に、私が負けて、怖くなって、テンシンが仕返しにきたんだって思って、恩知らずの私を、自分の保身のためだけにテンシンを犠牲にしてきた醜い私を、こらしめにきたって……」
「悪いのは俺だよ。約束、守れなくてごめんね」
「うぅぅ……悪いのは私、こんな私に、守られる資格なんてない」
そうは言っても本当は守ってほしいに決まってる。
ここだ。ここで間違えなければ、今1番トーラが求めているものを言ってあげればトーラの心は取り戻せる。
「資格ならあるよ」
「え?」
「トーラは俺の1人だけの妹。だからそれだけで守ってもらう資格があるんだよ」
「ほんとう……?」
「これまでもこれからも、俺はずっとお前の味方。もし辛いことや抱え込んでること、そして後悔していることがあるなら、今日、全部俺にぶちまけちまえ。全部しっかりときいてやるから」
「テンシン……!」
それからはトーラがこれまで悩み抱え込んできたものを全て洗い浚い吐き出してくれた。もちろんトーラのためでもあるが、何も知らない俺にとっては過去の出来事を確認することもできる。ちょっぴりだましているようで罪悪感もあったが……とにもかくにも、長くトーラにしゃべってもらうように努力して過去のことを全て聞き出した。
「スッキリした?」
「……うん」
「よし、じゃあ一緒にデートにでもいこっか」
「うえっ!? デート!? ちょっと! 変なこと言うな!」
「別に変じゃないだろ? 好きな子と出かけるんだし」
「あんたっ! ホントにバカでしょ! あたしら兄弟なのよ! ほんっとバカテンシン!」
表面上はプンスカしてるが嬉しいのが丸わかりだ。話を聞いてほぼ確信していたが、やはり俺に対して恋心を抱いてそうなのは間違いない。
本人がもっと素直な性格ならさぞ仲のいい兄弟になっていただろうな。
しかも昔のテンシンは今みたいに身だしなみもちゃんとしていてカッコいい上に底なしに優しかったらしい。トーラは嬉しかった出来事をいくつも並べて何度もお礼を言っていた。そういうとこにも惹かれたのだろう。
つまり、見た目はドストライクだから強くて優しい兄を演じればトーラが俺を嫌うことはほぼありえないわけだ。
トーラの本当に好きだった人はもういない。だけどせめて夢ぐらいは見させてあげたい。
「ほら、顔拭け。いくよ」
「うみゃぁ! んぐぅ、もう! 子供扱いしないで! ちょっと! そんな引っ張らなくてもついていくわよっ」
とうさんが来るまで時間はある。それまでたっぷり仲直りしておこう。
エクトプラズマ―は原作仕様で採用します
墓地参照ではなくフィールド上での数値参照ですね
これ以外にも原作準拠の効果、エラッタ前の効果などが登場します
すでにクリッターとかもそうですね
現実として対戦相手がその時代相応の使い方をしてくるわけなので、まぁ合わせないとしょうがないやろ、という理屈です。
例えば相手は命削りで5枚引くのに自分だけ3枚しか引けないとかおかしいですからね。
それを利用するかどうかはまた別問題ということで……
2戦目は手札残り枚数とか書いてないですが意外とどっちもギリギリでした
デュエルは1回で良かったやろ説はあるんですが、まぁ書いちゃったので最後は結局載せました。