気づいたらデュエルアカデミア   作:りんごうさぎ

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蘇る魂

「テンシィィーーン!」

「その声……トーラ!! なぜ来た!?」

 

 こんな誰もこないような場所になぜ? ボロボロの体で、俺を探しにここまで来てしまったのか!

 

 自分の身を案じてくれたトーラの優しさが胸に刺さり熱いものがこみあげてきた。なんでだよ、妹が駆けつけただけでなんで泣きそうになってるんだよ……!

 

 だがここにトーラはいるべきじゃない! そんな感情は一切合切すべて押し殺しトーラを退けた。

 

「帰れ! お前は来るな!」

「ウソッ!? テンシン、あんたもう負けそうじゃない……!」

 

 デュエルフィールドを見て悲壮な声をあげるトーラ。絶対に守ると言っておきながらトーラにこんな顔させてしまうなんて、兄失格だ。

 

「バカ女め! おとなしく俺の物になれば痛い目を見ずに済んだのになぁ! ここに戻った以上お前も逃がさねぇ! テンシンを動けなくなるまで潰してから、目の前で裸にひんむいてやるよ! 顔も性格も生意気だが体だけはいいからなぁ!」

 

 サッとトーラの退路を断ちながら下卑た笑みを浮かべる男達。舐め回すようないやらしい視線をその身に受け、トーラは怯えてしまい体がすくんでいる。

 

 だが、トーラは逃げない。俺を守るように平良との間に立ちはだかった。

 

 何やってんだ俺は……。

 

 こいつらには指一本トーラに触れさせない。俺が守ってやらなかったら、誰がトーラを守るんだ? 

 

 俺は世渡天真! トーラのたった一人の兄なんだ!

 

 ボロボロの俺を守ろうとしてくれたトーラの気持ちが、消えかかっていた闘志に再び火をつけた!

 

「黙れよ、お前ら……」

「あぁ? なんだぁ? さっさとカードを引けよ、テンシン!! てめぇはここで負けるんだよ!」

「負けねぇよ。俺は約束したんだ……。どんな奴が相手で、どんなことがあっても、絶対に勝つ。トーラを守るために、俺は強くなったんだ……」

「ぷっ! くひゃひゃひゃひゃ! これは傑作だな、おい! じゃあお前はここで最低最悪のウソつき野郎に成り下がるわけだな! なぁおまえ、こんなやつより強い俺の方がいい男だよなぁ?」

「テンシン……」

 

 消え入りそうなほどか細い声で心配そうに俺の名を呼ぶトーラ。こいつだけは絶対に守らなきゃいけない。最後まで俺が守るんだ!

 

「お前は俺の後ろに下がってろ」

「うん……」

 

 トーラの前に出て、横顔でトーラを一瞥。その瞳に確かな信頼の灯がともった。それだけで体の奥底から無限の力が湧いてくる。痛覚増強ディスクでボロボロになっていたのがウソみたいだ。

 

 スゥーっと頭の中がクリアになり靄がかかったように淀んでいた思考が1筋の線をなす。

 

 もうネガティブな気持ちはキレイさっぱり消え去った。すでに勝利への道筋はハッキリと描かれている。

 

 逆転のカードは……まだデッキの中に眠っている!

 

「これが本物の強さだ! 見とけよ、トーラ!」

「うん! 見てる!」

「何が強さだ! 強さってのは強いカードを集めて……」

 

 こいつはなんにもわかってねぇな。そんなハリボテの力で俺に勝てるかよ?

 

「違う。強さとは想いの大きさ。背負うものが大きいほど強くなれる。それが真のデュエリストなんだ」

「知ったような口を! カードが弱けりゃ意味ねぇんだよ!」

「カード? だったらあるぜ、逆転のカード! たった1枚の可能性、その1枚さえあれば十分だ。ここでそのカードを引いてみせよう」

「てめぇ……デッキに何枚残ってる? そんな中からたった1枚のカードが都合よく引けるわけが……」

「さぁ俺のターンだ! 来るぜ!」

「……ひ、引くなっ!」

「ドローォォ!!」

 

 この勝負で初めて弱気が表に出たな、平良。臆したお前に勝利はない!

 

 俺がイメージした逆転の切り札、それは眠れる魂を呼び覚ます唯一のカード! カードから感じるたしかな手応えに導かれるままにそれを発動した。

 

「マジックカード発動! 死者……蘇生!!」

「死者蘇生!? 俺のカオスエンペラーを使う気か!」

 

 平良の顔が引きつる。おいおい、お前のインチキカードを使ってちゃ締まらねぇだろ? もう役者は揃ってる!

 

「お前の理不尽に屈して墓地へと送られたその無念、今ここで晴らす!」

「まさか自分のモンスターを!? いったいどんなモンスターを……」

「お前に天誅を下すのはこのカードだ! カードを破られた魔法使い族の怒りをその身で思い知れ! 混沌の黒魔術師! 降臨!」

 

 デュエル開始最初の手札。そこで持っていた新たなエースカード、それがこのカード! 混沌の黒魔術師! トーラの怒りを体現した最強のモンスター!

 

「テンシン! すごい! カッコいい!」

「なんだそれ! なんだそれは! 超レアカードじゃねぇのかよ?! なんでお前なんかが! 俺が、全部カードは奪ってやったのに! だいたいどこからそんなカード、今どっかから横入りしたに違いねぇ! イカサマだ! てめぇきたねぇマネを!」

「お前にだけは言われたくねぇよ。わけのわからねぇこといいやがって!」

「んだとぉ!?」

 

 支離滅裂な上に逆ギレ。

 

 弱いんだよ、心が。

 

「これはどこぞの会長さんから頂いた俺の魂のカード! お前に天罰を下すために授かったのさ。そしてこのカードを墓地に送ったのは他ならぬお前だ! お前の無計画な行動が己の破滅を招く!」

「ぐぅぅ……!!! テンシンのくせにぃぃ……!! けど、まだだ! 俺はまだ負けてない! 次の引きですぐ逆転して……」

「まだわからねぇのか! 無知は大罪、お前に次なんざねぇよ! 混沌の黒魔術師の効果! 特殊召喚に成功した時、墓地から魔法カードを1枚手札に加える!」

 

 

《混沌の黒魔術師》

効果モンスター

星8/闇属性/魔法使い族/攻2800/守2600

このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、

自分の墓地から魔法カード1枚を選択して手札に加える事ができる。

このカードが戦闘によって破壊したモンスターは墓地へは行かず

ゲームから除外される。

このカードはフィールド上から離れた場合、ゲームから除外される。

 

 

「なななななっっ!? 魔法カードって、まさか!?」

「当然、俺が選択するのは死者蘇生!」

「2体目のモンスターだと!? こんなこと、ありえるわけが……!」

「これは永遠に妹を失ったテンシンの分だ……! 再び死者蘇生を発動! 出でよ、我が分身、魂のカード!」

「ウソ!? もしかして、またなの!? またエースカードが並んじゃうの?! テンシン、こんなの……すごすぎる!!」

「なんだなんだ? ここからなにがでてくるっていうんだよ!?」

 

 これが死刑宣告。平良、お前はこれで終わりだ。

 

「溶岩魔神……ラヴァ・ゴーレム!! 俺のフィールドに舞い戻れ!!」

 

 俺とトーラ、2人の想いを乗せろ!

 

「攻撃力3000!? やめろ! そんなバカな! こんなことありえねぇ!」

 

 平良があわてふためき正常な判断力を失った。冷静じゃない今がチャンスだ!

 

 時は遡り、さっきデュエルディスクを観察した時、俺はあることに気づいた。平良のデュエルディスクには異物がくっついている。その役割として考えられるのは痛覚無効のイカサマ、それしかない。

 

 だから今! ここでそのイカサマを潰してやる!

 

 ヒュッ……ガキンッ!!

 

「んあっ? 今なんか飛んできて……」

 

 ノロマめ。もうこっからは待ったナシだ!

 

 痛覚を消していると睨んだ外部装置をモンスターBOXの効果のために持っていたコインをぶつけて壊した。

 

 しっかり命中!

 

 もちろん外す可能性もあった。少々距離も離れている。だがしかし! 今はとにかく失敗する気がしなかった。

 

「混沌の黒魔術師でブラッドヴォルスを攻撃! 滅びの呪文!!」

「えっ……ぎゃやややややややあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「えっ!? 平良さん、なんで痛覚が!?」

「どうしたってんだ!?」

 

 LP 2000 → 1100

 

 ヤツは火炎地獄の効果ダメージとカオスエンペラーのライフコストですでにその命を半分も削っている。これから行う最後の一撃を耐える道理はない。己の行いを悔い改めろ!

 

 さぁ、懺悔の用意はできているか!

 

「トドメだ! ラヴァ・ゴーレムの攻撃! ゴーレム・ボルケーノ!!」

「いぎゃぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああ」

 

 LP 1100 → -1900

 

 平良は発狂して白目を剥き気絶した。覚悟のないものが受ければ正気を保てない程の衝撃。俺でさえ1000ポイントで手足がガクガクと震える程だったんだ。3000ダメージの衝撃は測りしれない。

 

「こいつ、よくも!」

「こうなりゃ女を人質に!」

 

 平良が倒れるや否や取り巻きの二人はトーラを狙って動き出した。

 

「ヒッ! やめて……」

 

 しかし遅かったな。狙うならせめてデュエルが終わる前にすべきだった。俺が黙ってそれを許すわけがない。

 

 絶対に平良が負けるわけがないという驕りがこの結果を招いたんだ。

 

「誰の女に手ェだしてやがる」

「え……」

 

 トーラに手を出そうとした男は首元を掴んだだけで全く身動きができなくなった。もう一人は俺に睨まれ微動だできず立ち往生。

 

 掴んでいた男を投げ捨て、デュエルディスクについている痛覚ケーブルをたぐり寄せた。

 

「次はお前達の相手をしようか?」

 

 ケーブルを掲げてみせると2人は平良を置き去りにして逃げ去ってしまった。薄情なヤツらだ。

 

 残されたのはこの暴君男とそのデッキ……禁止デッキはいただいておくとしよう。一見役に立たないようで、このカードには使い道がある。テンシンはこいつらにもずいぶんカードを献上していたようだし、これぐらいは構わないだろう。

 

「テンシン!」

 

 トーラが俺を呼ぶ。頬が上気し赤く染まっていた。積年の思いがやっと報われたんだ。劇的な勝利にトーラも興奮を隠せない。

 

「トーラ、約束は守ったぜ。なっ? 俺は強いし負けないだろ?」

「うん……ホントに強い! ホントにカッコいい! テンシンは私の憧れ! ヒーロー!! 本当に……だいすき……」

 

 最後声が小さくなったがしっかり聞こえたぞ、トーラ。

 

 いつもは見下すような視線のトーラが今も少し上目遣い。

 

 恋をするとき、トーラはちょっぴり優しくなるのかもしれない。

 

「ん? なんて?」

「んん~~!! いいから! 早く帰ろ! おかあさん心配してる!」

 

 こんなに素直に感情を出すようになるなんて、最初の出会いからは想像もできない。トーラの笑顔を守れた、それだけで頑張ったかいがあった。

 

「よし、じゃあ家へ戻るか。あれ? どうしたトーラ?」

「あれ? あれれ? あっ!」

 

 ヨロヨロとおぼつかない足取りでこっちに来るが、途中でよろけてこけそうになった。

 

「危ない! トーラ!」

「えっ! テンシン!?」

 

 こける前にトーラの体を抱き留めてあげた。

 

「大丈夫か? お前、さっきまでぶっ倒れてたんだから無理するな。まだ傷も治ってない。俺が運んでやるからおとなしくしてろ」

「は、恥ずかしい……」

 

 ほとんど聞き取れないようなか細い声。顔も真っ赤だしトーラらしくもない。

 

「でもお前歩けないだろ? どうせここまで来るときも走ってきたんだろうし、今は休んどけよ。恥ずかしいならだっこじゃなくておんぶにしようか?」

「……うん」

 

 しおらしく頷いたトーラ。おんぶにすると体力が限界だったのか体を預けてきた。

 

 後ろ手で頭を撫でてあげてからゆっくり歩いて帰路に就いた。

 

 しばらく互いに無言だったが、せっかくなので少し自分から話を切り出した。

 

「おんぶしてやるなんていつ以来だろうな」

「……忘れた」

「そうだな。お前もずいぶん大きくなったよな。こうしてあげられるのも子供のうちぐらいだろうし、お前のこと背負ってやれてよかったよ」

「私も嬉しい……あったかいし」

「あったかい? まぁおんぶしてほしけりゃいつでもしてやるよ」

「……うん」

 

 今日のトーラはとにかく素直だ。いつもなら絶対恥ずかしがるのに。普段のトーラも魅力的だが、こういうのも悪くない。

 

 なんてとりとめもないことを考えているといきなりトーラがもぞもぞと動いて落ち着かなくなった。

 

「ねぇ、そろそろ降ろして」

「ん? 遠慮するな、俺は疲れてないから」

「イヤ、降りる!」

「……もう少しで家に着くけど?」

「んんっ! 降りる!!」

 

 こいつ、さてはかあさんに見られるのがイヤなんだな? やっぱり恥ずかしがり屋は相変わらずか。

 

 仕方ないので言われるがまま降ろしてあげた。名残惜しさはあるけれど。

 

「トーラ」

「ん、何よ! もう足大丈夫だし、言っても絶対おんぶされないから!」

「お前の性格は知ってるからそんなこと言わない。手、出してみろ」

「むぅぅ! ハイ! これでいい?」

 

 そっぽを向きながら手の平だけ差し出すトーラ。

 

 なんかいつもの感じに戻ったな。

 

 やっぱり普段のトーラは照れ隠しなんだろう。たぶんさっきおんぶされてるときが素なんだろうけど、それが見られるのは面と向かっていない時だけなのかな。

 

「これ、お前にあげる」

「えっ……えっ!! ダメッ!! ダメよ!! 受け取れない!!」

「どうして?」

 

 トーラは反射的に受け取りを拒否した。俺が渡そうとしたカード、それは……

 

「無理よ! だってそれは、テンシンのエースカードで、しかもすごく大事そうにしてた、とってもとっても特別な……混沌の黒魔術師!」

 

 トーラ自身このカードはすごく欲しそうにしていた。それにデッキとの相性もいい。なのに今はどうしても自分のものにしたいとか、そういう欲を全く感じさせない。本当に困っている表情だ。どんだけいい子なんだか。

 

「あげるって言ってるんだからもらっちゃえばいいのに」

「でも、だってそれは、テンシン本当に大事そうに見てて、それに見たことないような寂しそうな、せつなそうな、そんな表情してて……」

「そうか……」

 

 そんな表情をしていたのか、俺は。

 

「確かにこのカードは思い出とか、俺の原点とか、いろいろ考えることもあるけど……それでもお前に託したいんだよ、トーラ!」

「どうしてよ……」

 

 なぜわからないんだ? お前の方が大事だからに決まってるじゃん。そんなこと、とてもじゃないが口に出して言うことはできないけど。

 

「このカードならお前を絶対に守ってくれる。心強い切り札になる。俺がいなくても、このカードが傍についていれば俺も安心できる。そして俺にとって大事なカードだからこそ、お前なら大切にしてくれる。そうだろう?」

「そりゃそうだけど、でも、わたしテンシンに守ってもらってばかりなのに、こんなのもらえないよ……」

 

 目に涙を浮かべるトーラ。負い目、不甲斐なさ、恩義、いろんなものがあっての、この涙なのだろう。でもなぁトーラ、そんなもの必要ないんだよ。

 

「お前以外ならこんなこと言わない」

「……わたしが妹だから?」

「今は違うかな」

「……じゃあどうして? いつも私を守ってくれるのも、本当はイヤだけど、でも小さい頃にした約束があるからなの? そうなんでしょ?」

「……」

「違うの? じゃあ……あっ、あの、もしかして……わたしが、本当に好き……だからとか?」

 

 とても控えめに、まさかね、違うよね、といいたげな口調で問いかけるトーラ。もちろんそのまさかだ。

 

「言わせんな」

「……!!」

 

 グッとトーラの距離が近くなる。興奮を隠せない声色でトーラは続けた。

 

「い、言ってほしい……」

「んっ……なんでだよっ! 黙って受け取っとけ!」

 

 何をいってるんだ、俺は! ここで突っぱねてどうする!? 自分のことなのに勝手に言葉が口をついて出てきてしまっていた。

 

「ヤダ! 言わなきゃ貰わない!」

「こいつ……!」

「なによ! 女の子にプレゼントするときぐらい男気みせなさい! バカテンシン!」

 

 なんか急に態度デカくなったな。結婚とかしたら急に態度豹変するタイプなのか、トーラは。……なんかありありと想像できるし!

 

 ええい、ままよ! ヤケクソだ! こちらを見て返事を待つトーラを思いっきり抱き寄せ、互いの顔が見えないようにした。こういう時に顔をみられたくない気持ち、今ならわかるかもしれない。俺も人のことを恥ずかしがり屋だなんて言えないな。どっちも素直じゃない。

 

「えっ、なになになに!?」

「トーラ! お前のことは何があっても好きだ。ずっと俺が守る」

「……! バカテンシン! バカ! バカ!」

 

 ずっとバカバカを連呼するトーラは見なくてもわかるほど思いっきり泣いていた。声が涙ぐんでいる。今の言葉は自分の本当の気持ちだ。

 

 最初こそイヤイヤご機嫌取りをしていたが、関係が親しくなりよりトーラのことを知るほどに心も惹かれていった。今では気づいたらトーラが1番大切な存在だ。

 

「落ち着いた?」

「うん」

 

 ギュッと抱きしめあっていた2人がゆっくりと離れる。トーラは名残惜しそうにまだ俺の服をつかんでいる。

 

「おいおい、お前はホント泣き虫だな。カード濡らすなよ? ビショビショになったらシャレになんないぞ。俺は1度それでカードをダメにしてるし」

「ふふっ! そんなドジするのテンシンだけよ! 私はしっかり者だもんね! いいわ! テンシンの愛の告白も聞けたし、このカードはもらっておくわ! 一応大事にはしてあげるから感謝しなさい!」

「なんであげた方が感謝するんだよ。勝手なやつだな」

「テンシンなら私の性格わかってるでしょ?」

「そうだな。下手っぴな照れ隠しだ」

「なんですって!? このアホテンシン!」

 

 やいのやいのしながら歩いていると家に着いていた。声が聞こえたのか、俺達がドアを開ける前にかあさんが飛び出してきた。

 

「2人とも無事!? 良かった……」

「かあさん! ちょっと大げさよ。私は大丈夫!」

「かあさん、トーラは守ったぜ! 俺、強いだろ?」

「あなた達、本当に……」

 

 成長した姿に感動し、かあさんまで泣いてしまった。落ち着く頃にはもう日も傾いていた。玄関先で家族揃って何をしてんだか。

 

「さて……それじゃ、俺もそろそろアカデミアに戻ろうかな」

「え!? どうして!?」

 

 思いのほか強い口調でトーラが詰め寄ってきた。

 

「トーラはもう強くなったし、俺も休み過ぎると進級に関わる。次の便がいつか調べたら明日来るみたいだったから丁度いいと思って」

「ヤダ! まだ一緒にいて! 離れたくない!」

「え!? トーラ!?」

 

 トーラはなりふり構わず俺に抱き着いて離れなくなってしまった。

 

「やっとテンシンと仲良くなって、好きって言ってもらえて嬉しかったの! それなのにいきなり離れろなんてあんまりよ! もう2度とテンシンと離れたくない! ずっと一緒にいてよ……」

「あらあら~! テンシン、あなたとうさんに似て女泣かせね」

「とうさんって昔どんな人だったんだ……」

「うふふ」

 

 ちょっと艶っぽい微笑み。かあさん……。いや、それはともかく、いつかは戻ることになるしトーラを説得しないと。

 

「トーラ」

「ヤダ! 何も言わないで!」

「おいおい……」

 

 取り付く島もないとはこのことだな。

 

「お願い、残って! どうしてもって言うならわたし、脱いでもいいわ!」

「ウチに上がるのか?」

「靴じゃないわよ!? 靴脱いでも仕方ないでしょ!! 服に決まってるでしょうがっ!! 服にっ!!」

「服、服って……なんか前にもこんなことがあったな」

 

 表情だけは変えなかったのはもうなんか意地だ。内心ではこんな下手なボケをかますぐらい動揺しまくっていた。

 

 身内への冗談だとしてもトーラに言われると破壊力が凄まじい。

 

 だけど俺は耐えきった。兄としての威厳はなんとか保たれた……。

 

「テンシン私のお風呂覗くの好きでしょ? だから私のヌード、見せてあげるっ」

「ブフッ! バカかお前! アホなこと言うな! そもそも俺は別に風呂覗きの趣味はない! とんでもない誤解だ!」

 

 あられもない発言にあっさりと兄としての威厳は陥落した。茹であがったような感覚がわきあがり、否応なしに自分の顔が真っ赤に染まってしまっていることを自覚させられる。

 

 見なくても横でかあさんが笑ってるのがわかる!

 

「でも見たいでしょ?」

「あーもう! そんなことしたら許さないからな! アホなことするな!」

「もうっ! じゃあどうすればいいのよっ!」

「あのなぁトーラ、よくきけ」

「きいてる!」

 

 キレ気味にトーラが返事する。なんでお前が怒ってる?

 

「俺はお前のこと好きだけど、本当に俺が好きなのは前向きに頑張ろうとするトーラなんだ。おにぃちゃんにすがってずっとその後ろで怯えてるままじゃダメだ。わかるな?」

「でも、テンシンはそれでも守ってくれる!」

「あぁもちろん! お前は絶対に守ってやるさ。でもお前自身も強くならなきゃな。俺よりも強くなって、今度はトーラが俺のこと助けてくれ! 俺はデュエリストとしてもお前のこと尊敬してるんだからさ」

「……」

「次に会う時は俺があげたカードをしっかり使いこなせるようになってろよ? そしたらさ、またデュエルしようぜ。アカデミアでお前とデュエルしてやるよ」

「でも……」

 

 もう一息。あと一押しあればトーラは自分で歩きだせる。トーラはこんなところでくすぶっていてはダメだ。きっと俺よりも何倍も強くなれる。

 

 だからこそ、俺が妹可愛さにトーラの可能性を潰してしまってはいけないんだ。

 

「じゃ、もし俺に勝てたらご褒美をやろう」

「ご褒美?」

「トーラが俺に勝てたら、なんでも好きなお願いを叶えてあげるっていうのはどう?」

「えっ? えぇーーー!! なんでもよ? いまなんでもって言ったわよね? 絶対よ? 私、絶対にテンシンと同じアカデミアに行って勝負するわ!」

「あぁ、アカデミアで待ってる!」

「じゃあこうしちゃいられない! 絶対ボコボコにしてやる!」

「……いったいどんなお願いをするつもりだ?」

「海馬コーポレーションを乗っ取って全国放送で私への愛を叫んでもらうわね!」

「は!? それ俺死ぬだろ?!」

「短い命だったわね」

 

 恐ろしいこと考えやがる。しかもこれノータイムっていうのが恐ろしい。どんな思考回路してんだ?

 

「ふふ、トーラずいぶん楽しそうね。生き生きしてるわ。テンシン、あなたのおかげよ。ちゃんとお墓参りは欠かさないわ」

「それはイイコト言ってるようで俺が死ぬ前提だ、かあさん! あんたまでふざけすぎ!」

「じゃあさっそくデッキ開発よ! どいたどいた!」

 

 ドタドタと家に上がり込むトーラ。さっきまでしがみついてテコでも離れない構えをみせていたのに……たくましいもんだ。

 

 こうして俺の短い帰省は幕を閉じた。

 




死者蘇生でカオスエンペラーを選ばずラヴァゴーレムを選択したところだけおおめにみてください
これで超電磁タートルでバトル終了とか言われたらやべーですけどね
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