おまえは誰だ?
「帰ってきたぜ」
船に揺られてしばらく、アカデミアのある島へ戻ってきた。校長には先に連絡して伝えているので明日にも授業には復帰できる。まず現時点ですべきこと、それは原作がどこまで進んでいるか把握してセブンスターズの動きに備えること。そして学業の遅れを取り戻すことだ。
今日はまだゆっくり休憩、といきたいが……そもそも家ではずっとのんびりしていたし、今日しかまとまった時間は作れない。ささっとたまっているであろう課題を終わらせよう。
まだ朝早い時間なので人影はない。まっすぐ自分の部屋があるレッド寮へ向かった。
ガチャ
カギを開け、久々にレッド寮俺の部屋とのご対面。時間をおいて自分の生活していた場所に戻ると、何回体験してもなぜか新鮮で改まった気持ちになる。
「おぉ、こんな部屋だったっけ……は?」
「え?」
部屋に入ると下着姿の女子が頭にタオル巻いて俺のベッドに寝ころんでいた。
「誰だお前!?」
「きゃぁぁっっ!!」
お互い混乱のさなかで大きな声が出てしまう。慌ててドアを閉めた。
「おい! ここは俺の部屋だ! どうやって侵入した!?」
「それはボクのセリフだ! どうしてボクの部屋へ勝手に入ってくるのさ!?」
「カギがちゃんと入ったんだからここは俺の部屋に決まってんだろ! というかお前年いくつだ? どう見てもガキ……小学生だろ! ここは高校生の寮だぞ!」
「ぐっ!? ボクは高校生だ! 子供扱いするな! ちゃんと編入試験を合格してデュエルアカデミアに入学したんだ!」
編入? しかもこいつの顔……ははぁ~ん? こいつ早乙女レイだな?
たしかこいつは十代達がいる部屋にいくはずだったが、この世界では俺の部屋が丁度空になっていたからここに入ることになったんだろう。俺が帰ってきても2人になるだけだし、確かに俺の部屋以外に行く理由がない。
だがこいつは年齢と性別を偽ってアカデミアに来ていたはず。そしてそれを知る者は今のところいない。
……少し遊んでやるか。
「なるほどな。編入生だったのか。俺はレッドで唯一1人部屋を使っていて、しかも昨日まで休学していた。だからお前はこの部屋に住むことになったんだろうが、俺も急に帰ってきたから連絡が間に合わなかったのかもな」
「そうなの? じゃ、あなたがボクのルームメイトになるんだ。さっきは叫んじゃってごめん。あの……よろしく……」
意外と素直だな。子供らしい。根はいいやつなんだろうが、どうしてこんな離島にプロフィール偽って乗り込んできたのだろうか。すぐバレるに決まっているのに。
見て見ぬフリをすることもできるが、無理矢理ルームメイトにされた以上タダで泊めるわけにはいかない。俺としてはテリトリーを侵略されたようなものだし。少しぐらいイジメてもいいだろう。
「……」
「あれ? どうしたの?」
「俺はよろしくするわけにはいかないなぁ」
「えっ! どうして!? ボクのこと気に入らないの?」
なんかキレイなリアクションが返って来るので楽しくなってきた。トーラは基本性格キツかったしな。さぁ、ここからは俺のターンだ。
「お前さぁ、なんか妙に声が高いよな?」
「ギクッ!! こ、これは生まれつきなんだ」
「そりゃ生まれたときから低音ボイスの人間はいないだろうが、まさか声変わりしてないのか?」
「こ、これは体質だからどうしようもないよ!」
体質ね。まぁそういうやつもいないわけではないだろうが……ギリギリセーフ?
「あと身長も低いし……これも体質?」
「もちろん! あっ! 君、背が低いことバカにしてるの!?」
なんかうまいこと話題をそらそうとしているな。その手には乗らん。
「別に。ところでその胸、なんか下着の中に入れてんのか?」
「うえっ!? どこ見てんのよ! エッチ!」
今の口調と声、完全に女のそれだ。いきなり性的な部分を指摘されて戸惑ったのだろうか。自分の女を隠しきれていないな。顔も真っ赤だし。
「なんかしゃべり方変わってないか?」
「い、いや……どこ見てるんだ! えっち!」
語尾変えて棒読みになっただけだぞ。男子を演じる気あるのか?
「男ふたりで何がエッチなんだ? 下着がなんかヘンだなって気になっただけだし」
「ぐっ……男の胸なんか見て、君、ヘンだよ! へ、変態!」
「変態で結構。しかし本当に男っぽくないなぁ。実は子供なのか、それとも女なのか、あるいはその両方なのか」
「な、何を言ってるのかな? ボクは男子高校生だよ?」
すっとぼけた顔で男子高校生だと主張する小学生女子。さすがに無理がないか?
「だったらお前、ちょっと下着脱げよ」
「えっ!? やっぱり変態だ!」
変態変態って……相手をけなせば自分が優位に立てるって作戦か? それは通用しない。
「別に、ただ少し確認するだけだ。男子寮に男以外がいたら問題だ。その場合大徳寺先生に報告する必要があるし……」
「報告!? ちょっと待って! それボクのこと女の子だって先生に言うつもりなの!?」
それ以外に何があるんだ?
「お前が女だって認めないんだから仕方ないだろ? 先生に確認してもらうしかない。まぁレッド寮には女の先生はもちろんいないけど、お前は男だって主張しているわけだし問題はないよね」
「うえっ……もぉぉぉーーっっ!! どうしてそんなことするのさ!! ヒドイ!!」
なんか苛立ち始めたが自分の立場がわかっていないらしい。
「俺としては邪魔ものがいなくなった方が部屋も広く使えるし、お前を追放できるならそれに越したことはない。ルール違反して入学した潜りなんてどうなってもいいし」
「うぅぅ……ヒドイよぉ。人前で裸になるなんて普通に恥ずかしいもん!」
「別に上だけ脱げばそれでいいよ」
「上だけって……十分恥ずかしいよ!」
「お前、水泳のときは上半身裸だよな?」
「ぐっ……それは……」
残念だったな。男は上半身までは普通に脱ぐんだよ。観念しろ!
「まぁ別に無理にとは言わない。さっきも言ったが俺が確認しなくても先生を呼んで身体検査すればいいだけだし。上だけと言わず下も脱がされるかもしれないが」
その言葉が言い過ぎだった。感情が爆発したのか、レイはいきなり大音量で泣きわめき始めた。
「うっ……ううっ……うわぁぁぁぁぁぁぁんんんんんん!!!」
「まっ! ちょっと落ち着け!!」
慌てて手元に引き寄せてとりあえずレイの顔を自分の体に押し付けて声を押し殺した。しかし一向に泣き止まない。とんでもないことになった。面白いのが来たからちょっとからかうだけのつもりがこの少女にとんでもないトラウマを植え付けてしまったかもしれない。トーラが知ったらとんでもなく失望する案件なのではないか?
なんとか信頼を取り戻さなくては! もはやこの子に何か言われたら俺が退学になる可能性すらある! このタイミングでそれはシャレにならない! トーラのゴミを見るような視線が蘇る……。
「うぅぅぅぅ……」
「落ち着け! いや、ごめん、言い過ぎた」
「うぅぅぅぅ……」
「はぁ……俺、何やってんだろ」
少しは落ち着いたがまだ唸り声のような返事しかこない。どうしたものか。
「ねぇ、ボクのこと追放するの?」
「はい? 追放?」
「さっき先生に連絡するって……。もうボクが女の子だってバレてるでしょ」
なんで急にそんなことを?
「……いや、言わないでおくよ」
「えっ!? 言わないの!! 本当!?」
「急に元気になったな。お前女だってバレて落ち込んでたのか」
「……そうだけど?」
あっけらかんと答えるレイ。全身から力が抜けた。こいつ俺がしたことは全然気にしてなさそうだ。
「やっぱり子供は子供か。まぁいい、とにかくここには居させてやるし、事情を知った以上少しは俺も協力してやるよ」
「むぅ! 子供扱いは納得いかないけど、まだここにいていいんだね! やった!!」
とりあえずレイのゴキゲンは戻ったので一難は去ったな。
「そういえばお前、ずっと下着のままだけどいいのか?」
「ぎゃぁぁぁぁあああああ!! すぐ着替える! 覗かないでよ! ボクは立派なレディなんだからね!」
「お前どうせ小学生だろ? そんなガキの着替えとか覗かねぇよ」
「でもボクのハダカを見ようとしたよね?」
それは……
「お前が中々認めなかったからだろ! いいからさっさと行け! 俺も荷物整理するからお前がいると邪魔なんだよ!」
無理やり追い出すと部屋の中のトイレで着替え始めた。こっちも荷物をおろして整理整頓を始めるとドア越しに話しかけられた。
「ねぇ、どうしてボクのこと女だってわかったの? 他のレッドの人には全然バレなかったのに。顔は男の子に見えるよね?」
「顔もたいがい女っぽいけど……特に匂いとか完全に女だしな」
「え!? そんな、ボク香水とか別にしてないよ! デタラメだ!」
自分で訊いたクセになんでデタラメだって決めつけてくるんだ? なら訊くなよ。
「バカ、その匂いは体臭だ。女は男と匂いが違うんだよ。俺は妹がいるし、昨日まで一緒だったからよくわかる」
「自分に妹さんの匂いが残ってたんじゃないの?」
「そんな匂いが俺に残るわけないだろ。とにかくお前、自覚はなくても結構女らしいところが多いから注意した方がいい。例えば何かの拍子で帽子が外れたりしたら一発アウトだし。髪伸ばしてるだろ?」
「君には帽子被ったところみせてないのに……それに髪が長いってどうしてわかるの? さっきは頭にタオル巻いてたよね」
「そこにお前の帽子かけてあるじゃん。男装のために髪の毛に気を使ってるのは簡単に想像できるし」
「……気をつけるよ」
やっぱり素直だな。トーラと比べてしまうのはあいつに悪いがやっぱり素直なのはいいことだな。
「さて、そろそろ名前も教えてもらおうか。ずっとお前呼ばわりするわけにもいかないし。俺はアカデミア1年、レッド生のテンシン。デュエルのスタイルは耐えて耐えての一撃必殺」
「苦労してそうなスタイルだね」
「余計なお世話だ!」
本当に余計なお世話だ! 見えないけど腹立つ表情されてる気がする。
「ボクは早乙女レイ! 本当は小学五年生で女の子なんだ。デッキは恋する乙女! 恋をすれば女の子は強くなる!」
「バカみたいなコンセプトだな。やっぱり子供だし」
「むぅ!! テンシンさん口悪すぎ! そこまで言うならちょっとボクと勝負してよ! 編入試験を合格した実力みせてあげる!」
「そうだな……まだ始業まで時間はあるし、少しだけ遊んでやるか」
荷物整理も終わったので一度デュエルしてみることになった。デュエルディスクは使わず床にカードを並べての勝負だ。先攻はレイ。カードを引きモンスターを召喚した。
「恋する乙女を召喚! 1枚セットして……ターン終了!」
「恋する乙女ね……ドロー! 俺はモンスターと伏せカード2枚をセットしてターンエンド。さ、どうぞ?」
「いきなり守備表示!? こっちは攻撃力400だよ!?」
今までこんなヤツいなかっただろうな。恋する乙女の攻撃力は僅か400。これだけ攻撃力が低いと普通は攻撃したくなる。
「耐えて耐えてが信条なんでね」
「なんか消極的~。そんな草食だと女の子にモテないよ?」
「最後に一気に畳みかけて恋に落とす! それがいい男」
「ふ、ふーん……そんなもんなのかな。ボクのターン、ドロー! うーん何にもやることがないなぁ。ターン終了」
なんかちょっと赤くなってないか? 今ので照れた? お前……どんだけ惚れっぽいんだ? いや、さすがにそれはないか。
「ドロー! さてどうしようかな。恋する乙女は相手に攻撃してもらわないとコントロールを奪えない。初見の相手には通用したかもしれないが俺みたいに効果を知ってる相手には無力だな」
「げ! わざと守備表示にしてたの! 性格悪いよ!」
「ありがとう、誉め言葉として受け取る。俺はリバースカード発動、重力解除! これで全てのモンスターの表示形式を変更! そいつは守備表示なら戦闘破壊できたはず」
「しまった!」
恋する乙女を除去されたらどうするか考えていないのか? あらゆる事態への想定がまだまだ甘いな。
「クリッターを反転召喚! さらにリトル・ウィンガードを召喚しバトル! まずはクリッターで攻撃!」
「きゃぁぁああ!! ボクの恋する乙女がぁ……」
オーバーリアクション。どんだけ叫ぶんだ。子供って声がムダに大きい。
「リトル・ウィンガードでダイレクトアタック! 残りライフは2600だ。ターン終了時にリトル・ウィンガードは守備表示に変更しておく」
「くっそぉ……ボクのターン! ドローだ! もう一度恋する乙女を召喚! カードを1枚セットしてターン終了!」
懲りないね。もうライフもたいして残っていない。あの伏せカードでどうにかできるのか? それともヤケクソなのか?
「俺のターン! さて、じゃあまずはサイクロンで伏せカードを破壊しようか」
「え!? ディメンションウォールが!」
「いいカード持ってんな。けど後は総攻撃でおしまいだ。サファイアドラゴンを召喚し、リトル・ウィンガードを攻撃表示。バトルだ!」
あっという間にライフゼロ。恋する乙女は相手の攻撃力が高いとライフ管理が難しい。俺が使っても勝つのは難しいと言わざるを得ない。レイには荷が重すぎる。
「あぁーーん!! ボクの負けだ! うぅ!! なんかテンシンさん戦いにくい!!」
「デュエルっていうのは相手のしたいことをさせないのが強くなるコツだからな。お前のそのデッキじゃアカデミアでやっていくのはしんどいんじゃないか? 初見の相手ならともかくテストでは同じ相手と戦う機会も多いし対策も周りに認知されていく。それを乗り越えられなきゃ勝てないよ」
「そうなのかなぁ……うーん」
レイはあれこれデッキの改良を悩んでいるが今大事なことを訊いておくことにした。
「お前、わざわざ性別を偽ってまでここに来たってことは大事な用があってここまで来たんだよな?」
「それは……うん」
「じゃあ誰に会いに来たんだ?」
「……!!」
驚いたレイは固まったまま何も言えずにいた。
「バレたのが意外だった?」
「う……どうしてわかるの?」
「そりゃお前、そのカードでだいたい察しはつくだろ」
恋する乙女を指さして返事すると顔を赤くしてうつむいた。
「実はオベリスクブルーに好きな人がいて……どうしても会いたくて」
顔を赤くしてもじもじするレイ。その姿はまさに恋する乙女だった。叶わぬ恋だけど一応本人が納得できるよう手伝ってやるか。たしか本筋では寮に侵入して犯罪まがいのことをするからそれだけはやめさせよう。
「じゃあどうやって会うつもり?」
「それは、恋する乙女の力で……」
「寮にこっそり忍び込むとか、またアウトローな方法企んでるだろ?」
「うぐっ!? どうしてそれを?」
「お前の行動ってワンパターンでわかりやすいよな。デュエルしてさらに確信が持てた」
愚直で軽率、それが今の早乙女レイ。
「うぅ……だってそれしか方法がないもん!」
「ブルーに知り合いがいる。話のわかるやつだから上手く渡りをつけてやるよ」
「……え!? それ、テンシンさんが手伝ってくれるってこと!?」
「さっきから協力するっていってるだろ! で、相手は誰だ? 呼びつけてやるから名前を言え」
「……亮様」
小声でほとんど聞こえなかったが俺は元々知っているので聞き返すことはしなかった。
「丸藤亮だな。いつ会う? 今日の放課後か?」
「えっ!! 待って!! それは急過ぎるよ! あ、明日でお願いします」
今日でいいだろと思ったが本人の希望なら仕方ない。明日にしよう。相手の都合もあるし今日いきなり、というよりは明日の方がいいかもしれない。
「じゃあさっさと授業に行ってこい。気抜いて女だってバレたらこの話はナシだ。ちゃんと注意しろよ?」
「うん! ありがとう! テンシンさんは授業行かないの?」
「今戻ったところだし今日はやることがある。ちゃんと話はつけとくから早く行け」
「はいはーい!」
レイはご機嫌で授業に向かった。俺はとりあえず校長のところに行ってたまっているであろう課題とかを回収して昼休みに明日香に亮を呼びつけさせないといけない。なんで俺がこんな恋のキューピットみたいなことしてるんだろうな。
後ろめたいところがあったのもあるが……年下の女の子に甘くなったのかもしれない。別に妹でもなんでもない赤の他人なんだけどな。
冒頭は早乙女レイの手助けをする流れにするためにこんな感じになってしまいました
ルームシェアする流れは1人部屋を与えられた時点で既定路線
今回の話は展開が進んでから見返すとやってることがより酷くなる模様