ギィィィィィ……
「……」
建付けの悪いドアが甲高い音を立て何者かが無言で入ってきた。目は虚ろで足取りは覚束ない。誰だこいつ? もちろんここに入ってくるヤツなんて1人しかいないけど。
心配しながら様子を伺っていると何もないところでいきなりつまずいた
「おい!」
「あっ」
倒れそうになったところを支えてやると、突然ポロポロと涙を流した。身動きせず声もあげずただ涙だけが流れていた。
レイ……お前、涙が枯れるまでこんな夜遅くまで一人で泣いて、また今悲しみがこみ上げてきて泣いたのか。どんだけ辛かったんだ。
「座れ」
「……」
とりあえずテーブルに座らせて用意していた晩飯……ポトフを温めてレイに出した。寮の食事に出てた野菜をリサイクルして料理した俺自家製の一品だ。
寮の食事はお世辞にも美味いとはいえない。好んで食べるのは十代だけだ。なので少しでも美味しくなるように残り物を使って調理してみた。このレッド寮にも台所ぐらいはある。
「明日も授業はある。食欲なくても少しでいいから食べとけよ。スープを飲むだけでもいいから」
「……」
黙ってスープをすするレイ。しかしまたこみあげてくる感情を抑えきれず涙5割増し。もう何をしても涙が止まらないのだろう。今下手に慰めても返って傷口を広げることになりかねない。黙って見守るのがベストだろう。
テーブルの反対に座って食べ終わるのを待ち、皿が空になるのを見届けた。レイは残さず全て食べてくれた。
「ごちそうさま……」
「洗っとくよ」
食事中レイの様子をつぶさに観察して思ったことがある。今レイは予想以上に酷く打ちのめされている。
失恋だけじゃないショッキングな出来事があったのではないか?
そもそも告白に失敗したぐらいでこんなに落ち込むキャラではなかったのにどうしてこうなった?
何か俺の知っているストーリーとは決定的に違うことが起きている気がする。
「テンシンさん……」
「ん?」
皿を洗っていると今にも泣きだしそうな声でレイが俺を呼んだ。爆弾を扱うつもりで恐る恐る返事をするとレイから今日あったことの核心に迫る発言が飛び出した。
「ボク……やっぱり才能ないのかな」
「……カイザーッッ!!」
涙ぐみながらの悲壮感漂うセリフは小学生が言っていいものではない。事の真相を全て悟った俺の怒りは怒髪天を突く勢いだった。しかし今はレイの前だ。なんとか冷静にと自分を落ち着かせた。
「はぁ……」
「テンシンさん……?」
自分でもどうしてここまで怒りがこみあげるのかわからない。でもレイを失意のどん底に突き落とした男を許せなくなっていた。
そう、レイはあろうことかカイザーにデュエルを挑んでしまったのだ。あれほどやめておけといったのに。大方告白をフラれて、一か八かと思って勝負したのだろう。この結果は最初から見えているのに……くそっ! もっと強く止めておくべきだった!
今度は愚かな自分への怒りが込み上げてきた。
パリン!!
「きゃっ!?」
力を籠めすぎて皿が割れてしまった。手を少し切っている。どれだけ冷静さを欠いていたんだ俺は?
「大丈夫。レイ、お前はもう寝ろ。明日も遅刻するなよ?」
「……うん」
疲れていたのだろう。横になるとすぐに眠ってしまった。まだ着替えてもないのに。今日だけはそっとしておいてあげよう。
しかしレイの疲れは翌日にも目に見えて残っていた。その上フラれた影響で無気力症候群のようになりボーっとしていることが多くなった。そんな状態で大丈夫なのか心配だったが授業中は自分のことがあるし休み時間もずっと面倒見るわけにもいかない。結果レイは案の定やらかしてしまった。
レイが亮と会った翌日の放課後、俺は課題の最後の仕上げを済ませようやく全ての課題を終えた。授業が終わって1時間ほど経過していたがまだレイが帰ってこない。いつもならとっくに帰ってきているはずの時間だ。あの無気力状態で遊びに行くわけもないし、何かトラブルにでも巻き込まれたか?
課題も終わったのでレイを探しに行くとレッド寮の近くの崖下でデュエルをしていた。しかも帽子を取った状態で十代が相手だ。その光景だけで事情を全て理解した。
「バレたか」
「あっ! テンシン!」
呼ばれた方を見るといたのはブルー女子の明日香。ここにはいるはずのない人物だ。
「明日香? なんでお前がここに?」
「私はたまたま居合わせたというか……あなたに用があってレッド寮に来てたのよ」
「俺?」
「俺と明日香が灯台で会ってることをなぜ知っていたのか気になってここにきた」
「……カイザー!!」
ここで会ったが100年目! すぐにでもシバいてやろうと詰め寄るがタイミングよくレイの悲鳴があがった。
「きゃぁぁぁ!!」
「ガッチャ!! 楽しいデュエルだったぜ」
「うぅ……」
しょんぼりしながら膝をつくレイに思わず声をかけてしまった。
「レイ!」
「あっ……ごめんなさい」
なぜか俺を見て申し訳なさそうにするレイ。どうして第一声が謝罪なんだ? 堂々としろと言っただろ!
「バレたことなら気にするな。どうせいつまでも隠し通せるものでもないし仕方ない」
「それもあるけど……うぅ……」
涙を浮かべすまなさそうに顔をそむけるレイ。まさか負けたことを謝ってるのか? なぜ俺に謝る?
「テンシン! やっぱりルームメイトのお前もレイのこと知ってたのか! あ、明日香にカイザー! まさかお前らも知ってたのか!?」
「えぇ、まぁ」
「その子は俺に会うためにこの学園に来たようだ」
「ええっ!! カイザーに会うためにって、やっぱデュエルしてみてぇーってことか?」
「うぅ……うえええぇぇぇんんんん!!!!」
カイザーとデュエル、その単語だけでレイは大泣きしてしまった。よほどコテンパンに負けたのだろう。今は昨日自分がそのワードを言わなくて良かったという安堵よりも無神経な十代への苛立ちが勝った。
「うわっ!! いきなり泣くなよ」
「十代!! お前もう黙れ! 何も言うなっ」
「えっ! 今度はなんでテンシンが怒ってんだよ! わけわっかんねぇ!!」
状況理解ができてないから黙れって言ってんだよ! このバカ!!
それともう一人! 絶対許せないやつがいる。逆恨みなのはわかってるがこいつだけは絶対にぶっ潰さないと気が済まねぇ!!
「カイザー!! あんたさっき俺に訊きたいことがあるっていったよな?」
「しゃべる気になったか?」
「あぁ。ただし俺にデュエルで勝てたらの話だ」
そういってデュエルディスクを掲げるとカイザーはニヒルに笑った
「フッ……いいだろう。相手になってやる。お前が明日香と十代に勝ったことはすでに知っている。その実力、試してやろう」
「絶対勝つ!!」
「「デュエル!!」」
レイ、見てろよ! お前の才能を否定したこいつは絶対に俺が倒してやる。このデュエルに勝って俺がお前をもう一度元気づけるんだ。その想いを込めてレイを一瞥するとしっかりと目が合った。レイは泣き止んでボーッと、不思議そうにこちらを見るような表情をしていた。
「どうしてテンシンが自分からデュエルを挑んだのかわからないけど……こんなところでこんな好カードのマッチアップが見れるなんて、今日はラッキーね」
「たしかに、俺もカイザーとあのテンシンのどっちが強いか興味あるぜ」
「えっ……どういうこと?」
あの夫婦コンビも観戦するのか。まぁいい、好きにすればいいさ。手の内がバレてもカイザーだけは全力で倒す!
「先攻は譲ってやる。かかってこい、1年」
「ドロー! 神獣王バルバロスを妥協召喚! カードを2枚伏せてターン終了」
さぁ、どうくる? サイバー流は後攻を得意とする。そうだよな?
「おい明日香、お前はあの伏せカード、どう思う?」
「実はテンシンとは最近対戦したからある程度あのカードは読めるわ」
「え、マジかよ! いつのまに……じゃあ明日香はなんだと思うんだ?」
「カード名まではわからないけど、この前のデュエルでも最初のターン全く同じ状況になったわ。そのときだと1枚はバルバロスとコンボするカード、もう一枚は次への布石になるカードだった。ただ……」
「あぁ、相手は一撃必殺のサイバー流の使い手、カイザーだ。防御カードかもしれないよな」
「慎重に攻めたいところよね」
明日香、しっかり負けたデュエルの反省と分析をしていたようだな。そこは偉いが、読みに関してはまだまだ精度が低いな。
「俺のターン、ドロー! まずはサイバー・ドラゴンを特殊召喚。このカードは相手フィールドにのみモンスターがいる場合特殊召喚ができる。そのモンスターは攻撃力が1900に下がっている。サイバードラゴンで攻撃!」
《サイバー・ドラゴン》
効果モンスター
星5/光属性/機械族/攻2100/守1600
(1):相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、
このカードは手札から特殊召喚できる。
意地悪でわざとバルバロスの効果を言わなかったがこいつは知っていたようだ。本当に優等生みたいだな。
「伏せカードオープン! 禁じられた聖杯! このカードはモンスター1体の効果を無効化し、攻撃力を400アップさせる」
《禁じられた聖杯》
速攻魔法
(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターはターン終了時まで、攻撃力が400アップし、効果は無効化される。
バルバロスを活かすためデッキに投入したカード。速攻魔法かつモンスター効果を止められる貴重なカードなのでこのカードへの評価はめちゃくちゃ高い。攻防一体のカードだ。
「サイバー・ドラゴンはフィールド上では効果を持たない」
「冗談キツイ。もちろん対象は俺のモンスター、神獣王バルバロス!」
「……なるほど。そのモンスターのデメリット効果を消しながら攻撃力も上げてしまうというわけか」
「上手い! バルバロスは効果がなくなれば元々の攻撃力は3000! しかも400アップのオマケ付きなんて……テンシンってお手軽に3000以上の攻撃力を用意するのが上手いわね」
「しかもあのカードなら相手モンスターの効果を無効化することもできる。テンシンお得意のタイミングを選ばないカードでもある……退学して弱くなるどころかパワーアップしてるな! ワクワクしてきた!」
「そこ! 退学じゃない! 休学!」
「ゲッ!! 聞こえてんのかよ!! すっげぇ地獄耳」
お前らの声がデカイんだよ!!
さ、カイザーはどう出る? おとなしくやられるか?
「速攻魔法発動! リミッター解除! サイバー・ドラゴンの攻撃力は4200まで上昇」
《リミッター解除》
速攻魔法
(1):自分フィールドの全ての機械族モンスターの攻撃力は、ターン終了時まで倍になる。
このターンのエンドフェイズに、この効果が適用されているモンスターは破壊される。
機械族デッキの切り札リミッター解除。ここぞで使うべきカードだがカイザーは出し惜しみなしか。それで正解だろうな。
「いきなりリミ解かよ……そんな大事なカードをいきなり惜しみなく使ってくるとは。バルバロスは破壊され俺には800ダメージか」
LP4000 → 3200
「メインフェイズ2! 手札から融合発動! 場と手札、2体のサイバー・ドラゴンを融合! 出でよ! サイバー・ツイン・ドラゴン! カードを2枚伏せてターン終了」
《サイバー・ツイン・ドラゴン》
融合・効果モンスター
星8/光属性/機械族/攻2800/守2100
「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」
このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
(1):このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。
「デメリットもしっかり回避してきたか。俺のターン、ドロー!」
「テンシンも上手いけどカイザーはさらに上手ね。さすがだわ」
「鮮やかなカードの使い方、やっぱりカイザーはパーフェクトだ!」
プレイングそのものはたしかに上手い。全く隙のないパーフェクトなものだ。だがそれは最善の一手ではない。カイザー、お前はすでにミスをしている。
「マジックカード発動、ソウルテイカー! サイバー・ツイン・ドラゴンを破壊する!」
「ならばこちらも速攻魔法発動! 融合解除! サイバー・ドラゴンを2体守備表示で召喚」
ここでも守備表示……かなり俺の実力を警戒されているな。その心の隙が命取りだ。
「やっとあんたのフィールドに生贄がそろったな」
「やはり! ここでくるのね!」
明日香のラヴァ・ゴーレムへの反応速度が尋常ではない。もはやアレルギーだ。
「見せてみろ! お前の切り札!」
「出るのか! あのカード……!」
十代の言葉にレイが反応した。
「ねぇ、十代さん、“あのカード”って何? サファイアドラゴン?」
「え? テンシンとデュエルしたのか? なら出てきただろ? こっちのフィールドにいきなり出てくるやつだよ。あれがテンシンのエースモンスターなんだ」
「えっ……」
ごめんなレイ。お前には自信をつけさせたくてわざと手加減していたんだ。許してくれ。
「2体のサイバー・ドラゴンを生贄に……」
「わっ! 本当に相手のフィールドに出るんだ……そんなモンスター初めてだ」
「えっ!? レイちゃん本当に見てないの? テンシン、あなた……」
明日香が何かを悟ったかのような声を漏らす。レイと十代は単純にこれから出てくるモンスターをワクワクしながら待っているようだ。
「溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム特殊召喚!」
さぁ、反撃開始だ!
速攻魔法が最強だと思うんですよね
1キルデッキは聖杯月書サイクロンが三種の神器
自分ターンのワンキル補助と相手ターンの妨害札の二役をこなせる優良カード
ただしツイツイは絶許
滅べ(殺意)