「ずいぶん悪趣味なモンスターだな。こんな灼熱の中で相手プレイヤーを檻に閉じ込めるとは」
檻の中のカイザーが不満を述べるが、俺は別にそうは思わないけどな。実際自分のフィールドに呼び戻しても居心地はいい。もしかしてラヴァ・ゴーレムが俺に対して優しいとかあるのかな? 熱くないようにしてるとか?
「その檻、結構居心地いいと思うけど? ご不満なら返品してもらおうか。リバースオープン、洗脳解除! 全てのモンスターのコントロールを元に戻す」
「コントロールを戻すカード! トラップでコントロールを戻すカードもあったのね!」
明日香は所有者の刻印を思い出しているに違いない。だがゴーレムデッキはこれが本来の動き。洗脳解除こそこのデッキのキーカードだ。今までは単純に持っていなかっただけ。
「俺のモンスターを生贄にしておきながら自分が労せず最上級モンスターを手に入れたか。割に合わんな」
「ラヴァ・ゴーレムの攻撃!」
「こちらもリバースカードを発動! 聖なるバリアミラーフォース」
最強の攻撃反応型のトラップだ。ラヴァ・ゴーレムはなすすべもなく破壊される。惨いことするねぇ。
十代や明日香ならともかく、カイザー相手じゃ一筋縄にはいかないか。長い戦いになりそうだな。
「リミッター解除に続いてミラーフォースか。ほんとイイカード持ってるねぇ。カードを2枚セットしてターンエンド」
制限カードのオンパレードだ。だが着々とカードは使わせている。こっからはこっちのペースだ。
亮 場なし 手札なし
天真 伏せ2枚 洗脳解除 手札なし
「俺のターン、ドロー! 強欲な壺を発動! さらにタイムカプセルを発動! 効果でデッキからカードを1枚除外する」
タイムカプセルはタイムラグが大きく使いにくい。そのカードが手札にくるのを待つつもりはない。
「除外された異次元の宝札の効果! 次の自分のスタンバイフェイズに手札に戻り、互いのプレイヤーはカードを2枚引く。俺はサイバー・フェニックスを守備表示で召喚しターンエンド」
なんだそれは!? ドローコンボか。こんなの許されるのか? お互いに引くとはいえサイバー流なら2枚引いたターンに勝負を決めればいい。カイザーもそういう使い方なのだろう。
「ドロー! リバースカード発動! リビングデッドの呼び声! 効果でバルバロスを特殊召喚しバトル! サイバーフェニックスを破壊」
「効果で1枚ドロー!」
今は嵐の前の静けさとでも言うべきか。一撃必殺の攻撃に備えておかないといけない。こっちも制限クラスのカードを伏せておこう。
「カードを1枚セットしてターンエンド」
「俺のターン! ドローして異次元の宝札の効果! 互いに2枚ドロー!」
亮 場なし 手札5枚
天真 バルバロス 洗脳解除 伏せ2枚 リビングデッド 手札2枚
「カイザーはあっという間に手札が5枚だ。立て直しが速いぜ」
「えぇ、さすが皇帝と呼ばれるだけあるわ。彼のデュエルタクティクスは本物よ」
「……その皇帝に互角で戦えるテンシンさんは何者なの?」
手札が十分にそろった、今このときを逃してカイザーに勝機はない。来る!
「サイバー・ドラゴンを特殊召喚! さらにサイバー・ドラゴン・ツヴァイを召喚。このモンスターはマジックカードを見せることでサイバー・ドラゴンとして扱うことができる」
「融合召喚か」
「察しがいいな。俺はパワーボンドを見せ、そのまま発動! 来い! サイバー・ツイン・ドラゴン!」
パワーボンドの効果で攻撃力は5600だ。当然一発でも喰らえば即死する。
「あぁっ! ダメ! テンシンさん!」
「えっ!? レイちゃん、あなた……」
「どうかしたのか明日香?」
「いや、なんでもないわ」
心配するなレイ。カイザーと戦う時点でこの程度は想定済みだ。
……明日香はさっきから思わせぶりなセリフばっか吐いているがなんなんだあいつは?
「まずはバルバロスを攻撃!」
「手札からクリボーの効果発動! 戦闘ダメージをゼロにする!」
「手札から発動するモンスター効果だと!? たいした粘りだ」
これで2600のダメージは帳消し。
「テンシン、クリボーは今引いたのね。さっきまで手札はゼロだったもの」
「クリボーって遊戯さんも使ってたカードだよな!」
このターンのクリボーにはかなり助けられた。もちろんなくても凌ぐ算段は立てていたが温存できるなら切り札は温存したい。
「さらに連続攻撃! クリボーの使いどころを誤ったようだな! これで終わりだ!」
「これで終わるわけないってわかってて言ってるよな? リバース発動! オジャマトリオ! お前のフィールドにオジャマトークンを出す」
「何のつもりだ?」
「俺のフィールドをよく見なよ、カイザー」
俺の場には洗脳解除がある。トークンは元々俺が出したカード。当然俺のフィールドに戻って来る。これであと3回は攻撃を凌げる。
3回っていうのがポイントだ。つまり融合解除で連続攻撃を受けても耐えられる。カイザーが相手である以上そこまで想定しなくてはいけない。パワーボンドのリスク回避を兼ねて融合解除する可能性は割と高い。
その場合オジャマトークンの効果ダメージはクリボーで防げないから最初の2600ダメージをクリボーで防がないと負けだ。しっかりと負け筋は消す。
「なるほど、これも洗脳解除とのコンボか」
「そのために残していたのね」
「テンシンもすげぇ! そこまで考えて洗脳解除を使ってたのか!」
「よし、オジャマ達、戻っておいで!」
“わーいわーい”
戻ってきたトークンはこちらに来た瞬間サイバーツインドラゴンの攻撃で砕け散った。
「ごめん」
「ギィィィィィヤァァァァア!!」
オーバーリアクションと共に消滅した。おジャマトリオはバーンデッキでは虐殺されたりラヴァ・ゴーレムの生贄になったり碌な目にあわないことが多い。ごめんな。
「そのトークンは破壊されると300ポイントのダメージを受ける。きっちり削ってもらおうか」
「さすがに優等生さんには見逃してもらえないか。でも耐えきったぞ?」
ま、これで終わりとは思ってないけどな。
「お前こそわかっているはずだ。この程度で終わりはしない! 2枚目の融合解除発動!」
「たしかパワーボンドのリスクはこれで回避できるんだっけか」
OCGでは回避できないんだけど、アニメ効果は回避できて使いやすいんだよな。
「受けるがいい! サイバードラゴンの攻撃! エボリューションバースト!」
「ぐっ!」
「さらにサイバー・ドラゴン・ツヴァイでも攻撃!」
「ツヴァイは墓地ではサイバー・ドラゴンとして扱う。だから融合解除でも出せるのか」
ツヴァイまで使うのは実際驚いた。融合解除を見越した融合素材だな。残り2体のトークンも消えた。効果ダメージで俺の残りライフは2300だ。
「クリボーがなければライフは尽きていたわね。テンシン、まさかここまで想定内だとでもいうの? 亮の融合解除まで読み切ってのあのタイミングだったなんて……身を切られるような緊張感ね」
「それだけじゃない。サイバー流の使い手なら気づいたはず。カイザー、あんたはすでにミスを犯している」
ギャラリーはざわつくがカイザーは淡々と答えた。
「……1ターン目、サイバーツインを出しリミッター解除を使えば禁じられた聖杯をどう使われても俺が勝っていた」
「どういうことだ?」
十代はわからないようだが明日香が気づいた。
「本当だわ! バルバロスの効果を無効にしても5600のダイレクトアタックが防げず、サイバーツインの効果を無効にしても今度は攻撃力が6000になり1900のままのバルバロスではライフ4000を守り切れない!」
「じゃあテンシンさんに隙があったってこと?」
その問いには俺が答えた。
「違う。カイザーは俺の力量を知っていた。だから2枚のリバースカードを警戒しないわけがないと踏んだのさ。逆に3枚伏せれば多すぎるリバースカードで俺のブラフは見抜かれサイバーツインで攻撃されていたはず。カードを何枚伏せるかも心理戦。レイ、これが本当の駆け引きだ」
「これが亮様とテンシンさんの実力……」
感動してため息をつくレイに明日香が水を差した。
「でもテンシンもミラーフォースに引っかかってるじゃない」
「アホかお前。攻撃反応タイプは使わせてなんぼだろうが。わざと攻撃して使わせたんだよ」
「なんでレイちゃんには優しいのに私には辛い対応なのよ! 差別よ!」
「区別だ。お前は高校生だろ」
今度はカイザーがため息をつきながらターンを終えた。呆れてるな。
「ターン終了」
亮 サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン・ツヴァイ 手札1枚
天真 洗脳解除 伏せ1 手札1枚
「ドロー! リバースカードを1枚セットしてターンエンド」
これで俺の場に伏せは2枚。手札は1……今は耐える時間だ。
「俺のターン、ドロー! 異次元の宝札をセットし、サイバー・ヴァリーを召喚!」
「ここだ! リバースカード発動! 激流葬!」
ずっと出番を待っていた切り札がようやく発動する。これは実質のトドメ! 決まればゲームエンド級だ。
「それは序盤から伏せられていたカード……なるほど、ベストな発動機会を窺っていたというわけか」
「まぁな。バルバロスがいたから使わずに温存してたってわけだ。ずっとリバースカードが何か気になっていたんだろうが、このタイミングのトラップ発動はあんたにとって誤算のはず。これでお前の攻めは途切れた! 流れは俺にある!」
フィールドのモンスターが一掃されればカイザーに残るのは異次元の宝札のみ。単独では役には立たない。俺の勝ちだ!
「甘い! 俺の攻めはこの程度で止まることはない! サイバー・ヴァリーの効果発動! 召喚時、優先権は俺にある! よって起動効果を発動することができる!」
「しまった! 例のやつか……ということは使うのはサイバー・ヴァリー、第二の効果か」
ギャラリーがハテナマークを浮かべる中俺は正確に狙いを読み切った。サイバー・ヴァリーには3つの効果がある。起動効果は2つ。そのうち今効果的なのはドロー効果を持つ第二の効果。
普通ならこれは発動できないがカオスエンペラーが優先権かましてくる時代だ。この時代特有の謎ルールを失念していた。僅かに隙を見せたか。ここでドローされるのは痛い。
「そうだ! サイバー・ヴァリーの効果で自身と異次元の宝札を除外し2枚ドロー! さらに異次元の宝札の効果も発動する」
えげつないほど異次元の宝札を使いまわすな。手札に戻って発動するので1枚で複数回使える。しかも何気にサイバー・ヴァリーの効果が俺の知っているのと少し違う。モンスター以外も除外できるのか。かなり便利だ。
「またそれか。今度も次のターンまで待つのか、カイザー?」
「その必要はない! 手札から融合を発動!」
「手札は残り1枚よ!? フィールドのモンスターも全て消えてしまったのにいったいどうするつもりなの、亮?」
「1枚で融合なんてできるのか!?」
融合使いの十代は特に驚いている。素材なしで融合なんて普通できないことを誰よりもよく理解している。だがそれを可能にするカードがサイバー流にはある。
「あのカードはおそらくサイバネティックフュージョンサポート……墓地を使う気か」
「そうだ! これがサイバー流の奥義! 手札から速攻魔法サイバネティックフュージョンサポートを発動! ライフ半分をコストに墓地のモンスターを素材に融合を行う! 出でよ! サイバーエンドドラゴン!」
「すごい……亮様」
LP4000 → 2000
手札2枚から出てくる攻撃力4000の一撃必殺モンスター。俺もこんなデッキを使いたいよ。もちろんサイバー流は見た目とは裏腹に繊細で緻密なデュエルを求められるんだけど。
「バトルだ! サイバーエンドで攻撃! エターナルエヴォリューションバースト!」
「テンシンのフィールドはガラ空きよ!? これでライフはゼロ!! やはりカイザーを倒すことはできないの!?」
「いや、テンシンにはまだ1枚カードが残ってる。ここで終わるはずがない」
その通りだ十代。俺がこの程度で終わるわけがない。絶対にこの攻撃は通さない!
「リバースカード発動! サンダーブレイク! 手札を1枚捨てて効果発動! サイバーエンドを破壊! これもあんたの異次元の宝札のおかげで手札に加わったカードだ。強力なカードにはリスクが伴う。俺に対して安易に2枚の手札を渡したのは失敗だったんじゃないか?」
もちろんあの2枚がなければ俺は負けていたが、逆にドローがなければカイザーも動けずにいた。結局五分なのだが相手に“しまった”と思わせれば今後の判断に迷いが出る。言うのはタダだしな。
「たしかにリスクは大きかった。しかしそれを恐れるだけではギリギリの勝負には勝てない。こちらの攻めも繋がった以上五分と見るべきだろう」
「……本物だね、あんた」
満点の解答だよ、カイザー。周りのギャラリーは固唾を飲んで見守っている。ひりつくような展開に言葉もない。
互いに死力を尽くし、持てる全てを出し尽くした。手札はお互いゼロ。フィールドにあるのは洗脳解除のみ。サイバー・ドラゴンは3体とも除外ゾーン、ラヴァ・ゴーレムとバルバロスは墓地、お互いの切り札も出そろった形だ。まさに最終局面。
「俺はこれでカードを使い切ったがまだ異次元の宝札の効果は残っている。わかっているだろうが次のお前のターンがラストチャンスだ。そう何度も生き残れるとは思うな」
「……」
「次はない。そしてお前のフィールドにあるのはもはや使えない洗脳解除のみ。実質カードはゼロ。洗脳解除もコンボするためのカードはすでに使い切ったとみた」
よくわかってやがる。そしてこの土壇場で俺にプレッシャーをかけてきたな。無意識に理解しているのだろう。心が弱い方に傾けばドローもまた弱くなる。いわばこれはデュエリストの生存本能。相手を追い詰め自分が勝つための戦略。
「……フフフ、正解だ。俺も実はすっからかんだ。だがそれはカイザー、あんたも同じこと。ここでもし、もしも俺が攻撃力2000のモンスターを引いたら……面白いよなぁ?」
当然こんなプレッシャーなんぞ俺にとってはそよ風同然。逆に相手にプレッシャーをかけ返すのが正解だ。
「1000や1500とはわけが違う。2000ともなれば上級モンスタークラス。簡単には出せない上にすでに切り札級のカードは2枚墓地にある。まだ何かあるのか?」
俺のデッキはラヴァ・ゴーレムとバルバロスだけじゃない。なめてもらっちゃ困る。
「このターンでお前を“秒殺”してやるよ」
「秒殺……?」
カイザーが俺の言い回しに違和感を覚えたようだ。普通瞬殺とかだもんな。秒殺は変だ。
「この感じ……どこかで見たような?」
「どうしたんだ明日香?」
「十代? ……あっ! そうだわ! あなたよ! あなたに似てるんだわ! 十代がブルーの万丈目君を倒して大金星を挙げたとき、最後にこんな場面があったわよね」
「え? そうだっけ? あんまり覚えてないなぁ」
十代はすっとぼけてるが俺は知っている。俺が三沢と戦っていた時、最初の月1テストの日だ。最後十代はフェザーマンを引いて残り1000ポイントの万丈目を破った。
「あなたって人は……あんな大金星を挙げて記憶にも残らないなんて、あなたにとってはたいしたことなかったとでも言うの? 全く、今年のレッドはどうなってるのかしら? あなた達そろいもそろって強過ぎよ」
「十代さんもすっごく強いんだ。明日香さんもそれを見抜いてる……アカデミアってこんなにすごい人達ばっかりなの?」
レイ、お前もそのすごい奴の中に入るんだぞ? ジェネックスでは準優勝するはずだし。
しかし明日香の発言には考えさせられるものがある。俺が十代と同じか。性格とかは全然似ても似つかないけど、確かにドローに自信を持ってるところは同じかもしれない。ここぞでほしいカードを引くことをイメージできる。
「さぁ、俺のターンだ! 引くぜ?」
「こい!」
潔い……カイザーは受けて立つ構え。最後の勝負だ。
俺はすでに次に引くカードがわかっている。俺にとって一番初めの切り札、十代にとってのフレイムウィングマンのようなカードがまだ残っている!
「ドロー!」
引いたカードを見て思わず口角が吊り上がる。この世界なら俺はどこまでも強くなれる。どこまでも……果てしなく……。
「テンシンさん、すごい顔……」
「レイちゃん?」
「どうした? 寒いのか?」
「……鳥肌立っちゃった」
さぁ! ラストバトルだ!
「秒殺の暗殺者を召喚! 攻撃力は2000だ!」
「本当に……引いたと言うのか!? なんてやつだ」
秒殺の暗殺者……もしその姿を見たならば次の瞬間命を奪われているという。そのテキストに恥じない活躍っぷりだ。
へっへっへ、と笑いながらナイフをクルクルと回す姿は頼もしい限りだ。
何気に十代や明日香も含めて、こいつを披露するのは初めてだったかな? 俺にとっては、いわゆるとっておきってやつだな。
「秒殺の暗殺者で攻撃! やっちまえ!」
「フッ……俺の完敗だ」
LP 2000 → 0
亮のライフはゼロ! デュエルは終わった。
これでカイザーを倒せた。セブンスターズ編でカギを持つデュエリストはこれで全て倒したことになる。丁度良かったな。
「カイザーが負けた!? 無敗のカイザーが……!?」
「いきなり攻撃力2000のモンスターなんてスゲーな! まだそんなカード隠してたのかよ」
「テンシンさん……」
レイがこちらを見てる。言うことはいっとかないとな。
「レイ、もう一度言う。お前には才能がある。戦えば戦うほどお前は強くなれる。今は弱くてもいずれ俺より強くなれるかもしれない。だから自分にもっと自信を持て! いいな?」
「でも……」
そういって横目でカイザーの方へ視線を送るレイ。本当にカイザーめ!
「いいか? 俺はカイザーより強い! 弱いカイザーの言うことと、強い俺の言ったこと、お前はどっちを信じる? どうしても自分が信じられないなら、俺を信じろ! いいな!?」
1番伝えたかった言葉を強くレイに言い聞かせた。
「テンシンさん、もしかしてボクのためだったの? ボクのために……学園最強の亮様とデュエルして、勝ってくれたの?」
……なんかものすごく感謝されてないか?
「あいつがお前に余計なこと言って腹が立ったから、自分のためにデュエルしただけ」
「……でも、それもボクのために怒ってくれたってことだよね?」
「単なる気まぐれだ。もう俺は帰る」
「待って! お願い! ちゃんと答えてよ!」
「……レイ! お前に1つ言っておくことがある」
「あっ! なにっ?」
嬉しそうに返事するが今から言うのは残酷な別れの言葉。悲しみを乗り越えろ、レイ。
「お前は今とても危うい立場にある。正体を知る人間がここまで増えた以上、お前は帰らなければいけない」
「えっ……」
絶句するレイ。目の前が真っ暗になった、という表情だ。
「どうせ親にもちゃんと相談してないんだろ? お前の実家と校長にしっかりと事の次第を説明する必要がある」
「ヤダ!! どうしてそんなこと言うの!?」
「俺が間違っているとでも?」
「間違ってない、たしかにそうだけど……でも! テンシンさんだけは、ずっとボクの味方でいてよっ!」
悲痛な叫び。なるほど、やはりレイにとっては俺が心のよりどころだったのだろう。1人では心細かったんだろうな。その俺に裏切られ憤る気持ちはわかる。
「心配するな」
「テンシンさん?」
「テンシンでいいよ。何回も言うけど、お前は本当に強い子だ。こんなズルして入学しなくても、ちゃんと正式に生徒になれる。今はおとなしくウチに帰って、いつかまたここに来ればいい」
「うぅぅぅ……でも、寂しいよ」
「お前、今のままじゃ実力不足だってわかっただろ? もう一度鍛え直してこい! 今度は俺が本気で相手しなきゃいけないぐらい強くなってろ。いいな?」
「無理だよ! 勝てっこない!」
ブンブン頭を振るレイ。こういうとこ見るとやっぱり子供だなぁと思う。無垢な子供相手には穏やかな気持ちになってしまうのはなぜだろう。
「自分を信じろ! 勝てるよ」
「…………わかった。でも、あと少し一緒にいさせて! 少しでいいから思い出を作っておきたいんだ!」
「船はたしか明後日だったか。明日は一緒に授業を受けれる。放課後も相手してやる」
「テンシンさん! いや、テンシン! ありがと!」
駆け寄るレイを抱き留めて頭を撫でてあげた。ずいぶんなつかれてしまったな。やっぱり突っぱねてそっけなく対応するなんて自分には無理だったか。
バタフライエフェクトなんて言葉があるが、もうどうなってもしらんぞ。
◇
1日レイの思い出作りのために一緒に過ごし、たくさん思い出を残していよいよ別れの時を迎えた。
「テンシン……」
「レイ、俺が最後に見るお前の顔はそれでいいのか?」
「でも寂しいんだからどうしようもないよ」
「だったら楽しいことを考えな。次会って笑顔で話せるときを」
「……テンシン、ちゃんとボクのこと覚えていてくれる? 本当に喜んでくれる?」
「大丈夫だって」
「やっぱり寂しい! もっと話したいこといっぱいあったのに!」
「……じゃあ、手紙を書こう」
「手紙?」
「文通。こんな離島でもそれぐらいはできるはずだ。それなら寂しくないし、もっと話したいことも全部伝えられるだろ?」
「うれしい……。ちゃんと返事くれる? 無視しないでね?」
「ちゃんと住所と宛先は書いとけよ。じゃないと届かないから」
「うん」
ようやく納得したのか船に向かっていった。待っていた両親と思われる人が俺に向かって会釈したのでこちらもお辞儀して返した。
ポッポーー!!
船が出向し、レイが小さくなる。それでもレイは懸命に手を振ってくれた。俺もそれに合わせて小さく手を振った。
「またねー! レイちゃん!」
「元気でなー!」
「……」
周りには事情を知る仲間も見送りにきていた。明日香、十代、もちろんカイザーこと丸藤亮もいる。
そんな中、最後にレイが爆弾を残していった。
「テンシンーー!! ありがとう! ボク、テンシンとの初めての体験、忘れないよぉぉ――!! テンシンがすっごくて、ボク、あなたに恋しちゃったよーー! もう、あなたに夢中だからぁぁーー! 次に会ったらぁーー! 責任、とってよねぇぇーー!」
「ブフッ!?」
「えっ!? はじめて!? 責任!? どういうことなの、テンシン!!」
「……まさかそういうことだったのか?」
明日香とカイザーが俺を見る目がヤバイ。凄まじい誤解が生まれている。きょとんとしてるのは十代だけだ。
「これは罠だ! 外堀を埋めて、既成事実、みたいな罠だ!」
「やっぱりやってるんじゃない!」
「やってない!」
それからしばらく明日香からゴミを見るような視線に晒されることになった。
秒殺さんをいいところで登場させたいがためにかえって出番を減らしてしまう罠
出現頻度がアメーバ以下……
レイは何もかも原作とは変わっていきます
この子はとりあえず使ってるデッキが問題しかないのでね……