気づいたらデュエルアカデミア   作:りんごうさぎ

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精霊の正体

 倒れたデュエリストが再び起き上がることはなかった。

 

 これまで挑んだどのデュエリストも、俺に挑み、敗れ、そして散っていった。

 

「ウソでしょ……万丈目くん!」

「サンダー!! チックショー!! テンシン!! 次こそ俺が相手だ!」

「十代ッ!! ダメよ!!」

 

 十代……決意を固めた者の表情だ。明日香が止めてもヤツは戦う気だな。

 

「黙ってくれ明日香! もうお前まで犠牲にはしたくない! 俺が全てを終わらせる!」

「たしかに……そこの臆病者は神の力を得た俺に挑む勇気はない。お前が戦うしかないよなぁ?」

「うるせぇ! いいから俺とデュエルだ!」

 

 覚悟アリか。結局明日香以外ほとんどのヤツと勝負することになったな。精霊の力はすでにほぼ満ちているしもう十代と勝負する必要性はあまり感じないが、念のために十代も倒して精霊を操る力を盤石のものにしておくか。

 

 どうせ俺が負けることはありえないわけだしな。

 

「望むところだ。さぁ、楽しいデュエルをしようぜ? 十代?」

「テンシン! お前の暴走は絶対に俺が止めてみせる!!」

「「デュエル!!」」

 

 今回俺が使うのは幻魔を出すことのみに特化したデッキ。そして十代の逆転を封じる策もしっかり施してある。死角はない。

 

「さぁ、十代? お前は先攻か? それとも後攻か? どちらを選ぶ?」

「当然先攻だ!」

「なら1ターンで終わりだな」

「ぐっ……ドロー! バブルマンを召喚! 効果で2枚ドロー!」

 

 いきなりドローしてきたか。最初から出し惜しみはなしってわけだな。一気に展開してくるか? だが先攻でいくらモンスターを並べても意味がないことぐらいわかっているよな?

 

「何体モンスターを並べても1ターン目は攻撃できないぞ?」

「言われなくても! 俺は場のバブルマンと手札のフェザーマン、スパークマンを融合! 来い! テンペスター!」

「いいわよ十代! テンペスターなら簡単にはやられない!」

「で、表示形式は?」

「……守備表示だ!」

 

 意地を張らずに攻撃表示は避けたか。いい判断だ。攻守が同じテンペスターは先攻1ターン目にわざわざ攻撃表示にする意味はほぼない。俺の知るGXの十代は守備表示で出すことなどしなかった。これは小さな差ではあるが確実な変化だ。

 

「ずいぶん弱気じゃないか。本当にいいのか十代?」

「それでいいわ! テンシンの言うことはまともにとりあってはダメよ!」

 

 外野がうるさいな。自分では戦えないクセに。まぁいい、これぐらいは許してやろう。

 

「さらにカードを3枚セットしてターン終了!」

「では俺のターン、ドロー。フフフ……十代、わかっていると思うが俺は影丸のように甘くはないぞ? 1ターン目で全ての幻魔を拝ませてやる」

「バカな!?」

「ありえないわ! 3枚のカードを必要とする幻魔をいきなり3体も展開するなんて不可能よ! 最初の手札は6枚しかないのに!!」

 

 そんなもの効果を駆使すればなんとでもなる。これまでの5つのデッキを見れば十分にわかるはずのことだ。

 

「なるほど、そんな愚かな考えで幻魔が出せないと高をくくっていたのか。精霊の力を支配した俺に不可能などない! 三幻魔を並べるなど、造作もないこと!」

「だったらやってみせろよ!」

「いいだろう! お前に絶望を与えてやる……これがお前にとって運命の選択となる! 手札から苦渋の選択を発動!」

「苦渋の……選択」

「テンシンも、そしてセブンスターズも使っていたカードね。十代、選択は慎重に行うのよ!」

 

 俺の選んだ5枚が浮かび上がる。

 

 トリック・デーモン

 トリック・デーモン

 トリック・デーモン 

 暗黒の召喚神

 混沌の召喚神

 

「なんだあのカード……あっちはさっき万丈目とのデュエルで使っていたカードだ」

「不気味なモンスターね……いったいどんな効果が?」

 

 十代……さぁ悩め! 考えれば考えるほど俺の仕掛けた罠に嵌っていくんだ!

 

――トリック・デーモンの効果! カードの効果で墓地に送られた時、デーモンカードを手札に加える。よって俺はデーモンの宣告を手札に加える!――

 

(トリック・デーモンは墓地に送られればデーモンカードを手札に加えられる。つまり3体のトリック・デーモンの効果が発動すれば3枚のデーモンの宣告がテンシンの手札に……)

 

――3枚のマジックカードを生贄に……出でよ! 降雷皇ハモン!――

 

(そうか! デーモンの宣告を使って幻魔の1体を呼び出す作戦か! なら全てのトリック・デーモンの効果を使わせるわけにはいかない! それに得体のしれないカードをテンシンに使わせるのも危険だ!)

 

「決まったようだな?」

「あぁ! 影丸や万丈目のデュエルはムダなんかじゃない! 俺はトリック・デーモンを選択する!!」

 

 十代、お前は本当にいい子だよ。笑いが止まらない……!

 

「フフフ……本当にトリック・デーモンを選んでしまうとはな。ありがとう十代」

「なにっ!! 俺が間違えたっていうのか!」

 

 お前の辿った思考は手に取るようにわかる。

 

 なんせ、そう考えるように誘導したのは、この俺だ!

 

「まだわからないのか? 俺はデュエルにおいて情報というものを特に重んじる。その俺が、お前に、なんの考えもなく手の内を晒すとでも?」

「まさかテンシン、あなた十代にわざとトリック・デーモンの効果を見せたというの!?」

「そうさ。万丈目と影丸、奴らのデュエルはムダじゃない。俺の勝利のためにな!」

 

 選択を誤ったということが俺の表情でわかったのだろう。十代はこの上なく後悔している。軽率な考えを悔いた表情だ。

 

「トリック・デーモンの効果! デーモンの宣告を手札に! そして天変地異を発動! なぁ、どうだ? 魔法ならもう3枚目を持ってたんだよ」

「くっ……お前が天変地異を持っていないわけがなかったってことか。でもあの2体を使われるぐらいなら……」

 

 ラビエルを出すには召喚権を残す必要があってね。手札から召喚していては召喚権が足りないんだよ。あの2枚は墓地に送られなければならない。

 

「それらは当然墓地にいてこそ真価を発揮するカードだ。そういうものを選んでいる。さて、お前もデッキを開いてもらおうか。1番上には何があるのかな?」

「……これは!!」

 

 ほう……面白いカードが見えたな。

 

 デッキトップ 天真 ハモン 十代 賢者の石―サバティエル―

 

「大徳寺先生……」

「アムナエルの置き土産か。十代め、たぶらかされたか?」

「人聞きの悪いことを言うな!」

「そこにいるんだろう? コソコソと裏でずいぶん好き勝手してくれたなぁ、アムナエル? お前のすることなど全てお見通しだ! どれだけ十代に助言しようと絶対に俺には勝てない!」

「テンシン……大徳寺先生のこと知ってるのか?」

「前に言った通りセブンスターズのスパイだ」

「違う! 先生は影丸の暴走を止めるために……」

 

 この様子だとアムナエルは十代の信頼を勝ち取ったらしい。どんな口車に乗せたのやら。こいつらを引きはがすのは無理そうだ。

 

「これ以上言っても意味はない。俺はデーモンの宣告を発動! 500ポイントのライフを支払い降雷皇ハモンを宣言! 手札に加える! さらに2枚目! 幻魔の殉教者を手札に!」

 

 LP 4000 → 3500 → 3000

 

「幻魔専用のカードね。なぜそんなカードまで……幻魔がテンシンに何かしらの影響を与えているの?」

「さぁね。その賢者の石はお前に使わせるわけにはいかない。デッキの底で眠っていてもらおう! 3枚のマジックカードを墓地に送り……1体目の幻魔! 降雷皇ハモンを特殊召喚!」

 

 現れた最初の幻魔。しかし俺の手札はまだ6枚。その手札を十代は渋い表情で睨みつけている。

 

 さらに天変地異がなくなったことでデッキが元に戻り賢者の石はデッキの1番下に埋もれた。サーチしない限りこのデュエルで引くことはできない。さぁどうするかな?

 

「あっというまに幻魔が1体。本当に3体の幻魔を出してしまうのか?」

「さらに永続魔法七精の解門を発動!」

「あれは七星門!?」

 

 七星門と同じソリッドヴィジョンが現れた。自分達の周りにあるものと全く同じだ。

 

「また永続魔法? ハモンはもう出したのに……ということはよほど重要な効果があるのかしら?」

「正解だ。臆病でも頭は回るらしい」

「くっ……」

「テンシン! 明日香への侮辱はやめろ!」

 

 この怒り方は彼氏そのものだな。本当に仲がよろしいようで。

 

「そう怒るなよ。こっちは褒めてやってるのに。このカードは発動時に幻魔を手札に加える効果を持つ」

「なんだと!?」

「2体目が手札に!?」

 

 デッキから引いてきた幻魔を十代に見せつけるようにかざしてから手札に加えた。

 

「俺は神炎皇ウリアを手札に加える! さらに七精の解門の2つ目の効果! 手札を1枚捨てて墓地の攻守が0の悪魔族を特殊召喚する。俺はトリック・デーモンを捨てて混沌の召喚神を特殊召喚!」

「そうか! テンシンはこうして特殊召喚するためにあのモンスターを墓地に置いておく必要があったのね!」

「なおこの過程でカードを墓地へ置くのはコスト。トリック・デーモンは効果で墓地へ送らなければ効果は発動しない。まぁどちらにせよデュエルの大勢には関係ない。幻魔召喚の準備は整った」

 

 暗黒界同様コストでは使えない。だからサンダー・ブレイクなどとコンボすることはできない。意外と不便なところでもある。

 

 役目を果たしたトリック・デーモンを墓地へ送り混沌の召喚神を呼び出した。こいつがこのデッキのキーマンとなるカードだが、十代は得意げにモンスターが足りないと指摘した。

 

「だがラビエルの召喚に必要な悪魔族は3体! まだ2体足りないぜ?」

「なるほど、そう思ってしまうのも無理ないか。でもなぁ十代、出てくるのはラビエルじゃない。混沌の召喚神の効果! このカードを生贄に手札から幻魔の召喚条件を無視して特殊召喚する!」

「マズイ! テンシンの手札にはウリアがあるわ!」

「そんなのアリかよ! クソッ! どうすることもできない!」

「出でよ! 神炎皇ウリア!」

 

 幻魔2体目。3体目を出す準備も既に整っている。

 

「テンシンにはまだ召喚権が残っているわよ。まさかラビエルも……」

「モンスターを3体並べるのはマジックやトラップを並べるより難しいはず! 召喚を助けるカードもすでに使い終わった!」

「おっと、お前ら俺が幻魔の殉教者を引いたのを確認しただろう?」

「まさかそれがラビエル召喚のカギなのか!」

「そういうことだ。だがまずは混沌の召喚神の効果。墓地のこのカードを除外して失楽園を手札に加える。もちろんそのまま発動」

「幻魔専用のフィールドね」

 

 十代 手札1枚 テンペスター 伏せ3枚

天真 手札4枚 失楽園 ハモン ウリア  墓地 暗黒の召喚神

 

「……」

 

 十代は黙ったまま別のことに意識を向けている。この状況でデュエル以外のことを気にするとしたら……大徳寺か。

 

「十代、今お前、何を考えた?」

「……どうやって幻魔を倒してやるか考えてたところさ」

「違うな。そんな威勢の良さは今のお前にはない。後ろの亡霊と作戦会議でもしてるんだろ?」

「……」

 

 僅かに後ろを見た。やはり隠れているようだ。賢者の石の使い方を教えたりしているのだろう。先に教えておけばいいものを。

 

「お前は賢者の石さえあれば勝てると考えている。そして賢者の石が手札に来るまでどうやって幻魔の攻撃を凌ぐか、そのことに頭を悩ませているわけだ」

「……」

「ここでもまたお前は考えた。幻魔の弱点なら目の前のテンシンが身をもって教えてくれたではないか。戦闘破壊されなければ突破はされない」

「…………そうだ! テンペスターなら戦闘破壊されない!」

「そのためにムダなマジックやトラップを大量に伏せているんだもんなぁ?」

「……」

 

 図星だな。あんなにトラップが手札にあるわけはない。十代はデッキにトラップよりマジックの方が多い。だからあの半分はブラフ兼テンペスターの効果用だ。

 

「だが幻魔にまやかしは通用しない。ウリアの効果! トラップディストラクション!」

 

 幻魔の力でトラップが炙り出され十代のカードを破壊した。

 

「くっ! 攻撃の無力化がっ!」

「そんなところだろうな。これでもう罠はない。だがテンペスターはたしかに邪魔だ。だから先にその効果を潰しておこうか」

「……!」

「手札から禁じられた聖杯を発動! 飲んではいけないと言われるほど飲んでみたくなる、それが罪深き人間の性。失楽園にはふさわしいカードだろう?」

 

 禁じられたシリーズは大型モンスターとセットで使いやすいから無理なくデッキに入る。特に速攻魔法は攻守両方で活躍できるので使い勝手がいい。

 

「モンスター効果を無効化しにきた! テンシンは十代のテンペスター対策もしていたというの!?」

「俺が教えてやったことを自分が対策しないわけないだろう? 聖杯があればモンスター効果は幅広く対応できる。そして罠はウリアが潰す。お前の頼みの綱はやはり賢者の石、ということだな」

「……」

 

 だんだんと口数が減ってきたな。こんなにも必死に考える十代も珍しい。相当頭を悩ませているのが手に取るようにわかる。これほど愉快なことはない。

 

「そろそろ最後の幻魔を呼び出そうか。俺は幻魔の殉教者を発動! 手札を全て墓地へ送り幻魔の殉教者トークンを3体特殊召喚する」

「全て捨てる? そんなことしたら大事な幻魔も墓地送りだぜ?」

「安心しろ、手札には持っていない」

「まさか失楽園の効果でドローして幻魔を加えるとでもいうの?」

「たしかに失楽園は追加で2枚のドローができる。でも本当にそれだけなのか?」

 

 こいつらちゃんと発動した効果を頭に入れている。このデッキを回す速さについてきてるな。確かに俺はまだフィールドの効果を使っていないしそういう戦略もとれる。だが幻魔にはもっと確実なサーチ手段が存在する。十代は勘づいているようだな。

 

「苦渋の選択で墓地へ送った最後のカードを忘れてもらっちゃ困る」

「ここで最初の5枚が布石になっているの!?」

「暗黒の召喚神の効果……墓地のこのカードを除外して幻魔皇ラビエルを手札に加える」

 

 十代と明日香、共に天を仰いだ。

 

「3体目がそろってしまった……」

「殉教者の効果を見越して温存していたの!? 殉教者は後で引いたカードだったのに!? どうしてそこまでデッキを使いこなすことができるの!? いくらテンシンでも幻魔のカードなんて使ったことあるはずないわ!」

「それをお前らが知ることは永遠にない!」

「それはどういう……」

 

 答える必要もない! さぁ出すぞ、3体目!

 

「くるか、3体目!」

「3体のトークンを生贄に……幻魔皇ラビエル召喚!!」

 

 幻魔3体目。これで十代は終わりだ! 全身に幻魔の力をこれ以上ないほど感じる!!

 

「これが……三幻魔」

「さぁ、まずは失楽園の効果で2枚ドロー! そしてバトルだ!」

 

 十代 手札1枚 テンペスター 伏せ2枚

 天真 手札2枚 ウリア ハモン ラビエル 失楽園 七精門 

 

「十代!」

「……」

 

 言葉はなくともその表情が雄弁に語っている。どうにかする手はまだ残しているらしい。ここはお手並み拝見といこうか。

 

「まずはハモンの攻撃! テンペスターを粉砕しろ! 失楽の霹靂!」

「テンペスター……!」

 

 効果を失ったテンペスターは破壊されハモンの効果が発動する。

 

「ハモンが相手モンスターを破壊した時相手に1000ポイントのダメージを与える! やれハモン! 地獄の贖罪!!」

「ぐわぁぁぁぁあああ!!」

「1000ポイントだけでなんてダメージなの……」

 

 LP 4000 → 3000

 

 明日香はすっかり怯えている。あぁ、かわいそうに。

 

 これでライフは並んだ!

 

「さらにラビエルの攻撃! 天界蹂躙拳!」

「速攻魔法発動! クリボーを呼ぶ笛!」

 

 おっと。トラップ以外にもまともに使えるカードが伏せてあったのか。相当引きが強いな。

 

「速攻魔法を張っていたか。しかもクリボーを呼ぶ笛とは……」

「デッキからハネクリボーを特殊召喚する!」

「クリクリ~~」

 

 

《クリボーを呼ぶ笛》

速攻魔法

自分のデッキから「クリボー」または「ハネクリボー」1体を選択し、

手札に加えるか自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

 

《ハネクリボー》

効果モンスター

星1/光属性/天使族/攻 300/守 200

(1):フィールドのこのカードが破壊され墓地へ送られた場合に発動する。

このターン、自分が受ける戦闘ダメージは0になる。

 

 

「ラビエルの効果で幻魔トークンを召喚。なるほど……それがアムナエル、大徳寺の入れ知恵か。迂闊に攻撃できんな」

「くっ……」

「どういうこと? テンシンがなぜハネクリボーを警戒しているの?」

 

 賢者の石は本来誰も効果を知るはずのないカード。当然十代以外効果を知る者はいない。

 

 ……この俺を除いて。

 

「お前にも教えてやろう。賢者の石はハネクリボーを破壊すると自動的に手札に加えられる。そして十代の3つの願いを叶えるんだ」

「そこまで知ってたのか。なぜわかった?」

「お前こそ、まさか賢者の石は自分の専売特許だなんて思ってないよな?」

「何を言って……お前、まさか自分のデッキにも入ってるってことか!?」

 

 知ってましたとは言えないからねぇ。幻魔の力のおかげということにしておこうか。この力は何かと都合がいい。

 

「幻魔の力は精霊の力を司る。それはすなわち全てのカードを操り支配できるということ。だから世界を滅ぼす力を持つと言われている。ならば幻魔の力を得た俺に使えないカードなど存在しない! 当然賢者の石も例外ではないということだ」

「神、幻魔、そして究極の錬金術、賢者の石ですら自由に扱えるのか! テンシンに賢者の石を使われたらどうすれば……」

(十代くん! 大丈夫だニャ! 賢者の石は究極の錬金術師にしか使えないのニャ! テンシンくんには使えないはずですニャ!)

 

 あれは大徳寺か? 見えたぞ魂! 亡霊の姿も見えるとはいよいよ幻魔の力が高まってきたようだ。

 

 大徳寺には散々邪魔された恨みしかない。少しは報復させてもらおう。

 

「見えたぞ大徳寺! 消えろ!」

 

 幻魔の力を込めて大徳寺の魂を吹き飛ばした。

 

(あっ! 十代くん! 最後まで諦めてはダメニャ! テンシンくんにも弱点はあるニャ! それは彼の心の優しさ……ニャ~~~~!!!)

「大徳寺先生!」

「やっと消えたか……めざわりなんだよ」

 

 あれのしぶとさはゴキブリ並み。この程度で消滅させられるとは思ってないがこのデュエルの間には戻ってこれまい。

 

「テンシン! よくも!」

「死人を成仏させただけのこと。それにお前もすぐ後を追うことになる! ラビエルで攻撃続行! 喰らえ! 天界蹂躙拳!」

「賢者の石を承知で攻撃してくるのか!? なら遠慮なく俺は賢者の石を手札に加えさせてもらう! さらにハネクリボーの効果でこのターン自分が受ける戦闘ダメージは0になる!」

「ならばメインフェイズ2へ移り七精門の3つ目の効果を発動! レベル10のモンスターがいるとき墓地から永続魔法を手札に加える。俺は天変地異を選択。さらにカードを1枚セットしてからエクスチェンジを発動!」

「エクスチェンジだと!! 俺の賢者の石を奪うのが狙いか!」

「奪ってしまえばお前は絶対に賢者の石を使えない! さぁ手札を見せろ!」

 

 十代 死者蘇生 賢者の石   天真 天変地異

 

「まぁ選ぶのは当然賢者の石だが手札を見るのは俺の権利だからな。しかしまだ死者蘇生なんて持っていたとは、つくづく侮れんヤツだ。最初の手札を想像するだけで恐ろしい」

「天変地異……俺が使ってもテンシンを助けることにしかならないカード。リスクも上手く回避されたのか」

 

 お互いに中央に向かって歩いていきカードを交換する。その時十代が俺にカードを渡す前に問いを発した。

 

「テンシン、お前はどうして幻魔の力を求めたんだ? もう一度よく考えてくれ!」

「フン! お前なんぞに言うべきことはない!」

「本当にそうか? 本当は迷って……いや、わからないんじゃないのか?」

「わからない? 何が?」

「何のために幻魔の力を使うのかだ!」

 

 力強い言葉には確信のようなものがあることを感じさせる。だがこいつが何を言っているのかさっぱりわからない。どういうことだ?

 

「なぜ俺がわからなくなるんだ? 俺の目的は最初から1つ、ただ自分の……いや、俺は精霊の力を……ん? なんだこのモヤがかかったような感覚は」

 

 いつからか俺は精霊の力を得ることそのものが目的のように感じていた。だが俺にはちゃんとした別の目的があったような……。どうしてだ? なぜか思い出せない!

 

「テンシン! 本当のお前は優しいヤツだったはずだ! 前に転入生が来たの、覚えてるだろ? レイのこと、まだ忘れてないよな? 俺がレイとデュエルした時もさ、俺が余計なこと言ったらお前すっごく怒ってたじゃんか! レイのために怒ってたんだろ?」 

「レイ?」

 

 早乙女レイのことか? そんなやつのことなんて俺にとってはどうでもいい。どうでもいいんだ……。

 

「アニキー!! テンシンはレイちゃんからもらった手紙をいつも大事そうにしてたッスよ!」

「俺も見たんだな!」

 

 この声はレッドの2人? 意識がまだあったのか。

 

「翔くん! 隼人くんも! そうよ、早乙女レイちゃんよ! テンシン思い出して!」

「レイ……いや、どうでもいい。俺がいなくなれば関係ない」

 

 俺の心には響かない。

 

「いなくなる? どうしていなくなるんだよ!」

「他にも大事な人がいたはずよ!」

 

 十代に代わって今度は明日香が語りかけてくる。ボーっとして意識がかすれていくようだ。頭がちゃんと働かない。どうなっているんだ? 俺は正気なのか?

 

「大事? 誰が?」

「その……好きな人とか」

「そんなのいない」

「でも家族だっているでしょ?」

「家族? 家族……妹?」

 

 自分の中の大事なものが震えた気がした。

 

 そうだ、俺には妹がいたんだ。

 

「そうよ! あなたの妹よ!」

「妹……」

 

 俺にとって最も大切な人は家族でありライバルでもあるトーラ。

 

 世界で1番愛している大事な妹。

 

――ちがう! あなたの1番大事な人はラーヴァよ!――

 

「違う……俺が大事なのは……俺には相棒が……でもトーラとは約束が……世界が滅べばトーラはどうなる……俺は何を……」

 

 いろんなものがごちゃ混ぜで脳裏を駆け巡る。バラバラの記憶が飛び回り思考がまとまらない。

 

「そうだ! 正気を取り戻せ!」

「テンシン!」

「くぅぅぅぅ!! 十代! いいからとっととそのカードを寄越せ!」

「テンシン!」

 

 バチィィィンン!!

 

「ああっ!? なんだこれは!? サバティエルに触れない!?」

「どうなってるんだ!? 幻魔のソリッドヴィジョンも乱れてる? もしかして幻魔の力が弱まってるのか?」

 

――私を選んで! トーラなんて捨てろ! 私を選べ! トーラは殺せ!

 

「違う、トーラは俺の大切な……絶対に死なせたりしない!」

「トーラっていうのがテンシンの妹なんスか!?」

「たぶんそうだ! もうそのトーラって子にかけるしかない! テンシン! 思い出せ!」

「テンシン! トーラちゃんを思い出して!」

「トーラ……俺の1番は……うぐぅぅぅ!!!」

 

――いつも一緒にいたのは誰?――

 

――ずっとあなたを守ったのは誰?――

 

――あなたをここに導いたのは……誰?――

 

――思い出しなさい――

 

「十代、早く俺の手札のカードをとれ」

「え? でも……」

「頼む十代……終わらせてくれ!」

 

 賢者の石をとってしまえばトーラは死んでしまう!

 

「ハッ! テンシン……!! わかった!! 俺は天変地異をもらうぜ!」

「俺は……これだ!」

 

 カードが手のひらに滑り込む。その手にあるカードは死者蘇生。これでトーラは蘇る。誰も死なずに済む!

 

 さぁ十代! あとは任せた……!

 

「俺のターンだ! ドロー! まず1つ目の願い!」

 

 LP 3000 → 1500

 

「アニキの手札が変わっていく?!」

「E-エマージェンシーコールを発動! 来てくれバーストレディ! そして2つ目の願い!」

 

 LP 1500 → 750

 

「十代……うぐっぅぅぅ……そうだ、そのまま……」

「融合を発動! バーストレディとクレイマンを融合召喚! ランパートガンナー!」

 

 一見無意味な融合。だがこれに意図があるとすれば……そうか、狙いはミラクル・フュージョンだな。

 

「フッ……残った伏せカードでモンスターが並ぶわけか。ラビエルの効果で幻魔トークンが召喚される。ぐわっ!? あぁぁぁぁああああ!!!」

 

 体が焼ける!! 熱い!! 死ぬ!?

 

「テンシン!! 体が焼けてるわよ!? 大丈夫なの!?」

「テンシン?! あっ!? そこにいるのは誰だっ!? 幻魔じゃない? 何か違うものが憑りついて……?」

 

 体が溶けてなくなりそうだ。俺が消えれば幻魔はきっと暴走する。早くしろ! 十代!

 

「もう俺は長くはもたない。そうなれば世界は確実に破滅するぞ十代!」

「くっ……再び正気を失うのも時間の問題か! 間に合えっ!! リバースカードオープン! 融合解除! 戻れクレイマン! バーストレディ!」

「十代、ここから何を狙っているの!?」

「わざわざクレイマンとバーストレディをフィールドに出したってことは……あ! もしかして大徳寺先生を倒したあのカードを!?」

 

 なるほど、4体融合か。錬金術による万能薬、エリクサーの名を持つヒーロー。錬金術の元になる四元素の究極融合だ。

 

「当たりだぜ翔! これが最後の願いだ! ミラクル・フュージョンを発動! フィールドと墓地からフェザーマン、バブルマン、バーストレディ、クレイマンの4体を除外!」

「4体のヒーローで究極の融合召喚なんだな!」

「やっちゃえアニキ!」

「来い! エリクシーラー!」

 

 LP 750 → 375

 

 十代 手札2枚(天変地異 賢者の石)エリクシーラー

 天真 手札1枚(死者蘇生)三幻魔 トークン×2 七精門 失楽園 伏せ1枚 

 

「これでサバティエルの真の力が発揮される」

「うわわわ、スゴイッス! 本当に召喚できた!!」

「十代! 頑張って!!」

 

 これじゃ影丸と同じやられ方じゃないか。締まらない幕切れだな。

 

――力を取り込め――

 

「うぐっ!? 幻魔の力がまた集まって……十代!!」

「わかってる! サバティエルの最後の効果! 3度願いを叶えたこのカードは対象にしたモンスターの攻撃力を相手のモンスターの数だけ倍化する! 俺はエリクシーラーの攻撃力を5倍にする!」

「攻撃力……14500ッス!!」

「十代!!」

「やったんだな!! これなら戦闘ダメージで十代の勝ちなんだな!!」

「くぅぅぅぅ……もう限界だ」

「今ラクにしてやる! エリクシーラーでラビエルへ攻撃! 究極剣サバティエル!!」

 

 LP 3000 → -7500

 

――目的は果たせた――

 

――お眠り……テンシン――

 

 十代がこっちに走ってくる。倒れそうになる俺をつかんで何か叫んでいるが全然聞こえない……視界もぼやけて……あれ? 十代の後ろから誰かがこっちを見ている?

 

「お前だったのか……」

 

 意識を手放す最後の瞬間に垣間見た少女の姿。それは相棒というべき存在と重なって見えた。

 

 

 

1.魔法Sinエンド  亮

2.同胞コアキ   吹雪

3.活路エクゾ   三沢

4.幻想神縛り   クロノス

5.天変オシリス  万丈目

6.天変幻魔    十代

 




幻魔編終わり!
主人公ラスボスムーブが楽しすぎるものの、そのまま世界を支配するとそこで完結になるジレンマ。
ラスボス系主人公は難しい……

天変地異は幻魔戦の雰囲気とマッチしていてハモンともシナジーするのがオシャレポイント。
ついでにサバティエルのチラ見せまでする仕事っぷりには頭が下がります。

最後は結局大徳寺先生に弱点を見破られて負ける展開に。
大徳寺先生の暗躍はだいたいこの戦いのためです。

GXあるあるで幻魔戦で作者が力尽きて、2期で書くことなんもない症候群に陥るパターン……
絶対に不可避説ないですか?
もっと言うと粘ってなんとか2期を書いたとしても3期はマジで無理説
異世界ってなんやねん……
書き始めのハードルがめっちゃ低いのに完結させるハードルクッソ高いのは普通に罠。
巧妙な罠。
……ということを思いながら2期に進むので、この辺から色々原作以外のものを使ってなんとかしていきます。
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