気づいたらデュエルアカデミア   作:りんごうさぎ

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女の子の気持ち

「もうっ!! バカバカバカ!! なんでテンシンが勝っちゃうのよ! こんなに頑張ったのにぃぃ! 空気読んで負けなさいよ!」

「いやいやいや! 負けたら俺が社会的に死ぬし負けれるわけないだろ」

「はぁ!? 何言ってんのよ! もう、ホンッットバカ!!」

 

 けっこう強めに叩いてくるが好きにさせることにした。2人きりじゃないときはおとなしい子なのに珍しい。

 

「そんな落ち込むなって」

「むぅぅぅ!! 何よ!! 自分が強いからって!! 私だって勝てると思ったのにぃぃーー!! バカバカバーカ!! バカテンシン!!」

 

 涙ぐみながらバカバカを連呼してくるトーラ。おかしいな、ここは互いの健闘を称えあいつつ久しぶりの再会を喜び合う、そんな展開が予想されたはずなのに。

 

 かなり本気で勝ちに来てたのは対戦した俺が1番よくわかるが、それにしても気合の入り方が尋常じゃない。こんなに悔しがるなんて……そこまで俺を破滅させたいのか?

 

「トーラ、やっと会えたんだしもっと喜びあおうよ、な?」

「やっとって……そもそもテンシンが入学式に来ないからこんなに私が探す羽目になったんでしょ! 私が入学するところちゃんと見ててほしかったのに! ずっと探したんだからね! どうして大事な入学式アンタ来なかったのよ! どうせアタシのことなんて忘れてたんでしょ!」

「そんなわけないだろう?」

「じゃあどうしてこないのよ!」

「……本当にごめんなトーラ。外せない用事があったんだ」

 

 ウソはつけない。寝込んでいたとはいえ俺は入学式に行ける状態だとしても行かないつもりだった。それは事実だ。

 

 だがその答えでトーラはとうとう大声で怒り始めた。

 

「やっぱり!! 私なんかどうでもいいのね!!」

 

 こうなってしまっては下手な言い訳は火に油、今は黙ってやり過ごすしかない。

 

 どうしてこんなケンカみたいなことになったんだろう。やっぱり自分には女の子の扱いは難し過ぎる。

 

「待ってトーラちゃん!」

「え、明日香?」

「あすかァ? 何よその女!」

 

 いきなり明日香がやってきて思わず名前を呟くとトーラは凄まじい眼力で俺の方を睨んできた。いつからそんな顔するようになったんだ?

 

「トーラちゃん、テンシンはずっと入院してたのよ? 入学式にこれなかったのは仕方ないわ。そんなに責めちゃテンシンがかわいそうよ」

「はぁ!? 何よいきなり!? 知ったような口を……! フン! 最悪! こんなことなら頑張ってアカデミアに合格なんてしなきゃよかった!!」

 

 プンプン怒りながらトーラは去っていった。

 

 さすがに今のはわかった。最後にトーラが怒ってたのは嫉妬だな。

 

「おいおい、めっちゃ怒ってどっか行ったけど大丈夫なのか?」

「かわいい子だと思ってたのに物凄く怖かったッス」

「ごめんなさい。私が余計なこと言ったから……」

 

 3人がそれぞれの思いを述べるが、明日香には感謝こそすれ怒る道理などない。悪いのは自分だし。

 

「いや、正直嬉しかったよ。あんなことがあったからもう俺は周りとは馴染めないと覚悟してたのに……まさかお前に助けられるとはね」

「それは、あの時はあなたも正気じゃなかったってわかってるし、ねぇ十代、翔くん?」

「あぁ、あれは悪い精霊に憑りつかれて操られてただけだ」

「みたいッスね。妹さんには本当にいいお兄さんって感じだし」

 

 そうか、十代にはラーヴァが視えたのかもしれない。あの時十代の言うようにラーヴァが何かしていたのは間違いないんだろう。

 

 でも三幻魔の力を求めたのは自分の意志だ。ラーヴァを盾にして自分だけ無罪放免になるのは卑怯過ぎるしカッコ悪い。

 

「いや、俺は三幻魔の力を最初から狙ってたんだ。十代のことはずっと初めから敵視していたしどうやったら負けないかずっと考えてた」

「えっ!? 本当か!?」

「そんなに十代を警戒してたの!?」

「実際最後はまんまと十代に負けたしな。お前だけはやっぱり測り知れないものがある」

「……」

「……」

 

 そういえば万丈目とかカイザーはどうなったんだろう。明日香と十代が黙りこんでしまったので自分から話を切り出した。

 

「万丈目やカイザーは元気? まぁあいつらなら大丈夫だと思うけど」

「あぁ、テンシンに負けたヤツはみんなすぐ意識を取り戻したし後遺症とかもなかったぜ」

「そりゃそうだ。本当の闇のゲームではなく、気絶したのは精霊の力によるものだし」

「やっぱり! お前最初からそんなに悪い奴じゃなかったんだな!」

 

 十代の口ぶりは俺を悪く思ってないヤツのものだ。もしかして寝ている間に十代に助けられてしまったのだろうか。

 

 先生が来てテストなども受けたが幻魔の「げ」の字もなかったのは正直違和感しかなかった。少なくともクロノスは事情を知っていたわけだし。

 

「十代、もしかして俺になんのお咎めもないのはお前のおかげか?」

「え? まぁそうなるかな?」

 

 十代が照れると明日香が説明してくれた。

 

「十代がね、テンシンが最後にわざと負けたおかげで幻魔を封印できたって説明してくれたのよ。全部丸く収まったし、理事長が元々の元凶だから強く咎めることもできなかったみたいね。理事長はお咎めなしであなただけ責任を追及するなんておかしいでしょ? セブンスターズをたくさん倒した功績もあるし」

「そういうことか。十代、お前には大きな借りができたな」

「そんな、いいよ気にしなくてさ」

 

 あっさりしてるな。こんなことがサラッと言えるのは十代ぐらいだろう。

 

「貸しは返す。お前はこれから多くの困難を迎えることになるだろう。そん時は敵としてじゃなく、味方としてお前を助けるよ」

「テンシン……わかった! 困ったら頼らせてもらうことにする」

 

 手を差し出されたので握手で応えた。これまで十代を弱くしようと必死に動いてきたがもうそんなことする必要もない。というか俺のせいで強くなってしまった気もするし。

 

「なんかテンシン憑き物がとれたみたいに優しくなったわね」

「前は触るな危険って顔にかいてたもんね」

 

 イヤミのつもりかもしれないが俺は大真面目に答えた。

 

「そりゃ学年ドベの頃は周り全部俺の敵だったからな。勝って周りを蹴落としていかなきゃ這い上がれない。今はトーラの前でいいカッコできればそれで十分だし」

「そうね。妹さんのことは本当に大丈夫なの? かなり怒ってたけど」

 

 頷きながらちょっと笑われてしまった。明日香の視線が生暖かい。腹の立つ眼差しだが墓穴になりそうなのでスルー。話に乗っかろう。

 

「あれなら大丈夫。元々ああいう性格だしお前にアタリが強いのはヤキモチだよ」

「ヤキモチィ?」

「なんでッスか?」

 

 十代はともかく翔もか。それともこいつらわざと言ってんのか? そんな気すらする。

 

「明日香に俺が取られると思ったんだろ。お前ってデュエルバカを除けば美人だし」

「アナタってどうして余計な一言をつけるんでしょうね。でも嫉妬なんておかしいわよ」

「言いたいことはわかるけど名前で呼んだから付き合ってると思ったんだろうな。俺がモテたことなんてないのに」

「それ、イヤミ?」

「なにがだよ?」

「……」

 

 翔が難しい顔をしているがほっといて十代にトーラのことを尋ねた。

 

「ちゃんと説明すればわかってくれると思うし、あんまり悪く思わず仲良くしてくれ。ところで十代、トーラがどこの寮にいるか知ってる? 制服はなぜかレッドだったけど」

「そっか、テンシンは知らないもんな。トーラは編入だから一旦レッドだってさ」

「レイちゃんのときと同じって言ってたよ、先生が」

 

 なるほど。結構特例的な入り方をしたんだな。

 

 あいつはここに来て日が浅い。怒ってどこかに引きこもるなら自分の部屋の可能性が高いだろう。レッド寮に行けば会えるはずだ。

 

「どの部屋かわかる?」

「それならテンシンと同じ部屋だぜ?」

「え!? でも学年も違うだろ? 俺さっきちゃんと進級してきたし」

「まさかずっとテスト受けてたの!? 休学のときといいまとめて勉強するのが好きなのね、テンシンは」

「なーんだ、留年しなかったんだ」

「うるせぇ! お前らと一緒にするな! 俺は勉強はちゃんとできるんだよ!」

 

 きけばトーラは女子の身で男子寮のレッドは大変だろうという配慮で兄弟の俺の部屋を使うことにしたらしい。ちょうど俺の部屋は俺1人しかいないし本人も了承して決まったそうだ。

 

 さっそく自分の部屋に戻ってトーラのゴキゲン取りをするとしよう。

 

 コンコン

 

「トーラ、いるんだろ? 入るよ?」

「……」

 

 返事はなし。でも絶対いるはずだ。ゆっくり時間をおいてからドアを開けた。

 

 案の定俺と同室になったトーラはそこにいた。おぉ、懐かしの俺の部屋だ。入院してたからけっこう久しぶりなので新鮮な気分だ。

 

「ただいまトーラ。待たせた?」

「……遅い」

 

 こっちを睨んでくるがもうその表情から刺々しさが消えている。だいぶ落ち着いたようだ。

 

 きっかけは些細でもトーラは今俺からないがしろにされたっていう思いが爆発している。だから俺から大事にされてるって思わせてあげれば機嫌は直るはず。

 

 トーラはベッドに腰かけてこっちを見ている。心を許してくれているうちに距離を縮めておきたいので大胆にすぐ隣に座って肩を並べた。

 

「トーラ」

「何よ」

 

 声色からも険が取れている。不快には思われていない。やっぱり俺が来るのを待ってたみたいだ。嬉しそうなのが隠しきれていない。

 

 ギュッ!

 

「!!」

 

 ボディタッチは諸刃の剣。触る場所を間違えると逃げられる。でも上手くいけばずっとトーラを逃がさず繋ぎとめる楔になる。

 

 握ったのはトーラの手。トーラの右手を半身になりながら自分の右手で包み込む。女の子らしい小さな手がすっぽりと収まった。上から優しく包み込むような握り方。さりげなく指を手首に当てて脈を見れるようにした。

 

 ドキドキ!!

 

 脈が速くなった。表情は変わらない。嬉しいけど我慢してるってところかな?

 

「許してないからね! テンシンがそんなんだったら私だってテンシンのことキライになるからね!」

「トーラには本当に悪いことしたと思ってる。許してくれない?」

「さっきのあの人はなんなの? なんで仲いいの?」

「ただのライバルみたいな関係だから」

「はぁ? あんな弱いのに? ウソ言わないで!」

 

 ナチュラルにディスったな。でも明日香のことはあんまり言わない方がいい気がする。直接俺が弁明しても聞く耳もたない可能性が高い。間接的に否定した方がいい。

 

「トーラ、お前に嫌われたら本当に俺は生きていけないよ。どうしたら許してくれる?」

「ウソつき! 私なんかよりあの女の方がいいんでしょ! 金髪だし胸おっきいし!」

 

 もしかしてキャラ被りを気にしてる? しかも胸の大きさに対抗心まで燃やしていると。

 

 言われてみれば見た目も性格も類似してる。顔の雰囲気とかは全然違うから意識したことはなかったけど、トーラ自身はかなり気にしてるみたいだ。

 

「キスはどう? ホッペとかじゃなくてちゃんとしたの。それで仲直りしよう?」

「はぁ!? キス!? そんな、いきなり何いってんのよ!」

 

 ドキドキドキ!!

 

 脈がさらに速くなった。

 

「イヤ?」

「い、イヤにきまってるでしょ! アンタ何考えてるわけ?! テンシンは昔なら絶対そんなこと言わなかった! なのにちょ~~っと変わったぐらいで簡単にキスしようとか言うようになって! 信じらんない!!」

「……」

「どうせ私がいないうちにそうやって誰彼構わずかわいい女の子とチューチューしてたんでしょ! あーあ! キモチわるっ! サイッテー!!」

 

 自分の気に入らないことへの恨み辛みを俺に対する罵倒で発散しようとしている。被害妄想が激しいところもあるが悪い方に考えが膨らんでいくのはわからんでもない。

 

 冤罪だって言いたい気持ちもあるけど、これはトーラにとっては正当な怒り。それを咎めちゃいけない。

 

「女の子にキスしようって言ったのは今日が初めてだよ」

「……!」

 

 ドキドキドキドキドキドキ……!!!

 

 “あなただけは特別ですよ”という込められた思いをしっかりと理解し、トーラはこれ以上ないほどのニヤケ顔になってしまった。

 

「トーラとキスしたいなぁ……お願い?」

「…………そこまで言うなら仕方ないわね。これでダメって言ったらかわいそうだし、まぁそれぐらい別にいいけど」

 

 それでも声色だけはいつも通りを保つあたりさすがだ。どんだけ照れ屋なんだ。

 

 あくまでこっちからお願いした、という体にならないと頷けない辺りもトーラらしい。

 

 もちろんその性格をわかってて言ったんだけど。

 

 ギュッ!

 

「ありがとう! トーラ!」

「おおおおっ! おおげさなのよアンタはァ!!」

 

 言葉だけでなく最初に握っておいた“おてて”からも自分の嬉しい気持ちをトーラに伝えた。敏感にそれを感じ取ったトーラは自分が愛されているんだと強く感じられたようだ。幸せそうな様子を見るとこっちまで幸福に満たされる。

 

 こんな気持ち……本当に初めてだ。

 

 そのまま顔を近づけるとトーラは目を閉じた。

 

「んっ……」

 

 初めての口づけは燃え上がるような情熱的なキスだった。体の奥底から愛情が溢れて全身が火照って興奮が止まらない。もう頭が沸騰しそうだ。

 

 こんなにキスだけで熱くなるなんて……

 

 ……………………

 

 熱く熱く……いや待て!

 

 なんかこれ、本当に熱くないか?

 

「……アツアツアツゥゥ!?」

「えっ!? どうしたのテンシン!?」

「ごめんトーラ! 外で頭冷やしてくる!」

 

 文字通り沸騰しそうなほど熱くなった頭を冷やすためドアを蹴破って外に飛び出した。

 

 バシャアアァァ!!

 

「プハァ! 生き返った! おいラーヴァ!! お前の仕業だろ!!」

「フン」

 

 秋の冷水は体に染みる。開口一番ラーヴァを糾弾した。

 

 このマグマロリめ! わざと邪魔したな? 今度はこっちのゴキゲン取りってわけか。

 

 あっちを立てればこっちが立たず。図らずも二股懸けた男みたいな状況の自分に笑えてくる。そんな甲斐性が自分にあるわけないのに。

 

 さて、ラーヴァはどうやってキゲンを治してもらえばいい? ラーヴァも自分が1番に愛されたいと思っているのは同じはずだ。

 

 でも精霊には脈とかで様子を伺って押し引きの参考にするのは無理だから自分の目だけを頼りにしなきゃいけないし、ずっとさっきの様子を見てただろうからトーラと同じ手は通用しない。

 

 マグマロリだから安易にキスで喜ばせる作戦もできないしどうする?

 

「ラーヴァ、こっちおいで」

「フン」

 

 取り付く島もなしか。上空離れた場所から動かない。この子の望みはなんだろうな。

 

 いや、考えるまでもない。愛情と人肌だ。あとはこっちが持ってるカードの切り方次第だな。間違えなければなんとかなるはず。

 

「ラーヴァ、俺も頭が冷えたしもうさっきのこと怒ってないからさ、こっちおいで」

「ウソ! 絶対邪魔者って思ってる!!」

「おいおい、俺がそんな恩知らずに見える?」

「……見える」

「なんでだよ!! そこはウソでも見えないって言え!」

 

 ちょっとこっち向いた。ラーヴァはさっきのこと悪かったとは思ってそうだ。罪悪感を持ってくれているならやりやすい。ここからなんとかなるか?

 

「テンシンはラーヴァのこと嫌ってる。ラーヴァにはキスはイヤって何回も拒否したのにトーラには自分からしたいって言った。ラーヴァには絶対言わないのに……」

「……」

 

 うっ……! 正直かなり痛いところを突かれた。弁明する余地もない。こういうときは黙ってやり過ごすのが一番いい。言い訳を並べても余計に怒らせるだけだ。

 

「ラーヴァが一緒だと迷惑そうだけどトーラと会ったら楽しそうだった。トーラを見つけただけであんなにはしゃいで……! しかも自分からいっぱい触ってた。ラーヴァからは逃げてたのに。……寂しい」

「ラーヴァ……」

「ラーヴァがいなくてもデュエルに勝てた。きっとラーヴァはデッキから外される。またあの冷たい缶々の底に閉じ込められる。そしたらテンシンはラーヴァと離れられて嬉しいと思うに違いない」

「そんなこと絶対しない」

 

 これだけは断言できる。気持ちは伝えられるときにハッキリと伝えた方がいい。変なすれ違いや誤解は不幸を招くだけだ。

 

「……でも、デュエルの後いつもデッキのカード変えるでしょ? ラーヴァのためのカード、少なくするんでしょ? だんだん減っていって、いつかラーヴァの居場所もなくなっていく」

「俺はラーヴァのこと信じてる。最後まで一緒に戦う」

「……ラーヴァは出てきてあげないからね」

 

 決意は固そうだ。出ないと言ったら本当に出ないに違いない。かわいい反抗期だな。

 

「本当はラーヴァが優しい子だって知ってるからずっと待つよ」

「負けても?」

「待つよ。俺が本当にヤバくなったら助けてくれると思ってるから」

「助けないよ」

 

 ラーヴァも意地だ。でも大丈夫。

 

「今までずっと助けてくれたことは忘れない。あのデュエルの日々は忘れられやしないさ」

「でも大火傷させた」

「1回加減を間違えただけだろ。別に死ななかったし気にしてないさ」

「またするかも……」

「本当に?」

 

 ラーヴァは気づけば俺と同じ高さまで降りてきている。心を開くまであともう少し。

 

 ゆっくりと頬を撫でてできる限りの愛情を込めた。

 

「あぁ……んんぅ……テンシン」

「熱くないよ」

 

 トロンと気持ちよさそうな目のラーヴァ。なんだかとっても幸せそう。やっぱり触ってほしかったんだな。

 

 長すぎても短すぎてもダメ。幸せな時間は永遠には続かない。ゆっくりと手を離した。

 

「あっ……」

 

 名残惜しそうなラーヴァ。それを見てまたよしよしと頭を撫でた。

 

「俺が触ってるときだけ熱くないように体温を抑えてくれてるでしょ? そういう優しいところ好きだよ」

「なんでわかるの?」

「今まで自由に熱くなったり戻ったりしてたじゃん? 最初と比べて熱くないからわかるよ。きっと疲れるだろうに」

 

 ずっと平温にできるなら最初からそうしているはず。限られた時間しかできないということはラーヴァにとっても大変なはずなんだ。

 

「じゃあどうしてデッキに入れてくれるの?」

「ラーヴァは帰省してトーラとデュエルしたときも1ターン目で手札に来てくれた。あのときラーヴァが来てくれなかったら俺はトーラに嫌われたままだったし、ラーヴァにはそうすることもできた」

「あのときはトーラと仲良くなかったでしょ」

「最後のデュエル、禁止デッキと戦ったときも猪一番にきてくれたじゃんか。あのときすごく頼もしかったの覚えてるよ。あれに勝ったら俺とトーラがどうなるかぐらいわかってただろ? でも自分のためじゃなくて俺のために勝たせてくれた。相手を思いやる気持ちがあるラーヴァは本物の愛情を持ってると思うよ」

「テンシン……! うぅぅ……ラーヴァ嬉しい。テンシン!」

 

 ジュウゥゥゥゥ

 

 涙を流すラーヴァ。蒸発してしまっているが嬉しい気持ちは変わらない。

 

「ラーヴァからすればトーラは羨ましいだろうけど、それでも我慢してくれた。だから今ちょっとヤンチャするぐらい構わないさ。さっきキスするときだってキスする前に熱くすることもできたのにそうはしなかった。気づきにくいけど、俺はラーヴァの優しさちゃんとわかってる」

「……」

 

 さっき水を被ったあと俺の呼びかけに応えて姿を見せたのもそう。無視して姿を見せないこともできたが出てきてくれた。離れたところにいたけど完全に見えなくなりはしない。ちゃんと俺に会話するチャンスをくれた。そういうところがラーヴァの優しさだ。

 

 そしてこれはラーヴァの意志表示でもある。トーラのことは“半分許す”……これがラーヴァの答えなんだろう。

 

「ラーヴァはトーラが俺を好きなことは許してくれたんじゃない? その代わりラーヴァがトーラよりも愛されたい、そう思ってるんだろ?」

「テンシン……やっぱりテンシンが好き。テンシンはラーヴァの気持ちわかってくれる。ラーヴァのしてほしいことも全部わかってる。ラーヴァのこと全部理解してくれる。ねぇテンシン」

「ん?」

「おねがい……」

「我慢できなくなっちゃった?」

 

 俺が察したのがわかったんだろう。コクコクと嬉しそうに頷くラーヴァ。お望み通り抱き寄せてしっかりと口づけをしてあげた。

 

「情熱的だね」

「……幸せすぎる」

 

 トロトロ状態のラーヴァはそのまま昇華して消えてしまった。成仏したみたいな消え方だったけどエネルギーを使い果たしたとかそんなところだろう。

 

 これでラーヴァもメロメロだ。とりあえず助かった。

 

 なんか世の中の女たらしがどうやって産まれるのかわかった気がする。まず最初に周りからモテて、成り行きで2人、3人と言い寄られながら修羅場潜って乗り越えた先にその境地がある気がする。

 

 次はもう一回ワガママお嬢様の相手だな。次もまたヘビーだ。あろうことかキスの最中に持ちかけた俺の方から部屋を飛び出すという暴挙。どうやって弁明する?

 

 こんなことして俺はいったいどこへ向かっているんだ?

 

 考えても仕方ない! 意を決して飛び込んだ!

 

 ガチャ

 

「あらテンシン、遅かったわねっ! 別にそこまで照れなくてもいいのに!」

「ん?」

 

 自分から誘っておきながらキスの途中で抜け出し長時間相手を放置。トーラなら烈火のごとく怒り狂うと思っていたのにどうした?

 

 罵声が飛んでくるどころかトーラはすでに上機嫌。

 

 う~ん……謎だ。

 

「テンシン、入学式来なかったんだから今日は私に付き合ってこの学園の案内をしなさい。いいわね?」

「ん、そうだな。本格的に授業が始まる前に一緒に見て回ろう。デートなんて久しぶりだな」

「デッ……! まぁそういうことにしてあげるわ」

 

 積もる話もある。ゆっくりアカデミア探索に繰り出した。

 

「あっ! あそこ購買部? なんか食べましょうよ! オススメとかあるの?」

「購買部と言えばドローパンかな。俺は食べないけど」

「ドローパン?」

「いらっしゃい! ドローパンには1つだけ金の卵パンがあるんだよ。今日はまだ出てないねぇ。ドローの腕試しにどうだい?」

「なるほど。パンを食べながらドローの訓練になるわけね。面白いわ! テンシン勝負よ!」

「げ!」

「げ! じゃないわよ! 勝負するのよ! 負けたら奢りね」

「そういうと思った。こんなところで運のムダ使いはしたくないんだけど」

 

 というかデュエルで運が良すぎるのでリバウンドが来そうな予感がして怖い。デュエル以外で運だめしなんて絶対したくない。元々俺はツキのない男なんだ。

 

 でも逃れる方法はなさそう。トーラのゴキゲンのためと思うしかない。

 

「さっきはバカヅキだったクセに変なところで自信ないわよね、テンシンは。さぁどれにするの? サレンダーも負けだからね」

「わかったよ。じゃあこれ……」

「ハイ私がとった! 早い者勝ち!」

「あぁっ! こいつきたねェ!!」

 

 俺が視線を向けた先にあったドローパンをトーラがふんだくっていった。なんて奴だ! 手段を選ばないにもほどがある。

 

 トーラの方こそ変なところでプライド捨ててるよな?

 

「オホホホ! 何を言ってもきこえないわねぇ?」

「これにするか……なんかイヤな予感」

 

 バリッ!

 

「かっっっら!!!」

「タマゴ!!! 私の勝ちー!!」

「おやまぁすごいわね」

 

 結局辛子を食わされた上に2人分の金を払うという最悪な結果になった。

 

 しかも俺が先に目を付けたのに!

 

 パックを開封した時もそうだが本来俺がとるはずだったんだ! だから俺だって本当は運がいいはずなんだ! なのにそれを全てトーラに吸い尽くされている。

 

 もしかしてトーラってラーヴァ以上の悪霊なのでは?

 

 トーラ悪霊説について考えながら校舎の中を食べ歩きしているとヒソヒソとブルー生徒の陰口が聞こえてきた。

 

「なんだあいつ、女子なのにレッドだぞ?」

「どんだけ成績悪かったらレッドになるんだ?」

 

 あいつら……!

 

「おい」

「げ!? 魔王テンシン!?」

「オーバーキルの悪魔!!」

 

 謎のセリフと共にそそくさと逃げていった。

 

「テンシン今のはなんなの?」

「さぁ……それよりトーラ、あんなやつらの言うこと気にするなよ。むしろデュエルで叩きのめして実力の違いを思い知らせてやれ!」

 

 ムスっと鼻息荒く言うとトーラは少し引き気味に答えた。

 

「テンシンってアカデミアに来てから過激になったわよね。別に私は気にしないわよ。でもどうしてテンシンはレッドなの? このアカデミアにテンシンより強い人がいるとは思えないけど?」

「……たしかに」

「たしかにって、じゃあ自分でもわかんないの? 上げてもらいなさいよ」

 

 そういえば大徳寺はもういない。ブルーに上がるなら今がチャンス。クロノスと校長に掛け合えば上がれるチャンスはある。

 

 ついでにトーラの方も一刻も早くブルーにしてもらおう。いつまでもこんな最底辺の生活をさせるわけにはいかない。こんないい子を俺と同じ目には合わせられない。

 




テンシンは女たらしの回
本人には自覚はなし

デュエルなしにも関わらずやたら字数が長い……
どこに力入れてんねん()
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