「なんだと!? これは……なんということだ!」
「どうしたんだ斎王?」
「エドか。フフ、お前はこの私が運命を読み解くことができないと言ったらどう思う?」
「そんなまさか! 君にわからないことなんてありえるのか!?」
「正確にはわからないのではなく読み解けない。つまり未来を解することができないのだ」
「どういうことだ?」
「これを見ろ、エド」
「これは……ザ・ワールド!?」
「そうだ。大アルカナのラストナンバー、ザ・ワールド! 世界の暗示だ」
「このカードが占いに出るところなんて初めて見たよ」
「私もだよ、エド。タロットではカードに様々な意味がある。優れた占い師はタロットの複数の意味の中から正確にその意味を汲み取ることができる」
「なるほど。このザ・ワールドが相手ではその意味するところを推し量ることができないというわけか」
「これは愚者の傍にいるアカデミアの生徒を示している」
「愚者というとあの遊城十代? ヤツの傍に?」
「世界を支配するほどの力を持つのか、あるいは世界を超え次元を超越するような何かがあるのか、それはわからない。だがエド、お前が遊城十代と戦う時その傍に世界を司る者がいるのはたしかだ」
「わかった。僕が探りを入れておこう」
「くれぐれも用心しろよ?」
「もちろんだ。世界を相手にボクが喧嘩を売って勝てるはずがない。心配しなくても上手くやるさ。もっとも斎王、君ならどうにかできてしまうかもしれないが」
「フフフ……よせエド。ともかく用心だけはしてくれよ。あぁ、それともう1つ。世界のカードにはぴったりと寄り添う悪魔のカードがある。この2枚はいつも近くにある。これも世界を知る上で貴重な手がかりとなるだろう」
「了解した」
そしてエドのデッキに斎王の力の息吹が注ぎ込まれ……運命の輪、ホイールオブフォーチュンが動き出す。
◇
昼はトーラと楽しい学園生活、夜はラーヴァと文字通りアツアツの時間を過ごし平穏な一時を満喫していた。
2年生は破滅の光に憑りつかれた斎王が悪さするだけで他には特に脅威はない。斎王に関わる最初のきっかけはエドVSカイザーのプロデュエル後のエドの宣戦布告だ。
エドは深夜にやってくる。そしてデュエルは翌日早朝。まぁ一応デュエルぐらいは見ておこうか。内容が変わるかどうかも気になるし。
無観客試合だったが俺やトーラもデュエル場に入ることはできた。
「おい、お前……」
「ん?」
「お前か? この学園の魔王とでもいうべき裏の帝王は?」
デュエルリングに着くとこれからデュエルだというのにエドが話しかけてきた。しかも俺が誰かある程度調べているらしい。
「何か用でも?」
「どうしたのテンシン? あっ! アンタは……! テンシンに何の用?!」
「世界に寄り添う悪魔……やはりこの2人が?」
世界? 悪魔?
「何わけわかんないこと言ってんのよ! 十代だけじゃなくテンシンにも喧嘩を売ろうってんならまず私が相手になるわよ!」
「なるほど、デビルがワールドを守護しているとすれば……そういうことか。フフ、勝負はよしておくよ。プロは無暗に自分の手の内を明かさないものなのでね」
「フン! 好きにしなさい。私ならいつでも相手になってやるわ!」
トーラは俺がプロにも勝てると言ったせいかやけに強気だ。十代と戦うときエドのデッキには斎王の力が宿っている。本当に勝負することになったら不味かったのでヒヤリとしたがエドがそのことを知らなかったのが幸いしたか。
いよいよデュエルが始まったが肝心の内容が全然頭に入ってこない。今の会話で気になる言葉があったからだ。
世界……悪魔……ワールドにデビル、何の変哲もない言葉だがエドが斎王の使いであることを踏まえると話が変わる。
この2つはどちらも大アルカナに連なる言葉。もしそれを斎王が見たならそれはイレギュラーな存在、つまり俺を占った結果だ。どうして俺が占いの対象になったのかは不明だがすでに斎王に俺の存在はバレてしまったことになる。
そしてエドは俺が世界でトーラが悪魔だと判断したのだろう。だがそれは少し違う。俺を守護する悪魔、それはラーヴァだ。精霊の見えないエドにはわからないことだがこの勘違いは後々尾を引くかもしれない。
斎王はどこまで俺のことを見通しているのだろうか。世界の暗示……俺が特殊な存在であることは無関係ではないはず。色々と探られると面倒だ。
このことは頭に入れておこう。
(テンシン考え事?)
(ラーヴァ、斎王とさっきのプロデュエリスト、エド・フェニックスには絶対存在を悟られるなよ?)
(フフ、大丈夫。ラーヴァそんなドジじゃないよ)
たしかにラーヴァに限って間違いなど起こらないか。
デュエルは知っている通りに進行しやはり十代が負けた。この敗北をきっかけに運命の歯車が回りだす。
◇
「トーラ、お待たせ」
「あーっ! やっときた! おっそーい! アンタいっつも私のこと待たせて!」
「そう言うなって。な?」
ほっぺにキスしてあげると顔を赤くしておとなしくなる。毎朝恒例の出来事だ。
俺が遅れてくるとキスしてもらえるからトーラは毎朝めちゃくちゃ早くからここで待っていることを俺は知っている。
(本当にこの女はブラコンこじらせたどうしようもないむっつりスケベね)
(かわいいもんじゃないか。俺の到着が遅いのは事実だしな、誰かさんのせいで)
(だって、ラーヴァ半日も実体化できないなんてつまんないんだもん)
ラーヴァも俺と離れたくない一心で中々部屋から離れさせてくれない。そしてこの子も必ずトーラにするのと同じものを要求してくる。どっちもどっちだ。
「ねぇテンシン、あの十代って人大丈夫なの? カードが見えないって相当参ってるわよね?」
「デュエルのショックが原因だって鮎川先生は言ってたがそんなはずはない。あいつはそんなヤワじゃないし、いくらショックを受けようがカードだけ見えないなんて普通ありえない」
「じゃあなんだっていうのよ?」
「この学園に危機が迫っているということだ」
ちょっと説明を端折り過ぎたかな? トーラは不服っぽい表情だ。
「どういうこと? おおげさすぎじゃないの?」
「トーラ、これからは慎重に行動しろ。特に知らないやつからのデュエルは絶対受けるなよ、いいな?」
「なんでデュエルがダメなの?」
「十代がデュエルでおかしくなったからだ」
「ふーん」
「約束だからな、トーラ!」
「わかったわよ」
「絶対だぞ? 大事な約束だからな!」
“はいはい”と、うっとうしそうに手を振るトーラ。デュエルさえしなければ問題は起きない。本当に頼むぞ?
普通に考えれば十代の身に起きた異変の原因はあのデュエルだってことは十代を知る者ならわかる。ならばデュエルを避けるというのはおかしなことではない。俺の行動に変なところはないはず。
そして十代の洗脳に失敗した斎王はいよいよ自らこの学園に乗り込んでくる。そのときトーラが餌食になる可能性は十分ある。俺がしっかりと守ってやらなきゃいけない。
ヤツがやってくるタイミングは意外とわかりやすい。万丈目が最初の犠牲者になるのは間違いないからだ。
十代の精霊の力が洗脳の障害になったのか確認するため十代以外で唯一精霊を操る万丈目を狙うのが筋書きだ。これは絶対に変わらないはず。
教室に着いたので自分の席に座った。
「よっこらしょっと」
「プハハッ! テンシンおっさんじゃん!」
「うるせぇなぁ! お前は1年なんだから自分の教室へいけ!」
「ヤーよ。あの恐竜君だっているんだし賢い私には1年の授業なんて退屈だわ」
「とかいって友達いないだけなんじゃ……」
「なんですって!」
結構本気で怒ってめっちゃ関節技をかけてきた。こいつムダに力が強い。長年テンシンをいじめてきただけある。
「仲がいいわねアナタ達」
「どうしたアスカ?」
「げ! おジャマ虫!」
「はぁ……。全く嫌われたものね。別に用ってほどではないのだけど十代見なかった?」
「十代? そういえばいないな。あれだけ騒がしい奴だしいれば気づいただろうけど……」
そうか、とうとう十代失踪か。愚者の放浪はタロットに出ていたはず。このタイミングで斎王はやってくる。そろそろこっちも気を引き締めておくか。
「あら、今度は乗り物君と恐竜君じゃない」
お昼に今度は翔と剣山がやってきた。トーラの発言に対して二人は正反対の反応を見せてくれた。
「乗り物君ってそれボクのことッスか!?」
「恐竜君だなんて……なんかテレるドン」
「恐竜はいいんだ。それで、アンタら何の用?」
「実はアニキがどこにもいないんス! 寮に戻ってもいないし……だから放課後探すのを手伝ってほしいんだけどダメかな?」
「俺は別にかまわ……アヅッ!? わるい、俺はパス」
耐性のある俺にまだこんなことできたのかよ。油断ならねぇ。
「えぇーー!? アニキのピンチなんスよ!?」
「現在この学園に十代を拉致するような連中はいない。ならあいつは自分の意志でここを離れたことになる。そっとしておいてやれ」
我ながらよく舌の回ることだ。ラーヴァ絡みになると口ばかり達者になるよな。
「私は別にいいわよ、探してあげるから感謝しなさい」
「ありがたいドン! じゃあ放課後レッド寮の前で待ち合わせザウルス」
丁度いいし今回はトーラがこいつらと仲良くなってもらうために俺は不参加としよう。さっきの関節技の強さからいって友達はいなさそうだし。ついでに俺が他の連中と一緒に行動するのは気にくわないヤツもいるようだから、おとなしく帰るとしよう。
ブルー寮の自室に帰るとさっそく件の人物がアプローチしてきた。
「テンシン、抱っこ!」
「お前ホント一日中俺にくっついてるだけでよく飽きないな?」
「テンシンは毎日違うもん! いつも新鮮だよ?」
「精霊の感性って人間の理解を超えてるよな」
「ヒヒッ!」
かわいい笑みを浮かべながら俺の体を堪能するラーヴァ。こうして気兼ねなく触れ合えるのは少し前のことを思えば奇跡みたいなものなんだ。この幸せを俺も噛みしめないと損だな。
ゾクゾク!
ラーヴァを強く抱きしめると背後からイヤな感触がした。ラーヴァとは関係ない。第三者の仕業だ。
「誰だっ!!」
外から何者かの視線を感じた。すぐベランダに出て辺りを見渡すと木の陰に怪しい人影を発見。やっぱり誰かが見てたようだ。
追跡するか?
いや、待てよ。俺を盗み見るようなヤツなんてこの学園にはいない。なら当てはまるのは1人しかいないじゃないか。
斎王だ!
「罠だよ」
「みたいだな。お前のこと見られたと思うか?」
「見られてないよ。カーテン越しに中の様子を探るには赤外線とか温度とかで調べるしかないけどそれじゃ精霊は視えないもん」
「たしかに。というかなんで俺は外の視線がわかったんだ?」
「精霊の力のおかげね。テンシンはもう只の人間じゃないから」
なんかそういう言われ方をすると微妙な気分になる。もちろんこの力を手に入れたことに後悔とかは一切ないけれど。とにかく今は斎王のことは放っておこう。好きにするがいいさ。
「ククク……私のことなど歯牙にもかけないというわけですか。ならばこちらは好きにさせてもらうとしよう! まずは万丈目、貴様を白く染め上げこの学園を支配する尖兵にしてやる!」
タロットはそういう設定と思ってください
斎王タイム開幕!