十代が帰ってきた。そして見事にエドを倒しリベンジを果たした。
そしてそれは万丈目によるブルー狩りの開始を示唆している。だが俺は最初から自分の部屋を明け渡す気はない。デュエルは無視、力づくで来ればラーヴァの力で追い払う。レッド寮に逃げ込む気はない。
ブルー女子はジュンコとももえが最後まで白くならなかったから恐らくトーラも大丈夫なはずだ。要するに万丈目と勝負しなければいい。
授業が終わり自室に帰る道中さっそく白い制服の生徒を発見した。
やはり光の結社の者との遭遇は避けられないようだ。さっそく下っ端が喧嘩を売ってきた。
「おいキサマ! お前も我が光の結社の軍門に下れ! この俺と勝負だ!」
「さっそく来たか。デュエルならしない。他をあたれ」
「そうはいかないぞ! 同志がすでにお前を囲んでいる」
下っ端が群れて立ち塞がるか。こいつらこのままマグマで溶かしてやってもいいが、毎回力を使うのも面倒だ。ギャラリーが集まっているなら見せしめをするには丁度いい。
この日のためにホワイト狩り専用のデッキを用意してある。俺は精霊の力でデュエルダメージを実体化させることができる。幻魔戦の時のように。なので破格のオーバーキルによって確実に洗脳を解くことだけに特化したデッキを用意した。
オーバーキルには2回目の洗脳を防ぐという試みも含みにしている。上手くいけば確実に数を減らす方法になるかもしれない。
さぁ、この男で試し斬りといこう。
「待て! そいつには手を出すな!」
「万丈目さん?!」
「どういうことですか?!」
「斎王様直々のお達しだ。命令には従え!」
どういうことだ? 斎王は俺の存在を知っていてかつかなり意識しているようなそぶりを見せていた。なのに手を出すなだと?
もしや占いでデュエルの結果を視たのか? ならば貴重な手駒をむざむざ減らすことはしないか。だとするとトーラも狙われることはなさそうだな。
これじゃせっかくのデッキも出番なしで終わりそうだ。まぁ使わずに済むならそれに越したことはない。デッキを披露すればまた魔王だのなんだのと言われるだろうし。
しかしその認識は甘かったと後悔することになった。
◇
週末の休み明け、とある月曜日の朝。今日もトーラと待ち合わせの場所へ向かうも珍しいことにトーラの姿がどこにもなかった。
待てど暮らせどトーラはこない。そしていつもなら休日は遊びに来るトーラが昨日は音沙汰なしだったことを思い出した。
どうもイヤな予感がする。急なトーラの行動の変化と2日間姿を見ていない事実。すでに斎王による光の結社の侵攻は始まっている。最悪の想像が頭をよぎった。
(今日はあの子こないね)
「これはかなりマズいことになったかもしれない」
(どういうこと?)
「俺の杞憂ならいいんだがそうは思えない。急いであいつを探さないと。たぶん先にアカデミアに着いてる」
(……)
教室に着くと俺の席の周りにはいない。やはり1年の教室か。荷物を置いて急ぎ1年のクラスに向かおうとすると十代に呼び止められた。
「テンシン! 大変だ!」
「悪いがこっちも大変なんだ。後にしてくれ」
「トーラちゃんのことでしょう?」
「……!」
これは明日香の声。ブルー女子であるこいつがこういう発言をするということはまさか本当に……!
「今急速にブルー女子寮が白い制服の奴らに乗っ取られて寮まで真っ白になっちまったんだよ!」
「私はレッドにいたから生活に問題はないけど、それでも何度か勝負を挑まれたわ」
「それで?」
「デュエルに勝つと相手も正気に戻って、でも結局寮に戻るとまた洗脳されちゃって意味なかったんだけどね。でも正気に戻す方法がわかったのは大きな進歩で……」
「そんなことよりトーラはどうなんだ!?」
バン!!
思いっきり机を叩いてしまった。2人は俺の行動に戸惑いを隠せないが重々しく口を開いた。
「急速に白い連中が増えたのはね、そのトーラちゃんがブルー女子とデュエルして回ったせいみたいなの」
ダッ!!
すぐに俺は駆け出した。後ろから制止する声が聞こえたがそんなものは無視だ。一刻も早くトーラを助けないと!
「トーラ!」
トーラがいた! 制服は……白!!
「テンシン? なによ、あんたは2年の教室でしょ?」
「お前……いつもは俺と一緒のクラスだったじゃないか!」
「朝っぱらからうっさいわね……あんたみたいなクズと一緒にいたくないの。早く私の目の前から消えてくれる?」
「な……!」
なんだこれは! まるで最初の頃に戻ったみたいじゃないか! トーラがこんなこと本心で言うわけがない。操られているのか! あいつに操られているのか!
「テンシン! お前足速すぎだろ!」
「はぁ……もう! トーラちゃんを倒せるのは確かにあなたしかいないけど、今はマズいわよ! もうすぐ授業だし!」
「知るか!」
「状況を考えて! もうここはホワイト寮の生徒の方が多いのよ!」
周りを見ればほとんどが白い制服。生き残りはレッドと一部のイエローだけ。ブルーは男女ともにほとんどやられたようだ。
「消えなさい! 負け犬テンシン! あんた達はいずれ光の結社の軍門に下る運命なのよ! また無様に私の前で這いつくばるがいいわ!」
「……仕方ない。戻って態勢を立て直す」
「賢明な判断だわ」
変わり果てたトーラを目にしながら撤退を余儀なくされるなんて……なにやってんだ俺はっ!
◇
放課後、トーラを正気に戻すため猪一番に教室を飛び出しブルー女子寮に向かった。その先では大量の女子生徒が行く手を阻んだ。1年から3年までわんさかいる。
「助太刀するぜ!」
「当然私もブルー女子として放ってはおけないわ」
さっきの俺の様子を見ていた2人も俺の行動を予測してついてきてくれたようだ。俺の前に出て女子生徒達と相対した。
「その必要はないわ」
出た! トーラだ! 神輿に担がれて何人もの生徒を従えている。やはりこの寮のボスはトーラのようだ。
「トーラ! こっちに来て勝負しろ!」
「ヤダ。どうしても勝負したいならアンタが光の結社に入ってからよ」
「なんですって!? そんなことさせるわけないでしょう!」
「ウフフ……言うこと聞かないならテンシンの恥ずかしい過去をしゃべっちゃうわよ?」
「え……?」
思わず明日香がこっちを振り返る。トーラ、何を考えているんだ?
「テンシンの過去? いったい何が……?」
十代もこっちを見た。
「言いたいことがあるなら言えばいい。その代わりお前には俺と勝負してもらう」
「はぁ? 調子乗ってんじゃないわよ! へっぴり腰の負け犬テンシン! あんたあたしに勝てると思ってんの? だったら言ってやるわ! あんたはこれまで毎日あたしに負け続けて近所のいじめっこにもカードを取られ続けた負け犬だったわよねぇ。みじめだったわよねぇ。来る日も来る日も泣き続けてたこと、まさか忘れてないわよね?」
「えっ!? ウソでしょ!?」
「そんなことが?! 本当にあったのか!?」
助太刀に来た明日香と十代は驚いている。俺のことをよく知るのはこの学園ではトーラだけ。俺がいじめられていたなんて今となっちゃ想像もできないだろう。
「あんたは必ず守備表示! いじめられても守備表示! あたしに蹴られようが罵倒されようが黙って泣くだけの泣き虫テンシン! あんたなんかが兄弟なんてあたしにとって恥でしかないわ!」
「トーラ……」
言われたことは全て俺がテンシンとして覚醒する前のこと。どれだけ言われようと今の俺にとっては関係のないことだ。他人の行いについて何を言われても俺はなんとも思わない。
だがこんな姿のトーラを見ると俺はたった一度の過ちでどれほどのものを失ったのか痛感させられる。これまで努力して積み上げてきたかけがえのない家族との絆、その全てを失ったんだ。そして自分の甘さと未熟さに頭がおかしくなるほどの憤りを感じた。
「うふ、アハハハハ!! あんたもしかして泣いてるの!? テンシン、あんたって本当に非力で意気地なしの泣き虫よねぇ!!」
「そんな……テンシン! しっかりして!」
「気にするなテンシン! お前は弱くなんかない! お前の妹は俺達が救ってやる!」
こいつらはわかってない。この涙はそんな安っぽいもんじゃない!
ズキズキ!
頭痛と共に瞬間脳裏に知らない記憶がフラッシュバックした。これは……テンシンの記憶?
最も古い記憶…………テンシンはいじめっこを撃退してトーラにとって憧れの存在だった。カッコよくて強くて優しい。トーラの理想の男の子。だがある日を境にテンシンは変わった。
いじめっこに抵抗せず、逆に全てを差し出した。見目麗しい容姿は嫉妬を招きいじめは苛烈を極める。そしてトーラにも火の粉が降りかかり決断を迫られた。
そうだ、思い出した!
「俺はたしかにイジメられていた」
「そんなっ!?」
「テンシン! 気をしっかり持て! 弱気になるなんてお前らしくないだろ!」
2人の言葉を無視して話を続けた。
「俺とトーラは常に周りから妬まれ続け嫉妬の対象になっていた。家庭の事情でイジメられやすい境遇にもあった」
「でもいじめられたのはアンタの自業自得よ! あんたが臆病でなんにもやり返せないから悪いのよ! 意気地なしで根性なし! その証拠に私はイジメられてないもの」
「違う!!」
ビクッ!!
突然の大声に3人とも驚いて黙ってしまった。
「何も知らないお前がテンシンを語るな! テンシンはこんなバカな妹のためにその身を捧げたとでもいうのか? それじゃあんまりにも報われないじゃねぇか」
「は……はぁ? 何言ってんのアンタ? 頭おかしくなったんじゃない?」
「おかしくなったのはお前だトーラ! そしてお前は何もわかっちゃいない!」
「なんですって!?」
「テンシンは自分以外の全ての幸福を願っていた。そしてトーラ、お前が幸せであることを最も強く望んでいた」
「あんた何言って……」
もう俺は止まらない。トーラに真実を告げるときが来た。
「テンシンは争いをやめた。争いで相手を傷付けることを拒んだんだよっ! さらに他人から求められたものは全て差し出したし暴力に抵抗もしなかった。わかるか? カードは取られたんじゃなく差し出したんだ! 大事な1枚を除いてな。あの時なら死ねと言われたら死んだだろうさ」
「そんなまさか! テンシン、あなた本当に何を言って……」
「明日香! 今は黙っててくれ!」
「でも十代!」
さらに話は続く。
「自分が不幸になるのは構わない。だがその火の粉はトーラにも及び始めた。そこでテンシンはトーラを守るため大胆な考えを思いついた。それがトーラの心に傷を残すとは露ほども思わずに」
「はぁ? 何よそれ」
「それはトーラを加害者にすることだ」
あまりにもショッキングな内容にトーラは言葉を失った。
「まさか、妹を守るために自分をイジメさせたのか?」
「そんな……」
明日香も十代もまさか、という表情だ。だがそんなありえないことが本当にあったんだ。
「そしてあるとき、イジメの原因が己の容姿だと悟った。それからは自分の顔を隠すために髪を伸ばし自分の風貌もできるだけ醜くなるように努めた」
「テンシンってそういえば最初は髪が長かったわよね……」
「ウソばっかりいってんじゃないわよ! 人間がそんな自分を捨てるような行動するわけないでしょ!」
「そうさ、テンシンは人間として壊れていた。言うなれば善の魂のカタマリ。悪の魂を完全に失っていた。そして大切な家族を失いかけていたんだ」
あまりのことに明日香とトーラは絶句している。
「じゃあどうして今、お前は変わったんだ」
十代の真剣な言葉。俺は十代にも示さなければならない。自分が何者なのかを。
「俺の心に悪魔が宿ったのさ」
「悪魔?」
「そう。失ってしまった悪の魂を手に入れた。お前にもわかる言葉で言えば、俺が正しき闇の力を手に入れたからだ」
「正しき闇の力!? それ、いったいどこで!?」
十代はきっとアクアドルフィンのことを思い出しているのだろう。そうだ、その話だ。
「行き過ぎた善は悪にも等しい。人が、世界が、宇宙が! その姿を保つには善だけではダメなんだ。善と悪、2つのバランスが崩れてしまえば待つのは破滅。光の結社、お前達もそうだ。光だけでは人は生きていけない。人には闇が必要なんだよ」
「バカバカしい! それが光の結社に入りたくない理由ってわけ?」
「違う。これは今、俺が覚悟を決めた理由だっ!! 優しいだけでは大切なモノは守れない。時には悪魔に身を委ねることも必要なのさ。だから俺はどんな手段を使ってもお前を取り戻し、そしてもう二度と失うことがないようにお前の心に刻み付けてやる」
「何を刻み付けるって言うのよ?」
「俺は優しいだけの男じゃないってことを教えてやるよ。好きな女との約束のためなら鬼にでもなろう! 悪魔にでもなろう! どんな犠牲だろうと厭わない!」
ジュジュゥゥゥゥ
精霊の力を解放。きっとこれを手に入れたことも運命だったんだ。
この力は自分の大切な絆を守るために命がけで手に入れたんだ!
「なんの音!?」
「えっ! 涙が蒸発してる!? テンシン、あなたいったい……!」
ブワッ!!
広がる熱気にただならぬものを感じたのかトーラは慌てて手下たちに命令した。
「あいつを取り押さえて!」
「止まりなさい!」
「おとなしくしないと痛い目に……ギャァァァァ!!!」
ジュゥゥゥゥ……
手を伸ばしてきたブルー女子の1人の顔をつかみマグマの力をこめて焼き焦がした。
それでもつかみかかってきた2人目は首根っこをつかんで宙に持ち上げた。
「アヅイィィィ! 死んじゃう!! 助げてぇ……」
「テンシンやめて! いったいなんなのこれは!?」
「なんてこった! 明日香! これは精霊の力だ! テンシン、お前いつからこんなことできたんだ!!」
「フン!」
ドサッ!
投げ捨てたブルー女子は白目を剥いてビクビクと痙攣しながら気絶している。一歩ずつトーラに向かって進んでいくがもう俺を止めようとする者はいなかった。
「なにしてんの! さっさと取り押さえて! ええい、このっ!」
トーラが近くにあったものを俺に投げ飛ばすが俺はそれをキャッチし瞬時に溶かしてみせた。
「ひっ!」
「そいつらは非力な女だから手加減した。次はお前だ」
「なんてことなの……! 何が泣き虫よ、何が意気地なしよ! てんで的外れだわ! とんでもない怪物よ!」
明日香の叫びに対して十代は冷静だ。
「いや、これが正しき闇の力……破滅の光と戦うための力なんだ」
「そうだ十代、よく見ておけ。大切なものを守りたければ覚悟を持て。覚悟こそが力なんだ」
ジュゥゥゥゥ……
「キャァァァアアアアア!?」
神輿に熱を伝え触れなくした。担ぎ手がいなくなった神輿は地面に落ち、俺は難なくトーラの元に辿り着いた。
「待って! ごめんなさい! 調子に乗ってごめんなさい! お願い許して!」
トーラは態度を一変させて許しを乞う。臆病なトーラらしい。洗脳が解けかかっているのかもしれない。
どんどん近づき、互いに顔がすぐそこまで接近した。
「テンシン! 落ち着いて! トーラちゃんまで燃やしちゃダメ!」
「大丈夫だ、テンシンなら上手くやる! テンシンが持ってるのは正しき闇の力だ!」
トーラに対して俺が行ったのはいつもしているおはようのキスだった。
チュ…………
「えっ…………」
「ついておいで」
「は、はい…………」
制御できない力に価値はない。傷つけたくないものには優しくできる。これこそが命がけで身に着けた精霊の力だ。
悪の魂を失い、善の魂のみとなったテンシンは究極の自己犠牲に囚われ身を滅ぼしていた
そんなとき、唐突に悪の魂に染まったテンシンは精霊の力を求めて暗躍する
トーラとの出会いをきっかけに本来持っていた善の魂を少しずつ取り戻し、穏やかな性格が芽生え始めた
そして善と悪2つの魂が完全に1つとなり、精霊の力を掌握するのだった。
あらすじ風に書くとこんな感じ?