こんなんじゃ満足できねぇぜ……
あっけにとられる2人の横を素通りし、トーラをデュエル場に連れてきた。まさかあのデッキの最初の相手がトーラになるなんて思いもしなかった。だが、あるいみこれは絶好の相手だ。このデッキはトーラこそ最初の相手にふさわしいのかもしれない。
「覚悟はいいな。俺とデュエルだ」
「いいわよ、ここまできたら受けて立つわ! だけどさっきのアレは何よ! それだけはちゃんと説明しなさい!」
「アレってなんのことザウルス?」
「なんスかアニキ?」
「それは……まぁあれだ」
「そんな説明じゃ意味不明だドン」
このデュエルにはたくさんの生徒が観戦にきている。ホワイトとアカデミアの威信をかけた戦いということになっているらしい。翔や剣山も駆け付けた。
「デュエルする前に1つ断っておきたかったのさ。俺がこれからすることはお前への憎しみゆえではなく、愛ゆえの行為なのだと」
「はぁ? ただデュエルするだけで何を言ってるの?」
ボボッ!
火球が飛びトーラをかすめて壁に激突。焼け焦げた跡がハッキリと残った。
「今飛ばしたのはファイヤーボール。俺がその気になればデュエルでダメージを実体化するぐらい造作もない。これからお前には痛い思いをしてもらうことになるから覚悟を決めろ。命を張る覚悟をな」
「ハハッ! なによそれぐらい! 私が勝つんだから関係ないわ! あんたこそ負ければ光の結社に入ってもらうってこと忘れないでよね! あたしはこれまで全試合で2ターン以内に勝利してきた。この意味がわかる?」
先攻なら2ターン、後攻なら1ターンで勝利ということか。面白い。
「なら俺も宣言しよう。俺はこのデュエル必ず1ターンで勝利し、かつ10000以上のダメージを与えて勝つ」
オォォォォ!!
観客がどよめいた。
「いったわね? じゃあ宣言通りにいかなかったらあなたの負けでいいかしら」
「構わない」
ニヤリとトーラがほくそ笑む。しかしトーラは正気の2年生が顔を真っ青にしていることに気が付いていなかった。
「「デュエル!!」」
互いに動かず睨み合いが続く。トーラが動かないならこちらからカードを引かせてもらおう。
「ドロー!」
「ぷくく…………アハハハハハ! バカね! やっぱりアンタは大間抜けだわ! やってくれるんじゃないかと思ったら案の定! 自滅したわね!」
「どういうことだ?」
「あんたは1ターン目に勝つって言ったのよ? 先攻には攻撃は許されていない! 戦闘できなきゃどうしようもないわ! そんなこともわからないなんて、やっぱりアンタは落ちこぼれよ!!」
ゲラゲラと笑っているのは白く染まって何もかも忘れたヤツだ。正気の者は誰一人笑っていない。世渡天真の恐ろしさを耳にしたことがあるからだ。
「戦闘? ぬるいな。そんな悠長な攻めを今の俺はしない。本気の俺は直接ダメージ! 直接ダメージによる速攻で勝利する!」
「直接ダメージですって? あんたは10000って言ったのよ? それだけのダメージを1タ―ンで? バカも休み休み言いなさい」
「言っとくが、10000というのはお前に警戒させ過ぎないために少なめに言ったんだ。俺はできれば先攻で勝負したかったからな」
「え…………?」
ここでようやくマズイことになったかもと思い始めたようだ。だがすでにサイは振られた。カードを引いた以上俺の先攻は覆せない。
「後攻だとデッキ破壊ウイルスなどを先に使われると厄介だ。だから戦闘できない1ターン目を譲りたくなるようにさっきの発言をした。だが俺は10000程度で終わらせる気はない。お前を正気に戻すだけじゃ足りない」
「アンタ、なにいってんのよ?」
「俺という存在をお前の中に忘れられない記憶として刻み込むためには10000ぽっちじゃまだ足りない。お前の軽率な行為に伴う罰、そしてお前の兄が恐ろしい悪魔だってことをその身で思い知るためにはもっと必要だろう?」
「なに語っちゃってんの? じゃあ私のライフをもっと増やしてもいいわけ?」
「ならいくらほしい? 言えよ? 好きなだけやる」
「はぁ? だったら100万よ! いいの? 無理よねぇ? 今そこで土下座して謝ったら許してあげるわよ」
「構わない。100万でいいんだな」
「なっ!?」
ディスクが反応して表示が変わった。音声認識?
テンシン4000 トーラ1000000
異例のマッチング!
「ちょっと、そこのあんた達! いいの!? 本当に1ターン目で100万削れなかったらテンシンは白く染めるからね!」
その言葉には明日香が答えた。
「あなたは自分の心配をしなさい!」
「はぁ?」
「明日香先輩! 何言っちゃってるドン!? トーラの言う通りだドン! 100万なんてバカげてるザウルス! やめさせないとマズイことに!」
「違うんだ剣山! これは前にもあったんだ! ダメージの実体化、そしてこの異様なダメージ量の宣言! 三幻魔の時と同じだ!」
「三幻魔ザウルス?」
「剣山君はいなかったから知らなくても仕方ないけど、今の状況はあの時と全く同じ! だとするとテンシンが使うデッキはあのデッキの可能性が高い!」
「翔君にとっては複雑よね…………」
「どういうことドン!」
「これで1つ謎が解けた。テンシンがあの力を使えるのは三幻魔の影響に違いない。そしてテンシンはそれを見事にコントロールして自分のものにした。今度は悪いことするためじゃなく正しき闇の力を行使するんだ」
そうさ、だが1つ付け加えておかないといけない。俺が覚悟を決めて真にこの力を理解したのはまさに今、この時なんだ!
「まずは魔法都市エンディミオンを発動!」
「魔法都市!? アンタ魔法使いも使えたの!?」
「うぬぼれるな!」
「えっ」
ビクッとトーラが後ずさりした。普段からは想像できないテンシンの姿に恐れを抱いている。いかに自分が無知だったのかトーラは理解することになる。
「お前にできて俺にできないことなどない! これまで何も教えてやれなかったが、今日ここで本当の魔法使いの使い方を教えてやろう」
「出た!」
「ヤバイわよ! テンシン本気でトーラちゃんを叩き潰すつもりだわ!」
そう、これは以前三幻魔の時に披露したリミッター解除ワンキルの改良版。覚悟を決めた俺には淀みなくカードが流れてくる。以前とは比べ物にならないパワーをとくと味わうがいい。
「苦渋の選択! さぁトーラ、1枚は俺の手札、残りは墓地だ。選べ」
神聖魔導王エンディミオン
誘蛾灯レベル4×3枚
妖刀竹光
「当然選択するのはモンスターのエンディミオンよ! そのカードは墓地から蘇生できるもの」
「無知は大罪」
「なんですって!?」
「思った通りに動いてくれて助かるよ。その選択はお前にとって破滅の選択。たった1度の選択の誤りがその身を滅ぼすことになる」
「何が破滅よ! バカバカしい! たった1回の選択ぐらいで破滅なんておおげさな……」
「ならどうしてデュエルをした! 俺との約束を破った! 俺は白の連中とは関わるなと言っただろう! どうしてだトーラ!! それさえ破らなければこんなことにはっ……!」
「テンシン、お前そんな約束をしてたのか」
そうだ十代、これはお前に向けた言葉でもある。後悔したくなければ自分の行動に責任が伴うことを自覚しなければならない。
「うるさいわね! そんなこと忘れたわ!」
「ならば正気に戻った後聞き出すとしよう。そしてお前を白く染めたヤツは必ず肉焦がし骨溶かすこの力で抹殺してやる。そしてトーラ! お前は二度と俺に逆らえないようにしっかりと躾けてやろう!」
「誰が誰を躾けるですって? できっこないでしょ?」
「これをみても同じことが言えるか? 墓地へ送られた4枚のカードの効果を発動!」
「4枚全て発動するドン!?」
「これが狙い!?」
「そういえばあのトラップカード、この前プロデュエリストが使ってたぞ! たしか効果は……」
プロランカーのデッキ破壊使いか。十代にとっては最近戦った相手だったようだ。
「デッキからレベル4のモンスターを特殊召喚。合計3体だ! 現れろ!」
王立魔法図書館(守備表示)
王立魔法図書館(守備表示)
古代の機械騎士(攻撃表示)
《古代の機械騎士》
デュアル・効果モンスター
星4/地属性/機械族/攻1800/守 500
(1):このカードはフィールド・墓地に存在する限り、通常モンスターとして扱う。
(2):フィールドの通常モンスター扱いのこのカードを通常召喚としてもう1度召喚できる。
その場合このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
●このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。
「いきなり王立魔法図書館が2体も!?」
「さらに妖刀竹光の効果! 折れ竹光を手札に加える。ついでに3体目の王立魔法図書館を手札から守備表示で召喚。これで場に3体の王立魔法図書館が揃った。こうなればもう止まらない」
「魔法の補充すらも一気に済ませている。とんでもないことになるわよ! でもあのアンティークはなんなの?」
少しは説明してあげようか?
「先攻がとれなかったときアンティークの魔法罠封殺能力は便利だ。そしてレベル4の機械族としてはこいつが最大打点でもある」
「そのデッキに機械族なんかいれたら相性サイアクよ? テンシンごときじゃそんなこともわからないようね」
「機械族こそこのデッキの目的でありコンセプトなんだよ。続けて折れ竹光を王立魔法図書館に、団結の力をアンティークギアナイトに装備。攻撃力は3200上昇し5000となる」
団結の力で攻撃力を上昇させ低い攻撃力を補う。装備魔法を戦術に組み込むことで竹光も自然に採用することができる。
「王立魔法図書館のカウンターは2つずつ。どうするんだテンシン?」
「魔力掌握を発動! 魔法都市エンディミオンに1つカウンターを乗せ、マジックの発動でさらにそれぞれ追加される。王立魔法図書館の効果をそれぞれ使い3枚ドロー!」
手札6枚 魔法都市5コ 図書館×3 0コ 機械騎士 竹光 団結
「なんてこった! 手札が減ってないドン!」
「それだけじゃない…………来るよ! あのカードが!」
「あのカード?」
そうだ、これが悪夢の始まりだ!
「速攻魔法発動! リミッター解除! アンティークギアナイトの攻撃力を2倍にする!」
「攻撃力10000!?」
「いきなり10000、だがこの程度で終わるはずもない!」
「バカね! 何を驚いているの? こんなのバカ丸出しじゃない! このターン攻撃できないのだから攻撃力を上げても無意味! しかもエンドフェイズに破壊される!」
「愚か者め!」
「なっ?!」
「本物のお前ならそんなバカな発言ありえない。やはりお前は偽物。全て忘れてしまったか。その顔原型がなくなるまでぐちゃぐちゃに溶かしてやろうか?」
「ひっ!?」
あんまりにもバカ過ぎる発言に思わず怒りが先行してしまった。だが恐怖にひきつる妹の顔を見てなんとか思いとどまった。怒りに身を任せてはダメだ。
「テンシン!? 洗脳されてるけどあなたのかわいい妹なのよ!」
「わかってる。だがデュエルは手加減しない。限界までいかせてもらう! 魔法都市の6つのカウンターを取り除き手札からエンディミオンを特殊召喚! リミッター解除を手札に! さらにハリケーンを発動し全て手札に戻す! このときすでに因果関係の切れた団結の力が外れても攻撃力は変わらない。そして再び魔法都市を発動! 再び3枚ドローして団結の力を発動する!」
ここは少し手順がややこしい。神聖魔導王でリミッター解除を回収するためには先にリミッター解除を使っておく必要があり、リミッター解除で参照する攻撃力をあげるため団結の力も先に発動しなければいけない。
なので団結→リミ解→エンディミオンの順になりその後さらに因果関係が切れた団結の力を回収する流れとなる。
「なんてことだ! アンティークの攻撃力は14000ッス!」
「効率的に攻撃力を上昇させてきたわね」
「前よりもヤバイことになっちまうぞ!」
十代達はこの動きのおそろしさをよく理解している。
これがこのデッキで最大打点を稼ぐことができる動き。こうなれば最後は……
「なぁトーラ、俺は1度のリミッター解除で攻撃力を14000にした。この意味が分かるか?」
「エンドフェイズに自壊するってこと?」
強がってんじゃねぇよ。
なら教えてやる!
「俺にはあと14回のリミッター解除が残されてるってことだよ! リミッター解除発動! 28000! さらに魔法再生! 魔力掌握と折れ竹光を捨ててリミッター解除を回収! 再び発動! 56000!」
「アンタ、まさかそうやってリミッター解除を10回以上使いまわすつもり!? 攻撃力いくつまで上げる気よ!?」
「100万ぽっちじゃたえられねぇよ。エンディミオン5回、魔法石の採掘、魔法再生、鳳凰神の羽根、まだまだあるんだ、ゆっくりしていけよ」
「ひぃぃぃ!!!」
わざわざ少しデッキ枚数も増やしてある。エンディミオンを5回以上使うためだ。トゥーンのもくじやSinエンドがない代わり苦渋誘蛾灯コンボで回転率は上がっている。まぁ苦渋はいずれ禁止になるだろうな。この世界ですら悪用しているヤツが多いし。
「112000! さらにリミッター解除! 224000! さらに魔法石の採掘ゥ! リミッター解除回収ゥゥ!!」
「ウソ! 本当に全部使い切るの!? やめなさいよ……やめてよ!」
「やめねぇよ!! お前が泣いてもリミッター解除はやめない!! 896000! 1792000! 鳳凰神の羽根!」
全ての魔法回収カードを使い切り攻撃力はこのデッキの理論上最大値と並んだ。
14000 → 229376000(2億2937万6000)
2の14乗は16384倍。想像を絶する数値。
「でも、攻撃ができなければ…………」
「エクトプラズマー発動!」
「そのカードは……!」
OCGでは墓地参照だがこのエクトプラズマーは現在の攻撃力を参照する。ちゃんとこのデュエルディスクで団結の力リミッター解除と一緒に試している。これでダメージは1億を超える。
「テンシン待って! 私が悪かったわ! あなたを侮辱したこととか全部謝るから!」
「侮辱? なんのこと? お前の罪は俺との約束を忘れたこと。俺との思い出を忘れたこと。俺の本当の姿を…………知らなかったことだ! アンティークギアナイトをエクトプラズマーで射出!!」
1000000 → -113688000
「ぐぇっ!!!!」
トーラはショックで意識を失ったようだ。衆人環視で女の子に恥をかかせるわけにはいかない。手早く回収してトーラを保健室へ運びこんだ。
◇
「うぅぅ……」
「目が覚めたのね!」
「鮎川先生? あれ、私どうして……」
保健室でトーラが目を覚ました。デュエルの後俺はトーラを担いで保健室に連れていき眠りが覚めるのを待っていた。
「あなたは光の結社に洗脳されていたのよ。でも大丈夫、もう洗脳は解けたわ」
「そうだ、私同じ1年の生徒とデュエルして負けたんだ」
「誰だ? 誰に負けた?」
俺にとって今最も必要な情報だ。そいつだけはタダじゃおかない。
「テンシン!?」
バッとふとんの中に丸まって隠れてしまった。
「トーラさんどうしたの!?」
「気にしなくていいですよ。トーラって本当は臆病な子なんです。俺に怒られると思って怯えてるだけですから」
「世渡君!? ちょっと、妹をいじめちゃダメですよ!?」
「わざわざここまで担いできた肉親を意味もなくイジめるわけないでしょう」
「そ、それもそうね」
俺と先生の会話に聞き耳を立てていたのかトーラがひょっこり顔を出した。
「テンシン……? じゃあテンシンが私を助けてくれたってこと?」
「トーラ、約束を破ったことは怒ってる。けど俺もトーラを守ってあげる約束を破ったことには変わらない。今回はおあいこってことで何も言わないことにしよう」
「そっか。じゃあもう怒ってないのね」
「当たり前だろ。俺がデュエルしただけで急に怖い兄貴になったことなんてないだろ?」
ここで初めてトーラの表情に笑みが浮かんだ。警戒は解けたようだ。
「だがお前を倒した相手は絶対に教えてくれ。お前を倒すほどの腕前なら脅威だし、またお前が洗脳されないようにそいつは念入りに潰しておく必要がある」
「とか言ってその人にヒドイことして復讐するつもりじゃないでしょうね?」
「それは相手の態度次第だな」
「ダメですよ! 生徒の皆さんは洗脳されているだけなんでしょう? 暴力はいけませんよ!」
真面目な人だな。まぁ目の前でこんな会話したら普通止めるか。
「大丈夫、デュエルで洗脳を解くだけですよ。トーラ、相手の名前は?」
「さぁ、名前は知らない。ただデッキの相性がサイアクだったの! 私の魔法カードを封じてきて……えっと、なんていうカードだったかな?」
「マジック・キャンセラー?」
「違うわ」
「魔封じの芳香?」
「それってトラップカードよね? 1タ―ン目で発動されたのよ。モンスター効果だったわね」
「まさかホルスの黒炎竜か! レベルなんちゃらみたいな」
「あっ! それよそれ! レベルアップとか使ってきたの!」
それならトーラが負けても仕方ない。俺以外にはトラップカードの割合は減らしてデュエルしている様子だし。
「たしか1つ下の学年にホルス使いがいたな。ブルーのエースとかで。後々敵に回ったら面倒な相手だし今後10年は歯向かえないように叩き潰してやる」
「世渡くん!」
「殺しやしませんよ。洗脳を解く過程で保健室送りにはなるかもしれないけど」
たしか名前は空野だったっけ。会うのが楽しみだ。
◇
「斎王様」
「何かありましたか?」
「世渡トーラと空野が光の結社から抜けてしまいました」
「やはり……『世界』の様子は?」
「烈火のごとく怒って2人を凄まじいオーバーキルで倒しました」
「どれほどの?」
「桁は億を数えたとか数えないとか……」
「げに恐ろしきは『世界』の力よ。やはり我々が手を出すべき存在ではなかったか」
「かの者は妹であるトーラを溺愛しているようで次に手を出したものには命の保証はできないとの言葉を残しています」
「なに? それは使えるかもしれないなぁ。ヘァ……」
誘蛾灯レベル4はアニオリカードです。
時系列的に少し前に使われてます。
シンプルに強すぎてデッキ破壊に使ってることが謎のカード。
リミ解デッキはひとまずこれで満足♪
今後のデッキは別ベクトルで面白いのを色々使っていきたい……