テンシンはすぐに見つかった。
「もっと早く来るかと思ってたが、案外遅かったな」
「その制服! 本当に白に染まってるドン!」
「こんな姿を見る日がくるなんてね」
私のことは見るそぶりもない。眼中にないんだ……正直今の私にとってはこの上ないほどありがたかった。
「俺の相手はお前か、十代?」
「いや、その前にこのティラノ剣山と戦ってもらうドン!」
「その前? クク……なるほど」
ジロッ
一瞬こっちを見た。瞬間金縛りにあったように動けなくなった。
こ、怖い……。
束の間の出来事だったけどそれだけで私の心は恐怖に縛り付けられた。少なくとも私がデュエルすることは絶対に不可能だ。今はカードを引くことすらできそうにない。
「どうしたドン? 受けるのか、受けないのか、どっちザウルス?」
「受けてたとう。遊んでやるよ」
あっさりと勝負を受けた。デッキはないはずよね?
同じことを思ったのか明日香さんが探りを入れた。
「あなた、勝つ自信があるの? 剣山君にはラヴァゴーレムは通用しないわよ?」
「そんなもの出すまでもない。いや、先に宣言しておこう。俺はこのデュエル、モンスターカードは使用しない」
「なんですって!?」
「モンスターを使わない? じゃあどうやって勝つつもりなんだ?」
「ラッキーッス! 本当に大大大チャンスだ!」
テンシンをよく知る者は驚き、深く知らない者はハンデに喜ぶ。だけど恐竜くんは違った。誇り高くそして自分の強さに自信を持つこの人はテンシンの発言に怒りをみせた。
「ふざけやがって……いくら先輩でも許せないドン! この俺を舐めたこと後悔させてやるドン! 構えるザウルス!」
「恐竜デッキのパワー、見せてもらおう」
「「デュエル!!」」
「まずは先攻! ドロー! 俊足のギラザウルスを特殊召喚! さらに大進化薬を発動! これで3ターンの間生贄は不要になるドン! 暗黒ドリケラトプスを召喚!」
《俊足のギラザウルス》
効果モンスター
星3/地属性/恐竜族/攻1400/守 400
(1):このカードは手札から特殊召喚できる。
(2):このカードの(1)の方法で特殊召喚に成功した場合に発動する。
相手は自身の墓地のモンスター1体を選んで特殊召喚できる。
《大進化薬》
通常魔法
自分フィールドの恐竜族モンスター1体をリリースしてこのカードを発動できる。
このカードは発動後、フィールドに残り続け、
相手ターンで数えて3ターン目の相手エンドフェイズに破壊される。
(1):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、
自分はレベル5以上の恐竜族モンスターを召喚する場合に必要なリリースをなくす事ができる。
《暗黒ドリケラトプス》
効果モンスター
星6/地属性/恐竜族/攻2400/守1500
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
このカードの攻撃力が守備表示モンスターの守備力を越えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
「ほう……」
「これでターンエンドン!」
「伏せカードはなしか」
「へっ! モンスターを出さない相手にトラップカードは必要ないザウルス!」
たしかに攻撃される心配もないし大丈夫そうね。テンシンはいったいどうやって勝利するつもりなの?
「三沢くん、あなたならどうみる?」
「モンスターを使わないというのが本当なら勝つ方法は2つしかない。効果ダメージで勝つか特殊勝利を狙うかどちらかだ」
「どちらにせよ特殊な構築にはなってしまうわね。しかもエクゾディアは使えない。ウィジャ盤か終焉のカウントダウンが可能性としては高いのかしら」
「効果ダメージは禁止制限のルール上狙いにくいしそうなるだろうな」
すごい! この人達もうそんなことまでわかっているの? デッキは弱いけどカードのことはよく知ってるのね。
「ドロー! カードを5枚セットしてターン終了」
「やっぱりモンスターなしじゃ打つ手なしドン? ドロー!」
この時点でウィジャ盤はなさそうってことね。しかも終焉のカウントダウンだとしたら初手で引けてないのは大きい。案外簡単に勝てちゃうかも! そしたらテンシンが帰ってくる!
「そんなに甘いわけないだろ?」
ドキッ!
テンシンの言葉に反応してそっちを見てしまい、バッチリと目が合ってしまった。今の言葉、まるで私に向かって言ってたような……。
ドクドクと心臓がイヤな鼓動の刻み方をしている。緊張して手が汗ばんできた。全身が鎖で呪縛されているような感覚。
気持ち悪い……
「こっちは別にモンスターを使わないでくれと頼んだわけじゃないし、遠慮しないドン! まずは大寒波を発動! これで魔法罠は根こそぎ使えなくなるドン!」
《大寒波》
通常魔法
メインフェイズ1の開始時に発動する事ができる。
次の自分のドローフェイズ時まで、お互いに魔法・罠カードの効果の使用及び発動・セットはできない。
「上手いわ剣山君!」
「よし! これで……いや! 油断するな!」
「そうだ、三沢は大嵐を使って負けたんだ。油断はできない」
そうだ、さっき聞いた話で三沢さんは大嵐をかわされてエクゾディアで負けたんだった。テンシンが無策でこんな布陣を引くはずがない。
「チェーンして和睦を発動させてもらおうか。さぁ、どうぞ? お前のターンだろう?」
「ぐっ!? それだけドン? でも意外と面倒ザウルス……ダークティラノを召喚してターン終了」
《ダークティラノ》
効果モンスター
星7/地属性/恐竜族
攻撃力 2600/守備力 1800
相手フィールド上に攻撃表示モンスターがいない場合、このカードは相手プレイヤーに直接攻撃ができる。
こんなのでやり過ごせるの? のらりくらりと、でもテンシンらしい。洗脳されてもまだ元の人格は生きてるってことなのかな。
「俺は何もできない。ドローしてターン終了」
「ドロー! 今度こそ総攻撃ドン! まずは暗黒ドリケラトプスで攻撃!」
「トラップカード発動」
「やっぱりトラップカードがまだあるか」
「いったいどんなカードがくるのかしら?」
十代や明日香さん、みんなが注目する中テンシンの場になぜか突然モンスターが現れた。
なにあれ……スライム?
「モンスター!? 使わないっていったはずドン?」
「発動したのはメタル・リフレクト・スライム。これはトラップカード。モンスターカードを使わないとしか言っていないのでね」
《メタル・リフレクト・スライム》
永続罠
(1):このカードは発動後、効果モンスター(水族・水・星10・攻0/守3000)となり、
モンスターゾーンに守備表示で特殊召喚する。
このカードは罠カードとしても扱う。
(2):このカードの効果で特殊召喚されたこのカードは攻撃できない。
「トラップモンスターってわけか。粋なマネをするドン」
「そいつは守備力3000の壁になる。このターンは突破できないな」
「おっと、そうでもないドン? 手札から速攻魔法発ドン! サイクロン!」
速攻魔法なら手札から発動して追撃できる。あのカードさえ破壊できれば恐竜モンスターのダイレクトアタックが通るわ!
「上手いぜ剣山! トラップモンスターならサイクロンで破壊できる!」
「リバースカード発動、宮廷のしきたり」
「なにあれ? 知らないカードだ」
「あれはマズイぞ!」
三沢さんは知ってるみたい。私も知らないけどいったいどんな効果なの?
「宮廷のしきたりは永続罠を破壊から守るカード。これでサイクロンは無効となり戦闘でも破壊できなくなる」
《宮廷のしきたり》
永続罠
(1):「宮廷のしきたり」は自分フィールドに1枚しか表側表示で存在できない。
(2):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、
「宮廷のしきたり」以外のお互いのフィールドの表側表示の永続罠カードは戦闘・効果では破壊されない。
「そんなのありドン!? くっ……。めんどうなカードだドン! でもこれで終わりじゃないザウルス! ダークティラノはその能力でダイレクトアタックができるドン!」
上手い! これで大ダメージよ!
攻撃は……通った!!
LP 4000 → 1400
「おぉ、やるじゃないか……残り1400か。だが、これでもう魔法罠を破壊できるカードはなくなったんじゃないか?」
「……」
恐竜君、すごい渋い表情ね。ダイレクトアタッカーで確実にテンシンを追い詰めていってるはず。大優勢よね?
「三沢さん、このままいけば勝てるわよね? 恐竜くんの優勢には変わらないでしょ?」
「ん? トーラちゃん、それは違うな。今剣山はかなり苦しい状況にたっている」
私がわからないという反応を見せると明日香さんが説明を引き継いでくれた。
「剣山君はパワーデッキだから相手のリバースカードに対処する手段が限られているのよ。あるとしたら制限カードのサイクロン、大嵐、大寒波ってところかしら」
「あぁ、ハーピィの羽箒は禁止カードだからな。だいたいそんなところだろう。そして剣山はすでにそのうちの2つを使った」
「だったら大嵐があるじゃない」
「それはないのよ。剣山君はフィールド魔法をメインに据えているから自分のカードを破壊してしまう大嵐はきっと入っていないはずなの」
そうか! じゃあ最初に破壊系のカードを使いすぎたからもう打つ手がないのね! しかもテンシンのカードを突破するにはまず宮廷のしきたりを破壊しないといけないから最低でも2枚必要。相当厳しい!
しかもあのテンシンのことだ。どうせ次のターンにはとんでもないトラップを仕掛けてくるはず。
だから恐竜くんもこの表情なのね。
「状況のマズさに気づいたようだな。しょせん、1年坊ではこの程度が限界だろうさ。俺のターン、ドロー! 今引いたカードをセットしてターン終了」
わざわざ今引いたカードを、だなんて、性格悪い。
こっちに対して余裕を見せてるの? それが命取りよ!
天真 手札2枚 スライム しきたり 伏せ3枚
剣山 手札2枚 ダークティラノ 暗黒ドリケラ 大進化薬
「三沢、弱点はわかったか?」
「まだなんとも……使用したカードが少なすぎる。もっと剣山に粘ってもらわないことには……」
「もしかしたらこっちの狙いに気づいて敢えて手の内を隠してるんじゃないかしら?」
「ありうるな。ちょくちょくこっちの様子も伺っているしあいつは敵の心理を見抜く洞察力に長けている」
いや、違う……。戦術に関してはなんとも言えないけど、今のテンシンはこっちを完全に見下していることはハッキリとわかる。だからこそ、こちらを警戒するような行動はとらない。
遊ばれているんだわ……。
「俺のターン、ドローザウルス! あっ!」
「剣山?」
「何か突破口を見つけたか?」
ニィ……
ゾクゾク!!
今、一瞬だけどテンシンがおぞましい笑みを浮かべた。なんなのこの背筋が凍りそうな寒気は? あれが本当にテンシンなの?
十代や三沢さんは恐竜くんの引いたカードに注目していてテンシンの様子には気づいていない。
「この俺がトラップに弱いだなんて過去の話だドン! 余裕かました世渡先輩をここでぶったおしてやるザウルス! 手札から速攻魔法、コズミック・サイクロンを発ドン! このカードはライフコストを1000払う代わり相手のカードを除外できるドン!」
「その手があったか!」
「上手い! 宮廷のしきたりで防げるのは破壊のみ! あのカードなら除外することができるから宮廷のしきたりを無視して今伏せたカードを除去できる!」
「ホントは世渡トーラを倒す秘策だったけど、今回はそれに救われたドン」
《コズミック・サイクロン》
速攻魔法
(1):1000LPを払い、フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
そのカードを除外する。
すごい! こんなカードがあるんだ! ライフを1000も払うんじゃ普通誰も使わないけど、この状況では除外できる能力が偉すぎる! よくデッキにこんなカード入れてたなと思ったけど、今の発言から察するに私の魔法都市対策なのね。
前のターン、テンシンは伏せている残りの2枚のカードを発動しなかった。ということは今伏せたカードを取り除くことができれば確実に恐竜くんの勝ち!
勝ち、なんだけど……。
やっぱりテンシンのさっきのあの表情が気がかりだわ。まるで全てを見透かしているようだった。私の杞憂だったらいいんだけど。
「世渡先輩? 早くも世代交代だドン? ダークティラノでダイレクトアタック! これで俺の勝ちザウルス!」
「おいおい! まさか様子見どころかいきなり大金星なのか!?」
「すっげぇぞ剣山!」
「待って! この状況……まさか!」
明日香さんが何かに気づいた? やっぱり何かある!
「これで俺の勝ちザウルス!」
「だったら見せてもらおうか、お前の運命力を」
「はぁ? 何言ってるドン? ここから勝つ方法なんて……」
ゆっくりと2枚のリバースカードが開いていく……!
1枚目、あれは見たことがある! もう1枚は……なんなの?
「リバースカード発動。モンスターBOX! 効果は知っているな?」
「げっ!? 初めからそれが狙いドン!? でも攻撃力を減らしたとしても、その場しのぎにしかならないザウルス!」
「もう1枚、俺は発動している。立ちはだかる強敵!」
《立ちはだかる強敵》
通常罠
相手の攻撃宣言時に発動する事ができる。
自分フィールド上の表側表示モンスター1体を選択する。
発動ターン相手は選択したモンスターしか攻撃対象にできず、
全ての表側攻撃表示モンスターで選択したモンスターを攻撃しなければならない。
どういうことなの? なぜさっきのターン使わなかったの?
わけがわからない!
「立ちはだかる強敵の効果で、剣山の2体のモンスターはメタルリフレクトスライムへの攻撃を余儀なくされる。そして、モンスターBOXの効果によりコイントスを行い、外せば攻撃力はゼロとなる」
「なんだって! じゃあ剣山は2回もコイントスをするのか!」
「それだけじゃない! 失敗すれば反射ダメージは3000!」
「剣山くんのライフは……ゼロになるわ。つまり1投目の結果で勝敗がつく!」
「そんなっ! いきなり大ピンチッス!」
おかしいわ! だったらなんでさっきのターンに使わなかったのよ! さっきだって状況は全く一緒じゃない!
……ハッ!!
そこまで考えて気づいた。今とさっきじゃ状況はまるで違う。
恐竜くんのライフが……3000に減っている!
その瞬間、私はきっと、気づいてはいけないことに気づいてしまった。
あのコズミックサイクロンは打たされていたんだ……!
「どうしてだ! トラップならさっきのターンも使えたはず!」
「確かに。やはり手の内を温存したかったのか?」
「違うわ。以前、私も似たようなことをされた! 斎王に洗脳されて以前の性格に戻っているとしたら、その行動の意味は1つ。相手のデュエリストを見下し、その心を折りに来ているのよ。お前なんて手を抜いても勝てるってね」
違う。違うよ明日香さん。
テンシンはコズミックサイクロンを引くことをわかっていた。そしてライフコストを払わせた。その結果、恐竜くんに待っているのは死のコイントス。2投目は不要となり、恐竜くんには1度のミスも許されなくなってしまった。
あの平良だって、そのプレッシャーには耐えられなかった。
恐竜くんに、このプレッシャーを跳ね返せるだけの力は……ない。
「さぁ、コイントスの時間だ。当たればお前の勝ち。外せばお前の敗北だ」
「ええい、ままよ! 考えたって意味ないドン! 出たとこ勝負ザウルス!」
ピンッ!
コインが宙を舞う。もう運命は変えられない。
カラ……カラ……
コインが宙を舞う中、私はテンシンの様子が気になり、ふとそちらに視線を向けた。
あっ!?
今テンシンと目が合ってしまった! 私がテンシンを見ることまでバレている!
カランカラン
あの表情……あぁ、恐らく私がテンシンの真意に気づいたことも筒抜けだ。私がどうしようもなく怯えてしまっていることも把握されている。
「ぐっ!? 外したドン!!」
「お前ごときの運命力など、我が足元にも及ばない」
剣山 3000 → 0
やっぱり勝てっこない。テンシンは……強すぎる。
体の震えが止まらない。両手で自分の肩を抱き寄せ、小さく縮こまることしかできない。
今まで大好きだったはずのテンシンのことが、恐ろしくてたまらない。
テンシンには全てが視えている。
ただの最善手じゃない。自分のドローを信じたわけでもない。相手のドローカードすら掌の上にある。
人間には絶対に不可能。
これじゃあ……まるで……
テンシンに勝つ方法なんて、ないのかもしれない。
この世界では50%の確率は100%と同じです()
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