気づいたらデュエルアカデミア   作:りんごうさぎ

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託された想い

 恐竜くんと三沢さんが敗北してから光の結社の勢力図は一変した。あっという間にホワイト生が数を増やしまたしても私たちは肩身の狭い生活を強いられていた。

 

 当然こっちも黙ってないけどいつも必ずテンシンが現れてジャマをするので思うようにホワイト生と戦うことができないでいた。

 

 テンシンと出くわしたときにできる行動はただ1つ、逃げることだけだった。敵も深追いはしてこないので主要メンバーはホワイト化していないものの万丈目さんはいまだ敵の手に堕ちたままだしこっちがテンシンと勝負できないのを良いことに好き放題されていた。

 

「もう我慢ならねぇ! 俺は戦う! これ以上見てるだけなんてごめんだぜ!」

「十代! みんなで話し合ったでしょう! 今のテンシンを止めるのは無理だわ!」

「そんなの関係ない! それに俺には修学旅行でどうしても行きたい場所があるんだ! これだけは譲れねぇ!」

 

 修学旅行か。本当なら私もテンシンと二人で色んなところを回って少しは恋人らしいこともできたはずなのに。どうしてこんなことになったんだろう。一気に仲を深めるチャンスだったはずなのに。

 

「トーラちゃん! ほら、いくわよ! ちゃんとついてきて!」

「あ、うん!」

 

 明日香さんとはもう以前とは打って変わってすごく仲のいい友達になれた。私の方が一方的に嫌っていたせいで溝があったけどテンシンがホワイトになってから明日香さんの優しさに気づくことができた。口に出してお礼を言うことはできていないけど、心の中ではとても感謝している。どうして最初から素直に心を開くことができなかったんだろう。私は何も進歩してない。

 

 そして最近は2人でペアを組んでホワイト生狩りを行っている。私は明日香さんと組むことが多い。どこにテンシンが現れるかはわからないけどまだ出くわしたことはない。

 

 できればこのままテンシンとは遭わずにいたい。そんなことを思った日に限って最悪の事態は起きてしまった。

 

「今日はお前らか」

 

 聞きなれた声が今は恐怖の音色。その目に映る感情は底なしの軽蔑。私の醜い心を見透かす曇りなき眼。この人には絶対に勝てない。そう思わされてしまった。

 

「テンシンッ! とうとう出たわね!」

「あ……あぁ……」

 

 無理に戦わなくていいのよ。とにかく逃げなきゃ! 逃げなきゃ……逃げなきゃ……

 

「トーラちゃん、引くわよ! トーラちゃん? どうしたの?」

「ごめんなさい……」

 

 足がすくんで動けない! 何してるの私! もうダメ! 死ぬ! ここで死ぬ! 死んじゃう!!

 

「仕方ない、私が相手になるわ! 隙を見てあなたは逃げなさい!」

「だ、ダメ……私よりも……」

「あなたが敵に回ったらいよいよおしまいよ。あなただけは敵に渡すわけにはいかないの。なんとしても逃げるのよ!」

 

 そんな、まさか……! 

 

 気づいてしまった最悪の事実。

 

 私はこれまでずっとみんなに守られていた! しかも敵に回れば戦力になってしまうという最悪の理由で! 

 

 私、ホントに最低じゃない。敵なら強くて味方なら弱い? なによそれ……。

 

 私は存在しているだけでみんなの足を引っ張っていたんだ。そんなことに今更気づくなんてね。

 

 もうイヤだ。こんな苦しいことは早く終わりにしたい。早く終わりにしてよ、テンシン。

 

「キャァァァァアアアア!!!」

 

 明日香さんが負けた。次は私の番だ。

 

「さて、世渡トーラ。お前にはこのまま帰ってもらおうか」

「……え? どうして? なんでっ!!」

「お前は十代達にとってのおもしだ。泳がせておけば他の奴も楽に我が光の結社に取り込むことができる。何より光の結社には弱者は不要。お前のような腰抜けを団員にする意味はないのでな」

「そんな! それじゃなんのために明日香さんは……」

「犬死だ」

 

 ズキズキッ!! 

 

 耳元で囁かれた言葉は私の心を容赦なくえぐりこんだ。頭がおかしくなって気が狂いそうだ。いや、いっそもう狂ってしまいたい。狂ってラクになりたい。なにもかもから逃げたい。解放されたい。負けてしまいたい!

 

 辛過ぎてもう耐えられない。

 

 助けてよ……テンシン……

 

「お前は兄がいなければ何もできない。周りの優しさにすがっていただけだ。愚かなお前は仲間に対してなぜ自分が生かされたか口にすることもできないはずだ。だから永遠に十代達のおもしとなり続ける。あいつらはお前の力を買っているが、本当はそんなものありはしない。そのことを俺は誰よりもよく知っている」

 

 ダメ。もう許して。これ以上は耐えられない!

 

 だったら今ここで戦って……そうすれば勝っても負けても私には好都合!

 

「仲間がきたぞ」

「えっ!!」

 

 どうしよう! 視られた!? ダメ、なんて言い訳すれば……

 

「こんなウソも見破れないとは。情けない女だ。いったいこいつのどこに惚れる要素があるんだか……理解できんな」

「う……そ? 誰も来てないの?」

「第一声がそれか。己の保身が最優先。なんて醜いんだろうね。こんなやつにとられるぐらいなら、いっそ……」

「え?」

「この体、ここで燃やしてやろうか? 今、目の前で」

 

 なにを……いってるの? 操られているの? ダメよテンシン! 正気に戻って! テンシンがいなくなったらもう私は……!

 

「何をしているの世渡天真」

 

 テンシンの狂気はあっさりと終わった。

 

「その声は天上院明日香、目覚めたか。まぁいい。今日はこのぐらいにしておくか。この体、いつまで生きてられるかな」

「一刻も早く斎王様の元へ」

「あぁ、優秀なしもべが手に入ったと報告しなくてはな」

 

 私のこと、虫けらを見るような目で一瞥してからテンシンは去っていった。

 

 涙が、止まらなかった。

 

 

 ◇

 

 

 修学旅行の行先が決まった。なんと十代は斎王に喧嘩を売って勝負に勝ったらしい。あいつすごすぎる。戦ったのは斎王でもテンシンでもなかったみたいだけど私だったらテンシンが出てくるかもって思っただけで勇気が出ない。

 

 行先はドミノ町、カードの聖地。でも今はそれを楽しめるような気分じゃなかった。

 

 テンシンと出くわしたらまた仲間が犠牲になる。どんどん仲間が減っていく。明日香さんがいなくなったと報告したときのみんなの顔は忘れられない。

 

 私に何か言う人はいないけど、心の奥で何を思っているかはわからない。なるべく考えないようにした。

 

 船に乗っていても考えるのはテンシンが白く染まってしまったあの日。私が不用意に敵に捕まらなければこんなことにはならなかった。最悪の事態を想定してもっと慎重に立ち回っていれば。そして私にもっと勇気があって、あのとき泣きじゃくりながら保身に走らなければ……

 

 すぐに起きたことを皆に話してテンシンを取り返しにいけていれば助けられたかもしれないし、明日香さんだって犠牲にならずに済んだかもしれない。

 

 全部私のせいなんだ。

 

 全部1からやり直したい。

 

 後悔と自責の念に押しつぶされそう。もう生きていることが辛くてたまらない。いつまでこんな苦しみが続くの?

 

 現地に着くとすぐにみんな思い思いの場所へ向かっていく。すぐに私は1人になってしまった。友達と呼べる人すら今の私にはいないのね。

 

 仲が悪いわけではないけど、私と一緒にいてくれるほど深いつながりがあるわけでもない。あぁ、こんなとき明日香さんなら一緒にいてくれたのかもしれない。そのつながりも自分の愚かさのせいで失ってしまった。

 

 どうしてこんなことに……!

 

 涙をこらえながらあてどなく街を彷徨っていると公園に着いた。今は1人になりたいし丁度いい。ここで時間を潰そう。

 

 だんだんと日が傾いてふと思った。私はどこに帰るんだ? ブルー女子の宿舎はマズイ。ホワイト生に占拠されていて危険だ。じゃあここで野宿? ウソでしょ?

 

 でもそれしかない。ちょっと辺りを見回して一夜を過ごせる場所を探し始めた。

 

 なんて惨めな修学旅行なんだろう。

 

 草むらの中をガサガサと歩いていると誰かがやってくる気配がした。なぜか反射的に隠れてしまい声をかけるタイミングを失った。

 

 自分はどこまで臆病なのかと呆れるが今回ばかりはその臆病さに感謝することになった。

 

 現れたのはなんとテンシンだった。

 

 こんな誰もこないような場所にどうして? でもなぜか目が離せない。というか下手に動けば見つかってどんな目にあうかわかったもんじゃない。テンシンの言葉でグサグサと心を傷付けられるのはもうたくさんだ。

 

「思ったより……本気……だろ?  そんな……でも……いい……なる……」

 

 何かしゃべってる? 独り言? いや、誰かとしゃべってそう。通信?

 

「ん?」

 

 ヤバッ! ちょっと会話が気になって前に出過ぎた! 物音で気づかれたかも! 茂みの隙間から覗くとテンシンはちょっとこっちに顔を向けたが完全に場所がバレたわけではなさそうね。後ろの私がいる方じゃなくて横の辺りをみてる。

 

「本当に……まさか……なんて……  恐れ……」

 

 まさかって言った? やっぱりバレてる? どっちなの? お願い、こっちこないで!

 

 私の心配をよそにテンシンは結局私の方へ来ることはなかった。何もせず帰っていくテンシン。その姿が見えなくなってからも用心してみたけど本当に帰ったみたい。なんとなくさっきまでテンシンが腰かけていたベンチに行ってみた。

 

「何してたんだろう。あれ?……ええっ!? これ、なんでここに!? ありえないわ!」

 

 私はそこでとんでもないものを見つけた。

 

 

 ◇

 

 

 修学旅行はあっという間に終わってしまった。でも私はある仮説を考えるのに夢中で他のことは考える余裕もなくなっていた。

 

 あのデュエル、テンシンは一度も切り札を引いていない。使ったのはデーモンの召喚だけ。つまり最初から勝つ気はなくて、わざと負けたんじゃ?

 

 そして斎王の手にかかり倒れてしまったあの瞬間、私は記憶の奥底にしまい込んでいたけれど、テンシンは私に向かってこう言わなかったかしら? 後は託すぞ、と。

 

 光の結社の勢力と戦っていたとき、テンシンはいつも私の前には現れなかった。他の恐竜くんや十代のところにばかり現れていたし、一度会ってしまったときも私でなく明日香さんを狙った。もっともらしいことを言っていたけど、あれは私を逃がしてくれていたんじゃ?

 

 修学旅行でベンチにいた時も本当は私に気づいていたんじゃ?

 

 そもそもあれだけ強い人が敵に回りながら私たちが全然倒されてないのが本来おかしいのよ。自爆スイッチでなんとか逃れてるってみんな思ってるけど、テンシンが本気ならそれすら不可能なはず。モンスターを使わないというハンデでその不自然さをごまかしているとしたら?

 

 やっぱりテンシンは待っている! 私がテンシンを助けるのを!

 

 でもどうやってテンシンに勝つの? きっとテンシンのことだから手加減はしてくれない。操られていて完全に意識が自由ってわけではないはずだし。本当に自由なら敵のままである必要がないもん。もしかしたら半分だけ精神を乗っ取られてる、みたいな状態なのかも。

 

 今のままじゃダメだ。私にはテンシンに勝つ自信がない。力もない。何か策はないの? 何か上手くいく方法は?

 

 ずーーーっっと考えても答えはでなかった。でも答えは突然目の前に現れた。

 

「ジェネックス第一回大会の開催を宣言する!」

 

 これだぁぁっ!!

 

 

 ◇

 

 

 修学旅行が終わってすぐにジェネックスか。ちょっと早いんじゃないか?

 

 

 なんでだろうね。

 

 

 バタフライエフェクトってやつかな。あとはトーラだけど……

 

 

 大丈夫、ちゃんと発破かけといたから。

 

 

 本当に大丈夫なんだろうな?

 

 

 大丈夫だよ、信じて

 

 

 わかった、お前を信じるよ……ラーヴァ

 




怒涛の精神攻撃はGXのお家芸

公園でのセリフは今後本編で明かすタイミングがないので次の前書きで書きます
今回は……と字数は合ってないです
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