1つめ
思ったよりいいところだな。ラーヴァ、お前本気出し過ぎだろ?
惚れた?
そんな急に惚れたりするかよ。でもありがとうラーヴァ。いい思い出になるよ
2つめ
本当にトーラがいるのか? まさか本当にくるなんてな。
ラーヴァの言った通りでしょ?
恐れ入ったよ
修学旅行から帰ってきて最初の月1テスト……
「なんでテストなんかあるんだよ!」
「修学旅行帰りだぞ!」
「文句言わないのーネ! 勉学にいそしむのが学生の本分なのーネ!」
筆記は大丈夫。問題は実技だった。
「トーラちゃんどうしたの?」
「らしくありませんわ」
「あんた! 私達に勝った時はもっと強かったでしょ! なんなのよあれは!」
「あはは……調子悪いみたいね」
ウソではない。でもこれは技術とかの問題じゃない。精神的な問題だ。
デュエルしているとどうしてもテンシンのことや明日香さんのことが脳裏に浮かんで集中できない。負けることや辛いことばかり考えてしまって体が全く動かなくなってしまうこともあった。
こんなときテンシンならどうしてくれるだろう? いや、何を考えているの! テンシンに頼り切りじゃいけないから頑張らないといけないのに!
あまりの不甲斐なさにその夜はベッドの上で大泣きした。泣きに泣いて落ち着いた時、変なものが見えた。
「……あなた、誰?」
「いつも見てるだろう」
「なにこれ、夢? 幻?」
「私はカードの精霊。混沌の黒魔術師だ」
テンシンがくれたカードが精霊になっていた。頭上からわたしを見下ろしている。なんなのこれ、どうなってるの?
「どうして急に見えるようになったの?」
「そんなことより、今から大事なことを言う。よく聞け」
「うえっ? は、はい!」
「よいか? お前はまだ強くなることができる。そのためにはたくさんの猛者を倒し、新たなカードを手に入れろ」
「猛者? カード?」
「各地よりこの場所へ猛者が集まっている。奴らを倒し己が糧とせよ。そして我が分身と我が弟子、魔術師のカードを手に入れろ」
「それってブラックマジシャン系統のカードのこと? そんなの手に入るわけないじゃない! どうしろっていうの?」
「学び舎の長が持っている。その者から頂戴するがよい」
校長先生のこと? でもどうやってそんな貴重なもの貰うのよ! 無理だわ!
「ねぇ、もっと詳しく教えてよ! そんなんじゃわかんない!」
「もう限界だ。いいか、この話ゆめゆめ忘れるな?」
それだけ言い残して混沌の黒魔術師は消えてしまった。びっくりするヒマもないじゃない! 何がどうなってるのよ!
でもその言葉は本当だった。それは目の前の光景が証明してくれている。
「ジェネックス第一回大会の開催を宣言する!」
そういうことだったのね。この大会で集まる猛者をブッ倒して優勝賞品としてブラックマジシャンのカードを手に入れればいい。このチャンスを逃すわけにはいかない!
優勝するだけならたくさんデュエルする必要はなさそうなルールだった。でも私の目的は強くなること。そしてテンシンを救うこと。だから足踏みしてられない!
「ちょっと! そこのアンタ! 私と勝負しなさい!」
「あぁ? お前何年だ?」
「1年よ、なんか文句ある?」
「へっ、1年のブルー女子か。レッドだからって舐めるなよ? 2年の実力みせてやらぁ!」
「「デュエル!!」」
「俺の先攻! よし! 今日はツイてるぜ! 速攻で終わらせてやるぜ! 手札から融合を発動! 砦を守る翼竜とフェアリー・ドラゴンを融合し、カイザー・ドラゴンを召喚!」
手札が良くてやることがこの程度なの? 私の敵じゃないわね。
「終わり?」
「むっ! 余裕ぶりやがって……ターン終了だ!」
「私のターン、ドロー! げっ!?」
何よこの手札! まただわ! 最近こんなのばっか!
魔力掌握
魔力掌握
闇の誘惑
魔導騎士ディフェンダー
闇デッキ
魔デッキ
完全な手札事故。魔力掌握なんて今は2枚だけに調整して減らしてたのになんで両方くるのよ! 闇属性ばっかり入れてるのによりによってディフェンダーしかないし!
「ディフェンダーを守備表示! カードを1枚セットしてターン終了」
「お前こそ大したことねぇな! 守ることしかできねぇとは情けねぇ!」
こいつ……!
――あんたはいつも守備表示!!――
あっ! そういえば昔は私もテンシンにいつも同じようなこと言ってたっけ。テンシンもこんな気持ちだったのかもね。ただカードに恵まれてなかっただけなのに。私って本当に最低ね。
でもそれは昔の話。そして私はどんな逆境でも諦めないことをテンシンに学んだ。絶対にこんなところで負けない!
「いいからさっさとかかってきなさい!」
「こいつ! だったらカイザードラゴンで攻撃!」
「ディフェンダーの効果! カウンターを使って破壊を免れる!」
「そんな効果が!? ターン終了……」
伏せカードもなしなんてなめられたものね。
「ドロー! ディフェンダーを生贄に魔法の操り人形を召喚! さらに魔力掌握を発動して合計2コの魔力カウンターを乗せる。そして効果で2コのカウンターを使いあんたのカイザードラゴンを破壊するわ!」
「なにぃぃぃぃ!? 俺の最強カードが!?」
「さらに闇の誘惑を発動! ドロー! サモンプリーストを除外する! さらに天使の施し! 3枚ドローして2枚捨てる! バトルよ!魔法の操り人形で攻撃!」
「まだ2000残って……」
「ディメンションマジック発動! エンディミオンを特殊召喚して追撃! これで私の勝ち!」
「なんだお前!? 強すぎるぞ!? 何者だ!?」
「私の名は世渡トーラ! このジェネックス大会で優勝する者の名よ! 覚えときなさい!」
「世渡!? アイツの妹か!! ちくしょう!! いきなりこんなのと当たるなんて超ツイてないぜ! もってけドロボー!! はぁ……」
メダルゲット。
相手の人は叫ぶだけ叫んだあとため息をついて座り込んで動かなくなってしまった。そんなにショック?
私の方はちょっと危なっかしい立ち上がりだったけどなんとか立て直すことができた。でも相手が弱くなかったら思い切って攻めれたかは怪しい。はやく調子を戻さないと外部からくる猛者には勝てないわ。
にしても世渡っていうだけであんなに態度が変わるなんてね。最初は私のこと舐めてたのに。テンシンって結構有名なのね。
私も負けてられない! どんどんいくわよ! 次よ、次!
たった1勝ではあるけれど、この1勝が私を勢いづけるはず。
ここから私の逆襲が始まるのよ!!
◇
「あ! トーラさん!」
「あら、あんたは2年の……ちょうどいいわ! 今度はあんたが相手しなさい!」
「トーラさん、無理しなくてもいいですわ。私はもうメダルを増やしてますし、今回は見逃してさしあげますわ」
「お生憎様、私だってもう勝ってるわ。ほらね」
「まぁ!」
メダルを見せると私のやる気が伝わったようだ。ディスクを構えた。
「どう? 勝負してもらえるかしら?」
「そういうことなら受けてたちますわ! あなたに勝てばテンシン様に褒めてもらえるでしょうし、悪くないですわ!」
「動機が不純ね。こっちも負けられない理由ならある。でも今は何も考えずに自分の限界に挑みたい、そんな気分なの。さぁ始めましょう!」
「「デュエル!!」」
「先攻は頂きますわ! ドロー! まずはおろかな埋葬を発動! グリーンバブーンを墓地に送りますわ! さらに素早いモモンガを守備表示で召喚! カードを1枚セットしてターン終了ですわ」
手際よくバブーンを用意してきたわね。いきなり厄介な布陣を敷いてくるじゃない! それでこそ倒し甲斐があるわ!
「ドロー! まずは魔導騎士ブレイカーを召喚! 効果で自身にカウンターを乗せるわ!」
「ではトラップカード発動! 破壊輪! これでブレイカーは破壊させて頂きますわ」
「迷いがない。ならバブーンを呼ぶ手段は他にもあるのかしら。だったらみすみす破壊されるわけにはいかないわね。速攻魔法発動! ディメンションマジック! 効果でブレイカーを生贄にして混沌の黒魔術師を特殊召喚! さらにモモンガを破壊!」
「回避しながらモモンガちゃんを処理したのは結構ですけど、バブーンの効果は発動しますわよ? ライフを1000払ってグリーンバブーンを特殊召喚! 守備表示!」
ほうっておいてもどうせ出てくるものは出てくるもの。だったら早めに処理できるうちにバブーンは取っ払っておいた方がいい。
「混沌の黒魔術師にはいくつも効果があるのよ。まずは墓地のディメンションマジックを回収! さらにグリーンバブーンを攻撃!」
「ムダですわ! またライフを1000払って復活させますもの!」
「そうはいかないわ! 混沌の黒魔術師の効果! 倒した相手モンスターは除外する!」
「なんですって!?」
混沌の黒魔術師がこっちを振り返ってグーサインを送ってきた。ちょっぴり元気が出てきた。なんか秘密の友達ができたみたいな気分ね。
「カードを2枚セットしてターン終了!」
トーラ 手札2枚 混沌の黒魔術師 伏せ2枚 ライフ4000
ももえ 手札3枚 なし ライフ3000
「私のターンですわね。ドローですわ! カードを2枚伏せてターン終了」
「壁も出せないなんてご愁傷様ね。ドロー! 混黒ちゃん、やっちゃって! 滅びの呪文!デス・アルテマ!」
「その攻撃は防がせてもらいますわ! 速攻魔法発動! スケープゴート! これでしばらくは安全ですわ」
なるほど、あのトークンも守りを固めつつバブーンへの布石になる。相当デッキの構築を練り上げてるわね。おもしろくなってきたわ!
今はまだ焦る必要はない。ここはじっくり力をためておきましょう、次の総攻撃に向けて。
「ならトークンを1体攻撃よ。モンスターをセットしてターン終了」
「ドローですわ! 強欲な壺を発動! さらに2枚ドローしますわ! よし! バーサークゴリラを召喚! セットしたモンスターを攻撃しますわ」
「見習い魔術師の効果! デッキの聖なる魔術師をセットする」
「カードを2枚セットしてターン終了」
トーラ 手札2枚 混沌の黒魔術師 セット1枚 伏せ2枚 ライフ4000
ももえ 手札1枚 ゴリラ 羊×3 伏せ3枚 ライフ3000
膠着状態ね。でもあのゴリラはこのターンに引いたカードじゃなかった。ということはさっきは混沌の黒魔術師に倒されるのを嫌って出さなかったことになる。何かあるわね。
「ドロー! こっちも強欲な壺を発動! そしてリバースカードオープン! 魔のデッキ破壊ウイルス! 混沌の黒魔術師を生贄にして攻撃力1500以下のモンスターを墓地へ送ってもらうわ」
「このタイミングで? トークンぐらいしか破壊できませんわよ?」
最後の手札はグリーンバブーンだった。さっきのターンからこのカードは持っていたはずだけど、また除外されるのを嫌って出さなかったようね。正解だわ。ライフも減っちゃうからね。
「ということは新しく伏せたのは野性解放ってところかしら? 混沌の黒魔術師を破壊するためのね。その後で満を持してバブーンを出そうってわけね」
「ですが、その手間も省けましたわ! 混沌の黒魔術師さえいなくなればわたくしのバブーンは止まりませんわよ?」
私のデッキをなめてもらっちゃ困るわね。
「それはどうかしらね。聖なる魔術師を反転召喚! リバース効果で強欲な壺を回収して発動! さらにディメンションマジックも発動よ! 聖なる魔術師を生贄にエンディミオンを特殊召喚! あんたのゴリラを破壊する!」
「だったらバブーンちゃんを特殊召喚しますわ! 守備表示」
「ライフコストはきっちり払ってもらうわよ?」
「しっかりしてますわね。残り2000……」
これで相手のフィールドには守備表示のバブーンと伏せカードだけ。手札もゼロ。ライフポイントは僅か2000まで追い詰めた。このターンで決めるわよ!
「エンディミオンの効果! 手札のマジックを捨ててバブーンを破壊する!
「でしたらリバースカード発動! 神秘の中華鍋! これでライフポイントを一気に2600回復しますわ! 残念ながらこのターンはあなたの攻撃は一歩及びませんわよ」
トーラ 手札3枚 エンディミオン 伏せ1枚 ライフ4000
ももえ 手札0枚 伏せ2枚 ライフ4600
「慌てないでよね。1枚カードを捨てて手札からTHEトリッキーを特殊召喚! これで足りるかしら?」
《THE トリッキー》
効果モンスター
星5/風属性/魔法使い族/攻2000/守1200
(1):このカードは手札を1枚捨てて、手札から特殊召喚できる。
「ここでさらにモンスターを!?」
どうしたんだろう。今の私はイヤに冷静だ。
まるで天高くからこのデュエルを俯瞰しているような感覚。
だからわかる。この先輩の声色には追い詰められた切迫感がない。たしかに困ったようには見えるけど、なんというか、まだ余裕がある。
つまりまだ相手は負けたとは思っていないということね。
「……ダイレクトアタックよ! エンディミオンで攻撃!」
「フフフ!! かかりましたわね!! リバースカード発動ですわ! 聖なるバリアミラーフォース!!」
「!!」
「たしかにアナタは強いですわ。ですがしょせん空元気! まだアナタは本調子ではありません!」
「たしかにそうね」
今の私は、まだ、本調子にはほど遠い。こんな状態じゃテンシンは倒せない。
「だからこそ、アナタにできることは我武者羅に攻めることだけ! 私の伏せカードの1つが野性解放だと読み切ったところまでは見事でしたし、神秘の中華鍋は野性解放のデメリットを回避するコンボカード。これでさらに確信を深めたのも間違いではない! だけど、それこそが罠だったのですわ! 世渡トーラ、アナタだからこそ、この罠にかかってしまった! これで私の勝ちですの!」
以前の私ならそうだった。自分の力に溺れて、結局自滅している。それが愚かな私。
相手の動きを注意深く見れば、カードを出す順番から考えても野性解放で混沌の黒魔術師を倒すように見える。私にはそれが視えてしまう。だからこそ、この人はその裏をかいて、野性解放とミラーフォース、2枚の切り札が手札に来るまで我慢した。2枚目の罠に気づけるほどの力は私にはない。
予想外のトラップであわてふためく私を、戦況を立て直す前にカウンターで仕留める算段。狡猾なこの人らしい戦略だわ。
「ほんとに……2年生って性格悪いわよね」
「あら? 意外と冷静ですわね。もう諦めてしまったんですの? まだカードもライフも残っているのに、情けないですわね」
フッ……情けない、か。
そう、私はいつも怯えていた。勝ちたいんじゃなくて負けたくない。根っからのネガティブ思考。それは自分が弱くて、無力で、昔イジメられていたことがあったから。
ずっと怖かったんだ。
「私、別に負けてもいいのよ。“そのとき”が来てしまったらね」
「やっぱり諦めたんですの?」
「ううん、そんなんじゃない。でもね、負けることは誰にでもあること。だからそれを恐れちゃダメなのよ」
「……? なんのはなしですの?」
テンシンですら、理不尽には勝てない。負けるときはどんな達人でも負けてしまう。
だから大事なのはそれを恐れないこと。
怯えた者には勝機すら見えなくなる。
僅かな勝機を見逃さず拾い上げることができる者、それが本当の強者。
「辛くて、悩んで、ずっと苦しかったけど、1つだけ良かったと思うことがあるの」
「それはなんですの?」
「フフ、私ね……今は負ける気がしないの」
一歩、先輩は後ずさりした。
「なんて……顔して……」
「まだ私のバトルフェイズは終わってないわよ」
「!!」
先輩の視線の先にあるのは私のフィールドにあるリバースカード。そう、最初から伏せていたこのカード、ずっとイメージはできていた。きっと私は勝つんだなって。
「この絶好のチャンスを無駄にはしない。リバースカード発動、闇次元の解放! 混沌の黒魔術師を再び召喚!」
「混沌の……! あっ! ということはマジックカードが!」
今度は先輩の視線が手札に移る。そう、この最後の1枚があなたの運命を決めるのよ。
「ディメンションマジックを回収! 混沌の黒魔術師で攻撃!」
LP 4600 → 1800
「まさか、まさかまさか、そんなわけありません! まだ私はライフポイントが1800も残ってる! 最上級モンスターだって出尽くしてる! 負けるわけ、ありませんわ!」
速攻魔法とトラップの追撃はまだまだ終わらない! 倒すと決めたら勝つまで攻撃の手は緩めない!
「さらにディメンションマジックを発動! 混沌の黒魔術師を生贄に手札の魔法の操り人形を特殊召喚! 攻撃力は2000よ。よろしくね」
「あなた……いったい何があったんですの? まるで別人ですわよ」
さぁこれで終わりよ!
「魔法の操り人形でダイレクトアタック! メダルはもらっていくわよ、先輩?」
「強すぎですわ……ふぅ……」
「よっし!」
メダルは2つ増えてこれで4つ目。もっと勝つわよ!
この人の名前、たしかももえさんだっけ? ヘナヘナと膝をついてしまった。
「一体何がありましたの? 昨日までとは別人のようですわ」
「うーん、不思議と負ける気がしないのよね」
――勝利を信じる者にデッキは応える――
今の声、混沌の黒魔術師? そっか、そうだよね。
私はまだまだ強くなれる。
待っててよ! テンシン!
最初の2伏せはスケープゴートと神秘の中華鍋
つぎの2伏せが野性解放とミラーフォース
何をドローしたのかも含めてチェックしないといけないので書くのが大変過ぎる
細かくみたらカードの使う順序がおかしいとかあるかもしれませんが、気づいたら直します