気づいたらデュエルアカデミア   作:りんごうさぎ

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悪魔の切り札

「俺の先攻、ドロー。モンスターをセットし、リバースカードを1枚セット。ターンエンド」

 

 もちろん先手は譲らない。さっきはあっちに譲ってやったし、これでおあいこだ。

 

「なんだ、自信満々だった割には大したことないじゃん!」

「そうよそうよ!」

「期待外れですわ!」

「ふふ……弱い奴にはわからないだろうな」

「むっ!」

「「なんですって!?」」

 

 弱い奴ほど短絡的な判断をしがちだ。好きなだけわめいているといい。

 

「言っておくけど、様子見のつもりならジュンコ達の言う通り期待外れだわ。私は1ターン目から容赦しないわよ! ドロー! まずは融合を発動! 手札のエトワール・サイバーとブレード・スケーターを手札融合! サイバー・ブレイダーを融合召喚!」

「わぁ……かわいい踊り子さんッス!」

「これが明日香様のエースモンスターですわ!」

「ふーん……さっきは全力じゃなかったのか」

 

 当の本人はいきなり融合召喚できたことを誇るでもなく俺を睨みつけている。こっちも涼しい顔で視線を受け流した。

 

「さらにフュージョン・リカバリーと戦士の生還を発動し融合素材と融合を手札に戻して再び融合! 2体目のサイバー・ブレイダーを召喚!」

 

 

《サイバー・ブレイダー》

融合・効果モンスター

星7/地属性/戦士族/攻2100/守 800

「エトワール・サイバー」+「ブレード・スケーター」

このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。

(1):相手フィールドのモンスターの数によって、このカードは以下の効果を得る。

●1体:このカードは戦闘では破壊されない。

●2体:このカードの攻撃力は倍になる。

●3体:相手が発動したカードの効果は無効化される。

 

 

《融合回収》

通常魔法

(1):自分の墓地の、「融合」1枚と

融合召喚に使用した融合素材モンスター1体を対象として発動できる。

そのカードを手札に加える。

 

 

「いきなり2回も融合召喚?! すごいッス!!」

「さすがですわ、明日香様!」

「なんたってオベリスクブルーの女王よ? このぐらい当然よ! 見たかレッド生!」

 

 いきなり飛ばしてきたな。さっきのデュエル、相手に合わせて手加減していたのはお互い様というわけか。だがいきなり5枚も手札を使ってくれたのはむしろありがたい。相手の行動が読みやすくなる。

 

「どうぞ、続けて?」

「くっ……バトルよ! まずは伏せモンスターを攻撃!」

「クリッターの効果、デッキから攻撃力1500以下のモンスターを手札に加える」

 

 これで暗殺部隊を呼び込めた。大事な要だ。

 

「もう一体でダイレクトアタック!」

「おぉ痛い痛い」

 

 テンシン LP 4000 → 1900

 

 おおげさに痛がってみせるが相手はニコリともせず厳しい表情のままだ。氷結って感じだな。

 

「あっさり通すのね……カードを1枚伏せてターンエンド」

「どうした? いきなり大優勢なのに怖い顔しちゃって」

「……」

「明日香様、こいつ余裕ぶってますけど、どうせハッタリですわ!」

「ハッタリねぇ。別に余裕ぶってるつもりなんてないけど。ま、リバースカード1枚に怯えている奴よりは余裕はあるかもしれないね」

「私が……怯えている? 何を言っているの?」

 

 そうはいいつつ動揺は隠せていない。こいつは図星をさされたらこんな反応をするのか。参考になる。

 

「俺がなんにも仕掛けないから警戒してただろ? これは攻撃を誘った罠なんじゃないかって。結局は2体融合召喚しちゃったから勢いに任せて突っ込んできたけどな」

「何を根拠に……」

「その証拠にお前にはリバースカードがなんなのか、未だに全く読めていないはずだ」

「……」

「うっさいわよレッド! 結局攻撃をくらったんだからあんたが負けてるのよ!」

「そうですわ! そんなに言うならあなたには明日香様の伏せカード、何かわかりますの?!」

「もちろんわかるとも」

「!!」

「じゃ、じゃあ言ってみて下さいまし!」

 

 明日香は眼を見開いて驚愕の表情。それだけでも大きなヒントだ。

 

「俺はさっきのデュエル、ただ黙って負けたわけじゃない。そのカードはさっき伏せていたのと同じカードだろう?」

「……だったらなんだと言うの? さっきは結局使わなかったのだから、あなたにはわからないはずよ」

「チッチッチ! 使わなかった、いや、使えなかったこともヒントになるんだよ。さっきのデュエルで俺は攻撃をしていない。つまりそのカードは攻撃反応型のトラップだ!」

「!」

「アタリだな」

 

 実際には確信できた理由は他にもある。元々こいつが好んで使うカードを予備知識で知っているからだ。当然そんなことを教えるつもりはさらさらない。こういえば俺の仕掛けた罠にどんどん嵌っていくことになる。

 

「そ、その程度では見破ったとは言えませんわ! カード名までわからなければ……」

「ドゥーブルパッセ」

「!!」

「そのカードはドゥーブルパッセだろ? バレバレだよ」

「そんなまさか……」

「見てもないカードを言い当てるなんて……」

 

 ジュンコとももえから驚きの声が上がる。後ろで見てたあいつらは何だったか知っている。つまり俺の解答は正解だったわけだ。

 

「どうしてって顔だな。別に難しいことじゃない。伏せカードがわかるぞと言われたお前はトラップの存在がバレただけじゃない驚き方をしていた。まるで好機を逃したような表情だ。攻撃反応型でありながら、一撃必殺を狙えるカード。そして攻めるデュエルがお好みなのもさっきわかった。攻めっ気たっぷりの女王様にはうってつけのカード……となればもう1つしかない。本当に怖いねぇ。俺がこの後うっかり攻撃でもしようものならサイバー・ブレイダーのダイレクトアタックを受けて俺の負けだ。油断できない」

「……そうよ、わかっていてもあなたにはこれを防ぐすべはない! 私の勝ちよ!」

「それはどうかな? 俺はちゃんとその対策を用意している。それは図らずもお前のおかげでもあるんだぜ?」

「私のおかげ?」

 

 利用されたことに顔を歪める明日香。こっちの言うことを結構信じ始めているな。

 

 明日香 手札0枚 サイバー・ブレイダー×2 ドゥーブルパッセ

 

テンシン 手札5枚 伏せ1枚

 

「そうさ。まぁ見てなよ。俺のターン、ドロー! 俺はさっき手札に加えたゴブリン暗殺部隊を召喚!」

「ゴブリン暗殺部隊? それがドゥーブルパッセの対策カードなのね」

「あぁそうだ。このカードは相手にダイレクトアタックできる特殊能力を持つ」

「なんですって!? それじゃあドゥーブルパッセは使えない!」

「そういうこと。ゴブリン暗殺部隊で攻撃! 攻撃後次の自分ターンまで守備表示で固定される。さて、後はカードを1枚セットしてターンエンド」

 

 明日香 LP 4000 → 2700

 

 おーおーさらに悔しそうな顔になってるな。完全に自分の行動が読まれたのだから当然か。こういうある程度まともな行動をしてくれる奴は一番行動を読みやすい。相手があんまり弱すぎると予想外の行動をとられるのでそれはそれでやりにくいし。

 

「ドロー! そう何度もいいようにはされないわ! 手札からサイクロンを発動!」

「何!? そんなカードが……」

「効果で今伏せたカードを破壊するわ!」

 

 リバースカードを剝がしにきたな。ブルーともなれば当然か。だがここでもこいつはカンが悪い。今破壊したのはマジックカードの「攻撃封じ」……ただのブラフだ。この時代のデュエリストがサイクロンを使ってくることは今までのデュエルで確認済み。一応ケアしておいて良かった。

 

「壁は一体だけ! このターンの攻撃が通れば明日香様の勝ちだわ!」

「やった! 退学は免れた! へっへーん! ちゃんと謝ってもらうからね!」

 

 ぬか喜びとも知らず……愚かだな。

 

「バトル! サイバー・ブレイダーで攻撃!」

「もちろんジャマさせてもらう。トラップ発動、重力解除!」

「なんですって!? それは最初のターンに伏せていたはず! なぜさっきは発動させなかったの!?」

「お前は考えが浅いんだよ。効果でお前のサイバー・ブレイダーは守備表示になり攻撃は終了。さらにゴブリン暗殺部隊は再び攻撃表示となり次のターンも攻撃が可能となる。楽しいねぇ、何もかも全て思い通りに進むのは気分がいい。それとも、ひょっとしてまだ天上院さんは手加減してくれていたのかな? おぉ、そうとは知らず喜んでしまった、これは恥ずかしい」

 

 おどけて手をすくめると明日香は激昂した。

 

「白々しい! 私が本気だってわかっているんでしょう!! もう私に手札はない! 攻撃していないサイバー・ブレイダーを攻撃表示に変更してターンエンド!」

 

 明日香 手札0枚 サイバー・ブレイダー×2 ドゥーブルパッセ

 

テンシン 手札4枚 ゴブリン暗殺部隊

 

 怒髪天を衝く勢いだな。冷静さを失うことはデュエルではマイナスでしかない。まだまだ青いな。

 

「おっと、この程度で本気だったのか、これは失礼。失礼ついでになぜ先に伏せた方が本命で、後から伏せたのがブラフのカードだったのか教えてあげよう」

「くっ……やはりあれはブラフだったのね……」

「最初に使わなかったのは単純にクリッターを破壊してもらいたかったから。暗殺部隊をもってこないとドゥーブルパッセを躱せない。そして使わないのに伏せた理由は先に伏せたのに使わないことで罠でないとお前に誤認させるため。さっき使わないこともヒントになる、と話しておいたこともその布石。そう思考させるように誘導したわけ。そして過度に伏せたカードを警戒していると先に煽っておけば、逆にお前は冷静にそろばんを弾いて俺を追い詰める。後から伏せたカードを破壊して攻撃すれば確実な勝利を得られる、とね」

「……」

「図星を突かれると眉が上がる」

「!」

 

 ピクリ、と形の良い眉が反応する。本当にわかりやすい。実際にはそんなクセなどない。ないが意識すれば今後はそこに変化が出てしまう。こうなればもうドツボだ。次回以降は眉を見れば大方反応がわかってしまうだろう。

 

「くくく……滑稽! 実に滑稽!!」

「あんた! さっさと続きを始めなさい!」

「余計なことばかりおしゃべりが過ぎますわ!」

「一応親切のつもりだったんだけど?」

「言葉巧みに私を誘導したと自分で言っていたのにかしら?」

 

 皮肉げに言う明日香の顔は笑っていない。これは屈辱を感じた人間の表情だ。愉悦だな。これを見ているとついつい遊び心が出てしまう。

 

「そういえばそんなことも言ったか。じゃ、俺のターン。ドローカード! さて、問題はサイバー・ブレイダーをどうやって倒すかだな……」

「……」

「せめて守備表示の方だけでも……いや、サイバー・ブレイダーは戦闘破壊できない効果があったなぁ。ならばとモンスターを増やせば今度は残りのサイバー・ブレイダーの攻撃力が増す。それにドゥーブルパッセの壁もある」

 

 声に出して思考を伝えるとギャラリーは得意げな表情に変わるが、対照的に明日香は渋い表情を崩さない。さすがにもう俺の性格は理解できたらしい。

 

「そうよ、もうあんたに明日香を倒す術はないわ! 悪運もここまでね!」

「どう考えたって突破は不可能ですわ!」

「……もう茶番はよしなさい。どうせ既に対策は考えているのでしょう? サイバー・ブレイダーの効果もよくご存じのようだし」

「さすがにバレたか。茶番に付き合ってくれるのは単細胞だけみたいだな」

「「なんですってー!?」」

「それじゃあそろそろみせてやるよ。十代には出しそびれた俺の切り札、最上級モンスターをな」

 

 俺が大見得を切ると翔が大きな笑い声をあげた。

 

「ぷっ、あっはっは!! やっぱりバカだなぁ! 最上級モンスターっていうのは生贄が2体必要なのに、1体だけで出せるわけないじゃないか!」

「……」

 

 またも明日香は沈黙。これが嵐の前の静けさだとわかっているようだ。

 

「やっぱり単細胞だけだな、予想通りのリアクションをしてくれるのは。ミジンコよりアメーバの方がお似合いかな?」

「何だと! じゃあここからどうやって最上級モンスターを召喚するっていうのさ!」

「勘違いするなよ? 俺は自分の場に出すとは一言も言ってない」

「どういうこと? まさか……あなた私の……」

 

 自分のフィールドに目を落とす明日香。そこには2体のモンスターが並んでいる。察しがいいな。

 

「そう。生贄なら天上院、お前のフィールドに揃っている! 今からそこのお人形2つ、骨になるまで溶かすが恨むなよ? 俺はサイバー・ブレイダー2体を生贄に……」

「なっ! 本当に明日香様のフィールドに!?」

「水中にモンスターの影があるわ!!」

「出でよ!! 我がデッキ最強のモンスター!! 溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム!!」

 

 ゴポゴポゴポ……

 

 湖がアワ立ち水が沸騰する。

 

「なんか暑……いや熱い? それに水が沸騰して……キャアッッ!」

 

 いきなり溶岩の腕が現れて明日香が思わず女の子のような声をあげる。……明日香は本当に女の子ではあるが。

 

 そして水中から現れた2本の腕がサイバー・ブレイダー達をつかみ、容赦なくドロドロに溶かして骨に変え、自身の体の一部にしてしまった。

 

「か、かわいい踊り子さんが骨になっちゃったっス!」

「なにこれ怖い!!」

「趣味が悪過ぎですわ!!」

「酷いこと言うねぇ。こんなにかわいいのに」

 

 ゴォォォッッオオォォォォ……

 

 俺の言葉に反応して熱量がさらに増した。嬉しそうにゴポゴポと湖を蒸発させ愛くるしい瞳を爛々と輝かせている。心なしかその表情に歓喜の色が見てとれた。

 

 シャラシャラシャラ!!

 

「キャアア! 今度は何!?」

 

 プレイヤーは強制的にマグマの中から現れた鉄檻に囚われる。灼熱地獄からは決して逃れられない。明日香は突然拘束され驚きを隠せないでいる。

 

 これが俺の切り札! ラヴァ・ゴーレムだ!

 

 

《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》

特殊召喚・効果モンスター

星8/炎属性/悪魔族/攻3000/守2500

このカードは通常召喚できない。

相手フィールドのモンスター2体をリリースした場合に相手フィールドに特殊召喚できる。

このカードを特殊召喚するターン、自分は通常召喚できない。

自分スタンバイフェイズに発動する。

自分は1000ダメージを受ける。

 

 

「今からお前はその牢獄に閉じ込められる。その代わり攻撃力3000の超強力モンスターをプレゼントしてやったんだ。1つくらい礼の言葉があってもいいと思うけどね」

「こんな不気味な檻に閉じ込められて感謝しろだなんて無理よ。だいたいどうせ碌でもない効果がついているんでしょう?」

「おぉ、ご明察。弱いプレイヤーなら攻撃力だけ見て喜ぶところなんだけど、お前はそこまで楽観的じゃないか。そいつはお前のスタンバイフェイズごとに1000ポイントずつライフを削る。早急に檻の外に出ることをオススメするよ。脱出するのが遅れてしまえば、お前もさっきのお人形のように骨だけになるだろうね」

「くっ……サイバー・ブレイダーだけでなくライフまで失うなんて……」

 

 さすがにブルーだけあって状況の不味さには気づけたみたいだ。ギャラリーの様子を観察すると、アホの丸藤は全然理解していないようだが、取り巻きの方もいくらかは理解しているらしい。尤も、明日香よりもいくらか楽観的なようだが。

 

「心配要りませんわ、明日香様! 攻撃力が3000もあればすぐに勝てますわ!」

「さっさと勝負を決めちゃって!」

「簡単に言ってくれるわね……」

 

 明日香は今俺のトラップを意識している。速く相手を倒さなければ自分が負ける状況に追い込まれ、トラップの注意もしなければいけない。それはとてつもない重圧となってのしかかる。

 

「まだ俺のバトルは残ってるぜ。暗殺部隊でダイレクトアタック!」

「くぅぅぅ」

 

 明日香 LP 2700 → 1400

 

「くく、結局ドゥーブルパッセは使えず仕舞いだねぇ。トラップカードを1枚セットしてターンエンド」

「トラップカードですって!? なめてますわ!!」

「この男、どこまで憎たらしいの!!」

 

 あえてトラップだと宣言するとギャラリーは非難轟轟だ。一応本家も同じことをしてたんだけどな、バトルシティトーナメントで。

 

「くっ……あなた、本気で私を怒らせたいの?」

「何か怒らせるようなことをしたか?」

 

 今、明日香は俺の伏せカードを恨み骨髄とでも言いたげな目で睨みつけている。後ろの3人も続けざまに「性格悪い」だの「ひねくれもの」だのわめいているが、負け犬の遠吠えを聞くことほど気持ちのいいものはない。

 

 明日香 手札0枚 ラヴァゴーレム ドゥーブルパッセ        LP1400

 

テンシン 手札3枚 ゴブリン暗殺部隊 トラップカード1枚      LP1900

 

「私のターン、ドロー!」

「ラヴァゴーレムの効果発動! さぁて、きっちり削ってもらおうか」

 

 明日香 LP 1400 → 400

 

「あぁもう! 鬱陶しい! 私は死者蘇生を発動! サイバーブレイダーを特殊召喚!」

「ここで死者蘇生……いい引きしてやがる」

 

 これは思わず本音が漏れたのだが、明日香はお気に召さなかったようだ。

 

「その言葉すら嫌味に聞こえるわ……当然ここはバトルよ! 私には攻撃しか道は残されていない!」

「ほう、まさか攻撃する勇気があるとは思わなかったよ。これが最後の攻撃になるかもね」

「そんな言葉には惑わされないわ! 攻撃しないで自滅するなんて論外よ! まずはサイバー・ブレイダーで攻撃!」

「どうぞ。暗殺部隊は守備表示に戻ってるからダメージはない」

「そして……ラヴァ・ゴーレムでダイレクトアタック!」

「勝った!?」

「やっぱり明日香様が勝ち……」

 

 アホ共が。俺のどこを見たら勝てると思えるのか不思議で仕方ない。負けゆく者には敗北の香りが漂う。今の俺とは無縁だ。

 

「そんなわけない。トラップ発動! 強制脱出装置! 効果でラヴァ・ゴーレムを俺の手札に戻す。さぁ帰っておいで」

 

 おつかいから帰ってきた我が子を迎え入れるようにしてラヴァゴーレムを手札に戻した。よしよし、いい子いい子。

 

「なるほど、元の持ち主の手札に戻るのね……でもこれでもう私にできることはない。ターンエンド」

「じゃあ俺のターン、ドロー!」

 

 現在明日香はサイバー・ブレイダー1体のみで手札もない。ライフは残り400だけ。俺は今場にカードはなく手札が5枚。既に手札には必殺のコンボが完成しているが……ただ勝っても面白くない。

 

 そもそもの話、さっき本来ならサイバー・ブレイダーを対象に強制脱出装置を使えばすでに俺の勝ちだった。ここからは単なる「お遊び」だ。

 

 あくまで今回の俺の目的は勝つことじゃない。勝つのは当たり前。その上でこいつに圧倒的な勝利を見せつけることが今後の布石になる。「鍵」を手に入れるためには実力を見せつける必要もあるし。

 

 七星門の鍵はもらえるものならもらっておきたいところだ。

 

 もしかすると、サイバー・ブレイダーしか取り柄のないこの貧弱デュエリストが自信喪失してくれたら、案外自分から鍵の守護者の座を降りて席を空けてくれるかもしれない。デッキの強さだけで言えば丸藤より平気で弱いからな、こいつは。

 

 そんなわけでわざと手を抜いてみたが、俺が故意にプレミしたことにあいつらは気づきもしていないようだ。もう少しで勝てそうだったことに気をとられていてそれどころではないらしい。その時点でもう底が見えてしまってはいるが……。

 

 さぁ、明日香の力量を見極めてやろう。果たしてどこまで抗えるかな?

 

「あなたのデッキにはあまり攻撃力の高いモンスターはいない。そして仮にサイバーブレイダーを凌ぐモンスターがいてもドゥーブルパッセが控えている。さぁどうするのかしら?」

「ん? それで挑発してるつもりか? かわいいもんだな」

「なっ! この……なめないで!」

「じゃあアメーバを守備表示で召喚……っと。カードを1枚セットしてターン終了」

「なら私のターン……ドロー! これは!?」

「明日香様!」

「あっ」

 

 ほう、ここで引いたか……待望のモンスターカード。やはりドロー運だけは一流。後はそれをプレイングに活かせるかどうか。

 

 どんなモンスターを引いたとしてもアメーバは必ず倒せる。つまり2体で攻撃すれば勝てる状況だ。

 

 そのためにセットせずにステータスを見せているのだ。

 

「私は……」

「どうした丸藤くん、もうすぐ天上院さんが勝ちそうなのに、なぜそんな泣きそうな顔をしている?」

「えっ、翔君?」

 

 俺の言葉で思わず翔の様子に目をとられる明日香。単純な奴。

 

「もう! あなた、まさか明日香様を信じられませんの?!」

「自分の方が弱い癖に何様よ!」

「でも、あいつの手札には……」

「……」

「……」

 

 悲しいかな、翔は普段は抜けていてもこんなときに限って気づいてしまう。今が勝負所だってことをわかってしまうのは、さすがにメインキャラ張ってるだけのことはある。

 

 当然明日香も気づいているはずだ。今、モンスターを出せばサイバー・ブレイダーのダイレクトアタックで簡単に勝利できそうではある。しかし、失敗して防がれればラヴァ・ゴーレムの餌食になりライフが尽きることを。

 

 単に「負ければ翔が退学だぞ」と脅せばきっと攻撃してきただろう。俺が弱気になっていると思うからだ。だがさりげなく翔の不安な顔を見せてやれば、自分の肩にかかる重圧を自然と思い出す。そして重圧に耐えられず心が弱い方へ逃げてしまえば現状維持に走ってしまう。そうなればそこまでのデュエリストだったということだ。

 

「私は……サイバー・ブレイダーで攻撃!」

「どうぞ」

 

 アメーバが蹴り殺され破壊……勝敗は決した。

 

「ターン終了……」

「はぁ~~がっかりだよ。お前さ、本当につまらないデュエリストなんだね」

「なんですって! そんなことはデュエルに勝ってから……」

「もう勝ってる。ずーっと前から」

 

 俺の一言は明日香の心を容赦なくえぐった。目をこれ以上ない程見開いている。突然宣告された敗北に心が揺れている。

 

「何を……言って……」

「ドロー。リバースカードオープン、浅すぎた墓穴」

「えっ!? どうして!? それはマジックカード! それにそのカードの効果は……!」

 

 

《浅すぎた墓穴》

通常魔法

お互いのプレイヤーはそれぞれの墓地のモンスター1体を選択し、

それぞれのフィールド上に裏側守備表示でセットする。

 

 

「うそっ!?」

「そんな……!」

「どうしたんスか? みんな何をそんなに驚いて……」

 

 ブルーの連中は効果を知っている奴の反応。翔は知らない奴の反応だな。わかりやすい。

 

「無知は大罪だな。だがあるいみ一番幸福なのかもしれない。丸藤だけでなく天上院、お前もリバースカードがなんだったか知ることがなければプライドが傷つくこともなかっただろうね」

「あなた……わざと、わざと手を抜いて……! どうしてっ!」

 

 よーく効果はご存じのようだ。しっかりと勉強している証だな。今この場ではそれを恨みたくなる気持ちだろうけど。

 

「いっただろう? お前の実力はすでに見極めた、と。だから確信があったのさ。攻撃するしかない状況であれば迷いなく攻撃できる賢さはあるが、攻撃しないことが安全に繋がる状況では、生死をかけた勝負に打って出る度胸がない。所詮お前は勝負所で尻込みし勝負の土俵に立つことすらできない2流……2流なんだよ、お前は!」

「私は……逃げたわけじゃない……」

 

 目をそらし、声は震えている。弱い、なんと弱いことか。逆に見てるこっちがイライラしてくる惨めさだ。

 

「ウソついてんじゃねぇ。逃げたんだよ。退学寸前で泣きそうな顔の丸藤を見て、背負うものの大きさに押しつぶされたんだ。お前が背負える重さは、せいぜい自分一人分の重さ程度だろうさ。他人のことまで背負える器じゃない」

 

 明日香の顔が苦悶にゆがむ。それは重さを背負ったことがなければわからない苦しさだ。弱い奴ならこれだけで潰れるだろうな。もしかすればこいつもそうなるかもしれない。勝負事は結局メンタルが1番大切だ。そこがおかしくなると全てダメになる。

 

「あなた、さっき急に泣きそうな顔してるとかなんとか言い出したのは……明日香さんを迷わせるためね!」

「ひ……卑怯ですわ!」

「別にさっきのターンで勝つこともできたんだけどな。むしろワンターン待って勝つチャンスをタダでくれてやったのに何が卑怯なのやら」

「くっ……」

「外道……」

 

 残念だがそれは誉め言葉にしかならない。俺にとってはね。

 

「さて、生殺しのままでは辛いだろう? ラクにしてやるよ。とっととモンスターを出しな。おれはクリッターでもセットしておこうか」

「わたしは……サイバー……サイバー・ブレイダーをセット」

 

 一応1番強いモンスターを選んだのだろう。だが俺からすればそれは酷く惨い行いでしかない。

 

「ヒューー!! 惨いことするねぇ。またそいつを殺すのかい? 骨にして?」

「……さっさとして!!」

「フフ。なら遠慮なく。2体のサイバー・ブレイダーを生贄に……」

「「ぎぃぃぃぃぃぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

 サイバー・ブレイダーの断末魔が木霊する。明日香は見ていられなくなったのかギュッと目を閉じ顔を伏せ、体を震わせながらじっと耐えていた。あぁ、かわいそうに。……実にイイ表情だね。

 

 俺のラヴァ・ゴーレムにはプレイヤーの意志が宿ったかのように一片の慈悲もない。情け容赦なく2体のモンスターを焼き殺した。そしてその毒牙は相手プレイヤーにも及ぶ。

 

「ラヴァ・ゴーレム召喚! ターンエンド! さぁお前のターンだ! カードを引け!!」

「私の負けよっ。もう、私は、サレ……」

 

 デッキに手を置くのは許さない。最後まで楽しませてもらわないとなぁ?

 

「途中で投げ出すのか? ブルー女子のプライドはねぇのかよ?」

「くぅぅ……ドロー!」

「カードを引いたな? ラヴァ・ゴーレムの効果発動!」

「きゃああああぁぁぁぁ!!!」

 

 決着はついた。サレンダーも許さず、少女の心に大きな傷を残しての勝利。

 

……まずは1人目。残りの奴らもしっかり倒してやるからな。待ってなよ。

 




ドS展開が楽しすぎてやめられない……
そしてやっと登場ラヴァ・ゴーレム
テンシンの相棒カード!
かわいいね!
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