気づいたらデュエルアカデミア   作:りんごうさぎ

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世渡一家の真実

「デス・アルテマ!」

 

 今日も快勝。順調にメダルを増やせてる。とにかく戦いまくって戦いの中で自分を高める。今の私にはそれしかない。

 

 でもそろそろ相手の強さに物足りなさを感じてきた。アカデミアの生徒ばかり倒すのも飽きてきたわね。そろそろ外部の大物相手に一発かましてやりたいわ。

 

 外から来るってことは港の方にいけばいいのかしら? それとも人が集まる場所を探した方がいい? どうする?

 

 ブラブラと歩いていると誰かが勝負しているのが目に入った。行ってみましょう。

 

「私の勝ちね」

「強すぎる……何もできなかった」

 

 えっ、待って! ウソでしょ!? あれって……

 

「おかあさん!?」

「あらトーラ? しっかりがんばってるみたいね」

 

 どうしておかあさんがいるのよ! しかもちゃんとデュエルしてたみたいだし! おかあさんデュエルできるの!?

 

「どうしてここにいるのよ! デュエルできたの!?」

「こうみえても元プロなのよ?」

「ウッソォォ!!」

 

 おかあさんが元プロですって!? おとうさんも強かったしウチって全員強かったの!? 驚愕の真実ゥゥ……

 

 実は私が一番弱かった可能性……あるわね。

 

 でも今は違う! テンシンを倒すために私は強くなる。おかあさんにだって容赦しないわ!

 

「だったら私がいいたいこと、わかるわよね?」

「よしなさい。おかあさんはね、デュエルだけは我が子が相手だろうと手加減しない。あなたをここで脱落させてしまうつもりはないわ。あなたじゃ勝てないから他の子と勝負しにいきなさい」

「なめないでよ? 私なんかもうこんなにメダルを集めたのよ?」

 

 すでに50枚はある。メダルの少ない相手が多かったから倒した人数は多い。

 

「それだけかしら?」

 

 ガタっと脇に置いていたキャリーケースに手をかけた。まさかそれ、メダルが入ってるの?

 

「その中に?」

「数が多すぎると持ちづらいでしょう?」

 

 開いたケースの中にはズラっとメダルが並んでいた。

 

 私の倍近くあるかも……

 

 この短時間でこんなに集めるのは並大抵のことじゃない。しかもおかあさんは走り回って相手を探したりしてないし私よりもスタートが遅いはず。相当な猛者を倒してきている。

 

 そもそもあんなクソデカいキャリーケースを用意してるってことはメダルを大量に集める気マンマンだったことになる。

 

 この人、私より格上だ。

 

「望むところね。私はメダル欲しさに戦ってきたわけじゃない。どうしてもテンシンに勝たなきゃいけないの。そのためにはあなたを倒してさらに強くなるしかない! 絶対に勝って私はテンシンを助ける!」

「そっか。あなたはテンシンのために戦っているのね。ならこれ以上野暮なことは言わない。テンシンはすでに私より強い。ここで負けるようならそこまでの実力だったということね」

「私の全力を以て倒す!」

「パーフェクトエンジェルと呼ばれたこのデッキの前では何人も自由を奪われる。あなたは何もできずに敗北することになるわ」

「「デュエル!!」」

「私の先攻! ドロー!」

 

 この大会で一番鋭いドローができた。今日もデッキは回っている!

 

「まず闇の誘惑を発動! よし、テラフォーミングを発動! 魔法都市を手札に加える! そしてフィールド魔法発動!」

「……」

 

 おかあさんは怖いくらい鋭い目つきでこちらの様子をみている。猛者の気配が漂うその姿を見るともう油断など微塵もできない。

 

「さらに強欲な壺を発動! 2枚ドロ……」

「待ちなさい!」

「えっ? 何よ?」

「手札のモンスター効果を発動して強欲な壺は無効にさせてもらうわ」

「は? 1ターン目に私のマジックを無効? そんなことできるの?」

「手札の緑光の宣告者は自身と他の天使族1体を墓地へ送り相手のマジックの発動を無効にし、破壊する。発動を無効にしたので魔法都市へのカウンターの補充も行われない」

「そんな……」

 

 

《緑光の宣告者》

効果モンスター

星2/光属性/天使族/攻 300/守 500

(1):相手が魔法カードを発動した時、

手札からこのカードと天使族モンスター1体を墓地へ送って発動できる。

その発動を無効にし破壊する。

 

 

 強い。たった1枚のカードの発動だけでイヤというほど相手の実力の高さを思い知らされた。これがプロの強さなの?

 

 この宣告者のカード、手札から効果を無効にするのはかなり強いけどコストが厳しいから連発はできない。その弱点をおかあさんはタイミングを見計らって使用することで補っている。

 

 私はこのターン4枚の魔法カードを使った。つまり発動のチャンスは4度あった。なのに最もイヤなタイミングでこれを使ってきた。

 

 これは簡単なようで難しい。特にフィールド魔法は無効にしたくなるのが普通だ。でも私が魔力カウンターを貯めるためにドローカードを後に残している可能性があることを理解した上で温存。しかも魔力カウンターを乗せることも封じられた。

 

 これはテンシンと同じタイプだ。プレイヤーの卓越したスキルでデッキの力を何倍にも高めてくる。こっちも相手のカウンターを見越した立ち回りが要求される。

 

 もう簡単には動けない。

 

「あらあら、怖い顔しちゃって。1枚無効になっただけでもう元気がなくなっちゃうのかしらねぇ? ここにきたらあなたやテンシンと勝負できると思って楽しみにしてたのに、ガッカリさせないでね?」

「くぅ……そういうイヤミったらしい物言いまでテンシンそっくりね。魔導騎士ディフェンダーを守備表示で召喚。さらにカードを2枚セットしてターン終了」

「あら、それで終わり?」

「えぇ、どうぞ」

 

 絶対私を挑発してミスを誘ってるに違いない。どんだけこっちはテンシンに鍛えられたと思ってるの? そんな安い挑発には乗ってやんない! じっくりいかせてもらうわ。

 

 緑光の宣告者は攻撃力の低い下級モンスター。対処の仕方ならいくらでもある。次のターン見てなさいよ!

 

「私のターン。ドロー」

「スタンバイフェイズにトラップカード発動! 闇次元の解放! 除外した混沌の黒魔術師を帰還させる!」

「そんなことだろうと思ったわ。手札から紫光の宣告者の効果発動! トラップカードの発動を無効にし破壊する」

「えっ!? トラップカードにも対応できるの!? そんなの強すぎるわ! ズルい!!」

 

 

《紫光の宣告者》

効果モンスター

星2/光属性/天使族/攻 300/守 500

(1):相手が罠カードを発動した時、

手札からこのカードと天使族モンスター1体を墓地へ送って発動できる。

その発動を無効にし破壊する。

 

 

「ずいぶんとカードの使い方が上達したわね。布石の張り方が上手いわよ」

「涼しい顔で言われても全然嬉しくない」

 

 これは私を褒めるために言ってるんじゃない。自分が格上だって私にわからせるために挑発してるんだわ。いつものおかあさんはもっとこう、なんというか慈愛の精神に満ちているけど、今の言葉には隠し切れないトゲがある。

 

 優しいだけの人じゃなかったのね。

 

 しかも状況はかなり苦しい。帰還に失敗して混沌の黒魔術師を展開する手段がなくなった。その上この後すぐ使うつもりだったもう1枚の伏せカード、魔のデッキ破壊ウイルスも無用の長物と化した。混沌の黒魔術師、サルベージできたはずの強欲な壺、魔のデッキ破壊ウイルス……この1手で3枚分失ったに等しい。

 

 しかも今は相手ターン。ここからどんな動きをしてくるの?

 

「フフ……強欲な壺を発動。2枚引かせてもらっていいかしら?」

「このっ……! 勝手にすればぁ?!」

 

 こっちが無効にできっこないのをわかってて訊いてるに違いない! ウザすぎ!! 私は無効にされたのに相手だけ好き放題ドローできるなんて最悪! 私が何回も強欲な壺を使いまわしてる時も相手はこんな気持ちなのかしらね。

 

「じゃあ遠慮なく」

「これで手札は3枚……」

 

 実は相手の手札も消耗が激しかった。一気に残り2枚まで減っていたからここで手札を補充されたのは結構痛い。また手札からあのモンスター達が飛んでくる可能性も高くなる。

 

 でも考えてみるとあの宣告者というモンスターはコストに天使族モンスターを要求している。だったらデッキの構成はモンスターカードに偏っているはず。ならその代償として一気に畳みかけるような展開はできないとみたわ。

 

 ディフェンダーだっているしじっくり時間をかけていけば展開力の高い私のデッキの方に分がある!

 

「まだまだ余裕があると思ってるようだけど、そんな目算はテンシンには通じないわよ」

「だとしてもおかあさんには通じるでしょう?」

「甘いわね。なら見せてあげましょう。あなたにとって絶望的なモンスターを。墓地の天使族モンスターが4体ちょうどの時、このカードは特殊召喚できる。現れなさい! 大天使クリスティア!!」

「攻撃力が……2800!? なによこれ!? こんなの反則じゃない!!」

 

 

《大天使クリスティア》

効果モンスター

星8/光属性/天使族/攻2800/守2300

(1):自分の墓地の天使族モンスターが4体のみの場合、

このカードは手札から特殊召喚できる。

(2):このカードの(1)の方法で特殊召喚に成功した場合、

自分の墓地の天使族モンスター1体を対象として発動する。

その天使族モンスターを手札に加える。

(3):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、

お互いにモンスターを特殊召喚できない。

(4):フィールドの表側表示のこのカードが墓地へ送られる場合、

墓地へは行かず持ち主のデッキの一番上に戻る。

 

 

「手札の天使族を墓地へ送っていたのはこのための布石。着々と切り札を出すための準備をしているのはあなただけではないのよ。さらにこの効果で場に出したとき墓地の天使族を1体回収できる。私は緑光の宣告者を選択」

「またマジックが使えない!?」

 

 しかもトラップカードではなくしっかり魔法カードを止めに来た。伏せカードがある状況で最上級モンスターによる攻撃をしたいこのターン、攻撃反応型の罠に備えたいと思うのが普通。なのにこの選択ってことはこの伏せが混沌の黒魔術師とのコンボ用のカードだって見切られてる可能性が高い。

 

「それだけじゃないわ。このクリスティアが存在する限りお互いに特殊召喚は行えない。あなたはもう何もできないのよ」

 

 愕然とした。特殊召喚ができない。たったそれだけで私のデッキは崩壊する。

 

 強い……強すぎる。

 

 この人の戦略は完璧だ。こっちの出鼻をくじいてからの見事な切り返し。さらに圧倒的な制圧。本当に手も足も出ない。

 

「……」

「クリスティアで攻撃!」

 

 呆然としていても相手は待ってくれない。まずはここを凌ぐ!

 

「ディフェンダーの効果! 戦闘破壊を免れる!」

「やはり守りはそのモンスターの効果頼りだったわね」

 

 しまった! ディフェンダーの効果を踏まえたうえでリバースカードを読んでいたんだ! 私の行動から的確にその意図を読み取ってくる。デッキを圧縮してからのドロー、耐性のあるモンスターによる壁、全部見透かされてる。

 

 自分の足元が崩壊していくような感覚に陥った。

 

「サレンダーしたければそうすればいい。やる気のない相手をいたぶるのは趣味じゃない」

「……」

「あなたにはテンシンと戦うのはまだ早いようね。ターン終了」

 

 なんですって……?

 

 諦めかけていた自分の心に再び闘志が宿った。絶対に負けられない理由が私にはある!

 

 今はまだ“そのとき”じゃない! こんなところで躓くなんてありえない!

 

 負けることを恐れないっていうのは簡単に勝負を諦めることなんかじゃない!

 

 最後の最後まで、可能性を信じ続けるってことなのよ!

 

 トーラ 手札1枚 ディフェンダー 魔法都市(1コ) 伏せ1枚

 母さん 手札3枚 クリスティア

 

「ドロー!」

 

 引いてきたのは魔力掌握。まだなんとかなる!

 

「あがいてもムダよ」

「ムダじゃない! まずは魔力掌握を発動! 効果でフィールド魔法に魔力カウンターを乗せて同名カードを手札に加える!」

「構わないわ」

 

 よっし! 思った通り無効にされなかった! もう1枚のカードが本命のマジックならこの魔力掌握は囮の可能性が高い。母さんならそう考えるはず。だから無効にされないって思ってた!

 

 でもこの一手こそ勝利への僅かな希望!

 

「これでカウンターは3つ! ところで、そのモンスターは特殊召喚を封じるのよね?」

「ええ。あなたにはよーく効くでしょう?」

「そうでもないわ。私はディフェンダーを生贄にして魔法の操り人形を通常召喚!」

「なるほどね……」

 

 もう緑光の宣告者ではマリオネットの効果は止められない。問題はおかあさんがモンスター効果を無効にする宣告者を持ってるかどうか。

 

 今までの流れを踏まえればモンスター効果も無効にできる可能性が高い。もしそれを持っていれば緑光の宣告者をコストに効果を無効にできる。

 

 でも私は臆さない! ここは勝負するべき! 何もしないなんてありえない!

 

「さぁ、魔法の操り人形の効果発動! 魔法都市のカウンターを代替にしてクリスティアを破壊する!」

「見事ね。クリスティアは破壊される」

 

 よっしゃ! これで厄介なモンスターを処理できた!

 

「魔法の操り人形でダイレクトアタック!」

 

 LP 4000 → 2000

 

「ダイレクトアタックは構わないけどクリスティアの4つ目の効果は発動するわ。このカードは墓地へ送られる場合墓地ではなくデッキの1番上に置かれる」

「上!? じゃあ次のターンのドローで絶対に引くじゃない!?」

「そうなるわね」

 

 ニヤッと笑うその表情は邪悪そのもの。こんなの私が知ってるおかあさんじゃない。

 

 まずいことになってしまった。だとすれば次のターン確実に倒されてしまう。ならいっそ先に魔のデッキ破壊ウイルスのコストにしてしまうべき?

 

 いや、ダメよ。今相手の墓地は天使族が3体。もしデッキ破壊ウイルスを使って墓地送りにできたのが緑光の宣告者1体だけだったらまたクリスティアを出される。

 

 このターン緑光の宣告者を使わなかったということは他の天使族を持っていなかった可能性も十分ある。

 

 迂闊に動くべきじゃない。魔デッキは温存ね。

 

「私のターンね。ドロー!」

「……」

 

 トーラ 手札1枚 魔法の操り人形 魔法都市(1コ) 伏せ1枚

 母さん 手札4枚 墓地3体

 

 今はじっと我慢よ。魔デッキを使うとしてもクリスティアの効果で天使族を回収してからでいい。もちろん紫光の宣告者を回収されたら裏目だけどその可能性は低い。自分の判断を信じるのよ!

 

 相手の強さに飲まれてはダメ!

 

「急に面構えがよくなったわね。戦う覚悟を決めた目だわ。そうでなくては面白くない。こちらも全力を以てあなたを封じさせてもらう! 手札のトレード・インを発動! クリスティアを墓地へ送り2枚ドロー!」

「クリスティアを捨てた? 特殊召喚できなかったのね」

「一気に畳みかけるわ。次は儀式の下準備を発動! デッキから神光の宣告者と宣告者の預言を手札に加える」

「儀式!? それがそのデッキの切り札ね!」

「なぜ私がパーフェクトと呼ばれたか、あなたも知ることになる! 手札から宣告者の預言を発動! 逆転の女神を生贄にして神光の宣告者を儀式召喚! 守備表示よ」

 

 パーフェクトデクレアラー……宣告者の頂点とも言えそうなモンスター。だとすれば似たような効果を持っている可能性が高い。

 

「この子は完璧な宣告者。手札の天使族1体をコストに相手のあらゆるカードの効果を無効にできる」

 

 

《神光の宣告者》

儀式・効果モンスター

星6/光属性/天使族/攻1800/守2800

「宣告者の預言」により降臨。

(1):相手がモンスターの効果・魔法・罠カードを発動した時、

手札から天使族モンスター1体を墓地へ送って発動できる。

その発動を無効にし破壊する。

 

 

「なんですって!? 1枚で? しかも全部!?」

「絶望するのはまだ早いわよ? 宣告者の預言は儀式を行うだけじゃない。自身を墓地から除外して逆転の女神を手札に戻す」

 

 

《宣告者の預言》

儀式魔法

「神光の宣告者」の降臨に必要。

自分の手札・フィールド上から、

レベルの合計が6になるようにモンスターをリリースしなければならない。

このカードの効果によって「神光の宣告者」が儀式召喚に成功した時、

自分の墓地のこのカードをゲームから除外する事で、

その儀式召喚のためにリリースしたモンスター1体を選択し、

自分の墓地から手札に戻す。

 

 

 なんてコンボなの!? 儀式で減った手札のモンスターの補充まで織り込み済みなんて! 今手札には少なくとも2体、緑光の宣告者と逆転の女神がある。これを突破するのは難しすぎる!

 

 そしてこっちが疲弊したところで改めてクリスティアみたいな最上級モンスターで制圧するのが狙いなんだわ。どうすればいいの?

 

「それでおわり?」

 

 困ってるけど敢えて挑発的に言うとおかあさんも涼しい顔で返してきた。

 

「あら、言うようになったわね。じゃあ最後にこれも使っておきましょうか。手札から封印の黄金櫃を発動」

「黄金櫃?」

 

 

《封印の黄金櫃》

通常魔法

(1):デッキからカード1枚を選んで除外する。

このカードの発動後2回目の自分スタンバイフェイズに、

この効果で除外されているカードを手札に加える。

 

 

「このカードはデッキから選んだ好きなカードを2ターン後に手札に加えることができる。私は命削りの宝札を選択。サービスしてこのカードの効果も教えてあげましょうか」

 

 なんかイヤなくらい親切ね。絶対裏がある。

 

「このカードはね、使ったら手札が5枚になるまでドローできるの」

「……は?」

 

 何を言ってるの? 最大5枚ドロー? そんなの強すぎるしありえない!

 

「ど、どうせデメリットがあるんでしょ」

「えぇ、もちろん。とっても重いデメリットがあるわ」

「そんなことだろうと思ったわ」

「ドローしたプレイヤーは5ターン後に全ての手札を墓地に送らなければいけないの。大変でしょう?」

「え? それだけ?」

「えぇ、そうだけど?」

 

 

 

 負けた。

 

 

 

 はっきりとわかった。こんなインチキカードの前ではプレイヤーの努力なんて無だ。勝てるわけがない。テンシンだってあのなんちゃらの悪戯とかいうインチキカードには負けてしまったんだ。もう勝つ術はない。

 

 慌ててこっちが展開しても簡単に効果を止められて相手のドローする枚数が増えるだけ。ゆっくりしていても5枚まで補充されてもう逆転できなくなる。進むも地獄、戻るも地獄。

 

 ここにきて進退窮まった。

 

「さぁ、あなたのターンよトーラ。最初に言ったでしょう? 手加減なんてしないってね」

 

 いや、まだだ! まだ戦える! 完全に打つ手がないわけじゃない!

 

 トーラ 手札1枚 人形(4コ) 魔法都市(5コ) 伏せ1枚

 母さん 手札2枚 神光の宣告者 

 

 怒涛の魔法ラッシュでカウンターがかなり溜まってる! これを上手く使えばまだ逆転できる! それに相手のデッキの弱点もわかった。永続効果はチェーンブロックを作らないからカウンターできない! だからフィールド魔法は剥がせない。

 

 それにルールの穴でカバーできないことがあるならカウンタートラップも対処できないはず。私はカウンタートラップはあんまり使わないけど、あのモンスターが本当にパーフェクトじゃないってことが大事なのよ。

 

「全力結構! そうでないと倒し甲斐がないわ! そのモンスターの攻略法はすでにわかった! あとはカードを呼び込むだけよ!」

「あなたにできるのかしらね、あと2ターン以内に」

 

 そうか、時間制限を意識させることで私にプレッシャーをかけにきていたんだ。

 

 それによく考えるとクリスティアが召喚されたとき手札は緑光とトレードインと、最後の1枚は儀式召喚のパーツカードだったはず。儀式召喚するためにはあのとき緑光を使える状態じゃなかった。

 

 でも私は常にプレッシャーとの闘いだった。ありもしない天使族の影に怯え、そして今度は未来のドローに怯え……そうやって相手の迂闊な行動を待っているんだ。

 

 この勝負、勝敗を分けるのはカードじゃない。心の強さだ!

 

 あんなインチキカードに私は負けない!

 

「ドロー! まずはマリオネットの効果発動! 自身のカウンターを2コ使い神光の宣告者を破壊する!」

「当然その破壊は許さないわ。逆転の女神をコストに神光の宣告者の効果で無効にする。焦ったわねトーラ。そのモンスターはあなたにとって最後の砦。絶対に失ってはいけないカードだったのよ」

 

 そんなことわかってる。これは勝負手だった。私の予想が外れたら、読みの上をいかれたら、もうそこで終わり。だけどここを通せばあのパーフェクトパーミッションを崩すことができる!

 

「ならチェーンしてリバースカード発動! 魔のデッキ破壊ウイルス! 魔法の操り人形をコストに効果を発動! 効果処理前だからコストは問題なく払える」

「デッキ破壊ウイルス!? しまった、さっきコストにしたのは逆転の女神……」

 

 そう、これこそが私の最後の大博打。もし緑光の宣告者をコストにされたらこの魔のデッキ破壊ウイルスは空振りに終わる。そうなれば私には為す術がない。

 

 でもおかあさんは強い。残すなら緑光の宣告者だと信じていた。そしてこのデッキ破壊ウイルスは読まれていない確信があった。

 

 おかあさんのデュエルは真実と虚構の交差点。真実を騙り、幻影を見せ惑わせる。だからこそ、この伏せカードは読み切れていない。

 

 紫光でなく緑光回収からもうフェイクだったのよ。どうせコストがないのなら敢えて読み切った風に見せるための緑光回収。おかあさんらしい一手だわ。

 

 不確定情報が存在するゲームでプレイヤーがパーフェクトになることは不可能なのよ。

 

「さぁ、無効にしてごらんなさいよ」

「当然そのデッキ破壊ウイルスは許可しない! 無効よ!」

 

 私のフィールドからモンスターとリバースカードが消える。でも私の手札はまだ2枚残ってる。

 

 そしておかあさんの手札が、このデュエルで初めてゼロになった!

 

 ここからは私の独壇場!

 

「魔力掌握を発動! カウンターを魔法都市に乗せる! カウンターは7つになる」

「これで終わりね。もうあなたにできることは何もない」

「やっと手札をゼロにしたのよ? なんにもしないわけないでしょ?」

 

 おかあさんがこの戦いで初めて驚きの表情を見せた。そんな顔もするのね。

 

「あなたにここから何ができ……!!」

 

 おかあさんの視線は今私がデッキから引いてきた最後の1枚に注がれている。そう、これがこの勝負を終わらせる最後の切り札よ。

 

「可能性がある限り、諦めなければ、デッキは必ず答えてくれる。だから私は信じてた」

「魔力掌握で6つ目のカウンターが乗せられた。まさかあなた、ここで引いたの?」

「私はテンシンを倒すまで絶対に負けない! これが私の覚悟よ! 6つの魔力カウンターを使って魔法都市の王が降臨する! 出てきて! 神聖魔導王エンディミオン! その効果で墓地の強欲な壺を手札に加える! そして強欲な壺を捨てて神光の宣告者を破壊する!」

「見事……本当に見事だわ。あの人にプロポーズされたとき以来ね」

 

 おかあさんは何か思い出してるみたいだけど、遠慮なくいかせてもらうわよ。

 

「エンディミオンでダイレクトアタック!」

 

 LP 2000 → -700

 

 勝てた……勝ったわ! 

 

「よっしゃああああぁぁぁぁ!!!」

 

 本当に苦しかった。負けると思った。

 

 でも勝った! 

 

 私はまだ強くなる!

 

 沸き上がる衝動に身を任せ、腹の底から勝利の咆哮を轟かせた。

 

「んっはぁ……」

「え? どうしたのおかあさん!」

 

 いきなり崩れ落ちるようにして膝をついた。そのまま倒れてしまいそうだったけど、おかあさんは手をついてなんとか体を支えた。

 

「大丈夫よ。久しぶりの全力だったから気が抜けちゃったの」

「そんなに全力だったんだ」

 

 デュエリストとして妥協はないのね。

 

「すごいわトーラ。あなたは私の誇りよ。こんな日が来るのはいつになるのか、なんて考えることはあったけど……正直負ける日が本当に来るとは思ってなかった。なのにこんなに早くあなたが勝っちゃうなんてね」

「なによー! テンシンと違って私への期待値低すぎ!」

「そういうことじゃないのよ。あなたは心の問題。でもそれを克服した。もう1人前になったのね」

「……」

 

 おかあさん、泣いてる……

 

「今、テンシンが大変なことになってるんでしょう?」

「えっ!? どうして知ってるの!?」

「あなたがそんなに頑張るのはテンシンがピンチのときだけじゃない。かあさんは応援することしかできないけど、あなたなら大丈夫ね」

「あったりまえよ! 絶対なんとかする! 安心してて」

「……ならトーラ、これを持っていきなさい」

「なにこれ? 知らないカード」

「それが命削りの宝札よ」

 

 えっ!? びっくりし過ぎて声が出なかった。こんなインチキカードが実在するんだ。

 

「い、いいの!? こんなの、値段がつけられないほど貴重なんじゃ……おかあさんのデッキでもすごく重要なカードだと思うし」

 

 黄金櫃みたいなカードで無理矢理手札に引き込もうとするぐらいだもの。キーカードだってことぐらい私でもわかる。

 

「遠慮しないでいいの。そのカードは最前線で戦うデュエリストが持っていた方がいいわ。引退した私が持っていても仕方ないでしょ?」

「……そういえば元プロなのよね。今なら納得だわ。めちゃくちゃ勝ってたの?」

「というか負けたことはないわ。プロの公式デュエルではね」

 

 えっ!? 負けてない!? そんな、負けなしで引退した人なんているんだ。実はものすごい有名人だったりするの!? 負けないならチャンピオンの地位にも相当近かったはず。

 

 だったらなおさら気になる。どうして引退なんかしたのか。実力が落ちてないことは今戦ったばかりの私にはよくわかる。何か特別な理由に違いない。

 

「どうして引退したの?」

「それはあなたならわかると思うわよ」

「私なら? どうして?」

「デュエルで勝つより大事なものを見つけたからよ」

 

 わかんない。それが何かをきいてるのに。でもこの様子じゃ教えてくれなさそうね。

 

 それに今は昔話に耽ってる場合じゃない。テンシン、待っててね。

 

「ウチに帰ったら問い詰めるからね! じゃあね、おかあさん!」

「テンシンのこと、一度掴んだら手放しちゃダメよ」

「最後の最後になに言ってんの! もう、わかってるから!」

 

 あぁーっ! 笑ってる! 最後の最後でちょっと負けた気分。大人の余裕ってヤツね。

 

 託された想いと一緒にカードをデッキに加えて次の戦いに備えた。

 

 




トーラ爆裂強化
おいこれどうやって止めるんだ……?
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