たすけてよ……テンシン!
斎王がおぞましい表情で私の大事なカードを破ろうとしたとき、何かが煌めいた。
ボワッッ!!
私の願いに答えるように何かが弾けた!
「フンッ! 今のはファイヤーボールか? 何者だ!?」
斎王が破滅の光の力を使って突然の攻撃を防いだ。何が起きてるの?
炎塵が舞い、一筋の道をなす。その上を何者かの影が過ぎ去っていく。
「これは返して貰おう」
気づけば斎王の手元から私のカードがなくなってる。
この声は私の大好きなあの人の……テンシンの声だ!
テンシンが……帰ってきた!
嬉しすぎて声が出ない。
「キサマはっ……世渡テンシン!! なぜここにぃぃ!! 洗脳が解けたあとは記憶が混濁してまともに動けないはずだ!!」
「洗脳? なんのこと? 俺はずっと正気だぜ」
「な……何を言っている?」
本当に何を言っているの? 呆けているとテンシンがこっちにきた。あっ! この顔はいつものテンシンだ! 温かみがあって柔らかい表情。私をとっても安心させてくれる。
「トーラ、トレードといこう。こいつを返してやるから俺のカードを渡してくれ」
「えっ? あっ! これとこれね。やっぱりこれって私に預けたの?」
「まぁな」
私が2枚のカード、ラヴァゴーレムとバルバロスを渡すと目に見えて斎王の顔色が青褪めた。
「それは精霊のカード!! どうしてその小娘が持っている!!」
「想像にお任せするよ。ラーヴァが止めてくれているとはいえ、これ以上殺戮衛星をほったらかしにはできない。お前はここで俺が始末する」
「はっ!? そういえばいつからだ? ソーラが止まっている!?」
「たしかに」
「そういえば静かだな」
あれ? そういえば地響きはどうなったの? もう全然揺れてない。
十代とエドも今気づいたって顔。私は頭がパンクしちゃってもう驚くこともできない。
「お前は俺を倒さなきゃソーラは動かせない。俺も破滅の光を消滅させないとソーラを潰すだけじゃ意味がないと思ってる。互いに戦う理由があるわけだ」
「私にデュエルを挑もうというのかぁ? 世渡天真? ムダムダムダァァ!! 我がデッキは銀河系最強! いかにキサマといえど、勝つことなどありえん!!」
「どうやら勘違いしてしまったようだな。俺はこの前のデュエル、わざと負けたんだ。お前は気づいてないらしいが」
一瞬斎王が言葉に詰まった。
「バカな! 負け惜しみを!」
「その証拠にこの2枚のカードは入っていなかった。だからデッキを削っても出てこないし消滅も免れた」
「なに? たしかにあの時おかしいとは思ったが、まさか最初からデッキになかった? いや、ありえん! そんなわけが……そうだ、やはりありえん!! キサマが万丈目とのデュエルでデッキに入っていたことは確認している! そのために先にあの男をけしかけたのだ! それからデッキを触るそぶりはなかった!」
「お前の目の届くタイミングでは確かに触ってないな」
「……ほわっ!? あのときか!! あの一瞬で!?」
あのとき? いつなの? いったいテンシンはいつのまに斎王を出し抜いていたの? デッキを入れ替えたりそういうことはいつも器用にこなすわよね。
「戦う前から勝つ気がなかったから抜いたんだよ。そしてトーラに自衛できるぐらいの力をつけてもらったってわけ。こいつはもう精霊が守ってくれる。これで心置きなくお前をブッ倒せる!」
拳を握るテンシンにはたしかな決意が感じられる。もう容赦しないつもりだ。
私のためにわざと負けたフリをしてずっと私を見守っていてくれたのね。約束を果たして守ってくれたんだ。
テンシン……!
……って、だったらおかしいでしょ!!
「ちょっとアンタ!! ずっと正気だったんなら私にあれこれいっぱい悪口いいすぎでしょ!! すっごい傷ついたんだけど!」
「えっ!? ったくアイツやっぱり自重しなかったのか。悪かったな。あとで怒っとくよ」
なんで他人事なのよ!? 言ったの自分でしょ?!
「ええいくだらん! だからなんだというんだ? 手加減しなければ勝てたとでも? ありえん! もう一度言う! そんなことは絶対にありえないのだよ! 世渡天真!!」
「だったら始めようか。世界の命運をかけた最後のデュエルを」
「泣いて許しを乞うても遅いぞ! この世界を白に染め世界を創りなおすのだ!!」
「「デュエル!!」」
「私の……」
「ドロー」
スパッ!!
速い! テンシンのドローが速すぎる! あれじゃ絶対に先手は取れない! これで斎王の先攻ワンキルを防いだ!
「おのれ……」
「2回も先攻をサービスするほど甘くはないさ」
「だが! キサマのデッキは我が手によってモンスターを消されている! マジックトラップだけではラヴァゴーレムとバルバロスも無用の長物! まともに戦うことなどあたわん!」
「たしかにモンスターはない。強力なカードもない。お前は俺を恐れていた。モンスターに宿る精霊の力、これが俺とシンクロしたとき自分の脅威となる力が生まれると考えた。だから俺があらゆるモンスターを使うことを禁じ、俺はモンスターなしの戦いを強いられてきた。精霊の宿るカードなんてそうそうないし杞憂なんだけどな」
そういう理由だったの!? ハンデとか言ってたけど本当は斎王が恐れていたんだ。
たしかに考えてみれば、テンシンが斎王に負けた直後、私を見逃した時はモンスターありのデッキをテンシンが持ってた。だからあのときは私を深追いさせなかったのね。恐竜くんと三沢さんの時はデッキにモンスターがなかったから斎王はテンシンに戦うように命じた。斎王の行動は一貫している。
「なんだ? ラヴァゴーレムがデッキにいればもう100人力とでもいう気か? 天真?」
「まさか。それどころかお前を倒すのにモンスターはいらない。このデッキ、正真正銘モンスターカードはゼロだ」
「なにぃ!?」
なにやってんの!? やっとモンスターが使えるようになったんでしょ!?
テンシンは徐にデッキを掲げて斎王に見せつけた。もしかして精霊の気配みたいなのを探らせてるのかな? あっ! 斎王が驚いてる! 本当にモンスターを入れてないの?
「俺はカードを選ばない。どんなカードも愛してみせる。だけど勝利は俺を選ぶ。勝利の女神が愛していいのは俺だけだ。最後に勝つのはこの俺だ」
「抜かせ小僧が! ならば勝ってみろ! 口先だけのペテン師が! さっさとターンを進めてこの全知全能の私に勝ってみろ!」
「カードを4枚セット」
天真は4枚セットか。モンスターがないんだから仕方ないわね。
「ハッハァーー!! 所詮貴様はカードを伏せることしかできぬ! そして効果ダメージでこの私を倒そうという魂胆だろうが甘すぎるのだよ! 世渡天真!」
「このデッキにそんなカード入れたっけなぁ」
「なにぃ?」
テンシン、ハッタリ?
さっき、準決勝でも言ったけど、今テンシンがとれるのは効果ダメージによる勝利しかない。特殊勝利なんてこの男相手には悠長過ぎる。
もう、こうなったら私には全然わからない……。
「お前じゃこのデッキのコンセプトは当てられないだろうな」
「もったいつけてもムダだ! モンスターなしでできることなど知れている! 効果ダメージでないというならそのデッキは【終焉のカウントダウン】といったところだろう! その手札に持っているカードこそが終焉のカウントダウンだな? 特殊勝利しか残された道はないが【ウィジャ盤】はゾーンを圧迫する。ならば【終焉のカウントダウン】だ!」
「残念、ハズレ」
「なにぃ!?」
「手札からエクスチェンジ発動」
「しまっ!!」
斎王の顔色が変わった。エドも何か気づいたみたいだけど十代はわかってなさそう。
「エクスチェンジ? あれって1枚ずつ交換するだけだろう?」
「しめた! その手があったか!」
テンシンの狙いは何?
「強すぎる力は諸刃の剣。お前の強力なカードと絶対的な運命力はそのまま弱点でもある。この世に本当の意味で最強のデッキなんて存在しないんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、私の体にかつてない衝撃が駆け抜けた。手足が震えてる。
最強なんて存在しない。
その言葉がこのデュエルモンスターズの真理なのだと悟らされた。どれだけ強さを突き詰めても限界はない。私はまだまだ強くなれる。そのためにもこのデュエル、しっかりと見届けよう。
「くぅ……よもやこちらがカードを奪われることになろうとは」
「手札交換はお前の専売特許じゃないもんな。さぁ、手札を見せな」
時の女神の悪戯
ハネワタ
ザ・ワールド
カップオブエース
手札交換
「よし! さすが破滅の光! やはり“手札交換”をもっていたか! 己の強力過ぎる運命力が仇となるとは、皮肉なものだな」
「そっか! テンシンのやつこれが狙いか!」
あの男がやってきたことをそっくりそのままお返しするつもり!? まともな人間の考えることじゃないわ! テンシンぶっ壊れ!!
「おんのれぇ……世渡天真!!」
「手札交換いただき。お前にはこいつをやるよ。エクスチェンジは手札0枚じゃ発動できないからな」
「なんだこれは?! 遺言の仮面……だとぉ!?」
《遺言の仮面》
通常魔法
このカードをデッキに戻しシャッフルする。
また、「仮面魔獣デス・ガーディウス」の効果を使用した場合は装備カード扱いとなる。
装備モンスターのコントロールはその時点のコントローラーの対戦相手に移る。
「言っておくが、それを使った場合、デッキに戻る場所はそっちじゃなくて俺のデッキだからな? 注意してくれよ?」
「ふざけるなぁ!! 世渡天真!!」
こわぁ!! めっちゃ髪の毛逆立ってる!! テンシンも相手を無暗に挑発しないでよ! ヤバイわよ!
「世界の命運を賭けたデュエルとは思えないな。緊張感なんてものとは無縁な男だ。だが、案外世界を救えるのはこれぐらい気の抜けたヤツなのかもしれない」
「テンシンなら大丈夫だ。俺よりも遥かにつえーからな」
エドと十代の言葉に少し誇らしい気持ちになる。本人には絶対言わないけど、自慢のおにぃちゃんなんだから!
「さらに手札交換を発動。手札を全部わたしてもらおうか」
「チィ……!!」
「これはずいぶんいいカードをもらった」
「バカめ! それらのカードは単体で意味を成すものなどない! 時の女神の悪戯ですらモンスターを持たないお前には意味のないカードだ! 依然私の優位は動かん!」
「ならこのカード達を使えるようにお膳立てしてやればいいんだろう?」
「なん……だと?」
また手が震えた。まさかテンシン、あなた……!
「リバースカードオープン、神の居城ヴァルハラ! このカードは自分の場にモンスターがいなければ手札から天使族を1体特殊召喚できる」
《神の居城-ヴァルハラ》
永続魔法
(1):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。
手札から天使族モンスター1体を特殊召喚する。
この効果は自分フィールドにモンスターが存在しない場合に発動と処理ができる。
「バァカなッ!! キサマのデッキにモンスターがないならそんなカード……!」
「だがお前のデッキにはあるだろう? 最強の天使族が? 出でよ! ザ・ワールド!!」
「だがお前ごときではそのカードは扱いきれぬ! タロットの位置は……止まれ!」
ガコン!!
「当然正位置ィィ……なんてな? ターンスキップの能力を得る!」
「バカな! こんなこと……あってなるものか!」
頭を掻きむしって現実を否定し続ける斎王。憐れなものね。どうしてこんなに全てが上手くかみ合うの?
「悪魔だ……世渡天真。ヤツのデッキはもはや人知を超えている」
「テンシンは三幻魔すら従えた。何が起きても不思議じゃない」
そうか! これこそがテンシンのデッキのコンセプトなんだ!
対斎王特化。
カードの数だけ戦略があるのがデュエルモンスターズ。ならどんなデッキにも必ず弱点がある。テンシンはその答えをここに用意したのね。
斎王を倒せる唯一のデッキ、それがこれよ!
「しかもヤツの手には私の女神がっ!」
「当然使わせてもらおう。時の女神の悪戯を発動し次の自分のバトルフェイズに移行。ザ・ワールドの攻撃! オーバーカタストロフ!」
「くぅ!? だがライフは900残っている!!」
さっきの私と同じ状況を今度は斎王が味わっている。でもさっきと違うのは対戦相手がテンシンだってこと。本気のテンシンは最後まで詰め切る。逆転のチャンスは絶対に与えない。
「1ターン経過したので伏せていたトラップカードを発動できる」
「なっ!?」
しまったという表情は斎王。してやったりの表情はテンシン。もう勝負あったわね。
「メタル・リフレクト・スライムを2体特殊召喚。さて、これで生贄がそろったな」
「テンシンの勝ちだ。もう破滅の光に抗う術はない」
「こんなにあっさり勝ってしまうなんて……」
「やめろ! やめるんだ世渡天真!!」
ここにきて命乞い? ムダね。テンシンの目は本気の目。徹底的に相手を叩き潰すまで止まらない。
「お前はトーラに手を出した。慈悲はない! ザ・ワールドの効果でターンをスキップ! ドロー! 最後のダイレクトアタックだ! オーバーカタストロフ!」
「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!!」
恐ろしい断末魔をあげて斎王は倒れ伏した。
勝った……!! やっと終わった!!
長かった。
辛くて苦しくて死にたいとすら思ったけど、最後はテンシンが戻ってきて斎王も倒すことができた。これで全部元通りに……
「油断するなトーラ! 様子がおかしい!」
「えっ!?」
斎王を見ると背中から何かが抜け出てきた。あれが話に挙がっていた破滅の光?
「あれは!?」
「十代、おそらくあれが僕の親友に憑りついていた破滅の光の意志だ。しぶといやつめ、まだ何かするつもりだな?」
「我は不滅! かくなる上は実力行使に出るまで」
さっとテンシンが私と斎王の間に入って精霊の力で守ってくれた。本当に私のためにその身を挺して守ってくれている……。
「そんな小娘になど興味はない。我の狙いはソーラだ」
テンシンが私を守るために動くことも想定済みってこと?! また私が足を引っ張ってしまった。一瞬の隙をついて破滅の光は逃げてしまった。
「しまった! 宇宙空間に逃げられた! 世渡天真! お前の精霊の力とやらを使って追いかけられないのか!」
「精霊の実体化はラーヴァ1体で限界だ。今ここから逃げていったあいつにアプローチする方法はない」
「なんてことだ……」
「エド、心配は無用だ。忘れたか? ソーラはすでに俺の最強の精霊によって守られている」
「なんだって? まさか君の精霊は宇宙空間にいるのか!? てっきりコントロールパネルを守っているのだと思っていた」
私もそう思ってた。そんなことできるの!?
「あいつなら大丈夫だ、絶対に」
「お前の言うことなら信用できるけど、それって三幻魔のときのあの精霊なのか?」
十代は心配みたいね。実力よりも性格を危惧してるようなニュアンスにきこえる。この状況ではむしろあの最凶最悪の破滅の光に力で勝てるかどうかを心配すべきだと思うけど。
「ラーヴァは俺の言うことは聞いてくれるし、破滅の光は追っ払ってくれるさ」
「勝てるのか?」
エドの端的な質問にテンシンは驚くべき答えを発した。
「あいつは俺よりも強いよ」
このとき手足が震えることはなかった。
代わりに背筋に薄ら寒い感覚を覚えた。
もし、その精霊と戦うことになったら、私は勝つことができるのだろうか?
願わくば、そんなことにはならないでほしい。だけど、なぜか私はそれが自分の使命なんじゃないかと思えた。
テンシンより強い謎の存在、神業だとすら思えた洗脳テンシンの数々の所業、時折みせる底なしの狂気。その全てが1つの線になって繋がったとき、直感的に私は思った。
テンシンの精霊を倒すのは、私なんじゃないかと。
ぶっこわれデッキその1
紙束で最強デッキに下剋上の究極形
これ以上の下剋上はないと思われ……
手札交換に対する解答が、
トーラは命削り
テンシンはエクスチェンジ
ここにそれぞれの個性が現れてますね
遺言の仮面は煽り発言のために旧テキストを載せてます。
このセリフを言ってみたかっただけのカード
剣山相手に使ったトラップモンスターとかもちょっとした伏線
結局ターンスキップをテンシンが1番上手く活用してワンターンキルにも成功しているという最大の皮肉
次回は自称銀河系最強デッキが宇宙空間でデュエル
1人称変わります