気づいたらデュエルアカデミア   作:りんごうさぎ

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記憶の世界編
ユベルの罠


 今日は入学式。2年のときは参加できなかったから俺にとっては初めての参加になる。レイがやっぱり十代ではなく俺に向かってウインクしてきたり、トーラが横にいたり少々変わった部分もあるとはいえ概ね筋書き通り。

 

「エキシビションマッチを執り行う!」

「エキシビションマッチ?」

「そんな話は聞いてないノーネ!」

 

 始まったな。コブラ……こいつの狙いはユベル復活。だが俺はただ傍観するだけでいい。異世界へ首を突っ込むことさえしなければ意外と3年生の一年間は平和だ。

 

 2年生のときはトーラを狙われてしまい不本意ながら巻き込まれてしまったが、もうトーラは強くなった。俺の方から関わろうとしなければ巻き込まれる心配はない。

 

 このあとのデュエルものんびり見物させてもらおう。俺が余計なことをしなければ必ずハッピーエンドで終わることはわかっている。ムダなことはしないさ。

 

「対戦者は私の独断で決める!……ヨハンアンデルセン!」

「んあ?」

「そして、対するは……世渡天真!」

「なに!?」

「ちぇっ! 俺じゃないのかよ」

 

 十代じゃない……だと!? 

 

 なぜだ!? ありえない!?

 

「あら、テンシン良かったじゃない。噂の宝玉獣といきなり対戦できるなんて」

「……」

「どうしたの?」

 

 トーラの言葉に返事ができないほど驚いていた。これは本当に信じられないことが起きた。

 

 このエキシビションマッチのマッチングはコブラの独断によるもの。つまり俺と言うイレギュラーの影響を受けることはありえない。

 

 にもかかわらずこんなことになったのは俺の想定を超えたところで歪みが生じているということ。

 

 どういうことだ?

 

「ありえない……」

(考えすぎだよ)

「ラーヴァ?」

(テンシンが有名になったから選ばれただけ。十代よりも有名で凄く強いからあの人も気になったんだよ)

 

 たしかにそう考えればそこまで変ではないのか? 十代が選ばれたのも色んな事件による功績故のこと。ありえなくはない……のか?

 

「どうした? さぁ、上がってきたまえ」

 

 くそっ! 行くしかないのか。本当はこのデュエル、めちゃくちゃしたくない。だがここでイヤそうな顔をするのもマズイ。俺がデュエルをイヤがるのは不自然過ぎる。

 

「二人とも、右手を前に」

 

 デスベルト……できればつけたくなかった。たとえ退学にされようとこいつだけはつけたくない。俺はこのベルトの装着を拒否するつもりだった。コブラの言うことなんて無視すれば大丈夫と思っていたのでこんな展開は想定外だ。

 

「どうした、浮かない顔だな? 世渡天真」

「最近デッキを変えたばかりなんでね。まだ納得いく調整ができてない」

「ぬるいな。デュエリストならばいかなるときも戦う準備をしておけ! キサマには徹底的にデュエルをさせ続けるとしよう」

 

 こいつ……!

 

 人が下手に出れば好き放題言ってくれるじゃないか?

 

 こっちがその気になれば今ここで消し炭にしてやることもできるんだがなぁ。舐めた口きいてると後悔することになるぞ、コブラ。

 

「だったら勝てばいいんだろう? 宝玉獣だかなんだか知らないが、俺は絶対に負けない。最初から負ける気の時以外はな」

「ほう、よろしい。ではやってもらおうか」

 

 ヨハンと俺が教壇に上がった。

 

 結局上手く乗せられて戦うことになってしまった。コブラだけはいつか直々に始末してやる。どうせユベルに始末される運命だし、大した影響はあるまい。

 

「好き勝手に言ってくれたが俺だって負けないぜ。世渡天真といえばこの学園の魔王って噂だ。どんなデッキか楽しみだぜ」

「魔王ね……言ってなよ」

 

「「デュエル!!」」

 

「俺のターン! ドロー!」

「来るか! 宝玉獣!」

 

 これは万丈目の声。観客も興味津々の宝玉獣デッキ。最初の一体がくるな。

 

「出ろ! 宝玉獣エメラルドタートル」

 

《宝玉獣 エメラルド・タートル》

効果モンスター

星3/水属性/水族/攻 600/守2000

(1):1ターンに1度、このターン攻撃を行った自分フィールドの攻撃表示モンスター1体を対象として発動できる。

その自分のモンスターを守備表示にする。

(2):表側表示のこのカードがモンスターゾーンで破壊された場合、

墓地へ送らずに永続魔法カード扱いで自分の魔法&罠ゾーンに表側表示で置く事ができる。

 

「キレイ……」

 

 レイをはじめ女の子は見惚れている。そして精霊がしゃべった。

 

「良く寝ていたのにヨハン、なんだねここは」

「ここが前に話していたデュエルアカデミアさ」

 

 精霊との会話……俺にはハッキリ聞こえる。

 

「今日の相手は油断してるとやられちまうぜ」

「デュエル中なのに呑気な会話だ」

「いいだろ? エキシビションマッチなんだからさ。精霊の声が聞こえてるってことはお前にも精霊がいるのか? カードを1枚伏せターンエンド」

「精霊なら見せてやるよ。ウチの精霊はお前のとこの精霊と比べるとおっかないけどな」

(ん!? ちょっと!! 何言ってるのテンシン!!)

 

 事実だろ? なんでもドロドロに溶かす悪魔の精霊なんだからさ。性格は可愛いけどな。

 

(褒めるところそこなの?!)

 

 ラーヴァのやつ疼いてるな。出てきたくて仕方ないらしい。お前の出番はまだ先だ。今はおとなしく待っていろ。

 

「ドロー! 俺はアメーバを攻撃表示で召喚」

 

 久しぶりの登場だ。俺の最初のデッキに入っていた1枚。あの頃のカードをまた使うことになるとはね。主力消滅を補うための苦し紛れではあるが。

 

「なんだそれ!?」

「昔使ってた思い出さ。続けて強制転移を発動! これで互いのモンスターが入れ替わる」

「なんだって!? それじゃ俺のエメラルドタートルがそっちにいくのか!?」

「しかもアメーバは相手のフィールドに移ったら2000ダメージを与える」

 

 

《アメーバ》

効果モンスター

星1/水属性/水族/攻 300/守 350

フィールド上に表側表示で存在するこのカードのコントロールが相手に移った時、

相手は2000ポイントダメージを受ける。

この効果はこのカードがフィールド上に表側表示で存在する限り1度しか使用できない。

 

 

 LP 4000 → 2000

 

 

「このわしにヨハンを攻撃しろというのか!」

「悪いなじいさん。勝負ってのは非情なんだ。たとえ家族だろうと攻撃してもらう」

「そうさ、俺とエメラルド・タートルは家族! それをこんな形で同士討ちさせるなんて許さないぞ!」

 

 何をいまさら。

 

 お前の目の前にいるのは誰だ?

 

「自分で言ったことだろ? 俺は魔王だってさ。だったら魔王らしくしてやるよ。俺はエメラルドタートルを攻撃表示に変更! アメーバを攻撃!」

「ぐぅっ!」

 

 ヨハン 2000 → 1700

 

「攻撃力の低いモンスターを出していて命拾いしたな? バトル終了後エメラルドタートルの効果で自身を守備表示に変更。カードを1枚伏せてターンを終了する」

「なんてやつだ! あの野郎宝玉獣を使いこなしてやがる!」

「攻撃から守備への流れにムダがない。未知の宝玉獣すら自分の力に変えてしまうなんてテンシンらしいわね」

「やっぱりテンシンさんはボクなんかの想像よりずっとすごいや」

 

 先入観って怖いな。

 

 他の観客はともかくレイ、お前はこの程度で驚くレベルじゃないだろう。

 

 実際ヨハンの強さはレイやトーラと比べるとたいしたことはない。やはり俺と関わりがなかったデュエリストの強さは元々の強さと変わらないらしい。

 

 コブラに指名されたときは焦ったが、ヨハンの様子を見るに杞憂だったようだ。

 

 デッキに変化がないとすれば、たしか、ヨハンは相手のモンスターを破壊するカードを使わなかったはず。つまり守備力2000のエメラルドタートルは意外と強力な壁になる。破壊できなければ宝玉として奪い返される心配もない。

 

 デュエルは調子がいいが問題はコブラか。ヤツの姿が見えない。ということはシナリオ通りあいつはユベルのいる研究所にいるのだろう。目的はこのデュエルでのデュエルエナジーの回収だ。いったいどれほどの精気を抜かれるのか……考えたくもない。

 

「待ってろエメラルドタートル! すぐに取り戻してやる! ドロー! 宝玉獣トパーズタイガーを召喚」

 

 

《宝玉獣 トパーズ・タイガー》

効果モンスター

星4/地属性/獣族/攻1600/守1000

(1):このカードが相手モンスターに攻撃するダメージステップの間、このカードの攻撃力は400アップする。

(2):表側表示のこのカードがモンスターゾーンで破壊された場合、

墓地へ送らずに永続魔法カード扱いで自分の魔法&罠ゾーンに表側表示で置く事ができる。

 

「ウガァァァ!! 今助けるぞ! エメラルドタートル!」

「頼むぞぉタイガー」

 

 精霊同士の会話か。身内の精霊以外が会話してるのは初めてみた気がする。

 

「さらに俺はM・フォースを発動!」

 

 

《M・フォース》

速攻魔法

自分フィールド上に表側表示で存在する「宝玉獣」と名のつくモンスター1体を選択して発動する。

選択したモンスターの攻撃力は500ポイントアップする。

選択したモンスターが守備モンスターを攻撃した時、

その攻撃力が守備モンスターの守備力を超えていれば、

その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える。

 

 

「Mだと? 最初はGじゃなかったのか?」

「こいつ……俺達のことを本当によく知ってるみたいだな。道理でエメラルド・タートルの使い方も上手いわけだ。だったら容赦はしないぜ! トパーズ・タイガーで攻撃! 攻撃力は合計2500となり貫通ダメージを与える!」

「自分のモンスターを倒しちゃうの!?」

「ヨハン!」

 

 レイや十代は効果を知らないヤツの反応。もちろん俺は狙いがわかっている。

 

 

 LP 4000 → 3500

 

 

「破壊されたエメラルド・タートルの効果! 墓地へは行かず俺のマジックトラップゾーンにセットされる!」

「厄介なモンスターだ。ならこっちも動こうか。リバースカードオープン! ダメージ・コンデンサー! この効果でデッキから2枚目のアメーバを攻撃表示で召喚」

 

 

《ダメージ・コンデンサー》

通常罠

自分が戦闘ダメージを受けた時、手札を1枚捨てて発動できる。

受けたそのダメージの数値以下の攻撃力を持つモンスター1体を

デッキから表側攻撃表示で特殊召喚する。

 

 

「テンシン、アメーバのコンボをまた狙ってるわね」

「もう一度2000ダメージなんてくらったらおしまいだぞ。どうするんだ?」

 

 トーラと万丈目、おそらく他のヤツも気づいているだろう。こんなにわかりやすい動きをしているのだから。俺はヨハンがどうやってこれに対応するのか、それがみたい。

 

 破壊系もなくカウンターできるカードも限られ、モンスターも宝玉獣しかない歪なデッキでどこまで抗う?

 

「そう簡単には負けないぜ! トラップ発動! 誘発召喚!」

 

 

《誘発召喚》

通常罠

相手フィールド上にモンスターが特殊召喚された時に発動する事ができる。

お互いは手札からレベル4以下のモンスター1体をフィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

「なるほどね」

「俺はコバルトイーグルを召喚!」

「ヨッシャー!!」

 

 

 《宝玉獣 コバルト・イーグル》

効果モンスター

星4/風属性/鳥獣族/攻1400/守 800

(1):1ターンに1度、自分フィールドの「宝玉獣」カード1枚を対象として発動できる。

その自分の「宝玉獣」カードを持ち主のデッキの一番上に戻す。

(2):表側表示のこのカードがモンスターゾーンで破壊された場合、

墓地へ送らずに永続魔法カード扱いで自分の魔法&罠ゾーンに表側表示で置く事ができる。

 

 

「さぁお前も1体出せよ!」

「俺はクリッターを守備表示で出す」

 

 アメーバを展開するためのカードが再び場に現れヨハンが一瞬イヤそうな顔をした。ちゃんと狙いはわかってくれてるようだ。

 

「イーグルでまずはアメーバを攻撃!」

「いたぶってくれるねぇ」

 

 

 LP 4000 → 2900

 

 

 アメーバは攻撃表示だ。結構ライフが減ってしまった。

 

「さらにカードを1枚伏せてターンエンドだぜ」

 

 

 ヨハン 手札1枚 タイガー イーグル 伏せ1 宝玉:タートル

 天真  手札1枚 クリッター

 

 

「フフフ……」

「何がおかしい?」

 

 こちらの不穏な笑みに対してさすがにいい気分はしなかったらしい。だがすでに遅い。ヨハンは俺の術中に嵌ってしまっている。

 

「やっとモンスターを2体並べたな?」

「んあ? それがなんだってんだ? モンスターを並べなきゃ勝てないだろ?」

「来るのか?」

「そう言えば久しぶりね」

「来るぞテンシンの……」

 

 ヨハンも周りの雰囲気が変わったことに気づいたのか油断なくこっちを向いて身構えた。

 

 たまには遊ばせてやらないと拗ねるからな。丁度いいだろう。

 

「悪魔の切り札、見せてやるよ。俺のターン、ドロー!」

 

 ニヤリ……思い通りのカードが引けて思わず口角が上がってしまう。俺とデッキの呼吸が一つになるような感覚。やっぱりこいつがデッキにいるとしっくり来る。

 

「来るのか! 学園の魔王の精霊! いったいどんなヤツだ……?」

 

 お前が想像してるよりヤバイ精霊だよ。

 

「今からお前の家族2体、骨になるまで溶かすが恨むなよ?」

「なんだって!?」

 

 ヨハンのモンスター2体を指さして宣言するとヨハンも目線をモンスターに落とした。驚いて自分のモンスターを見る相手プレイヤー……もはやこの世界では見慣れた光景だ。

 

「相手の場のトパーズタイガーとコバルトイーグルを生贄に……」

「グァァァアアアアア!!」

「ギァァァアアアアア!!」

「トパーズタイガー! コバルトイーグル!」

「出でよ! 溶岩魔人ラヴァゴーレム!」

 

 ドォォォォォンン!!!

 

 2体の宝玉獣を握りつぶしてラヴァゴーレムが堂々と降臨した。

 

「なんだこいつ! なんて禍々しい……しかも俺のフィールドに現れるモンスターなんて聞いたことないぜ! くっ……」

「お前、ずっと俺の切り札はアメーバだと勘違いしてたんじゃないか?」

「なにぃ?」

「俺がダメージ・コンデンサーでアメーバを呼び出したのはお前に新たなモンスターを出させるため。最初からこっちは囮なんだよ。お前の考えは全部お見通しだ」

「バカいえ! 俺のリバースカードまでわかっていたとでも言うのか? 上手くいったのは偶然だ!」

「だったらその伏せカードも当ててやろうか?」

「!」

 

 顔が引きつってるぞ?

 

「それは宝玉獣のためのフィールド魔法を展開するトラップカード。違うか?」

「なっ!? なぜそこまで!」

 

 正直なヤツだ。図星でも、もう少しバレないように工夫するもんだろうに。

 

「今生贄にされた2体は破壊ではないので永続魔法として残ることはない。だから虹の都の効果は十分には発揮できない」

「なんてこった……お前いったい何者だ? ここまで手の内が読まれたのは初めてだ」

「未来を見通す占い師曰く、俺は世界らしいよ」

「世界……」

「さぁ、おしまいだ。リバースカードオープン! 洗脳解除!」

 

 あのとき、斎王に負けて俺が失ったのは主にラヴァとバルバロスのサポートカード。所有者の刻印や聖杯だ。あとは強欲な壺とかの必須カード。洗脳解除はあまり使わないからたまたま抜いていた。

 

「何? モンスターが勝手に!」

「帰っておいで……よしよしいい子だ」

「モンスターのコントロールを戻すカードか。けど……お前も自分の精霊のことは大事にしてるみたいだな」

「当たり前だ。自分の精霊がかわいくないわけないだろう?」

「そうか、だったらいいや。よし! 一思いにやってくれ!」

「潔し! ラヴァゴーレムの攻撃! ゴーレム・ボルケーノ!」

 

 ヨハン 1700 → -1300

 

 レインボー・ルインの効果が発動すれば戦闘ダメージを1500に抑えて耐えることができていた。ここはラヴァゴーレムのおかげでキレイに勝てたな。

 

「うぐっ!?」

「うわっ!? なんだ……これ……」

 

 テンシン!? どうしたの……しっかり……

 

 テンシンさん! だいじょ……ぶ……

 

 テンシン! しっかり……しろ……

 

 全身から根こそぎ力が奪われる。

 

 これは斎王に負けた時と同じ。

 

 このままじゃまた意識が……

 

 ◇

 

 あれ? ここはどこだ?

 

「うぅ……」

「あっ! 気が付いたのね!」

「鮎川先生?」

 

 ここは保健室か。

 

 ヨハンとのデュエル、最後にデュエルエナジーをこれでもかっていうほど持っていかれたが、死んだわけではなかったか。

 

 対戦相手はヨハンアンデルセンだしな。

 

 保健室に来たのはトーラが白く染まったとき以来だなぁ……などとたわいもないことを考えながら帰り支度をしていると、先生からはたいそう驚かれた。

 

「テンシンくん、よく動けるわね。体はなんともないの?」

「別になんとも? そういえばヨハンはどうなりました?」

「まだ眠っているけど、テンシンくん、あなただってずっと眠っていたのよ? 体は疲労困憊のはずなのに、本当に大丈夫?」

 

 やけに心配性だな。

 

「別になんともないけどな……」

「あなた、丸1日眠っていたのよ」

「1日も!? それじゃ……トーラ!!」

「あっ! ちょっと!」

 

 そういえばデスデュエルは長時間昏睡するケースもあった。記憶もあやふやになってきていて忘れていた。

 

 翌日になっているということはもうすでに生徒全員へデスベルトが配布された後かもしれない。トーラが腕につけてしまうのだけはなんとしても阻止しないと!

 

 ベッドから飛び降りると精霊の力を解放して全力でレッド寮に戻った。

 

「トーラ!!」

「キャァァァアアアア!!」

 

 着替えていたところのトーラとバッタリあってしまったがその腕にデスベルトがついていることは見逃さなかった。

 

「ごめん! けど遅かったか」

「何よもう! びっくりするでしょ!」

 

 いつもいつも間が悪い……。

 

 いったん外に出て、着替え終わったトーラにデスデュエルの危険性を説明しデュエルしないように説得した。その後トーラの腕輪を外させるためにコブラを探した。

 

 もちろんトーラを異世界に行かせるつもりはないが万一の場合に備えてこのベルトは外しておきたい。俺のベルトはいつでも外せる。というかもう外した。

 

(テンシン怒ってる?)

「当たり前だ。あのコブラが言うことを聞かなければ殺す」

 

 日が暮れてきた。こんなに探してもいないということは……ヤツは研究所にいるのかもしれない。さすがにコブラごときに遅れをとることは考えにくいし、手っ取り早くヤツの本拠地に乗り込むのはアリだ。

 

 いいや、いっそユベル本体を実力行使でブッ倒してやるのも手だ。ユベルの事件で限界に達した歪みからダークネスが侵攻するのならば、ユベルの企みそのものを止めればダークネスの進行も止めることができる。

 

「俺一人なら思いっきり暴れられる。あの研究所をぶっ壊して全部終わらせる」

「……本当にそれでいいの?」

「ラーヴァ?」

「ラーヴァは行かないでほしい」

「なぜ?」

 

 実体化したラーヴァから意味深な言葉が漏れた。どういうことだ?

 

「きっと後悔するよ」

「…………それでも止まれない」

「バカ」

 

 ラーヴァは消えてしまった。もう出てくるつもりはないようだ。

 

 どうしてこんなことを? ラーヴァ……お前は何か知っているのか?

 

 何か確信を持っているように感じたが、思いのほかあっさりと引き下がった。だが結局俺は止まれない。トーラに何かあってからでは遅いし、俺には力がある。行動せずに後悔することだけは避けたい。

 

 研究所への侵入は簡単だ。俺のマグマは全てを溶かしつくす。精霊の力でもぶつけなければ無力化はできない。壁を全て溶かして無理やり侵入した。

 

 コブラは監視カメラで常に状況をチェックできるから俺のことには気づいているはず。

 

 それでもかまわない。俺は無敵だ。

 

「案外あっさりと着いたな」

「ようこそ世渡天真」

 

 ここは研究所の最深部。コブラ、まるで俺が来るのを待っていたかのようだ。どうもイヤな感じがする。だが俺を止める策などあるはずがない。

 

「コブラ、俺からの要求は1つ。デスベルトを解除しろ。少なくともトーラのベルトは外してもらう」

「ご苦労なことだ。そんなくだらないことのためにここまで来たのか」

「死ね」

 

 殺すつもりでマグマ掌底を放った。

 

「ムダだよ、テンシン。そんなもの『ボク』には効かない」

「なん……だと?」

 

 この感じ、このしゃべり方……

 

「お前は……ユベル!?」

「フフフ……もうバレているのか。まだこの学園には来たばかりなのにねぇ。世渡天真。やはり君だけは油断ならない存在だ」

 

 どういうことだ? ユベルにはまだデュエルエナジーが溜まっていないはず。すでにコブラの体を乗っ取れるほどということは1つ目の異世界の時点と同じぐらいのエネルギーが蓄えられている。

 

 やはりエキシビションマッチに俺が選ばれた時からすでにおかしかった。

 

 全ての歪みの元凶は……まさかユベルなのか?

 

「知っているよ。今の君は少し前までとは比べ物にならないほど弱い。ヨハンアンデルセンと戦ったときのデュエルの様子を見れば決定的だ」

 

 なに!? ますますわけがわからない。こいつは俺が弱くなることがわかっていたとでも? しかもあのエキシビションマッチを見ていたということはデスデュエルが始まる前にすでにデュエルエナジーをたんまり吸収していたことになる。

 

 てっきり俺のデュエルのせいでデュエルエナジーが溜まったのかと思ったがそうではない? ならいつからユベルはデュエルエナジーを集めていたんだ?

 

 わけがわからない……

 

「キサマの存在は危険過ぎる。ここで消し去っておかないとな」

「物騒だねぇ。ボクはそういうのは好まないんだけどなぁ」

「言ってな! 出し惜しみはナシだ!」

 

 精霊の力をフルパワーで解放! 一撃で決める。

 

「かかったね」

「何!?」

 

 両脇から謎の装置が現れて力を吸収された! なんだこれ? デスベルトと同じような感覚だ!

 

「安心しなよ。生徒たちに配ったデスベルトはガラクタさ。エネルギーを吸収する働きはない」

「は?」

「ハナからボクの目当ては君なんだよ、世渡天真」

 

 全て俺をここにおびき出す作戦だったのか? 俺がここにくることがわかっていたとでもいうのか! 

 

 こいつは……いったい何を知っている? このままではマズ過ぎる! すぐに脱出だ!

 

「ハァッッ!!」

 

 バコォォォォォォンンン!

 

「これを打ち破るか。でも十分にエネルギーは溜まった。これで計画通り」

「くそっ……」

 

 相当なエネルギーを持っていかれた。ラーヴァが持っていたエネルギーまで根こそぎか? わけもわからず焦り過ぎたか。

 

「さぁ、最後の仕上げだ。世渡天真、君から悪魔を取り除いてあげるよ」

「悪魔だと?」

「たった今も悪魔の力を使ったばかりじゃないか」

 

 こいつの考えが全くわからない。とにかく後手を踏み過ぎている。どうすればいい? 俺はこれからどうするのが正解だ?

 

 ――きっと後悔するよ――

 

 脳裏に先刻のラーヴァの言葉が蘇る。そうだ、ラーヴァはこれをわかっていたんじゃないか? ラーヴァ、俺の呼びかけに答えてくれ!!

 

「ラーヴァ!!」

「行っちゃダメって言ったのにここまで来ちゃったんだね」

「それは悪かった。助けてくれ!」

「勝手だね。でもいいよ。ラーヴァもこの精霊、キライだし」

「ボクがキライだって? ボク達は初対面だろう?」

「死んで」

 

 ラーヴァの攻撃は相当強烈だった。だが相手もそれ以上の力を見せた。

 

「怖い怖い」

「チッ……いったいどれだけのデュエルエナジーを集めたの? すでに十二次元に干渉しうるだけの力を持っているね」

「お前を倒すにはまだ十分とはいえないさ。だが引き離すだけなら十分だ」

 

 引き離す? 何から何を?

 

 俺から……ラーヴァを、だ!

 

「マズイ……テンシン、逃げるよ!」

「……わかった」

「遅いよ? おいそれと逃がすわけないじゃないか」

「テンシン! 避けて!」

 

 一瞬思考が遅れたのをユベルは見逃さない。ユベルの攻撃に飲まれて、いきなり目の前が真っ白になった。

 

 意識が遠のいていく。

 

 ユベル、こんなこともできるのか! 

 

 俺の中からラーヴァが消えていく……

 

 大事なものが失われていく感覚だ。

 

「世渡天真! これで君から悪魔を切り離せたね。ボクが君のためだけに用意した世界をゆっくりと楽しんできておくれ」

 

 もうほとんどユベルの言葉は頭に入ってこない。

 

 こんなことなら研究所に来るんじゃなかった。

 

 ラーヴァ……

 

 ごめん……

 




テンポ重視で色々とすっ飛ばしてます。
ここから原作から完全に離れていく流れに……
いい感じの展開に書くのが難しいので次話から始まる異世界部分は後から大幅に書き直すかもしれません。
完璧な仕上がりを待っているとまた何年も寝かせることになるので一旦の形で進めます。
未完の傑作より完結した駄作と言いますからね。
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