気づいたらデュエルアカデミア   作:りんごうさぎ

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最初の記憶

 チュンチュンチュン……

 

 朝日の木漏れ日と小鳥の囀りで目を覚ました。

 

 ここはどこだろう。都会にはない空気感。安心感を覚える子供部屋のような空間。勉強机に漫画の本棚。

 

 全然知らない場所のはずなのに妙な既視感がある。デジャブ?

 

 日光の差し込む窓からは中庭みたいな場所を挟んで自分がいる家とは別のもう1つの家が見える。反対側には山。ここはそのふもとにある民家か。結構田舎っぽい。

 

 どうしてこんな知らない場所にいるんだろう。たしか自分はさっきまでコブラの研究室にいたはず。あれからどうなった?

 

 外に出るため出口へ向かおう。部屋の外には急こう配の階段がある。そう、ここは2階。降りた先には物置のような空間があってその先に出るとさっき窓から見えた中庭に着いた。色々植物が植えてある。植物の名前は忘れた。

 

 住人を探してもう1つの家屋に裏口から入ろうとし、ドアノブに手をかけたとき、ふと疑問が湧いた。

 

 なぜ裏口にドアがあるとわかった?

 

 なぜ自分が最初2階にいるとわかっていた?

 

 なぜ階段の場所がわかった?

 

 なぜ知らない植物の名前を“忘れた”と思った?

 

自分はこの場所を知っている……?

 

 ドアを開けて入った先は台所。食卓テーブルもここにある。そう、いつもここでご飯を食べていたんだっけ……。

 

 ゾワゾワ……!

 

 何かの動く気配がする。なんだこの気配? 人間か? いや、これはもっとおぞましい何かだ。うかつにこちらの居場所を知らせてはダメだ。家の中を進んでいくのは自殺行為。

 

 自分の直観に従い慎重に後戻りして外に出た。そして隣の車庫を抜けて玄関から再び家の中に入りなおした。

 

 たしか玄関に車のカギがあったはず。足を手に入れておくのは大事だ。

 

 玄関から入ると奥に人影が見えた。人間もいたのか?

 

「あんた誰だ?」

「誰だとはなんだね。勝手に入ってきたのは君の方だろう」

 

 この家の住人? いや、そんなはずはない。こんなやつこの家にはいなかったはず。後ろを向いていて顔は見えないが間違いない。こいつは侵入者!

 

「名乗れ」

「名乗るほどの者じゃない。私は通りすがりの……上級モンスターさ」

「モン……スター……?」

「キヒヒッ!」

 

 バッ! 振り向いたその人物の顔は俺がよく知っているものだった。

 

 姿形が変化していき人間に見えたそれはあっというまにデュエルモンスターズに様変わりした。

 

「ヴァンパイア・ロード!?」

「暗黒の使徒!」

 

 咄嗟に精霊の力で反撃しようと右手をかざしたが、ラーヴァの力が発動しない。代わりに腕にデュエルディスクが顕現した。

 

 カキン!

 

 いったん敵の攻撃はディスクで防いだ! すぐさまホルスターからデッキをセットしてトップデッキを召喚した。

 

「黄泉へ渡る船!」

「キヒッ!?」

 

 バコン!!

 

 黄泉へ渡る船の効果で爆発……もとい破壊されたか。なんとか窮地は脱したか。だがこいつは再び復活する効果があったはず。次のスタンバイフェイズ……いつだ?

 

 破壊した塵は残っているのでこの場所で再生するのは間違いなさそうだ。すでに再生し始めている。かなりの速さだ。そもそもスタンバイフェイズっていつだ? どれほどの時間で復活する? 急場は凌げたが危機はまだ去っていない。

 

 のんびりしてるヒマはねぇ!

 

 玄関の奥側にカギが置いている棚がある。田舎だからかムダに玄関が広い。一歩踏み出した瞬間耳をつんざく金切り声が響いた。

 

「ギギャァァァァ!」

「地雷蜘蛛!!」

 

 さっき感じた気配はこいつか!

 

 マズイ! 位置的に奥から出てきたヤツの方がカギに近い! しかも俺のデッキはかなりパワーが低いから応戦は難しい。

 

 俺はこの世界に二つのデッキを持ってきている。普段戦う時のデッキは当然として、もう一つ、異世界に迷い込んだときのために異世界用のデッキを常備している。

 

 それはあの暴君を倒した時の戦利品。いわゆる禁止デッキだ。だがここが異世界だと気付いたのはついさっき攻撃されたとき。瞬時にデッキを入れ替えるほどの隙はない。

 

 相手の攻撃を躱して外に出よう! そしてこの家の周りを一周してカギを入手するしかない。敵を前にして禁止デッキを取り出す隙を作るのは命取り。これが最善か。

 

「キシャァァァァァ!!!」

「フッ!!」

 

 攻撃を上手く躱した! 紙一重! 後ろのスライド式の扉が吹き飛んだ。ラッキー、このまま外に脱出できる!

 

 二発目の攻撃が来るのに合わせて家の外へ緊急回避。あとは全力疾走で裏口の庭があるほうへ回り込むだけ。家に向かって左側が車庫。なら右側から……!

 

 しまった! そうだ、右は上り坂になっている! 山の方へ続く道だからだ。この化け物相手に上り坂での競争はリスクが高すぎる!

 

 それに右側は道があるだけで遮るものも何もない。左なら車庫を使って攻撃を躱せる。道も平たんに均されているから足が遅くなることもない。

 

 命には代えられない。車は潰されるかもしれないが左から逃げよう!

 

 朧げな記憶を頼りに瞬時に左から逃走することを判断。地雷蜘蛛はすぐに追ってきた。

 

「間に合え!」

 

 バタン!!

 

 すぐに車庫のドアを閉めた。イヤな予感がして横に転がった直後、ドスッと鋭い足が車庫の壁に突き刺さる。間一髪。さっきまで居たところに貫通して突き刺さっている。

 

 カサカサカサ……

 

 地雷蜘蛛は足を引き抜いてそのまま車庫の上に這いまわった。

 

 そのままどっかいけ……

 

 全力で念を込めたが願いは通じず俺の真上で動きが止まった。

 

 ゾク……!

 

 家の中でも動く気配がする……気がする。まさかモンスター同士で挟み撃ちにする相談とかしてないよな? できないよな? だが位置的に2体のモンスターに挟まれてマズイ状況には違いない。この窮地、どう乗り切る?

 

 いったん禁止デッキに入れ替えてサンダーボルトか? だが破壊してもヴァンパイア・ロードは蘇る。

 

「ギシャーーーァァァァ!!!」

 

 急にガタガタと暴れ始めた! すごい暴れ方……天井が崩れる! ヤバイ、出ないと!

 

 ガッッシャァァァンンン!!!

 

 天井崩落! 車ペシャンコ! そのまま崩落した天井の生き埋めになってしまった。一瞬の出来事で躱せなかった。動けない俺に向かって強烈な攻撃が振り下ろされる。

 

 パァァァ……

 

 死を迎えたものは人もモンスターも例外なく光の粒子となって消滅する。

 

 消滅を確認した地雷蜘蛛は満足そうにその場を去っていった。

 

 

 ◇

 

 

「死ぬだろ今のは! アブなすぎんだよこん畜生!」

 

 危なかった。本当に今のはギリギリだった。

 

 天井が落ちてきたとき、デッキの入れ替えは諦めて咄嗟に引いたカードをそのまま発動させた。引いたときの直感でマジックカードだと思った俺は何も考えずそれを発動させた。

 

 強制転移

 

 それが発動したカードだ。モンスターを引けば仲良く下敷き。トラップならすぐには発動できない。マジックでも対象を取るようなカードならそれを選択することが間に合わない。おそらくデッキの中で唯一の正解を引き当てそれを的確に発動させた。モンスターゾーンにセットしたらチョンボだからな。

 

 我ながら呆れるほどの悪運。俺は近くで復活していたのだろうヴァンパイア・ロードと場所が入れ替わりヤツが代わりに地雷蜘蛛の攻撃の餌食となった。戦闘破壊ならもう復活はできない。完璧だ。

 

 場所は少しだけ動いている。本当に復活した直後だったのだろう。ギリギリだが最高のタイミングだ。

 

 これでウチにはもうモンスターはいない。少しゆっくりできるな。車がダメになったのは痛いが自転車もある。玄関に置いていた自転車はまだ使えた。一応カギはつけていつでも使えるようにしておこう。いつ逃げることになるかわからないのだから用心するに越したことはない。

 

 さて、これからどうする? ここはモンスターの精霊がいる異世界に違いない。だがそれならなぜ俺はこの場所に見覚えがある? わけがわからない。

 

「そうだ……ラーヴァ! いるか!?」

 

 反応がない。やはりここに来る前、あの時にラーヴァとの繋がりを切られてしまったらしい。俺とラーヴァは灼熱の試練を乗り越え魂レベルで一体となっていた。

 

 そのはずなのに、俺とラーヴァを引き剝がすことができるなんて……。

 

 ユベル……恐ろしい奴だ。

 

 ラーヴァを取り戻すにはユベルを倒すしかないだろうが、ここから出れないのでは話にならない。まずはこの家の中を調べてここがどこなのかハッキリさせておく方がいいかもしれない。

 

 少しこの家を調べていこう。ただこの世界のルールは最初に確認しておくべきだ。ちょっと実験してみよう。

 

 試しにさっき破壊された黄泉へ渡る船と強制転移を使ってみよう。

 

「……使えない。一度きりの使い捨てか」

 

 こうなると話は変わってくる。カードはなるべく温存しないとダメか。使いまわせるならモンスターに乗っていくこともできるがそんなに甘くはないよな。そうだと思った。

 

 使ったカードは取り分けて別の場所にしまった。

 

 自転車がすぐ動けるのを確認してから奥の部屋に進んだ。

 

 すごく生活感があって誰かが住んでいたのは間違いない。各部屋に抜け道みたいな通路があってどこの部屋にも抜けられるようになっている。敵に襲われても撒きやすそうだな。

 

 押入れの奥なども調べているとアルバムのようなものがあった。気になって広げてみるとそこには予想だにしないものが写っていた。

 

「俺だ! 小さかった頃の俺……そうだ、ここは俺が昔住んでいた家だ!」

 

 あっ! そう気づけばすぐに目についた。あれは昔に俺が遊んでたオモチャ。こっちは俺の服。あの食卓テーブルの椅子は俺が座ってた椅子だ!

 

 全部知ってる! 全部記憶の通りだ!

 

 なんで忘れてたんだ! 自分の家なんて忘れるわけないだろ! 時間が経ったからとかそんな次元じゃない。明らかにおかしい。俺はやはり記憶が消されている。俺は悪意ある第三者によって記憶を抹消されているんだ!

 

 ならここは昔の俺が居た世界なんだ。だが見た目が同じでもここは現実世界とは違う。あくまでモンスターが闊歩する異世界。きっとこのライフポイントが尽きればおしまいだ。

 

 デュエルディスクの表示を見ればライフはまだ4000残っている。このライフが尽きる前になんとかここから脱出しないとな。だがどうすれば戻ることができるんだ?

 

 この世界にはゴールはない。俺はユベルの力でここに飛ばされた。ヤツはなぜ俺をこんなところに飛ばした? ユベルの考えを理解しないことには脱出は不可能。あるいは圧倒的な力で無理やり次元の壁を超えるか?

 

 俺の持っているカード……効果は強力だがステータスに関しては大したカードはない。唯一強いと言えるのはカオスエンペラーぐらいか。それも攻撃力で言えば3000止まりだし、バルバロスと変わらんな。

 

 やはりユベルの意図を見極めて異世界へ通じる扉を出現させるしかない。ヒントと言えばここに来る直前のこと、奴の発言、行動、本来の筋書きとの変化。何かヒントはないのか?

 

 アルバムには時間の流れが刻まれている。生まれた時、幼稚園、そして小学生。だがそれはそこで途切れている。そこで俺は……

 

 ギラッ……

 

「モンスター!?」

 

 空白のページに光の反射で後ろのモンスターが写りこんでいた。咄嗟に頭を屈めると頭上を銛が通過し押入れに突き刺さった。

 

「フィッシャーマンか!!」

 

 伝説のフィッシャーマン。攻撃力1850の上級モンスター。こいつを倒すには禁止デッキに入れ替える必要がある。銛を持っていないうちに一旦距離をとる!

 

 小さな隙間を縫いながら玄関目指して走った。家の中を知り尽くしている俺の方が回り道しながら進むモンスターよりも圧倒的に速い。向きもバッチリの自転車に飛び乗って外に出た。

 

 家の正面には左右に道が伸びている。左は山の奥へと続く道。都会からここへ帰って来るときに通る道だ。右はこの近くの町へ繋がる道。学校なんかもこっちにある。左から大きな街までにいくには100㎞以上、途中の町へ行くにも10㎞は進まなきゃいけない。今は近くの町を目指すべきだ。

 

 右だ。右へ進もう!

 

 ドガン!!

 

 壁を突き破ってフィッシャーマンが出てきた。サメに乗った状態で空中を飛行しながら追ってくる。そんなのアリか?! チャリをかっ飛ばしてもあっちの方がやや速い。倒すしかないか。

 

 デッキならもう入れ替えた。外に出たから大型モンスターを出すスペースも十分。ここで迎え撃つ!

 

 ドロー! 引いたのは微妙なカード。やはりこの禁止デッキとは信頼関係がないせいか引きが良くない。だが攻撃力は十分足りている。こいつで迎え撃つ。

 

「出でよTM-1ランチャースパイダー!」

 

 ここなら生贄はいらない。だから自分が持っている使えない最上級モンスターをありったけ入れてある。こっちの攻撃力は2200。フィッシャーマンなら余裕で倒せる。

 

 ついでに1枚カードを伏せてから攻撃命令を下した。

 

「ファイヤー!」

 

 無数のミサイルが飛び交うがフィッシャーマンは見事にそれを躱し切った。この先は両側を崖に挟まれた高架下を潜るポイントがある。その先は開けた場所で水田が広がっている。できればこの狭い一本道で敵を仕留めておきたいところだ。もう少しで高架下にさしかかるところでさらに新手の追手が現れた。

 

 あれはサイボーグ・バス。攻撃力は1800と大したことない。まとめて吹き飛ばせる。ムダな援軍を、と思ったところでモンスターの様子が変わった。

 

「ハァァァァ!!!」

「様子が……なんだこの感じ?」

 

 何か変だ。何をするつもりだ?

 

 突然2体の体が光始め2体が1つになった。その光はさらに大きくなり……これは?!

 

「要塞クジラ!」

「ブオオオオオォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 要塞クジラ、攻撃力2350だ。儀式召喚とは味な真似してくれる。儀式召喚も知らねぇレッドの落ちこぼれにはこいつで十分ってか? 

 

「ランチャースパイダー、守備表示」

 

 攻撃力では勝てないが守備表示なら凌げる。ランチャースパイダーは敵の攻撃を見事に受けきった。

 

 ガキンガキン!!

 

 ドカンドカン!!

 

 敵の砲撃が飛んでくるがランチャースパイダーはビクともしない。意外と頼りになるじゃないか。だが、こっちが安心したタイミング、もうすぐ高架下に差し掛かろうというところでさらに何かが発動した。今度は何だ?

 

 ザパッ! ビシャビシャ!

 

 これは……水だ! 辺り一面が広大な水たまりに侵食されていく。

 

 高架下は全て水没した! 大きく下に潜る形だから高架下に水が溜まってしまっている。これはマジックの効果? まさかフィールド魔法か?!

 

「海!! 海のカードか! くっ……攻撃力と守備力が逆転した!」

 

 ドカン!!

 

 ランチャースパイダーがやられた! 敵は200アップして攻撃力2550、対してこっちの守備力は200下がって2300か。さらに自転車のままではこの海は越えられない。厄介な!

 

 やはり引きが悪い。水属性相手に炎属性かつ機械族のランチャースパイダーを引く時点で嚙み合わせが悪い。

 

 だからこそ、準備をしておいてよかった。

 

 ディスクからはすでに準備が完了した気配を感じる。これであのクジラを撃墜する!

 

 俺はランチャースパイダーを出した時に一緒にリバースカードをセットしていた。

 

 だが要塞クジラは水を背にして逃げ場のない俺へ一直線に突っ込んできた。

 

 もう攻撃を回避できない距離。ここでトラップを発動する!

 

「リバースカードオープン! リアクティブアーマー!!」

「ブモォォォォォ……」

 

 パァァァ……

 

 要塞クジラはあと少し、俺まで残り数十センチというところで木っ端微塵に砕けた。

 

 た、倒せた……

 

 残ったのは広大な海のフィールド。

 

「泳いで渡るか……」

 

 自転車を乗り捨てて泳いで渡ることにした。

 

 この世界はいったいどこまで続いているんだろうか。

 

 ユベル……次に会ったら気になってること全部吐かせてやる。

 

 




しばらく異世界です。
サバイバル感のある展開が楽しいのでこんな感じに。
懐かしのモンスターも再登場のチャンス!

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