気づいたらデュエルアカデミア   作:りんごうさぎ

65 / 76
世界の真実

 

「やぁ、待っていたよ世渡天真。君ならクリアするのにそう時間はかからないと思っていたけど……ボクの想像をさらに超える速さだ。さすがだよ」

 

 いた! 十代への歪んだ愛情でこの世界を破滅に導く悪霊! ユベル!!

 

「ユベル……出やがったな! アーミタイル! F・G・D!」

 

 アーミタイルとF・G・Dをユベルに差し向けるがモンスターは動かない。

 

「相変わらず喧嘩っ早いねぇ。ムダだよ。君の連れているモンスターはこっちの世界には入れないからね」

 

 バタンと無情にも扉は閉じてしまい、そのまま消滅してしまった。

 

「チッ……だったらデュエルだ!」

 

 すぐさまディスクを構えて用意していたデッキをセット。臨戦態勢に入った。ここまで巻き込まれてしまった以上もうこいつを無視することはできない。引き剥がされたラーヴァを取り戻すためにもこいつを倒す!

 

「全く、君はいつだってそうだ。敵は全て倒さないと気が済まない。そうやってどんな敵も倒してきたんだろう?」

「怖気づいたか?」

「フフフ……君こそ、その貧弱デッキでこのボクに勝てるのかな? 敗北がこの世界で何を意味するか、知らないわけじゃないだろう?」

 

 こいつ、異世界での俺の様子を見ていたわけじゃないのか? 俺は異世界ではデュエルをしていない。敗北の意味なんて知るわけないだろう。命がけのデュエルを挑んでこないのは、てっきり俺にデュエルで勝つことを諦めていたからだと思っていたが……

 

「負ければどうなるんだ?」

「惚けるつもりかい? 隠してもムダさ。君は知っている。負ければそれはデュエリストの死を意味することを。そして、それでもなお恐れていないんだね。なんて気高い心だ。その強い精神には本当に惚れ惚れするよ」

「知ったような口を……」

 

 こいつ、これはハッタリじゃない。本当に知っているんだ。俺は異世界でも念のため迂闊な行動には気をつけていた。なのにここまで確信を持っているということは……やはりユベルはもっと前から暗躍していたんだ。確実にこいつは俺を知り尽くしている。

 

 だとすると、誰かを憑代にして俺を見ていたのか? 外部から来た人間……誰だ? イレギュラーがあったとすれば、まさか早乙女レイか?!

 

「考えているねぇ。ムダさ。今の君にはボクを理解することはできない。それにボクは君と争うつもりはないんだ。ここに来てもらったのはどうしても君に話しておきたいことがあってねぇ」

「ならラーヴァを返せ。それからならいくらでも話をきいてやる」

「そんなに大事なのかい? 全く……アレのこととなると周りが見えていないね。天下無敵の世渡天真も惚れた相手の前ではただのヒトか」

 

 こいつ……! お前が言うか! 愛情に溺れて狂った、世界を破滅させるサイコヤンデレには言われたくない!

 

「お前には言われたくねぇな。この……」

「世界を破滅させるサイコヤンデレ、だっけ? ヒドイよ、少なくとも君の前ではまだ世界を破滅させることも、ヤンデレとやらになって暴走することもしていないはずなのに」

「バカな……!! ありえない!!」

 

 こいつ、俺の思考が読めるのか? そんな能力なかったはず。だがもしそうだとしたらあの世界が俺の記憶の世界だったことにも合点がいく!

 

 最悪のシナリオが脳裏を過ぎる。勝てない……本当にそうだとしたらこいつにはどうやっても勝てないぞ。

 

「アハハハハハ!! 何度見ても面白いねぇ。君のそんな顔を見るのは! 一度しかその反応を楽しめないのが残念だよ」

 

 一度? こいつは何を言っている? どうもイヤな感じだ。まだ俺の知らない重大な何かがあるのか?

 

 こいつは今争う気はないと言った。向こうが自分から話をしたいというなら今はそれに従うのがベストか。ここはおとなしく話を聞くしかない。

 

 ……!

 

 そこまで考えて1つ気づいてしまった。そうか、こいつの狙いはそれか! 俺の敵愾心を和らげ自分の話を聞かせるために、こんな心を読んだような発言をしたんだ。

 

 全てこいつの掌の上というわけか。

 

「チッ……気に食わねぇな」

「おや? 口ではそう言っても話を聞く気にはなったみたいだねぇ。殺気が消えているよ? 世渡天真」

「……」

「フフフ……それじゃあ君の気が変わらないうちに話を進めようか。ここならあの溶岩娘も入ってこれないけど、万が一ということもありえるからね。早く話を進めるに越したことはない」

 

 やはりここには俺一人。あのラーヴァですら干渉できないということは脱出するには自力でなんとかするしかないのか。だがここで相手の下手に出るわけにはいかない。気持ちで負けてしまっては勝てるものも勝てなくなる。

 

「ならまずは俺の質問に答えろ」

「いいよ。なんでも答えてあげよう」

「あの世界はなんだ?」

「君の記憶の世界のことかい? そうだね、まずはそこから話さなきゃいけないだろうねぇ。君がききたいことは3つ。あの世界がどうやって作られたのか、ボクはあの世界で君に何をさせたかったのか、そしてなぜ君はあの世界のことを忘れていたのか」

 

 チッ……よくわかってやがる。やはりこっちの考えはお見通しか。

 

 逆にこっちはユベルの考えが全くわからない。このサイコヤンデレは何を考えている? 恐らくこいつは俺に危害を加えるつもりは本当にないのだろう。その気ならこんな回りくどいことをしなくてもいい。俺のことをこれだけ知り尽くしていればどうとでもできたはずだ。

 

 なら俺を利用する? いや、俺がそうそう他人に靡くようなことがないのはわかっているはず。わかっているからこそこれだけ回りくどい手を使って篭絡しようとしている可能性もあるが……

 

 篭絡、と考えてふと気づいた。この状況……もしかして見たことあるぞ!

 

 今俺がされていることって、もしかして十代と同じなんじゃないか? やみくもに傷つけているようで、実はそれは愛情の裏返しでもあり、かつ覇王の力を目覚めさせるためでもあった。

 

 俺に対しても同じことをしようとして、だから異世界に連れていった? 俺は帰省した時から急激に女から色目を使われることが増えた。早乙女レイだって元々十代が好きになるはずだったんだ。

 

 ま、まさか……嘘だろオイ!!

 

「まさか……おまえ……!!」

「ん? あぁ、その顔は勘違いしている顔だね。安心しなよ、ボクの心は永久に十代のモノさ。君なんかに浮気したりしないよ」

「ほ、本当だろうな?」

「ボクってそんなに信用ないのかい? 確かに君の容姿が人間の女達の目を引くことはしっているけど、あいにくボクは外見の良し悪しには興味がないんだ。ボクには心の奥底を見通す目があるからね」

 

 そう言ってユベルは額の瞳を撫でた。ユベルってあれで人の心の闇を見ていたのか。ユベルは外見の美しさを捨てた前世の行動のこともあるし、説得力はある。

 

「お前が言うなら納得はできる」

「見てくれなんて所詮飾りなんだよ。より美しいものを求める習性のある生き物にはわからないだろうけどね」

 

 たしかにこいつは精霊だ。精霊の感性は人間とは全く異なるのはラーヴァと身近な俺もよく知るところ。さすがに杞憂だったか。

 

「でも、外見は別にして、君の何物にも屈しない気高く美しい心には惹かれるものがあるけどね」

 

 ゾワゾワゾワ……

 

「……」

 

 背筋に寒気が走り声が出なくなった。

 

「フフフ……冗談だよ。そんなに本気にしなくてもいいだろう?」

「悪霊にも冗談が言えたのか」

「つれないねぇ。ボクは君のこと十代ほどではないけどそれなりに気に入っているのに」

「やめろ! いい加減に話を戻せ! 話すんだろう! あの世界がどうやって作られたのか!」

 

 こいつの発言は冗談に聞こえない。あの目つき、ネットリとしたあの視線はその気になっている女のソレだ! ユベルが演技派なのは知っているがあそこまでされたら演技だとしてもシャレになんねぇ……!

 

 冷や汗をかく俺とは対照的にユベルは愉快そうに笑っている。こっちをおちょくっているのか知らないがもう隠す気もないようだ。

 

「君のそんな顔が見れただけでも冗談を言う価値はあったよ。さて、あの世界のことだったよね。あれは本当にボクの最高傑作さ。苦労したんだよ、君をどうやってあの世界に連れて行けばいいか」

「お前、研究所で会った時点で12次元に干渉する力はあったんだろう? 何を苦労することがある?」

「そういうことじゃないんだよ、テンシン」

「名前呼び捨て!?」

「いいじゃないか。君だってボクのことは呼び捨てだろう?」

 

 もうこいつのおふざけにいちいち付き合っていたらキリがないな。

 

「じゃあどういうことなんだ?」

「本当に不愛想な男だねぇ。まぁいいさ。実はここがボクの凄いところなんだけどね、なんと! ボクはあの記憶の世界、見たのは今回が初めてなんだ」

「は?」

「つまり、ボクが苦労したのはどうやってボクの知らない世界に君を連れて行くか、ということなんだ。その答えに辿り着いた時は自分で自分を褒めたい気分だったよ」

 

 どういうことだ? こいつは何を言っている? あの世界は元々あった世界ではないはずだ。俺の世界でデュエルモンスターが出てくることはない。創られた世界だ。なら創ったのはユベル。なのにあの世界を知らないだと?

 

「じゃあ誰が創った?」

「それは君さ、世渡天真」

「俺……?」

「そう。そもそもあの世界を知るのは君しかいない。ならどうやってもボクがあの世界を創造することはできないからね。だったら君に創ってもらうしかないじゃないか」

「だが俺はあんな世界を創った覚えはない」

「フフフ……あの世界はね、君が望んだものを具現化する世界なのさ」

「俺が望んだものだと!? そんなことができるのか!」

「君だってその力を使ったことがあるはずだ。どんなカードでも思いのままになる力をね」

 

 Sinサイバーエンド、エクゾディア、オシリス……そうだ、俺はその力を使ったことがある!

 

「幻魔の力か! たしかに、お前は幻魔を統べる者だったな。それを応用したってわけか」

「どうだい、すごいだろう?」

 

 学校のテストで満点とった子供みたいに自慢してくるが俺はまだ納得できていない。

 

「だがまだおかしいぞ。俺はたしかに自分の記憶が霞んでいると思っていたし、それを思い出すことを望んでもいた。だが知らないものを具現化するなんてできるわけがないだろう!」

「ほう?」

「確かにあれは俺の知っている世界だった。だがそれを思い出したのは今だ! あの世界に召喚された時、間違いなく俺はあの世界を知らなかった! 精霊の力で神のカードを具現化した時とはわけが違う! 本当に何も知らないものを創りだすことなんて……」

 

 神のカードはそれがどんなものかは知っていたし、だからこそ具現化できた。だから過去や未来のカードまで自在に操れた。全てアレは俺の記憶から生み出されたカードだったんだ! だからこそ幻魔に無から何かを生み出す力はない。俺が俺の知らない最強カードを望んでもそれは具現化されることはないんだ!

 

「その理由が君の知りたいことの2つ目に繋がるんだよ」

「お前があの世界を見せた理由……」

「そうさ。テンシン、君はね、あの世界の記憶を封印されていたんだよ」

「封印!?」

「そう。君の記憶というのはね、君が持っているけど君が欲しいものだったんだよ。ボクはそれを利用したのさ。どうだい? たいしたものだろう?」

 

 封印されているだけだから無くなったわけではない。でも俺にとっては未知でどうしても欲しいものだった。そしてこいつはこの事実を知っていた。

 

 こいつは俺の記憶が封印されていることを知っていたのか。

 

「お前が俺の記憶を封印したんだな?」

「フフフフ……アハハハハ!」

 

 突然ユベルが高笑い。人の神経を逆撫でするような笑い方。わざとやってるのか?

 

「何がおかしい?」

「だっておかしいだろう? ボクが君のよくわからない記憶を封印して、いったい何のトクがあるんだい?」

「クッ……」

 

 たしかに、何の意味もない。こいつの欲しいものが十代ならなおさら俺にこんな手の込んだことをする理由がない。実際十代にはあれこれしてもその仲間には別になにもしていない。覇王の犠牲にはなったが。

 

「君はどうしてもボクを悪者にしたいようだね。ボクがいったい何をしたっていうんだい? ヒドイよ、テンシン」

「おい。その十代へ話しかけるみたいな言い方やめろ」

「……やっぱり、君はボクと十代の関係をよく知っているんだね。どうしてそんなことまでしっているのかなぁ? なんでもかんでもボクのせいだと決めつけるのも何か根拠がありそうだしねぇ」

 

 ユベルから鋭い視線が飛んでくる。さっきまでとは違った冷や汗が出るが、俺の世界の記憶はもうバレているんだ。ここはもう開き直るしかない。この視線に屈してはユベルの思う壺だ。

 

「はぐらかそうとするな。お前が封印したわけじゃないというなら誰の仕業だ!」

「それはボクの口から言うわけにはいかないよ」

「なんだと?」

 

 こいつ、やはり自分に都合が悪いことはしゃべらない気か? こいつはどこまでいっても悪霊。他人の心の闇を喰らう悪魔だ。何を考えているのかわかったもんじゃない。

 

「勘違いしないでね、テンシン。別に意地悪で言ってるんじゃない。これは君自身が答えを見つける必要があることなんだ」

「俺自身で?」

「あの世界の記憶もそうさ。ボクの目的、それは君が君自身の手で自分の記憶の封印を解くことだったんだ」

 

 そうか……それを聞いて合点がいった。たしかに俺は行く先々で自分の記憶を取り戻していった。自分にとって大切な場所にまるで誘導されているような気はしていた。こいつは俺の記憶は知らないといったが、なんらかの方法で記憶を取り戻す手助けをしていたのかもしれない。

 

「だがなぜ自分でなんだ?」

「その記憶に疑いがあってはダメなんだよ。君は疑り深いからね。こっちが親切でこれが君の記憶だよ、と教えてあげても君は信じないだろう? だから時間をかけて記憶を1つずつ見つけてもらったのさ」

「よほど俺の記憶を取り戻すのが大事だったようだな。ならなぜ俺を殺そうとした? あのモンスターまで俺が創ったなんて言わないよな?」

「フフフ……君にはウソはつけないねぇ。たしかに、あれはボクが放ったモンスターだ。時間をかける必要があったが、かといってのんびりしているヒマもなかったんでねぇ。君の尻を叩くためにここは危険な世界だ、早く脱出しようと思わせたのさ」

「にしてはモンスターの襲い方が本気過ぎないか? 記憶を取り戻す前に死んでいたら本末転倒だろうが」

「君があの程度で死ぬわけがないだろう?」

 

 ぐうの音も出ねぇ。たしかに、俺があの程度で死ぬわけない。実際、最後はモンスターすら出てこなくなったし、ウソではなさそうだ。

 

 人の言うことを鵜吞みにしないというのも俺の性格をよくわかっている。だったら封印についてもこいつから聞くより自分で考えるべきというのは筋が通るか。

 

 だとすれば封印した相手は俺の知っている相手ということ。知らない相手では推測できない。しかも俺は既に推理する材料を持っていることになる。

 

――――記憶を封印していったい何のトクがあるんだい――――

 

 俺の記憶を封印して利のある人物。俺と関わりのある誰か? アカデミアの生徒……違う。こんな人の記憶を封印するような力を持っているわけがない。こんな力があって俺のことを知っている、俺に執着する人物……

 

「……!!」

「わかったみたいだね。そんなに難しい推理じゃないだろう」

「……」

「恋は盲目、と言ったところかな?」

 

 確定だ。

 

「ラーヴァ……なのか。だが……いや、だからこそお前は、俺からあいつを……?」

 

 ユベルはラーヴァを最初からずっと警戒しているようだった。なら辻褄はあってしまう。俺からラーヴァを引き剥がしたのは、ラーヴァが記憶を消した張本人だからなのか?

 

「そうだよ。君が記憶を取り戻そうとすればどんなことをしてでも妨害してくるだろうからねぇ。あぁするしかなかったのさ」

 

 事実がどうかはわからない。だがユベルはそう思っているのは間違いないし、俺もすでに記憶を封印したのはラーヴァの仕業としか考えられない。

 

「そんな、そんなわけ……あいつはずっと……ありえない……」

 

 クソッ!!! まさかこんなにも動揺してしまうなんて。情けない……もう何を信じていいのかさえわからない。

 

「これで3つ目もわかっただろう。君があの世界を忘れてしまった理由。それはあの精霊に記憶を封印されていたからだ。どうだい? 質問には全て答えた。これで満足したかな?」

「いいや、まだだ! だったらラーヴァはなぜ俺の記憶を封印できる? そんなこと、あいつにできるとは思えない!」

「なぜ記憶を封印したのか、とは尋ねないんだねぇ、世渡天真」

「それは……」

 

 心当たりがありすぎる。ユベルが重すぎる愛ゆえに暴走したように、ラーヴァの俺への愛も重すぎる。ハッキリ言ってトーラのソレとは比べ物にならない。

 

 ラーヴァならありえる……そう思ってしまった。

 

「ちょうどいい。ボクもそろそろ本題に入りたいと思っていたんだ」

「本題だと?」

「そう。これから話すのはボクなんかとは比べ物にならない本物の悪魔の話さ。狂った愛に溺れて世界を本当に破滅させてしまったサイコヤンデレ、溶岩魔人ラヴァゴーレムの話をしよう」

「世界を……破滅させた?」

「心して聞くがいい、世渡天真」

「……」

「今、君は4週目の世界を生きている」

 

 4週目……?

 

 ラーヴァ、お前はいったいなんなんだ?

 




大好物の設定盛り盛り
問題は広げ過ぎた風呂敷をちゃんとたためるのかどうかですね()
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。