気づいたらデュエルアカデミア   作:りんごうさぎ

66 / 76
繰り返しの世界へ

 

「どういうことだ? ハッキリとわかるように説明しろ」

「おぉ怖い怖い。そんなに凄まなくても説明してあげるよ。この世界はあの溶岩娘の力である一定の期間を繰り返している。まさに世界の理を捻じ曲げる力だね」

「無茶苦茶だ……そんな力、ラーヴァにはない!」

「たしかに、本来そんな力は持ち合わせていない。でも、あの精霊は無理やり他人の力を奪うことができるようだね。その力を使って2つの力を吸収したんだ」

「2つ……溶岩魔神の生贄の数」

 

 ラーヴァにそんな力が? ユベルの言うことは本当なのか? 鵜呑みにするわけにはいかない。だがウソをつくならもっとまともなウソを言うはず。俺の性格をこいつはよく知っているのだから。

 

「そうさ。奴は最初の世界でダークネスの力を取り込んだ」

「ダークネス!? なんてことだ……」

「やはり君は知っているんだね。ダークネスを」

「……そうか。ユベル、お前が色々と知っているのは前の世界の記憶を持っているからなのか。ダークネスを知っているとなれば……どうやらお前の言うことは信じるしかなさそうだ」

「そういうことだね。ボクとしては記憶を持たないはずの君が色々知っていることに違和感があるんだけど、君は前の世界でも何も教えてくれなかったからね。無意味な質問はしないでおくよ」

「……じゃあ俺は前の世界の記憶も封印されているのか?」

「そうさ。話を戻そう。最初の世界、仮に1週目の世界とでも呼ぼうか。その世界で溶岩娘は君の愛情を得ることができなかった。その結果暴走したあの精霊はダークネスの力を取り込みこの世の理とでもいうべき力を手に入れた」

「……!」

「驚きで言葉もないようだね。そう、世界が終わりのない迷宮に迷い込んだのは君の責任でもあるんだよ」

「……なら、ラーヴァの目的は?」

「もちろん、君の愛情さ。そのためだけに世界をひっくり返した。まぁ、ボクにはその気持ち、わからないでもないけどねぇ」

 

 そこまで本気だったのか。でも、だったらなぜ俺なんだ? 俺じゃなきゃいけない理由はなんだ? 疑問には感じたがユベルに尋ねても意味がない。他に知るべきことはいくらでもある。

 

「2週目は? どうなった?」

「あっけないものさ。2週目以降、溶岩娘にとって都合の良い繰り返しが始まった。ダークネスの力はそのまま。そして君にも都合の良い繰り返しは適用された」

「都合のいい……?」

「フフ、2週目の時点で君は記憶を失った。しかし君と妹の絆は切れなかった。そしてあの精霊は君の心を勝ち取るために実体を持とうと考えた。そして取り込んだのがその世界の三幻魔の力だ」

「……!」

 

 ラーヴァがどうして自由に実体になれるのか、その秘密がこれか! 究極の精霊の力、それがラーヴァのものに!

 

「それでも溶岩娘の願いは叶わず3週目へ。全く、こりない女さ。その世界ではボクも散々な目にあったよ。そしてその世界でも失敗してこの世界がある。これがどういうことか、わかるかい? あいつは君を手に入れるまで何度でもやり直すつもりなのさ」

「なるほど、このままじゃいつまで経っても先の未来へ辿り着けないから、俺にラーヴァを受け入れろと?」

「いいや、その逆さ」

 

“君に、あの精霊を殺してほしい”

 

 ゴクリ、と思わず生唾を飲み込んだ。

 

「俺が、そんなことをすると思うか?」

「しないだろうねぇ。今のままならね」

「俺の気持ちを変えるだけの材料を持っていると?」

 

 ユベルは俺の目をまっすぐ見つめながら3つの指を立てた。

 

「……あの子はね、君を3度殺している」

「……」

 

 これにはわずかな声すら出せなかった。最愛のラーヴァに殺されていたショックと、ラーヴァならやりかねないという諦めにも似た感情。

 

しかし、その直後に、ラーヴァに対する思いが揺れてしまった自分自身に激しい憤りを感じた。

 

「この世界でも、当然同じことが繰り返される可能性は高い。君だってむざむざ犬死するのはイヤだろう?」

「無論だ。だが、そうとわかっていれば俺は自分もラーヴァも失わずに済む方法を模索する。最初から諦める理由にはならない」

 

 こんなことで、ラーヴァを諦める理由にはならない! 最初にあの体に抱かれた瞬間から、焼け死ぬ覚悟ならできている。その気持ちが揺らぐことなど……決して……。

 

「なら、これならどうかな? あの精霊は世渡トーラに明確な殺意を持っている」

「……!」

 

 バカな……。そんなことはありえない。ありえないはずだ!

 

「要するに、君は1つしか救えない。ラーヴァを受け入れてトーラを失う未来か、ラーヴァを消滅させてトーラを生かすか」

「そんなはずは……。ありえない!」

「君はあの精霊のことを知っているようで何も知らないんだよ。少なくとも世界を何度も見てきたボクよりもね」

「ラーヴァはトーラのことを恨んでいないはず……」

「表面上はね。表立って敵対すれば君から嫌われることをあの精霊は過去の世界で学習しているのさ。だから完全に君の心を支配するまでトーラには手を出さないんだよ。おそらく最後の最後、君に殺させるつもりじゃないのかな? ボクがあの溶岩娘の立場ならそうするけどねぇ。自分への愛の証として、あの妹を殺せ、とね」

 

 俺にトーラの殺害を強要するラーヴァの姿。ありありと想像できてしまった。

 

 2年に進級したあの頃、トーラと再会したとき、ラーヴァはトーラのことも半分許す、そういうスタンスを見せてくれたと思っていた。あれも俺に嫌われないためのポーズに過ぎなかったのか?

 

 たしかに、光の結社とやりあっていた頃は俺になり代わってトーラに辛くあたっていたフシはあった。当人に追及しても敵にバレないための芝居だと言われ、それを信じていた。

 

 いや、違う。信じてしまっていたんだ。何もかも自分にとって都合のいいように希望を持って、楽観的な考えにすがってしまっていた。……ユベルの言うことに矛盾はない。むしろ全ての辻褄はあう。

 

「だが、辻褄があうからといってそれが正しいとは限らない」

 

 まただ。俺はまだ現実から目を背けるつもりか? どうしたっていうんだ、俺は!

 

「苦しいね、世渡天真。あの精霊を擁護するための苦しい言い訳だ。君をトーラとかいう妹と“はんぶんこ”できれば満足するような奴が世界を4周もするわけがないだろう? 挙句の果てに君のことを殺してしまうような奴さ。狂っているんだよ。根本的にね。それにあいつを殺さなきゃいけない理由はまだある」

「まだあるのか! もう……やめてくれ」

 

 俺にラーヴァを殺せだって? 悪い冗談だろ、できるわけがない!

 

「この世界はすでに疲弊しきっている。トーラとラーヴァ、どちらも選ばずに先延ばしにする、という選択肢すら君にはないんだよ」

 

 ユベルは俺の心の奥底を見透かすような眼差しを向けている。そう、たしかに今、俺はそれを考えていた。ラーヴァをなんとか説得し、失敗しても何度もトライすることでいつか最高の未来に辿り着けるのではないか?と。

 

「この世界は繰り返す度、明らかにおかしくなっている。世界が疲弊しているんだよ」

「言っていることがわからないな」

「心配しなくてもわかるように説明するさ。時間ならたくさんあるからね」

「……」

 

 くっ……できることならもう何も聞きたくない。だが聞かないわけにもいかないだろう。何もしなければ全て失ってしまう可能性もある。トーラを……失うわけにはいかない。きっとユベルはそんな俺の考えも見透かしている。

 

「あのモンスターは特殊な召喚方法以外にもまだ効果があっただろう? 君がそれを忘れるはずはないね?」

「ライフポイント……まさか! その効果が世界を! この世界を蝕んでいるのか?!」

「ご明察。そういうことさ。あの娘はいるだけで所有者にダメージを与える。現実世界ではその対象が世界そのものだったんだろうね。ただ、本来なら別に問題はなかったんだ。この世界にターンなんてものはない。だからダメ―ジを受けることもない。デュエルで言えばすでにスタンバイフェイズを過ぎている、といったところか」

「だが世界を繰り返したことでそのスタンバイフェイズを通過してしまった。現在巻き戻しは3度起きている」

「この世界が終われば、世界そのものが完全に消滅する」

 

 ありえない話じゃない。だけど確証がなにもない!

 

「根拠は!?」

「正直に言えば、この世界が本当に最後かどうかはわからない。もしかしたら次の次、あるいはもっと先かもね。だけど、そんな不確定な要素に運命を委ねるわけにはいかないだろう? デュエルのルールを踏まえれば4回がデッドラインと考えるべきだ。むしろボクは3週目の時点でもう後がないと思っていたんだ。どうやら1週目はスタンバイフェイズを迎える前だったみたいで命拾いしたけどね」

「回数はいい! ライフポイントが減ってる根拠は?!」

「明らかに変わっているだろう? この世界は? 1週目や2週目と比べてみんなデュエルの強さが増している」

「うっ……」

 

 思い当たるフシは……ある。

 

「例えば、あの斎王琢磨は最たる例だ。あいつは元々アルカナフォース主体のデッキを使う男だった。それがいつのまにかザ・ワールドをメインにしたワンターンキル構築にかわっていた。君も、案外おかしいとは感じていたんじゃないかい?」

 

 思っていた、おかしいと。だが、それは自分の影響なんだろうと思い込んでいた。まさか自分以外にもこんな大掛かりな外部要因があるだなんて夢にも思わない!

 

 じゃあ全部、俺が知るものと変わったことは全て世界そのものがおかしくなったせいだっていうのか!

 

 認めざるをえない。狂っているのは世界だ! ラーヴァだ! だから俺は死ぬ。トーラも死んでしまう。

 

「くそったれ……!」

「厳しい選択だ。少しぐらい考える時間はあげるつもりだ。ゆっくり考えるといい」

 

 言葉とは裏腹に、ユベルの表情は選択の余地などないだろうと言わんばかりに余裕綽々だ。

 

 確かにこのままでは先はない。ラーヴァを止めなければ待っているのは本当の破滅。中途半端に二兎を追えば全て失うことになる。

 

 失うことを意識したことで、自然とこれまでの、この4週目の世界での記憶が思い出された。

 

 ラーヴァと交わした言葉も、一体となってひとつになり感じたことも、全て鮮明に覚えている。

 

 そして改めて自分にとって本当に大事なものが何だったのか、再確認した。

 

 ユベルは俺がラーヴァのことを何も知らないと言った。だが、本当にそんなことありえるのだろうか。俺とラーヴァは魂まで1つになっていたんだ。あいつのことを1番わかっているのは他の誰でもない、この俺だ!

 

 ラーヴァから感じた気持ちにウソはない!

 

 だからこそ、絶望するにはまだ早い。これまでも、可能性がある限りあがき続けてきた。

 

 そしてきっと、ラーヴァの心を取り戻すことこそが……この世界の俺の果たすべき役割なんだ。

 

 俺の心は決まった。

 

「このままじゃ世界がなくなること、ラーヴァが俺やトーラを殺してしまうこと。たしかに納得した。お前の言うとおりだ」

「……」

 

 ユベルは何も言わない。俺の言葉を待っている。

 

「だが!」

「!!」

「俺はラーヴァを殺さない! あいつのことは……本当に、愛しているから」

 

 おそらく、ここに来て初めてユベルの表情が驚きに染まった。

 

「なるほどね、あの娘が3回失敗してもくじけないわけがわかったよ。君は本当にあの娘に惚れているんだね。それがわかっているから、だからこそ、次こそはと世界を繰り返していたわけだ。フフ、これはボクも予想外だった」

 

 しかし、今度はこっちが驚く番だった。

 

「だけど、ボクのやることは変わらない。君にはあの精霊を消滅させる手伝いをしてもらうよ」

「お前……!」

 

 戦闘も辞さないつもりで構えるが、ユベルはそれを手で制した。

 

「もちろん、君が人の言うことを素直にきかないのはわかっている。だから君にはこれからあるところに行ってもらう」

「また別世界に飛ばす気か?! 力づくでってか?!」

「焦らないでくれ。本当に行くわけじゃない。何といえばいいのかな? これから君には君自身の記憶を追体験してもらう」

「記憶……まさか1週目から3週目の世界の記憶か!」

「君は本当に理解が早いから面倒がなくていい。そうさ、君の過去の世界での記憶だ。どのみちあの娘の弱点なり考え方なりを理解させるために見てもらう予定だったからね。それを見てもう一度考え直してくれないかな?」

「意地でも俺にラーヴァを……」

「どうしても、君の力が必要なんだ。いや、君たちの力がね」

「君たち?」

「さぁ、行くよ。準備はいいね?」

「待て! まだ行くとは言ってない!」

 

 しかし俺の言葉が届く前に強制的に目の前が真っ白になっていった。

 




やっぱりデュエリストレベルを上げたりとかシンクロ・エクシーズとか使うなら、それなりの理由が必要だと思うわけです。
これで敵強化タグは伏線回収完了ですね。

ラーヴァのこれまでの発言も、テンシンと話が噛み合い過ぎていておかしいところが何か所かありますが、周回してたのが理由だったわけです。
直近だとコブラがエキシビションマッチでテンシンを指名したとき、テンシンの心中をラーヴァが完璧に理解していておかしいですが、3週目までの世界で色々事情を理解していたからこういう発言ができたわけですね。
リスク承知で口を挟んだのは、放っておく方がテンシンが都合の悪いことに勘付く可能性が高まると思ったからですね。世界の歪みの原因は世界の繰り返しだ、というところまで辿り着かれると非常にマズイわけです。

当たり前のように精霊が実体化するとか、ご都合主義っぽいのも理由説明できてすっきり。

溶岩魔神が能力奪えるのはおかしいという説はあると思いますが、ディアバウンド・カーネルがあのカード効果で能力奪取しまくってるので、2体生贄の効果がある溶岩魔神の方がむしろふさわしいと思ってます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。