1年、2年と大きな動きがなかったが、3年になり悪天真を取り巻く環境が大きく動き始めた。
まずラーヴァの呪いを解きジェネックスに優勝。学園内での確固たる地位を得た。そしてラーヴァが精霊としてつき、妹トーラの入学。しかも3年は異世界に旅立つイベントがある。これだけ活躍して異世界行きを回避できるわけがない。
なぜトーラを危険な学園へ呼び込んだ?
「テンシン!」
「トーラ、勝手に入学させてごめんな。お前、デュエルが強いのに勿体ないと思ったから」
「ううん! 嬉しい! 絶対に行くわ! 私もアカデミアに行くのが夢だったし、天真がいれば別に不安とかないし、ありがとう!」
疑問はトーラへの通話を聞いて解消された。なるほど、要するに悪天真自身がトーラと一緒にいたかったんだろう。まさかこんな方法で入学させるなんて思わなかった。いったい、いつから計画していたんだ? そんな素振りなかったから本当に驚いた。
「きっとその場の思いつきさ。君は知っての通り負けず嫌いだから、負けたくない一心で勝ち続けていただけだろう? 違うかい?」
「たしかに。でも本当にトーラのことを考えるなら……いや、守り切るだけの自信があるってことか」
「君は肉親に対しては意外と過保護だからねぇ。考えあってのことだろうさ。けど、結論から言えばこれはこの世界の君が行った最大の悪手になるね」
「ラーヴァか」
トーラが来ることになってからラーヴァは目に見えて口数が減った。しかし悪天真はそれを全く気にしていなかった。おそらく精霊からの好きやら愛しているを恋愛感情としてカウントしていなかったのだろう。
俺だっていきなりあの姿を、少女姿をみてなければそう思ったはずだ。
再開したトーラとはデュエルこそしないが学園を案内してあげたり優しそうなお兄さんに傍からも見えた。そして自身もブルーに昇格し兄弟そろってオベリスクブルーになった。
「あのプロフェッサーコブラはどうにも怪しい。あのデスなんちゃらはつけるな。いいな?」
「でも成績が……私入ったばかりで退学なんかしたら……」
「俺の言うことを信じろ。いざとなれば庇ってやるから心配するな」
それからしばらく、天真の言う通りコブラは本性を現し、世渡兄弟はベルトの制約がないデュエリストとして異世界攻略でエース級の活躍を見せた。
そして2人の仲は当然より深まっていく。それに比例してラーヴァの嫉妬が深まるのを感じた。
それでもラーヴァは献身的に悪天真に尽くしていた。異世界の快進撃にはラーヴァも貢献している。
ラーヴァの献身の理由は、悪天真を怒らせると怖いのも理由だろうが、それ以上になんとか自分に振り向いてほしいからだろう。好かれたい一心で役に立とうとしていたのが伝わってくる。
だが努力の甲斐なく悪天真の心はトーラへ完全に傾いていた。
一度異世界から帰還したあと、トーラは再び異世界へ向かう決断をする。そのため悪天真もそれに続き、暗黒界の世界へ足を踏み入れることになった。仲間が消えていく中トーラは悪天真が守り抜き最後まで生き残った。
結局無事に戻ることはできたが、重要なのはラーヴァが見たものだ。
「俺とお前を超融合!」
――この力があれば……天真は私のもの――
しかし超融合の力は十代とユベルのものとなり、2つの魂は1つになった。十代の姿を見て、ラーヴァは自分も天真と一体化したいと強く願うようになったのだった。
異世界から戻り、日常に帰る十代達。ダークネスの進行は進むが、天真は我関せず。トーラとの学園生活を満喫していた。
卒業したらどうしようか、などとその気になっていたが、天真が卒業を迎えることはない。
なんと、十代はダークネスに敗北した。
原因はラーヴァだ。なんとラーヴァは十代に呪いをかけたのだ。結果、天真が重い腰をあげてダークネス退治に向かった。しかし事態は思わぬ方向に進んでいく。
――その力、頂き……ヒヒヒヒ!!――
「ラーヴァ? お前、どういうことだ?」
――天真が悪いんだよ? 天真があの女にたぶらかされて……だったらこんな世界――
――なくなっちゃえ――
ダークネスの世界を取り込んだラーヴァは世界を巻き戻そうとした。
「待て! 早まるな! なぜだ? 俺とお前の間に絆はなかったのか? 全部ウソだったのか? 答えろラーヴァ!」
――ウソは天真でしょう? あなたが私を裏切った。あなたは私を愛していない――
「何を言っている?」
――実体がないから愛情が生まれない。1つになれないと精霊の愛は実らない――
――だから全部1からやり直す。あなたのことを知り尽くして、私だけのものにする――
ここでようやく天真は己の過ちに気づいた。ラーヴァの心がもうどうしようもなく歪み切ってしまったことに、そしてもう取り返しがつかないところまで来てしまったことに。
自分の存在が消滅することを悟り、悪天真は最後の言葉を残そうとした。
「そうか。お前は全部やり直して、また別の俺を愛して、自分のものにするんだな」
――そうだよ――
「なら最後に少しだけ言わせてくれ」
――私はもうあなたには興味がない――
ラーヴァにとってこの世界はすでに“終わった世界”なんだ。だからもう天真に向ける眼差しも冷たいものになっている。天真もそれはわかっている。だから今、最後の爪痕を残そうとしている。
「ラーヴァ、今までありがとう。俺もお前のこと、愛してるから」
――今更何を? うそ、言わないで――
「お前に消されるなら本望。お前はやり直した先の世界で俺と1つになって幸せになれよ」
――もう、何も言わないで――
「俺の好きなタイプは、お互いの考えてることがわかって、心と心が通じ合える子。思っていることを全部言わなくても、本当に信じあえる子」
――だまって――
「甘え上手で、たまに俺を困らせて、ヤキモチ妬くこともあるからちょっと手がかかるけど、最後は一緒にいてあげたくなるような……あぁ、もし実体化できたら、どんな姿でも好きになるけど、人間の女の子に近いと嬉しいかな」
――だまれ!――
「ずっと一途に、俺のことを……思い続けてほしい」
――もう、しんで――
腹をマグマの腕で貫かれた。もう……これは助からない。
「そういえば、前世ではラヴァゴーレムが一番好きだったな……」
――まだしゃべれるの?――
「他のデッキ使ったりして、ごめんな」
――そう……そうよ! あなたはすぐに浮気する! 私が1番のはずでしょ?!――
「トーラのこと、許してやってくれ……」
――……なにそれ! そんなことあなたが言う権利ない!――
「お前のこと、本気で考えてたら、この世界で一緒になれたのかな……」
――あっ! そんな……こと、いわないで! 恨んでないの?! 私がしたこと、天真は許してくれるの?!――
「やっぱりお前のこと、憎めない……よ」
――ごめんなさい! やっぱり死んじゃ……あぁっっ!!――
すでに悪天真は息絶えていた。
――次は絶対に間違えない。いや、間違えないまで何度でもやり直す! 絶対に!――
これが1週目の世界の最後だ。
見事な死に様……いや、生き様だった。
1週目の天真は何もかも消えてなくなったわけじゃない。
その思いは、確実に今の自分に届いている!
「これでいくつかまた謎が解けただろう?」
「今のラーヴァがあるのは、ラーヴァを変えたのは俺だったんだ。1週目の俺の言葉がラーヴァを変えた」
ラーヴァは口に出さずとも自分の考えてることを理解してもらえたとき、何よりも嬉しそうな表情を見せてくれた。幸せそうに天に昇っていくラーヴァの表情は今でも忘れていない。
そのときのラーヴァの気持ちを、今……ようやく本当の意味で理解できた。
臆病な性格だったラーヴァが、一転積極的に俺に話しかけてくるように変わったのは、きっと、本当に心と心が通じ合える関係に早くなりたかったからなんだ。
たくさん甘えてきたことも、全部俺に好かれたい一心故のこと。
ラーヴァの実体が人間の女の子姿だったことだって、俺のためだったんだ。
ラーヴァの行動に込められた気持ちは重い。
なんせ世界3週分の重みがのっかってる。
俺はそのどれも気づいてやれなかった。
「あの精霊が本当に恋していたのは最初の君だ。それ以降の君のことを、果たしてどんな目で見ていたんだろうね」
「……」
ユベルはふざけているようで不意に核心をついた発言をする。まるで俺の心の奥底を見通しているかのように。
「特に2週目以降、自分の悪行を隠すためとはいえ、断腸の思いで君との思い出の記憶全てを封印している。一緒に共感できる思い出が全くない君を見るたび、あの娘がどんな思いでいたのか、ボクにはよくわかるよ」
「珍しくラーヴァに同情か?」
「そんなんじゃないさ。巻き添えをくらったボクならともかく、あいつは完全に自業自得だからねぇ。思い出を共有したければ記憶の封印は自分で解けるし、最初の君を殺したのも自分だ。何もかも身から出た錆だよ」
ユベルも周回した世界の記憶を持ちながら、十代にはそれがないことに少なからず思うところはあったんだろうな。忘れた者より、忘れられた者の方が苦しみは大きいということか。
「それはそれとして、あの最後のとき、どうして俺はあんなことを言ったんだ? あそこまで言わなければ殺されることはなかった。ラーヴァだって戻るだけなら俺を殺していく必要はないはずだ」
これを聞くとユベルには大げさなリアクションをとられた。
「まさか、そんなセリフが君の口から出てくるとはねぇ。仮にも天真自身が命がけで残した希望なんだよ? さすがにボクも君に対しての失望を隠せないよ」
「悪かったな! どうせ俺は1週目と比べりゃポンコツさ!」
自分より優秀な兄弟がいる人ってこういう気持ちなんだろうな。自分と似たようなやつと比較されて勝手に失望される。ヤな気分だ。
「そんなにスネることないじゃないか。軽いジョークさ」
「お前、本当に今までヒマだったんだな」
なんとなくわかってきた。この悪霊は俺との会話を楽しんでいるんだろうな。今までコブラ以外話し相手なんていなかっただろうし。
「そりゃヒマしてたさ。まぁ本当にわからないみたいだから解説してあげるよ。最後の君の言葉はね、呪いなんだ」
「呪いだと?」
いったいどういう意味だ? 皆目見当がつかない。
「ボクは君のこともよく見てきたからね。だいたいの思考パターンはわかるんだ。おそらくあのとき、君はこう考えた。死の間際、今の自分にできることは何か、とね」
「……」
それはわかる。俺なら真っ先に考える。もう存在事消滅することは避けられないんだ。だったらできることは自分が消滅した後に何を残せるか、それしかない。特に俺には妹がいるんだ。その安全は死ぬ前に守ってあげたい。
「世界が丸ごと消滅するからね。基本的に何も残せないけど、土壇場で1つだけ残るものがあると気づいたのさ」
「……ラーヴァ、ラーヴァへの言葉!」
「厳密にはラーヴァの記憶とでもいうべきだろうね。世界を跨いで保存されるのはそれしかない。そして君はラーヴァが自分に持っている好意を利用したんだ。とんだ女たらしだよ」
「そうか、最初にああやって愛情を伝えていたのは、よりいっそう最後の言葉を忘れられなくするためか! さらに自分が死の間際であることがより信憑性を高めてくれる」
「もちろん、実際にそれは本心だったんだろう。精霊はウソには敏感だからね。安い言葉ならあの精霊がここまで執着してないだろうさ」
「……」
「そして君から初めて聴くダイレクトな愛情表現があの初心な精霊に刺さらないはずがない。どれほど後悔しただろうねぇ。表に出さないように堪えていたのは大したものだよ」
「そうか……そこまで織り込み済みなのか。悪天真はラーヴァに大事なものを失ってしまったと思わせることで、俺の最後の言葉を忘れられないものにしたんだな」
わざわざどんな子が好きか、なんて教えているのも、次の世界でラーヴァが俺と結ばれるように助言していると見せかけて、実はラーヴァの暴走を抑止するためなのかもしれない。
少なくとも俺に気に入られようとするうちは、ラーヴァは無害な精霊になる。その分4週目の俺は散々振り回されたが、ラーヴァの心中を思えば、むしろもっと大切にしてやれば良かったと後悔すら残る。
悪天真……あの一瞬でラーヴァのやろうとしていることを正確に理解し、ここまで的確に手を打つとは。しかも自分が存在事消滅する寸前に、だ。
ユベルの言うように、悪天真こそ最強の天真だ。
果たして、今の自分にここまでのことができただろうか?
「そうさ。しかも溶岩娘にしてみれば自分を全肯定して貰えたんだ、好きな人からね。自分も最後のお願いぐらいは叶えてあげたいと思ってしまうのが乙女心だろう? そうして君の言葉は呪いとなり、あの精霊の枷となる」
「だから呪いなのか。あの世界の俺は死んでしまったから、もうラーヴァにはその呪いを解く手段はない」
「一本とったってところだねぇ。1週目の悪天真が残した呪いは2つ。1つは好きな人に一途でなければいけないこと。そしてトーラを許すこと。2週目以降の君はこの2つの呪いに守られていたんだ」
「だからトーラを直接消そうとはしないのか」
これは非常に大きい。ラーヴァがその気になればトーラを消すことなどいともたやすい。それを防げたおかげでまだトーラは生きていられるんだ。
そして、これは同時にラーヴァがトーラを嫌っているはずがないという俺の考えを根底から覆すことにもなる。トーラに危害を加えないのが天真との約束のせいだとしたら、トーラへの殺意を否定することは難しくなってしまった。
ユベルはおそらく俺がそのことに気づいたことを悟っている。だが、敢えてこのことを追求せずに話を続けた。
「そうだよ。しかも簡単に世界を繰り返せないようになった。たとえ別世界のテンシンであっても同一人物とは言えないことはあの精霊が1番よくわかっている。同一人物ではない以上、安易な鞍替えは一途とはいえない。1週目の君は、“俺を”みてくれと言ったからね。“天真を”とはいってないのさ」
「なるほどね。これでラーヴァは世界をひっくり返す力を持ちながらも、俺のことを正攻法で攻略するしかなくなったのか。死の間際にとんだ置き土産を残したな」
まさかこの俺が自分自身に守られていたとは。それに気づきもしないで生きていたことは不覚としか言いようがない。
「どうだい? じゃあ次の世界に向かおうか?」
「あぁ。行こう。2週目の世界へ」
天真の意志は俺が引き継ぐ。
なぜラーヴァが短絡的な行動を起こさないのか、これで納得がいくと思います。
こういうところはけっこう気にするタイプなのでしっかり呪いをかけてます。
なぜかトドメを刺さない敵とか絶対NG