気づいたらデュエルアカデミア   作:りんごうさぎ

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死んで目覚めて現実世界

 

「俺は戻れるのか? いや、そもそもこの状況で、俺にあっちの世界へ戻れって言うのか!」

「そうだ。そしてこっちの世界にもう一度戻ってくるんだ」

「そんなことできるのか? だいたいあっちへ行ってどうするんだ?」

 

 頭が大混乱でついていけない。

 

「平たく言えば、君がいた世界も12次元の世界と似たようなもの。渡ることができないわけじゃない。少々特殊だけどね。ただ、こちらからあっちの世界に干渉することはできないんだ」

「どういうことだ?」

「一方通行ってことさ。こっちからあっちへの移動は自由。でもあっちからこっちへの移動は君自身の意思が必要なんだ。ボクは向こうの世界のことは何も認知できないからね」

 

 なんだそれは! 

 

 というか、それじゃあ最初から俺はいつでも好きなときに帰れたのか!

 

 ユベルって本当に何者なんだ? 扱える力が絶大過ぎる。

 

 それすらも凌駕するラーヴァっていったい……

 

「じゃあテンシンがあっちに行くことはあなたの力で可能なのね!」

「あぁ、行くのは簡単だ。ボクの力ならいつでもできる。そして向こうの世界にはまだラーヴァの魂の片割れがあるはずだ」

「どういうことだ? 魂が別れてるのは俺だけじゃないのか?」

 

 次から次へとポンポン新しい情報が出てきてついていけない。

 

「いや、実際のところはわからない。ただ、ボクなりにそうじゃないかと推測しただけさ。いや、そう冀っているだけかもしれないね。もし、その片割れを取り込めば、ラーヴァの力に拮抗し、抗うこともできるかもしれない」

「もし、魂の片割れがなかったら?」

「そのときは潔く諦めようじゃないか。君も、無理に滅びゆく世界へ戻ってくる必要はない」

「……」

 

 ずいぶんと思い切った作戦だ。そんな不確かなものにすがるしか方法がないのか?

 

「確率は?」

「どうだろう。5%ってところかな?」

 

 こんなに不確かなことだらけなのにそこまでの確率が?

 

「十分だ。それだけあるってことは根拠はあるのか?」

「あの精霊の狂い方をみて、健全な魂の持ち主だと思うのは無理があるだろう?」

「それ、めっちゃ失礼ね……」

 

 トーラは苦笑いしているが、まぁ一理ある。気休めにしては上出来か。

 

 俺の世界へ戻り、そしてラーヴァの魂の片割れを見つける。そうすれば神の力にも対抗しうるか。

 

「だが、今のラーヴァは色んなものを吸収しているのに、ラーヴァの片割れだけで大丈夫なのか?」

「確証なんて何もない。ただ、黙って滅亡する世界を眺めるよりはずっとマシだろう?」

「そりゃそうだ。……ふぅ、やるしかないか」

「待って!」

 

 俺が決意を固めると、トーラが待ったをかけた。

 

「どうしたトーラ?」

「テンシン……あなた本当に帰ってくるの?」

「え……?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、とてつもない衝撃を受けた。

 

 意図的に、考えないようにしていたからだ。

 

 つい、トーラのまっすぐな瞳から目を逸らしてしまい、偶然ユベルと目が合ってしまった。

 

「ボクも同意見だ。この作戦で最も危惧しているのは、まさにその点なんだ。世渡天真が以前の世界に満足してしまえば、この世界のボク達はなすすべもなく滅びてしまう」

「俺がトーラやラーヴァを置いていくとでも?」

「ボクだって4週キミをみてきた。今のキミのことは微塵も疑っちゃいないよ。でもね、キミの前世にだって、トーラのように大切にしていた人がいたんじゃないか?」

「いない。そんなもの、いないことぐらい記憶を見ればわかるだろ?」

「あれは記憶の一部だ」

「なん……だと?」

 

 てっきり、あの記憶が俺の全てで、そのあとこの世界に来たのだと思っていた。

 

 そのことを言うとユベルにあっさりと否定された。

 

「違うね。だったら君が高校生として違和感なく生きていることがおかしい。あの記憶はどうみても小学生程度までの記憶だろう? カードをずぶ濡れにするようなドジを、仮にも悪天真の魂を持つ君が高校生にもなってするわけもない」

「……たしかに」

 

 じゃああれは小学生までの限定的な記憶?

 

 だったら俺は、本当は何歳だったんだ?

 

 20歳? それとも30歳? 大人なら家庭があってもおかしくはない。じゃあ、本当に俺は帰ってこれなくなるんじゃ……

 

「テンシン!」

「と、トーラ……」

 

 トーラの声にもハッキリと返事ができない。そんな俺の様子を見て、トーラも不安そうにしている。

 

「……戻ってくるよね?」

 

 トーラの声をきいて意志は固まった。

 

「俺は行くよ。そして必ず戻ってくる」

 

 迷いは消えた。

 

 俺はここですでに死んでいるんだ。もう、元の世界に戻る資格はない。

 

 あっちの世界の人達には、謝るしかないだろう。

 

「よし。もう時間がない。いつラーヴァが襲ってくるかもわからない。すぐに行ってもらう」

「いつでもいい。やってくれ」

「なるべくすぐに戻って来てくれ! 時間の経過がどうなるかも、何もかも未知数だ。ボク達は世渡天真を信じて待っている!」

 

 ちょっと待て! 早く帰ってこいといっても、そもそもどうやって帰るんだ?

 

「おい、向こうから戻るには……」

「さぁ! いってこい!!」

「テンシン!! 絶対帰ってきてね!!」

 

 ちょっと待て!!

 

 光の中に包まれ、そして意識を失った……

 

 

 ◇

 

 

 目を開けると俺はベッドに眠っていた。

 

「知らない天井だ……ここはどこだ?」

「おじいちゃん、ここは葉元病院だよ? ボクの方がかしこーい!」

「こら! なに言ってんの!」

 

 どうなってるんだ? 俺はたしかユベルに元の世界に飛ばされたはず。まさか、ここが元の世界なのか?

 

 目の前にいる子供、小学生ぐらいの男の子か? こいつ、今なんて言った? おじいちゃんって、まさか俺のことか!?

 

 子供の傍には年をとったおばあちゃんがいる。腰をかがめて子供を叱っていた。

 

「あなたは……誰?」

「私はトーラと申します」

 

 トーラだと!?

 

 こっちを振り返って見た顔は、たしかに俺のよく知るものだった。

 

「と……トーラ? トーラなのか!?」

「え……?」

 

 ガシャン!!

 

 老婆は持っていた花瓶を落としてしまった。

 

「テンシン……うそでしょう!? 記憶が……!!」

「じゃあ本当にトーラなのか? おいおい、お前老けすぎだろ!」

 

 笑う俺を見て、トーラは嬉しいんだか怒ってるんだかわからない表情を浮かべた。

 

「何バカなこと言ってんの! 私はこれでもしょっちゅうお若いですねっていわれてんの! まったく! 老けちゃったのはアンタのほうでしょうが!」

「ハハハ! その言い方は間違いなくトーラだ。まさかこっちにもいたとは。いつから一緒にいたんだろう」

「何をわけのわかんないこと言ってるの! アナタって人はもう……!!」

 

 もしかすると俺は寝たきりのボケ老人になってしまっていたのかもしれない。だからこんなに記憶をハッキリ持った状態は珍しいのだろう。

 

 この世界に来て状況がわからず口走ったことも、全てボケ老人の戯言として処理されたおかげで不審には思われなかったわけだな。

 

 やや不本意だが。

 

 少し状況が呑み込めて安心すると周りがよく見えてきた。ここは病院で、今いるのはトーラと、最初にしゃべっていた小学生くらいの男の子だけだ。

 

 その子を見ると、不覚にも幼き頃の自分を思い出してしまった。自分の祖父が寝込んだ時も、失礼なクソガキだったな。

 

 そして目線が下がったことで偶然、俺はトーラの指にハマっているものに気づいてしまった。

 

「トーラ、お前……!」

「どうしたの、テンシン?」

「お前、結婚してたのか!」

 

 そう、結婚指輪だ! 別にトーラとは兄弟だし、女の子ならいづれ誰かと結婚するのが普通だ。だが、さっきまでGXの世界で一緒にいたトーラが誰かの物になっていることを考え、激しい抵抗を覚えた。

 

「え!?」

「お前、いつのまに……!! いったい誰と結婚したんだ!!」

「テンシン! あなた、何を言ってるの!」

「ごまかすなよ。誰なんだ!?」

 

 トーラの答えは予想の斜め上だった。

 

「あなたじゃない」

「……は? はぁあああ?!」

「なんでそんなに驚くの!? 失礼ね!! 喜びなさいよ!!」

 

 なんで俺がトーラと結婚してるんだよ!! あっちでは兄弟だったんだ! こっちでも同じじゃないのか!? 

 

 ええい、どうせ今の俺はただのボケ老人だ。全部きいてやる!

 

「お前、俺と兄弟だよな?」

「もう……本当に何を言ってるんですか! ふふふ、忘れちゃったのね」

「何を?」

「私達は義兄弟。親同士の再婚で、血のつながりはないの」

「え…………」

 

 今までで一番絶句した。あの母上と親父殿って再婚だったのか。

 

 信じられない!

 

 トーラと俺って……結婚できたのか!!

 

 どっちの連れ子だ? 俺は親父殿でトーラは母上か? いや、だとしたら親父殿は血のつながりがある俺に対して当たりが強すぎるし、母上は逆に優しすぎるだろ! 

 

 ダメだ! わからん!!

 

「ちょっと! いきなり黙らないでよ! そんなに私じゃ不満なの!?」

 

 あ、トーラのこと忘れてた。俺が推理に没頭していたせいで、嫌がられたと思ったのだろう。ずいぶんと悲しそうな顔になってしまった。

 

「悪いな。ボケちまったみたいで、お前との結婚生活、なんにも覚えてない」

「そうですか……」

 

 トーラも大人だ。ボケ老人相手に諦めの境地なのだろう。けど、トーラはトーラだ。

 

「なぁ、トーラ。お前、なんで俺のこと好きになったんだ?」

「いきなりなんてこときくんですか!」

「いいじゃないか。もう俺も長くないんだ」

 

 そういうと悲痛な表情を見せた。

 

 今、冗談でいったんだが、もしかして本当に寿命が近いのか?

 

「好きになったことに理由なんてないわよ。ただ、きっかけがあっただけ」

「きっかけ?」

「あのカードが、私達を結び付けてくれた。だから、事故のことも恨んじゃいないわ。そもそもあのカードがなければ私達は出会うこともなかったのだから。もう、私は十分すぎるくらい幸せな人生を送った」

「あのカードってラヴァゴーレムか?」

「テンシン! 覚えてるの!?」

「……まぁ、好きなカードだし」

 

 感激したのか、トーラはボロボロと泣き始めてしまった。

 

「おばあちゃん! 大丈夫!? おかあさん呼んでくる!」

 

 子どもは母親を呼びに部屋を出て行ってしまった。

 

「泣くほどか?」

「人の気も、しらないでっ! あなた、この際だからハッキリ言うけど、ずっとボケ老人だったんだから! ずっと眠って、うわごとでGXがどうとか、サンゲンマがどうとか!」

 

 おいおい……それ、向こうの世界のことじゃないのか? 

 

 まさかあの世界での出来事は全部俺が見ていた夢だったのか? トーラがいたり、この世界と似ていたのは、俺の深層心理みたいなのが作り上げた幻の世界だったらなのか?

 

「だいたいね! あんたはいっつも人の気もしらないで!」

 

 さっきまでの穏やかなトーラとは人が変わったようだ。なぜかと考えてすぐわかった。男の子がいなくなったからだ。今のトーラが俺だけに見せる素の姿なんだろうな。

 

「あの男の子は孫?」

「まったく! 孫の顔も忘れたの?」

 

 孫の顔を忘れても許されるこの状況。

 

 ボケ老人は無敵だ。

 

「俺とお前はいつ出会ったんだ?」

「あなたが故郷の町から引っ越してきて、こっちで問題児だった頃、たまたまカードゲームしてるのを見かけたのよね。結局最後まであのカードには振り回されっぱなしだったし、最初は恨んだわよ。でも好きよ、そのカードがあなたを好きになったきっかけだもの。最後はそのカードもいい子になってくれたような気がするし」

 

 俺が引っ越した? それって、俺の善の魂と悪の魂に別れたからか? そしてラヴァゴーレムも同じだとすれば、辻褄は合うか。

 

 悪の心を持った俺は故郷を追われた。悪の魂に目覚めたラヴァゴーレムはこっちでも悪さをして、善の魂を残して向こうの世界に行った? だから事故の後、カードから邪気が消えたようにトーラが感じたのでは?

 

 やはりGXの世界は夢じゃない。たしかにあったんだ。

 

 待てよ、だとしたら俺が1週目や3週目で元の世界に執着しなかったことにも説明がつくぞ!

 

 あぁ、至極当然だ。こんなボケ老人の体に戻りたいと思うわけねぇよなぁ?!

 

 全て繋がった!

 

 なら、俺が眠っている間に魂は向こうへ流れ着いたのだろう。そして、向こうの魂が戻ったことでこうしてこっちの俺が再び目覚めた。

 

 だったら、俺があの世界に戻るのは案外簡単なのかもしれない。

 

「なぁ、最後のお願い、聞いてくれないか」

「テンシン……あんた、縁起でもないこと言わないでよ!」

「いいんだ。自分の寿命がどれほどか、自分自身が一番よくわかる」

「アナタ……」

「頼む、まずはラヴァゴーレムのカード、もってきてくれ」

「そんなの、改まってお願いしなくてもいくらでも買ってくるわよ」

「違う! そうじゃない!」

「えっ?」

 

 俺に必要なのはラーヴァの魂が宿ったカードだ。その魂を回収しなきゃ、元の世界には戻れない!

 

「あのカードを……もってきてくれ」

「あれは、もう……ううん、わかったわ。持ってくる」

 

 よし。これで目的を果たせる。

 

「ゴホッ!? ゴホッゴホ!!」

「テンシン!!」

「大丈夫……まだ、大丈夫だ。ラーヴァに会うまでは、死なねぇよ」

「すぐ、持ってくる! あぁ、みんなも呼ばないと!」

 

 どうやら本当にこの体は限界だったらしい。かなりキツくなってきた。

 

 だが、意識だけはハッキリしている。俺が普通に受け答えしていることには集まってくれた親戚一同はもちろん驚いていたが、なによりお医者様が一番驚いた。

 

「ありえない……信じられないような症例はいくつも聞いたことはあるが、これは本当に奇跡としか……」

「まぁ、記憶はあやふやだけどな」

「もう自分のこともわからなくなっていたのに……」

 

 世界には不思議な力もあるんだよ。

 

「トーラ、カードは?」

「これよ」

 

 渡されたのはボロボロのラヴァ・ゴーレム。もう何十年も前のカードだろうし、仕方ないか。

 

 渡されたカードに触れた瞬間、すぐに確信した。

 

 このカードには、ラーヴァの魂が眠っている。

 

「どうやら、お迎えが近いようだ」

「バカ!! 何言ってんの!! バカバカバカ!! バカテンシン!!」

「ごめんな、お前を一人残してしまって。後のことは頼むよ」

「言わないで! そんなこと言わないでよ!」

 

 俺の体に顔をうずめて泣くトーラの頭にそっと手を置いた

 

「俺を火葬するとき、ラーヴァには悪いが……最後はカードと一緒に燃やしてくれ。道連れにしてしまうのは忍びないが、そうしないとラーヴァと一緒に戻れない」

「……わかったわ。一緒に入れる。だからまだ死なないで! あなたが忘れてしまったこと、全部教えてあげるから」

「トーラ」

 

 やんわりと首を振るが、それでもトーラはくってかかってきた。

 

「どうしてよ! もっと生きてよ! やっと、話せたんじゃない……」

「そんなもの、きく必要ない」

「どうしてよ! 私のこと、好きじゃなかったの?」

「トーラ」

「なによ!」

 

 むくれたトーラの顔には深い皺が刻まれている。だが、今だけは高校生のトーラの顔とダブって見えた。

 

「お前といたなら幸せに決まってるだろ?」

「テンシン……テンシン!!」

 

 トーラは号泣したが、最後には笑顔を見せてくれた。

 

 トーラとその子供達に見送られ、俺は旅立った。

 

 ラーヴァの待つ、GXの世界へ。

 




謎にしてたことも全部回収完了
あとは最終決戦だけです!
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