気づいたらデュエルアカデミア   作:りんごうさぎ

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交わる魂

「終わったね……これで本当のお別れだよ。サヨウナラ、大好きだった私の天真」

「……」

「これでわかったでしょう? 世界を1からやり直して、アナタからトーラを奪いとり、ラーヴァにとって理想の世界を創りあげる。だからもう、二度とラーヴァの前に出てこないで」

「言いたいことはそれだけ?」

「……?」

「気づいていないのか? まだ勝負はついちゃいない」

 

 ライフは-350ではなく、0で止まっている。

 

 そして俺のフィールドには1枚のトラップカードがすでに発動されていた。

 

「なに言ってるの? ライフはとっくにゼロに……!? いや、違う! そのカードは……」

「魂のリレー!! モンスターを手札から特殊召喚し、俺の敗北条件を書き換える! 俺が負けるのは、そのモンスターがいなくなったとき! そして運命を託す相手はもちろん……」

「まさか!」

「そう、お前だっ……! 溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム!」

 

 アニメ仕様の魂のリレー。これが俺の最期の切り札だ!

 

 魂のリレーは俺のフィールドに残っていた最後のリバースカード。そしてラヴァ・ゴーレムは手札交換で俺の手に渡った最後の1枚。

 

 ラーヴァの魂はもう独りぼっちじゃない。魂のバトンが渡され、俺と一心同体へ。

 

 長い旅路を経て、魂はあるべき場所に帰ってきた。 

 

「何よそれ……ラヴァ・ゴーレムは、ラーヴァが渡したカード、なのに……勝手に、そんなふうに、使わないでよ……」

 

 これしかない。ラーヴァの心を溶かすのは、本物の愛情だ。

 

「お前はいつもわかりにくいんだよ。本当は使ってほしかったんだろ? 自分の現身のカードを……」

「ちがう……勝手に決めつけないで。私はカードを1枚伏せてターンをしゅうりょ……」

「じゃあなんで、お前はラヴァ・ゴーレムのカードを引いていたんだ?」

「……」

「お前が自由に自身の現身である精霊のカードを引けることはすでに証明されている。しかも、お前はちゃんと確認していた。俺のデッキに手札交換が入っていたことを」

 

 ミネルバの効果処理のとき、たしかにラーヴァは確認していた。どうやって墓地の手札交換を使用するのかまでは読めていなかったんだろうが、使われることを期待していたのは間違いない。

 

「わかりにくいけど、これはお前の優しさだ。このカードで勝利したとき、きっとお前は俺を許してくれる」

「それは……でも、前にラーヴァ、ウソついてた。半分許すって、テンシンに誤解させてた。本当は許してなかったのに。それに、本当は私がアナタを恨む権利なんてもうない。私はアナタのこと、何度も手にかけてしまってる……」

 

 2年の最初のときか? たしかに、ユベルからあれがいい子ちゃんの演技だと通告されたときはものすごくショックではあった。何回も殺されていたと知ったときの衝撃だって、計り知れない。でも、俺は全部ひっくるめて受け容れるつもりだ。

 

「いいよ、そんなこと。結局俺は死んでない。生きてお前と向かい合ってる」

「ちがっ……!! アナタは一度死んでっ……」

「いや、死んでない。死んでないんだよ、俺は今ここにいるんだからな。だからお前は俺を殺したことには決してならない。そしてお前がどれだけ俺を裏切っても、絶対に俺はお前を裏切らない」

 

 たとえ世界をリセットしようとも、トーラを奪うと言われても、俺はラーヴァを信じ続ける。ラーヴァが自分を信じられなくても、俺がラーヴァを疑ってはいけないんだ。

 

「……」

「どんなことをされても、受け容れてあげるよ」

 

 ツゥ……とラーヴァの頬を伝う涙。それはもうとけてなくなってしまうことはなかった。その光景は、まるでラーヴァが本当の人間になったかのよう……。ありえたかもしれない、幸せな結末。ラーヴァが精霊じゃなければ、一緒になれたのかもしれない。

 

「……やっぱりだ。……やっぱり、天真……アナタが好き。アナタはラーヴァの気持ちわかってくれる。ラーヴァのしてほしいことも全部わかってる。ラーヴァのこと全部理解してくれる。ねぇ天真」

「ん?」

「おねがい……」

「俺のターンだな?」

「うん……」

 

 さぁ、本当のラストターンだ。

 

 ラーヴァにはすでに戦意はない。

 

ラーヴァ LP1600 末来皇 グスタフ・マックス(裏守備) 伏せ1

天真   LP0000 ラヴァゴーレム(魂のリレー)シラユキ 伏せ1

 

 シラユキはバトルフェイズの終了と共にこちらのフィールドに戻ってきている。

 

「ドロー! おろかな埋葬を発動する! 対象は絶対王バックジャック! その効果でデッキの上から3枚カードを確認する」

 

《絶対王 バック・ジャック》

効果モンスター

星1/闇属性/悪魔族/攻 0/守 0

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):相手ターンに墓地のこのカードを除外して発動できる。

自分のデッキの一番上のカードをめくり、そのカードが通常罠カードだった場合、自分フィールドにセットする。

違った場合、そのカードを墓地へ送る。

この効果でセットしたカードはセットしたターンでも発動できる。

(2):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。

自分のデッキの上からカードを3枚確認し、好きな順番でデッキの上に戻す。

 

 

 カードが俺達の前に浮かび上がってきた。

 

 1枚目……ラヴァ・ゴーレム

 

「入れてくれてたんだね」

「このカードは俺と一緒に世界を渡ってきたお前の魂の片割れだ」

 

 2枚目……破壊輪

 

「アナタは魂のリレーの効果でダメージによる敗北はない。シラユキを破壊すれば、このデュエルは終わるのね」

「……」

 

 3枚目……停戦協定

 

「さすがだね。どっちを選んでもラーヴァの負けか……いいよ。私、覚悟してるから。アナタの手で終わらせて」

「ラーヴァ……」

 

 浮かび上がったのは「破壊輪」「停戦協定」「ラヴァ・ゴーレム」の3枚。

 

 破壊輪はエラッタ前のアニメ仕様の効果だ。だからグスタフ・マックスは選べないが、自分のモンスターを破壊することはできる。

 

《破壊輪》

通常罠

フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を破壊し、

お互いにその攻撃力分のダメージを受ける。

 

 

「俺が選ぶのはこの順番だ。上から破壊輪、ラヴァ・ゴーレム、停戦協定」

「えっ!? どういうこと!? 停戦協定を選べばいいのに……。天真……アナタまさかっ!!」

 

 ラーヴァの表情……俺がやろうとしていることを察しているようだ。だけどこれでいい。本物の愛情とは、無償の愛。そして究極の自己犠牲。自分が破滅してでも、他人の幸福を願うということだ。善の天真の魂は、確かに俺の中へ受け継がれている。

 

 いや、別れた魂に差はない。魂に善も悪もないんだ。どの世界の天真も、俺であることには変わりない。そして、それはラーヴァも同じなんだ。

 

「待って! 魂のリレーの効果は、モンスターが離れた時に敗北する……」

「そうだな。じゃあ、モンスターが離れた瞬間、相手のライフが尽きたらどうなると思う?」

「ダメッッ!!!」

 

 今日1番大きな声でラーヴァが叫んだ。

 

「ラーヴァ……」

「何を考えてるの!? まだ間に合う! アナタの場にはシラユキがいる! そいつを破壊輪で壊しちゃえばいい! なんで自分が犠牲になろうとするの!!」

「選べないよ。トーラを犠牲にはできない」

「……! やっぱり、その子をトーラみたいだって思ってたんだ。トーラを犠牲にできないから、代わりに天真とラーヴァを選ぼうっていうの?」

「言い訳するつもりはない。お前も道連れにすること、許してくれ」

「ラヴァ・ゴーレムを破壊する必要なんかない!! アナタには勝つ方法が残ってる!! そうでしょ?! はやく……はやくそうしてよっ!! 私は、もう、覚悟はできてたのに……」

「ラーヴァ、この世界がここまで歪んでしまったのは、お前1人だけのせいじゃない。俺にも責任がある」

「ちがう……ちがうちがうちがうっ!! 何を言ってるの?!」

「ラーヴァを盾にして自分だけ無罪放免になるのは卑怯過ぎるしカッコ悪い。そうだろ?」

 

 俺とラーヴァは一心同体。お前だけ消えるようなこと、させられるわけない。

 

 世界もトーラも救って見せる。そしてラーヴァも、俺と永遠に一緒だ。

 

「お前を1人ぼっちになんて絶対にさせない。それが、世界を4度回って得た俺の答えだ」

「天真……なんてことなの。あぁ……こんなの、嬉しいに決まってる。ダメなのに、涙が止まらない。天真、ありがとう。本当に愛してる」

「これでサヨナラだ。覚悟はいいか?」

「……ねぇ、1つだけ聞かせて」

「なに?」

「ラーヴァが人間になれたら、一緒にいてくれる?」

 

 ラーヴァには、ずっとしてあげられなかったことがあったな。

 

「俺の方から、思いっきり抱きしめてあげるよ。いっつも抱き着いてくるのはお前からだったもんな?」

「あぁ……よかった」

 

 これで全て終わりだ。

 

「ターン終了」

 

 次のターン、バックジャックの効果で「破壊輪」がセットされる。そしてバックジャックの効果でセットしたトラップはそのターンの内に発動できる。ラヴァ・ゴーレムを飛ばして、俺とラーヴァの引き分けだ。

 

「……ごめんね。やっぱりアナタのことは死なせたくない。もうアナタを失いたくないの」

「ラーヴァ?」

「ターンが終了する前に、リバースカードを発動する。伏せていたのは魔法の教科書!」

 

 なんだそれは……! たしか原作のカードだったか? DMの最期のデュエル、戦いの儀でも登場していたカードだ。何をするつもりだ?

 

「ラーヴァ?」

「手札を全て捨てて効果発動。デッキの1番上のカードを引いて、マジックカードならそのまま発動できる」

「ここでマジックカード?」

 

 何を使おうとしているんだ?

 

「これがラストドロー!!」

 

 引いてきたカードを、ラーヴァは俺に向かって掲げて、最後のカードを発動した。

 

「ソウル・チャージ……効果発動!」

 

 

《ソウル・チャージ》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、

このカードを発動するターン、自分はバトルフェイズを行えない。

(1):自分の墓地のモンスターを任意の数だけ対象として発動できる。

そのモンスターを特殊召喚し、

自分はこの効果で特殊召喚したモンスターの数×1000LPを失う。

 

 

「やめろ!!」

 

 思わず叫んでいたが、もうラーヴァは止まらない。

 

「これでみんな死なずに済むね。こういう演出、天真は好きでしょ? これこそ本当の蘇りのカードだよね」

「ラーヴァ! まだお前はモンスターを選んでない。まだ間に合う! お前を1人だけ逝かせることなんて……俺には……」

「わかってる。今のアナタは本気の目だもん。こんなどうしようもない精霊のために、自分の命まで投げ捨てるおバカさん。だからこそ、ラーヴァがそんなことさせないよ」

「なんでだよ……お前はそれで満足なのか?」

「どうしてだろうね。このデュエルを始めたときは、確かに絶対に勝ちたいって思ってたのにね。もう次の世界にも興味がなくなっちゃった。やっぱり、私が本当に恋していたのは、アナタだったんだね」

 

 ラーヴァが俺のことを本当の意味で好きになり、世界の繰り返しをやめること。それがこのデュエルで世界を救う唯一の方法だった。俺がラーヴァへの信頼を示し、無償の愛を捧げることで、世界を救う。そして、俺はラーヴァの心も救ってあげたかった。

 

 いや……違う。そんなのは建前だ。目の前のラーヴァの表情をみろよ? あんな笑顔見たことない。ラーヴァはとっくに救われている。だったら、俺が今しようとしていることはなんだ?

 

 世界のためでも、ラーヴァのためでもない。

 

 俺が死にたいのは、俺自身がラーヴァと離れたくないだけだ。

 

「ハ……ハハ……」

 

 自嘲的な声が漏れる。何が無償の愛なんだ。結局は自分のためじゃないか。だけどラーヴァはあんなに嬉しそうな笑顔を見せてくれた。あれこそが、本物の愛情だ。

 

「ごめんね、私のモンスター達。みんな戻っておいで」

 

 ラーヴァのフィールドに墓地に眠っていたモンスターが全て呼び出される。

 

 エクゾディオスの効果でモンスターは全てデッキへ戻っている。だから出てきたモンスターは2体だけ。

 

 BF精鋭のゼピュロスとHCサウザンド・ブレード……

 

 そして1体につき1000ポイントのライフが、ラーヴァから失われてしまう!

 

「ラーヴァ……ラーヴァッッ……!!」

 

 自分の命を失うことなんて、これっぽっちも怖くない。ましてや俺は一度死んだことだってある。だけど、ラーヴァがいなくなってしまうことは、どうしようもなく耐えがたい。どうしたって受け容れられない!

 

「ずっと後悔してた。アナタを失ったこと、本当は後悔してた。なのに忘れようとして、逃げて逃げて、ずっと逃げて……でも最後に気づけたよ。これがきっと、ラーヴァが世界を4度回って辿り着いた答えなんだね」

「バカヤロー……!」

 

ラーヴァ:LP1600 → —400

 

「あぁ……私の負けね」

「ラーヴァ!!」

 

 ラーヴァの体が光の粒になって小さくなっていく。

 

「そんな顔しないで。私が最後に見る顔はそれでいいの?」

「そのセリフ……」

「楽しいことを考えようよ。次会って笑顔で話せるときを。そうでしょ?」

 

 あのときとは状況が違う。この別れは今生の別れなんだ。次は……もう、ない。

 

「……」

「天真……最後の約束、してほしい。さっき言ったこと、ウソじゃないよね? 次は天真がラーヴァを抱きしめてね? 今度はもう、ラーヴァは記憶を消したりしない。だから忘れないでね。今度は天真が約束守る番だよ」

 

 ラーヴァは世界を跨いでも俺の願いを守ってくれた。たしかに、今度は俺が守る番だ。そして約束を守るということは、またラーヴァと会うことができるということだ。約束がある限り、俺はこの世界に絶望せずにいられる。

 

 あるいはこれが、俺を悲しませないためのラーヴァの優しいウソだったとしても、俺はそれで構わない。

 

 今はラーヴァの優しさにすがりたい。涙の別れは俺達には似合わないから。

 

「あぁ……わかった! また会えるよな?」

「想いの強さが全ての源。アナタはデュエリストだよね? だから信じて」

「あぁっ……あぁ、そうだ!! その通りだ!! 俺はずっと信じてる!! ラーヴァ!!」

「天真……大好き」

「あぁっ……」

 

 目の前で、最初からそこにいなかったかのように、あっけなくラーヴァは消えてしまった。

 

 その瞬間、体中に漲っていた力が空気の抜けた風船のようにフゥゥ……っと消えていき、電池が切れたロボットのようにプツッと力尽きて、意識を失ってしまった。

 

 こうして世界は救われた。

 

 しかし、俺の心にはぽっかりと大きな穴が開いたまま3年生最後の時間を過ごすこととなった。

 

 




大大大満足
思い残すことはありません……
4月の時点で何もかけてなかったのに、ふと読み返してみて、なんとなく続きを書いてみたら、気づけばラストまで書けている謎。
創作ってそういうものですよね。
自分的には出し切りましたが、一応あと少しだけ続きます。

珍しくタイトルに触れると、最初は交差する魂としてたのですが、同名カードがあることが発覚して変えました。そんなことあるのね……。

ライフポイントの表記もオシャレポイント。
アニメとかではオーバーキルでも0にしかならなかったはずですが、これまでそうはしていなかったことが伏線として利用されているわけですね。
0で止まっていたのは魂のリレーの予兆。

バックジャックは確認カードを相手にも見せるかは忘れましたが、今回は見せてあげたんだなと思ってください。
なんせカードを見せるためだけにバックジャックを使ってます()

あと、魂のリレーは引き分けになるのかどうかはアヤシイですが、これも引き分けになると思ってください。
最終的に勝敗を左右しないですし()

序盤のストーリーからセリフを引用していたり、これまでのストーリー展開をなぞっていたり、こういうのは自分なりの拘りポイント。
最終回にはこういう演出があるのが、粋ってもんですよね?
そういう様式美はしっかり守っていきたい。
終わりよければじゃないですけど、最後の締め方はすごく大事。
こういう謎の拘りがあるから完結間際に1年以上筆が止まるんですけどね()
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