気づいたらデュエルアカデミア   作:りんごうさぎ

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ラストデュエル

 3年生、春。世界は平和だった。

 

 ダークネスの侵攻もなく、ユベルとも和解済み。そしてラーヴァの繰り返しの力で歪んでいた世界は元に戻り、俺やラーヴァの超次元的な力も消滅していた。

 

 考えうる限り最高のハッピーエンド。トーラは生きているし、誰も犠牲にしていない。唯一いないのは、ラーヴァだけ……。

 

「テンシンさん!」

「レイか……」

「もうっ! テンシンさん最近いっつも上の空だよ?」

 

 そんなことはわかってる。でも、どうしようもないんだ。失ったものが大きすぎて、そして自分がやってきたことが本当に正しかったのかどうかもわからなくて、同じことを1日中考え続けている。

 

 レイだけじゃない。十代達や、トーラも俺の傍に集まってくるが、返す言葉は生返事ばかりになっていた。

 

 そんなある日、転機は訪れた。

 

「ジェネックス第二回大会の開催を宣言する!」

「ジェネックス……?」

 

 突然校長によって宣言されたジェネックス開催。不思議な顔をするのはもちろん俺だけだが、その気持ちを理解できる者がひとりだけこの世界にもいた。

 

「おどろいたねぇ? 世界の歪みは消えたはずだけど、未来はもう変わってしまっているということかな?」

「ユベル……」

「まだあの娘のことを引きづっているんだね」

 

 ユベルの言葉に苛立ちを隠せず、怒気を放ちながら睨みつけるがユベルはどこ吹く風だ。こいつにだけは叶わない。

 

 一緒に世界を回った仲だからなのか、俺のことを単に気に入ったのかはわからないが、こうしてたまに遊びに来るぐらいの間柄にはなってしまっていた。

 

 別に俺の方も機嫌が悪いわけじゃないし、話相手になるぐらい構わないが、言われっぱなしというのは癪だ。こちらからも応戦してやることにした。

 

「そういえば、お前さ、2年の大会ではデュエルエナジーを集めてただろ? なんか大会中負けたヤツが全員動けなくなっていたらしいが?」

 

 あとから知った話だが、トーラが戦った相手は全員うずくまって動かなくなったらしい。ずっと謎のままだったが、ユベルが早期から動けていたことと関係がないはずがない。

 

「あぁ、あれかい? 実はメダルにこっそり細工していてね。3年目の頭から活動するためには、どうしてもあのタイミングでデュエルエナジーを集めておく必要があったんだよ」

「だが、デュエルエナジーは抜き取り過ぎると意識を失ったりするだろ?」

「そこがボクのすごいところさ。あれはね、メダルの枚数に比例して、負けた方だけから徴収するように細工しているのさ。つまり、メダルをたくさん持っている、すなわちデュエルエナジーをたくさん持っている強いデュエリストほど、たくさん集められるようになっているってわけさ。ギリギリ気絶しない程度に調整してあるから、効率よく全員から集められて、ボクも早々に復活できたのさ」

 

 なるほどね。だからトーラは最後まで元気だったのか。あの大会では負けていないからな。考えれば考えるほど上手くできている。

 

 けど、まだわからないことがあるぞ?

 

「俺はなんで平気だったんだ?」

「君はあの精霊がついてた分たくさんデュエルエナジーを持ってたってことだろう? 単純に言っても1人の体に2人分あるわけだからねぇ」

「そうか……。結局俺もラーヴァに守られてたのか」

「またセンチメンタルかい? いい加減切り替えなよ。君にはトーラっていうかわいい妹がいるんだろう? しかも義理だから結婚できるんだってね? 良かったじゃないか」

 

 こいつは人の神経を逆撫でする天才だな。

 

 ただ、今はユベルへの怒りよりも、ラーヴァに何もしてあげられなかった後悔が上回っていた。最初に会ったときからずっと、俺はラーヴァを邪険にして、ぞんざいに扱っていた。どんな思いで会いに来てくれたかも知らず、その出会いが奇跡であることも理解できずに、一度もラーヴァが喜ぶことを自分からしてあげられなかった。

 

 それなのに、ラーヴァは何度も俺を助けてくれたし、俺の知らないところで痛みも苦しみも全部引き受けていてくれた。

 

 そのことに気づいたのが全て失った後だなんて、笑えない。

 

「お前が言うな。ちなみに、そのデュエルエナジーを抜かれる感覚ってどんな感じなんだ? 結構辛いのか?」

 

 ラーヴァに苦痛を肩代わりさせていたなら申し訳ないと思い、何気なくきいたことから、思わぬ回答を得た。

 

「まぁ、フゥゥ~~と空気が抜けて萎んでいく風船みたいに力が抜けて行って、最後はプツッと電池が切れたみたいに意識を失うらしいね。ま、ボクは体感したことはないけど」

 

 なんだ……それは? なんかその感じ、身に覚えがあるぞ?

 

 ラーヴァとの最後、意識を失った俺もそんな感じだった。もしかすると、あのとき俺はデュエルエナジーが抜かれていたのか? 俺に備わっていた超人的な力も、そのとき一緒になくなったのかもしれない。

 

 そしてもう1つ。エネルギーというのは勝手に消滅することはない。例えば、転がしたボールがどこかで止まったとしても、それは運動エネルギーがなくなって消滅したわけではない。熱エネルギーという別の形のエネルギーとして変換されて残っているのだ。

 

 そうやって、エネルギーが保存され、消えないものなんだとしたら、俺から失われた膨大なエネルギーの行き先は、いったいどこなんだ?

 

 ――想いの強さが全ての源――

 

 ラーヴァの最期の言葉。あれがもし、ただの気休めじゃなかったとしたら?

 

「それじゃ、ボクはそろそろ退散するとしようかな。十代が寂しがってボクのこと探してるだろうからね」

「あっ! 待てよ!」

 

 ユベルは行ってしまった。これじゃ生殺しだ。こなくていいときにやってきて、いてほしいときにいない。ままならねぇな……。

 

 結局ユベルは見つからないし、十代にも会えないまま時間だけが刻々と過ぎて行った。

 

 それからも大会はどんどん進んでいくが、俺自身はどうしてもデュエルするような気分にはなれなかった。

 

 自分から誰かにデュエルを挑むことはせず、それでも未練がましくデッキだけはいじっていたが、俺に挑戦してくる物好きもいなかったので、結局メダルは最後まで1枚のまま最終日を迎えた。

 

「おい、テンシン!」

「十代?」

 

 久々に他人としゃべった気がする。十代を見て、すぐにユベルを探したが近くには気配を感じない。あいつ、本当に自由な精霊なんだな。

 

「お前、あんまりデュエルしてないみたいだけど、今どうなってるんだ?」

「1枚のまま。まだ勝負してない」

「なんだそりゃ? せっかくの大会なのにもったいないって! もっと楽しまないとさ」

「そういうお前は?」

「いやぁ、それがお前んとこの妹にまたやられてさ。まっ! 楽しかったからいいけど」

 

 楽しい、と聞いてふと昔のことが思い出された。

 

「お前は失わなかったんだな」

「なんのことだ?」

「デュエルを楽しむ心」

 

 あぁ、と一息ついてから十代は言った。

 

「あったりまえだろ? こんな楽しいこと、他にないぜ? それより今はテンシンの方がデュエルを楽しめてないんじゃないか?」

「……」

 

 ミイラ取りがミイラになる、か。人の心配しておいて、自分が同じ状態になってちゃ世話ないよな。

 

 いつだったか……。そうだ、あれは俺が里帰りしたとき、十代に問いかけたことだ。楽しいからデュエルをする、その当たり前を失う日が来ると。

 

 まさか自分の身にこんな形で訪れることになるとは夢にも思わなかった。だが、俺と十代には決定的に違うことがある。それは、楽しむ心を取り戻した十代を、俺は知っているということだ。

 

 俺は確かに、大切なものを失ってしまったのかもしれない。でも、それを取り戻すことだってできると知っている。

 

 もし十代がそうなれば、なんとかしてあげたいとは思っていたが、今は自分自身が立ち直るときなのかもしれない。

 

「どうするんだ? 中央ではデュエルしてるやつは残ってるぜ?」

 

 もしラーヴァに会えたとしても、こんな俺を見ても喜ばないだろう。

 

 そう自分に言い聞かせて、己を奮い立たせた。

 

「1勝だけでも、最後に残れば優勝ってことでいいんだよな?」

「……へへっ! それでこそテンシンだよな!」

 

 十代にはずっと世話を焼かれっぱなしだな。幻魔のときも、2年のときも、そして今も。

 

 島の中央に向かうと、大盛り上がりでデュエルの真っ最中のようだ。こっちまで歓声が聞こえてくる。

 

「なんか決着がついたところみたいだな」

「誰が残ってると思う?」

「たしかにトーラも強い。けど、今回は外部のデュエリストが相当勝ち進んでるみたいだぜ?」

 

 外部って誰か強いヤツがいたか? これも第二回の妙か。いったいどんなデュエルになっているんだ?

 

 

 ◆

 

 

「さぁ、この状況からアナタに勝つ手段が残ってるのかしら?」

 

 ジェネックス大会もいよいよ大詰め。私はトーラにリベンジを果たし、この大会は優勝まであと一歩。たぶんこれが最後の勝負でしょうね。お相手はアカデミアの生徒ではないけど、同じく中高生ぐらいに見える落ち着いた雰囲気の女の子。

 

 他を寄せ付けない圧倒的な強さでここまで来たようだけど、この布陣には勝てないでしょ?

 

 

 The splendid VENUS 

 天魔神インヴィシル 

 王宮のお触れ

 ヴァルハラ

 

 

《The splendid VENUS》

効果モンスター

星8/光属性/天使族/攻2800/守2400

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、

天使族以外のフィールドのモンスターの攻撃力・守備力は500ダウンし、

自分フィールドの魔法・罠カードの効果の発動及びその発動した効果は無効化されない。

 

《天魔神 インヴィシル》

効果モンスター

星6/地属性/天使族/攻2200/守1600

このカードは特殊召喚できない。

このカードのアドバンス召喚のためにリリースした

モンスターの種族と属性によって、このカードは以下の効果を得る。

●天使族・光属性:このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

フィールド上の魔法カードの効果を無効にする。

●悪魔族・闇属性:このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

フィールド上の罠カードの効果を無効にする。

 

 

 完璧な布陣。それでも油断なく相手を観察し、次の相手の一手を考えていると、不意に声をかけられた。

 

「ねぇ……」

「どうしたのかしら?」

「もし私が勝てたら、1つお願いしてもいい?」

 

 なんとまぁ! この状況で勝てると思ってるのかしら?

 

 この子は今マジックとトラップが両方使えない。その上、モンスターの攻守は500ずつ下がることになる。どうやってもこれを突破するのは至難の業。

 

 女の子のLPは残り100のみ。手札はゼロ。あるのは序盤からずっと使えてないリバースカード1枚だけ。これでどうやって勝つつもりなのかしら?

 

「アナタ、この状況がわからないほど愚かではないでしょう? インヴィシルの効果でマジックは全て無効化。王宮のお触れによりトラップも使えない。でも、私にはVENUSがいるので自由にマジックもトラップも使用できる。ついでにモンスターは攻守が500ポイントずつ下がってしまうわよ? どうするの?」

「じゃあ、私のお願いきいてくれるのね」

 

 呆れたわ。本当に勝てると思ってるのね。

 

「わかったわよ。なんでもお願いをきいてあげましょう。ターン終了よ」

 

 そう答えてあげると、少女はとても嬉しそうにはにかんだ。

 

「ありがとう。じゃあいくよ? 私のターンだね。ドロー!」

 

 シュッとカードを引いたそのとき、一瞬、指先が光っているような、そんな錯覚を覚えた。

 

 デュエリストの強さというのはその所作を見れば自然とわかるもの。仕草や行動をつぶさに観察してみれば、デュエリストの考え方というのは全て浮き彫りになる。だけど、この時だけは直感だった。私の直感が、この子が只者じゃないと告げている。

 

 まさか本当に、ここから奇跡を起こすって言うの?

 

「今からアナタの大事なモンスター、ドロドロになるまで溶かしてあげる」

「……! そのセリフ! あなた、まさかっ……!」

「インヴィシルとVENUSを生贄に……溶岩魔神ラヴァ・ゴーレムを特殊召喚!」

 

 なんてことなの! このドローは偶然じゃない! この子、テンシンと何か関係が!?

 

 いいえ、それよりもマズイ。一気に盤面が覆ってしまった。私のライフは残り3000しかない!

 

 3000……と考えてものすごくイヤな予感がした。果たしてその予想通り、ゆっくりと伏せられていたカードが開かれる。

 

「仕上げだよ。リバースカード発動……所有者の刻印!」

「なんて……ことなの……」

「帰っておいで! さぁ、これで私の勝ちだね。ラヴァ・ゴーレムでダイレクトアタック!」

 

 LP3000 → 0

 

「負けたわ。完敗ね。どうしてさっき、勝利を確信できていたの?」

 

 この子は本物だ。カードを引く前に、絶対に勝つとわかっていた。テンシンと同じ、強者のデュエルだわ!

 

「私のカードだもん。なんとなくわかるよ」

「そう、そこまでカードを……」

「それよりも、忘れてないよね? 約束、守ってくれるよね?」

 

 さっきまでの自信満々な表情はどこへいったのか、今は年齢相応な不安げな表情を浮かべている。

 

 これだけのものを見せられて約束を反故にするようなことがあれば、私のプライドに傷がつく。

 

「いいでしょう。なんでもいってちょうだい」

 

 デュエリストの言葉に二言はない。甘んじて受け入れましょう。

 

「私と……」

「んん?」

「私と、テンシンの……交際を! 認めてくださいっ!!」

 

 あぁ……。私は天を仰いだ。

 

 トーラ、テンシン……どうやらアナタ達、大変なことになりそうね。

 

 

 ◆

 

 

「あっちか?」

「決着がついたのか?」

 

 十代と一緒に現場にかけつけると、やはりもう決着がついていた。

 

 こっち側にいて背中だけ見えるのはちっこい女の子。あっちにいるのは……母さん?!

 

「なんでアンタがここに?!」」

「あっ……あちゃ~~テンシン、ごめんなさいね? 私、負けちゃったわ」

 

 苦笑いしながら謝る母上。こんなリアクション初めてみたけど、どういう感情なんだ、この表情は?

 

 母上とそんなやりとりをしていると、ポツリと、手前にいた少女が呟いた。

 

「そこにいるの?」

 

 ドキッ……!!

 

 大きく心臓が跳ねた。この声、この雰囲気、このシルエット……!

 

 あぁ、なんですぐに気づかなかったんだ! 髪は赤くないし、肌も焼けてない。普通の日本人みたいな容姿だが、魂の本質は変わっていない。

 

 あの日最後に見た、俺の最も愛すべき精霊!

 

「ラーヴァ!!」

 

 気づいたら俺はラーヴァを後ろから抱きしめていた。

 

「天真……」

 

 耳元をくすぐるこの声、この音色、間違いない! ずっと会えることを望んで、恋焦がれていた、あのときのままのラーヴァだ!

 

「あぁ、本物だ! 本物なんだな?! 夢じゃないんだよな?!」

「うん、夢じゃないよ」

「ラーヴァ、また会えるなんて、思ってなかった。また会えて、抱きしめてあげられて、本当に良かった……」

「うん……ありがとう」

 

 ずっと思い悩んでいたことも、全て吹き飛んで、今この瞬間を生きていることが何よりも幸せに感じられた。

 

 ずっとラーヴァを抱きしめて、ようやく我に返ったときには、目の前で母さんが微妙な表情でこっちを見ていた。

 

「私はもう何も言わないわ。でも、勝負はまだ終わってないでしょ?」

「勝負?」

「アナタ、何しにここに来たの? 決勝戦をするためでしょう?」

 

 あぁ、そういえば大会中だったのか! そんなことすら忘れてた。

 

「ラーヴァは何枚?」

「全部だよ。あとは天真のメダルが最後」

 

 じゃあこれが本当に決勝戦ってことか。

 

「だったら、ちゃっちゃとケリをつけようか。本当の最強デュエリストが誰なのか? 今度は余計な精霊の力とか抜きで、正々堂々、互いの心血を注いだデッキで勝負だ」

「いいよ。天真、私が勝ったらちゃんと責任とってね。トーラよりもラーヴァが先だからね」

「なんの話?」

「もうお母さんに許可はとってる」

「は……?」

 

 母上の方に目を向けると、厳しい視線を返された。なんかちょっと責められてる? そんな視線に思える。

 

「さぁ、これがジェネックス大会最後の決勝戦です!」

 

 おわっと、校長か? いつのまにかギャラリーも集まってる。なんか最後の舞台にふさわしい状況が整ってきたな。

 

「がんばれよ、天真! 思いっきりデュエルを楽しめよ!」

「ラーヴァちゃん、だっけ? 私に勝った分も頑張って、そのロリコンさんを倒してちょうだい」

「今大会最強のあの少女と世界最強の運命力を持つ魔王テンシンの勝負か……じっくり研究させてもらおう」

「この万丈目サンダーを倒したのだ。敗北など許されんぞ!」

「このデュエル……速攻だな。サイバー流を超えるような速攻で勝負が決まる」

「我が銀河系最強のデッキを打ち倒したのだ、ここで負けることは許さんぞ? 世界の暗示たる存在よ」

「世界と悪魔の勝負か……これは見応えがありそうだ」

「私もテンシンさんと戦いたかったけど、しょうがない! テンシンさん、ボクの分も頑張ってね!」

 

 なんか見覚えのあるヤツも集まってるな。よく見たらちょっと高いところからユベルもこっちみてるし。他にも誰がいるのかグルッと周りを見渡していると、今あまり目を合わせたくない人物を見つけてしまった。

 

「あっ!?」

「……バカテンシン」

 

 あんまり本気で怒ってる感じではなさそうだ。あいつは事情とか色々と知ってるもんな。

 

「さぁ、準備はいいですか?」

「いつでもいいよ」

「こっちもオッケーだ」

 

 互いに最高のデッキを掲げて、勝負開始だ!

 

「「デュエル!!」」

 

 先攻はラーヴァだ。やはり速い!

 

「私のターン! 天真、アナタが相手だからこそ、容赦はしないよ? まずは天使の施し! カードを3枚ドローして2枚捨てる。さらに死者蘇生でスクラップ・リサイクラーを特殊召喚。効果で墓地にサイコ・ショッカーを送る」

 

 

《スクラップ・リサイクラー》

効果モンスター

星3/地属性/機械族/攻 900/守1200

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。

デッキから機械族モンスター1体を墓地へ送る。

(2):1ターンに1度、自分の墓地の機械族・地属性・レベル4モンスター2体をデッキに戻して発動できる。

自分はデッキから1枚ドローする。

 

 

 着々と準備が整っていく感じだ。どうみても先攻制圧されるパターンだな。

 

「サイコ・ショッカーの召喚を狙ってるドン?」

「いきなりトラップを封じて、魔王テンシンの動きを封じるつもりってわけだな? マグマガール?」

 

 あれはジムか? そういえば留学組とはちゃんと顔合わせしてなかったな。

 

「天真? よそ見しないでね。天真にはラーヴァからプレゼントを贈ってあげる」

「この状況で? ラヴァ・ゴーレム以外にも何か入れてるのか?」

「トーチ・ゴーレムを特殊召喚。ラーヴァのフィールドにもトークンが2体出てくるよ」

 

 

《トーチ・ゴーレム》

特殊召喚・効果モンスター

星8/闇属性/悪魔族/攻3000/守 300

このカードは通常召喚できない。

自分フィールドに「トーチトークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守0)2体を

攻撃表示で特殊召喚する事によって相手フィールドに特殊召喚できる。

このカードを特殊召喚するターン、自分は通常召喚できない。

 

 

 この時点で先は読めた。フィールドには弱小モンスターが3体。さっきエドの顔も見えたんだが、ここで使っていいのか?

 

「お前、俺の行動を全て封じるつもりか?」

「すごいね、もうわかった? サレンダーしてもいいよ?」

「俺を誰だと思ってる?」

「だよね。言ってみただけ」

 

 バチバチと火花が散る。この緊張感、たまんねぇな。

 

 ラーヴァの狙いはマジック・トラップ・モンスター効果、全ての封殺。だけどラーヴァの真の狙いはもっと他にある、そんな気がする。

 

「思いっきりこい!」

「ちゃんと受け止めてね? フィールドの3体のモンスターを生贄に、Bloo-D召喚! さらに、その効果でトーチ・ゴーレムを吸収。クラプティー・ブラッド!」

「おいおい、プレゼントじゃなかったのかよ……」

 

 結局持っていかれるのか。しかも攻撃力が3400まで上がった。全くムダがない。

 

「さらにおろかな埋葬を発動! デッキから誘蛾灯レベル4を墓地へ送る」

「それ、ズルくないか?」

 

 このカード、先に目をつけたのは俺なのに、ラーヴァまで多用するようになってきたらいよいよ禁止制限入りもありえるんじゃないか? 明らかに強すぎるもんな。たぶんめっちゃ悪用できるはずだし。

 

「いいの! とにかくこのデュエルに勝てば満足だから、なりふり構うつもりなんてない。私はデッキからアーマード・サイバーンを特殊召喚」

 

 なんだそれ? たいした効果のない普通のモンスターだ。どう活用する?

 

「サイバー流のカード! また邪道サイバー流っスか?!」

「もちろん違うよ。トランスターンを発動してマジック・キャンセラーに進化させるね」

 

 

《トランスターン》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分フィールドの表側表示モンスター1体を墓地へ送って発動できる。

種族・属性が墓地のそのモンスターと同じでレベルが1つ高いモンスター1体をデッキから特殊召喚する。

 

 

《マジック・キャンセラー》

効果モンスター

星5/風属性/機械族/攻1800/守1600

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り魔法カードは発動できず、

全てのフィールド上魔法カードの効果は無効になる。

 

 

 やっぱりね。これでBloo-D、マジック・キャンセラー、サイコ・ショッカーの3体が見えた。やはりこの3体による制圧が狙いか。

 

「カードを1枚セットしてターン終了」

 

 

ラーヴァ 手札0枚 Bloo-D マジック・キャンセラー 伏せ1枚

 

 

 手札ぴったりだ。あのカードは十中八九リビングデッドだろうな。

 

「俺のターン、ドロー!」

「リバースカード発動! リビングデッドの呼び声! 効果でサイコ・ショッカーを蘇生! これでアナタは全てのカードが使えない! これでラーヴァの完全勝利だよね?」

 

 どよめく観衆。この時代の先攻1ターン目としては破格だ。けれども、やっているのがラーヴァだってことを考えると、ずいぶんと微笑ましい光景だ。

 

 そもそも、俺の切り札が何かって考えれば、複数のモンスターを並べた布陣が期待の裏返しでしかない。そして、最後のデュエルでラーヴァが使用したカード達。バトルフェーダーや速攻のかかし……全てラーヴァの期待の現れなんだ。

 

 ラーヴァはきっと望んでいる。俺がこの状況すらも跳ね除けて、見事に勝利することを……!

 

「お前はあいかわらずだな」

「あれ? 天真降参?」

 

 ラーヴァは惚けて見せるが、俺が言いたいことなんてわかっているはずだ。俺のことを誰よりも見てきてくれたのがラーヴァなのだから。

 

「デュエルじゃなくて、性格のこと。お前は甘えるのがホントに下手だよな」

「甘える? なんのこと?」

「こんなにガチガチに妨害するのは、俺に出してほしいからなんだろ?」

「……」

「それで、俺が勝つところをみたいんだよな?」

 

 ラーヴァの行動はわかりにくいけど、俺には全部オミトオシだ。

 

「じゃあ見せてよ。アナタの切り札を」

「だったら久しぶりに言わせてもらおうかな」

 

 ピクッとラーヴァが反応して、少し嬉しそうな表情を覗かせた。やっぱり待ってたんだな。

 

「今からそこのモンスター2体、骨になるまで溶かすが恨むなよ?」

「あぁっ……! きたっ……!」

「マジック・キャンセラーとサイコ・ショッカーを生贄に……来い! マイフェイバリット! ラヴァ・ゴーレム召喚!」

 

 ゴゴゴォォォォ……

 

 すでに精霊は宿っていないが、いつものように颯爽と現れて2体のモンスターを焼き尽くした。

 

「でもこれは想定内! Bloo-Dは攻撃力3400! だから所有者の刻印を使っても戦闘破壊はできない!」

 

 さすがだな。ラーヴァは手加減していない。本気だ。本気で勝ちにきている。だから俺のラヴァ・ゴーレムだって想定済みだ。それは間違いない。

 

 でも……そのうえでなお、本気のラーヴァに勝つ俺に期待しているんだ。

 

「マジックカード発動、ミス・フォーチュン!」

「……!」

 

 ラーヴァは気づいたみたいだな。俺のデッキのコンセプト。

 

「ずっと浮気ばっかりしてごめんね」

「もしかして、そのデッキ……」

「あぁ、このデッキのモンスターはラヴァ・ゴーレムのみ。だからマジック・キャンセラーとサイコ・ショッカーを生贄に選んだんだ」

 

 モンスターはラヴァ・ゴーレムのみ。俺お得意のフルバーンデッキだ!

 

 ずっとラーヴァは待っていた。俺がこのデッキを使うことを。だから、ようやくここで、ラーヴァの想いに応えることができる。

 

「そっか。天真はちゃんとラーヴァのこと待っていてくれたんだね。こうしてデュエルする日を信じていてくれたんだね」

「……デュエルはまだ続くぜ? 手札から速攻魔法連続発動! チェーン2ご隠居の猛毒薬! チェーン3連鎖爆撃! チェーン4連鎖爆撃! さぁ、いくつになった?」

「魔法だけで5100ダメージ……1ターンでおしまいか。強くなったね、天真」

 

 トーラと最初に戦ったときを思い出す。あのときも、1ターンだったよな。本気の俺は速攻だ。そして全力の俺は効果ダメージ。戦闘ではなく直接ダメージでライフをゼロにする。

 

「この程度、俺だったら当然だろ?」

「やっぱり、アナタはずっとアナタのままだね」

 

 これが俺の想いの全てだ。受け取ってくれ!

 

 LP4000 → —1100

 

 ラーヴァのライフポイントはゼロ。これで優勝は決まった。歓声と共に、高らかに勝利宣言。

 

「優勝は世渡天真!!」

 

 さぁ、あとはご褒美の時間だ。

 

 改めて校長から、1つご褒美をもらえることに。勝つつもりなんて全くなかったので、当然ご褒美なんて何も考えていなかった。欲しいものなんてなんにもない、そう思った時、1つだけ、これまでに俺が手に入れられなかったものがあったことに気づいた。

 

 心は決まった。

 

「ではテンシンくん、望みを1つ叶えましょう」

「なら、ラーヴァをここに編入させてやってくれ」

 

 結局、俺は俺なんだな。思いつくご褒美が1週目の時とおんなじままだ。

 

「えっ!? 私!?」

「俺ってメダル1枚だし、全部集めたお前を差し置いて、なにかご褒美を貰うのはおこがましいだろう? 俺自身も、ずっとラーヴァと一緒に学園生活してみたいと思ってたし」

「私はずっと見てるだけだった。そんな私が、天真と一緒になれるなんて……本当に夢みたい。どうしよう、泣いちゃいそうかも。天真……ありがとう」

「こっちこそ、今までずっとありがとう。今度は俺から恩返しさせてくれ」

 

 ラーヴァはこのうえなく喜んでくれている。それが見れただけでもう大満足だ。

 

「決まりみたいですね。では、その子は正式に我がデュエルアカデミアの生徒として迎え入れましょう」

 

 あの涙を見て、確信できた。もうラーヴァが暴走することはない。

 

 これで本当のハッピーエンドだな。

 

「テンシンちゃん?」

「え? トーラか?」

「アンタねぇ、何ハッピーエンドって顔してんのよ! 私はどうなるのよ!? この浮気者!!」

「おい、落ち着け!」

 

 大会はお開きとなったが、今度はトーラが怒りの形相でこっちにやってきた。

 

 なんか女性2人の間で板挟みになる構図、デジャブだぞ?

 

「こうなったらもうヤケだわ……この世界全部ブッ壊してめちゃくちゃにしてやる!」

 

 は!? トーラが第二のラーヴァになるつもりか!?

 

 ……あっ!! そういえばトーラも精霊の力を手に入れてるから現時点だと俺やラーヴァよりも力は上じゃないのか!? おいこれ、本当に暴走したらどうやって止めるんだ!? 相当ヤバイ状況だぞ!!

 

「早まるな! 考え直してくれ!」

「イヤよ! 天真は完全にラーヴァちゃんにゾッコンでしょ? この世界では私のことなんてな~んとも思ってないんだもの。全部壊してやり直すしかないじゃない!」

 

 なんでこうなったんだ!?

 

 この繰り返しからは逃れられないのか?

 

「トーラ……」

 

 すると、ラーヴァがトーラに近づいて、頭を下げた。

 

「ごめんなさい……」

「あら? なんのつもり?」

「今までのこと、全部ラーヴァがやってきたこと、謝る。だから許してほしい。本当にごめんなさい」

「……」

「だから、私の気持ちだけは、どうか許してほしい……お願い」

 

 直感的に察した。俺は、何も言わない方がいい。そしてこれは嵐の前の静けさだ。トーラがどう出るのか、予測がつかない。

 

「ウフッ……アハハハハ!! ウソウソ、冗談よ! 別に怒ってないわ。それに、世界を破壊するなんて全部ウソ! 第一、そんなこと私には無理だもんね」

「えっ? 本当?」

「……」

 

 怖い。冗談などと言ってるが、これすらウソなんじゃないか? 暴走するラーヴァは平気で猫被るヤバイヤツだった。トーラがそうではない保証などないし、そんな風に邪推してしまう。

 

「あら? テンシンまで疑ってるの? 今のはちょっとイジワルしただけ。ラーヴァちゃんはちゃんと謝ってくれたし、それに、私はラーヴァちゃんのこと、恨んでないからね」

 

 俺も、そしてラーヴァも、信じられないという表情だ。でも、トーラは続けた。

「確かに最初は恨んだわよ? でも今は好きよ。ラーヴァちゃん、アナタがテンシンを好きになったきっかけだもの。最後はラーヴァちゃんもいい子になってくれたような気がするし」

 

 俺はそのとき、前世の記憶が蘇っていた。老いたトーラから直接聞いた言葉だ。

 

――最初は恨んだわよ。でも好きよ、そのカードがあなたを好きになったきっかけだもの。最後はそのカードもいい子になってくれたような気がするし――

 

 きっとこの言葉は本物だ。そしてこれこそがトーラの優しさであり、愛情だ。トーラは許してくれたんだ。

 

「トーラ、さん……」

「あっ、トーラでいいわよ? みんなそう呼んでるし。私はラーヴァちゃんって呼ばせてもらうわね。お互い色々と苦労しそうだけど、これからよろしく!」

 

 差し出された手をラーヴァもしっかりと握り返し、固い握手を交わした。互いの視線が交わり、どこか結束が生まれているような気がする。なんというか、仲間意識みたいなものすら感じる。

 

「ねぇ、ラーヴァちゃん?」

「なに?」

「これからはお互い、協力し合うことが大事だと思うの」

「……」

 

 コクコクと無言で頷くラーヴァ。

 

「でもね、1つだけひっかかることがあったのよね」

「……?」

「さっき、自分が先って言ってたでしょ?」

「あっ……」

「どっちが先か、それはちゃんと勝負で決めないとフェアじゃないでしょ?」

 

 そういってディスクを掲げるトーラ。

 

「クスクス……ムダだよ? トーラじゃラーヴァには勝てないから」

「言ったわね? じゃあ今ここで勝負よ! テンシン! アンタもそこでみてなさい。アンタがこのデュエルの証人だからね!」

 

 これからなんの勝負が始まるんだ?

 

 勝手に始まるラーヴァvsトーラのデュエル。でも、これならきっと大丈夫だろう。めまぐるしく攻守が入れ替わる2人の攻防を見守りながら、すでにこの世界が壊れるような危機は去ったことを実感した。

 

 ここに来てから3年、世界を廻ること4回……。思い返せば色々なことがあった。長かったようで、あっというまだった気もする。

 

 気づいたらデュエルアカデミアっていうのも、悪くなかったかな。

 




これにて完結!

やっと完結できて大満足。
完結後も直したいところが出てきたらこっそり修正したりはしますが、ストーリーとしてはこれで終了です。
lastには続くという意味がある……とかそういうのはないです()

本当にもう出し尽くした、という感じですね。
デュエルはもう本当にこれ以上は何も出てこない状態()

とりあえず、ユベルが早期登場した理由とか説明できてなかった部分も全部回収できたので心残りもなし。
自分でもどんな着地をするかわからないまま書いてた割には、ちゃんとまとまったと思います。
見切り発車するなと言われたらそれはそう()

ともあれ書くっていうのは何かと本当に大変で難しいですね。
身に染みてよくわかりました。
いっぱい書いてる人はそれだけで無条件にすごい!
本作、思いついたときから考えると、ちょっと恐ろしい年数経過しているので、1つ書くだけでこんなに時間がかかるのか、としみじみ思ってます。



最後に、これまで読んでくれた方、特に感想、高評価、お気に入りしてくれた方々、ありがとうございます!
そのおかげで完結できました!……と書くと大袈裟に聞こえるかもしれませんが、何事も継続する上で人に見られてるというのは大きなポイントだと思っています。
見てくれてる人がいるから完結させよう、という気持ちになったことでなんとか1つ節目を迎えることができたと思いますので、本当にありがとうございます。
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