気づいたらデュエルアカデミア   作:りんごうさぎ

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カードに宿る意志

 後日、制裁デュエルの日程が通知された。あと1週間あるらしい。準備期間ってことなんだろうが俺には有難迷惑でしかない。カード狩りもできないしどうしたものか。散歩していると妙な光景を目にした。女が林でデュエルディスク片手にドローを続けている。

 

「ドロー! 違う……これじゃ勝てない」

「こんなところで特訓か。感心だね」

「その声は……世渡天真!」

 

 振り返ったのは明日香。どうやら一人で秘密の特訓中だったようだ。こんなことして意味があるのかは謎だが、本人は大真面目みたいだ。

 

「なんだ急にそんな怯えた声を出して。お仲間がいないと俺の前に立つこともできないか?」

「私だって強くなるのよ! 十代や翔君達に負けていられない! テンシン! 私と勝負しなさい!」

 

 おうおう勇ましいねぇ。そんなに俺に勝ちたいか。でもこいつとは既に一度デュエルしたから勝負する意味がない。再戦しても時間のムダ。

 

……だったら何か賭けてみるのも一興か。

 

「別に構わないけど、ただ勝負するんじゃ面白くない……何か賭けてもらおうか」

「カードはダメよ! あなたのことは聞いた。アンティルールでデュエルしてるのがバレて退学騒ぎになったそうじゃない」

 

 誰に聞いたのか……面倒だな。俺としてはバレなきゃ問題ないのだが、こいつ相手に無理にアンティルールをする意味はない。なら別のものを賭けるまで。

 

「余計なことはよく知ってやがる。じゃ、こんなのはどうだ? お前が勝てば今一番欲しい情報をくれてやるよ」

「私が欲しい情報?」

「……天上院吹雪」

「えっ!? お兄さんを知っているの!?」

「それは勝てば教えてやる。ただし、お前が負けたら……」

「負けたら?」

 

 なんと言うべきか。どうせならプレッシャーをかけた方が面白い。……いいことを思いついた。

 

「お前の兄の大事なものを頂こうかな」

「兄さんの!? なぜ私じゃないの!」

「お前のものをかけてもプレッシャーにならないだろ。何をもらうかは会ってから決めるとしよう。会うことがなければ……その時は何もとらないことにしようか」

「何も? アヤシイ……ということは私が兄さんと会う日は近いのね?」

「どうだろうな。聞きたいことがあるなら勝ってみな」

「なら絶対に勝ってみせる! 兄さんのため……負けられない!」

「決まりだな」

「「デュエル!」」

 

 単純な奴。これだからデュエリストは扱いやすくていい。この調子なら必要なものはいくらでも手に入るぞ。吹雪はたしかカミューラに勝つために必要な闇のアイテムを持っていたはず。場合によっちゃ利用できる。ここで勝っておいて損はない。

 

「私のターン! ドロー! (手札には融合できるカードとドゥーブルパッセがある。初めはエトワール・サイバーとドゥーブルパッセでダメージを与えて次のターン融合で畳みかけたい。でもドゥーブルパッセは見切られている。かといって融合でサイバー・ブレイダーを出せばラヴァ・ゴーレムの餌食になるかもしれない。エトワール・サイバーだけを出すこともできるけどもし破壊されれば融合できなくなる……どうすれば?)」

「おいおい、開始早々いきなり長考か? 臆病な奴……手札は割と良さそうだがその手札で勝てないのか?」

 

 長考するということは選択肢が多いということ。なら手札はかなりいいと見た。もちろん手札が悪すぎて苦心している可能性もあるがこいつの引き運でそれは考えにくい。

 

「っぐ! なめないで! 私は手札から融合を発動! サイバー・ブレイダーを特殊召喚! ターン終了!」

「またいきなり融合か。やっぱりいい手札が入ってやがるな。全く、何を悩んでいるのやら」

「……あなたのターンよ! かかってきなさい!」

「わざわざ俺から攻めるまでもない。ドロー! 俺はモンスターと伏せカードを一枚ずつ伏せてターン終了。どうぞ」

「……ドロー! (攻めてこない? 少なくともダイレクトアタッカーは持っていないようね。とするとあのモンスターは布石……クリッターの可能性が高い。そうでなくても伏せカードもある。ラヴァ・ゴーレムの存在を考えてここはモンスターも出さず様子見した方がいいわね)」

「どうした? 攻撃しないのか?」

「……私は何もせずターンを終えるわ」

 

 おいおいウソだろ? あの攻めることしか頭にない女王様が何もせずターンエンドだと? いったい何が起きている?

 

 俺が干渉してデュエルの質が変わった? あるいは俺に対してだけ慎重になっているのか。

 

 いずれにせよ、このデュエルで見極める必要が出てきたな。俺が周囲に与える影響、その大きさを。今後の参考になるかもしれない。

 

 明日香 手札4枚 サイバー・ブレイダー

 

テンシン 手札4枚 セット1枚 伏せ1枚

 

「そうか。別に構わないが、守ってばかりじゃ勝てないぜ。ドロー! 俺は黄泉へ渡る船を守備表示で召喚。ターン終了」

 

 

《黄泉へ渡る船》

効果モンスター

星3/水属性/水族/攻 800/守1400

このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた場合に発動する。

このカードを破壊したモンスターを破壊する。

 

 

「(守りを固めた? 意外と大した伏せカードではないのかも……だったらここでっ!)私のターン……ドロー! キタ! ここで攻めるわ! サイバー・ブレイダーで黄泉へ渡る船を攻撃!」

「黄泉へ渡る船の効果でサイバーブレイダーを破壊する」

「ムダよ! 速攻魔法、融合解除!」

「融合解除? これで効果を躱せる……のか?」

 

 かなりアヤシイ気がするがディスクが通したのでちゃんとできるのだろう。微妙に知ってるのとルールが違う部分があったりする世界だから油断できない。

 

「これでエトワール・サイバーとブレード・スケーターを特殊召喚し、連続攻撃! まずはブレード・スケーターで伏せモンスターを攻撃!」

 

 ブレード・スケーターは攻撃力1400で守備力1500だ。この貧弱なステータスでよく攻撃してきたな。セットされたカードを読んできたのかもしれない。実際セットしたのは捨て駒だ。

 

「アメーバは破壊される」

「(クリッターじゃない!?)続けてエトワール・サイバーで攻撃! 効果で攻撃力は500アップ!」

 

 こちらは攻撃力1200ながらダイレクトアタックする際だけ500ポイント攻撃力が上がる。攻撃の順序はこれで正解だ。そしてこの攻撃は通しだ。

 

「どうぞ。大したダメージじゃないな」

 

 LP 4000 → 2300

 

「通った!? ならバトル終了後に融合を発動。サイバー・ブレイダーを特殊召喚してターン終了よ」

「なるほどね。融合解除を絡めて破壊を躱しつつ連続攻撃、さらに融合でラヴァ・ゴーレムの召喚を封じたか。少しは腕を上げたみたいだな」

「そう簡単に何度も同じ手はくわないわ!」

 

 あーあー、ずいぶん嬉しそうな顔しちゃって。俺からまともに褒められたのは初めてだったか? 単純だな、こいつ。ここから絶望が待っているのに。

 

「じゃあ俺のターン、ドロー! 少しは攻めてみようかね。リバースカード発動、浅すぎた墓穴!」

「トラップじゃないですって!? またブラフ……」

 

 今回も思い切って攻めていれば勝てたのに、とか思っているんだろうな。次勝負するときは思い切った攻撃をしてくるだろう。そうなれば罠の餌食だ。

 

「俺は黄泉へ渡る船をセット。お前もモンスターを出しな」

「このタイミングでってことはラヴァ・ゴーレムへの布石ね!」

「……」

「私はエトワール・サイバーをセット!」

「手札から攻撃封じを発動! サイバー・ブレイダーを守備表示に変更! さらにリトル・ウィンガードを攻撃表示で召喚!」

「ラヴァ・ゴーレムじゃない? まさかモンスターを増やしたのはサイバー・ブレイダーの効果を変更させるためなの!? そんな使い方までするなんて!」

 

 バカとカードは使いよう。1つの使い方に固執するのが一番良くない。こういうトリッキーな効果のカードは様々な使い方ができる。

 

「バトル! リトル・ウィンガードでサイバー・ブレイダーを攻撃! 1枚カードをセットし、エンドフェイズにリトル・ウィンガードを効果で守備表示にする」

 

 明日香 手札3枚 エトワール・サイバー

 

テンシン 手札2枚 リトル・ウィンガード 黄泉へ渡る船 伏せ1枚

 

「私のターン、ドロー! フュージョン・リカバリーを発動! さらに場のエトワール・サイバーと融合! 2体目のサイバー・ブレイダーを特殊召喚! リトル・ウィンガードを攻撃!」

「好きにしな」

「これでターン終了よ! さぁかかってきなさい!」

 

 あと1枚。そろそろ引いても良い頃だが……

 

「ドロー! ……きたな。悠長にし過ぎたな、天上院さん? また俺の勝ちだ」

「そんなバカな! 浅すぎた墓穴はもう使ったからラヴァ・ゴーレムは出せないはずよ!」

「お前相手に出すまでもない。俺は秒殺の暗殺者を召喚! さらにダブルアタックを発動! デーモンの召喚をコストに2回攻撃を可能とする」

「何を考えているの!? デーモンの召喚なら攻撃力で上回れたのに、それを捨てるなんて!」

「2回攻撃しなきゃ勝てないんでな。さぁバトルだ! まずは反転召喚した黄泉へ渡る船で攻撃!」

「効果を使うのが狙いね! でもおあいにく様! サイバー・ブレイダーは第二の効果で攻撃力が2倍になっている! どうやらお忘れのようね! 戦闘ダメージで残り2300のあなたのライフはゼロ! 私の勝ちよ!」

 

 嬉々とした表情で説明する明日香だが、それはぬか喜びだ。まさか俺がそんなミスをするとでも? 

 

「それはどうかな? 俺にはまだカードが1枚残っている」

「今度こそトラップなの?!」

「トラップ発動! 体力増強剤スーパーZ! これでダメージを受ける前に4000ライフを回復!」

 

 

《体力増強剤スーパーZ》

通常罠

(1):自分が2000以上の戦闘ダメージを受ける場合、そのダメージ計算時に発動できる。

自分は4000LP回復する。

 

 

「自分の戦闘で使うなんて! なんて使い方をするの!」

「感心してる場合か? これで黄泉へ渡る船の効果でサイバー・ブレイダーを破壊。そして俺の手札は0枚だから秒殺の暗殺者の攻撃力は2000!」

「ぴったり4000! 私は……また負けるの?」

「2回連続攻撃! くらっときな!」

 

LP4000 → 2000 → 0

 

「どうして勝てないの……」

 

 うなだれる明日香からは悲壮感が漂う。結局手札はかなり余っていたが何を持っていたんだ? モンスターばかり引いて出せずにいたと考えるのが自然か?

 

「そもそもそのデッキじゃパワー不足だろ? 俺に勝ちたければもっとデッキを強化するとかしたら? あぁそうそう、約束は忘れるなよ?」

「テンシン……いつか絶対に勝って見せる!」

 

 意外と堪えてない? 実力の差を見せつけたつもりなんだけどな。

 

 デュエルの内容を振り返ると後半は少しらしさが戻っていた。強気な発言も増えている。これでは自分が周りに影響を与える力はあるのかないのか、まだ何とも言えないなぁ。

 

 あのときの明日香の嬉しそうな表情……やはりあれは良くなかった。変に強くなられても困る。今後はやっぱり手抜きは控えよう。もっと徹底的に倒さないと。

 

 もちろんプレイングに怠慢はないが、デッキはプレイヤーの意志に比例してカードを送って来る。ラヴァゴーレムが来なかったのがその証拠。ドローはやはりデュエリストの心と繋がっている。それはやはり間違いない。

 

 そう考えるとドローの特訓というのもあながちなしではないのかもしれない。

 




書いていた当初は布石回にするつもりがあんまり布石にならなかった回
そんなこともあります
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