過ぎし歳月の物語   作:バーベナ/Verbena

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第一話 出会い

 その土地の精霊たちは、自分たちの世界にすっかりうんざりしていた。彼らは世界から消えてゆく前に、ひとつの予言を残していった。

 "過ぎてゆく歳月に彼は現れるだろう。

 小さな種でしかないものの、やがて人々の心に宿り、豊かに実を結ぶこととなる"と。

 まるで要領を得ない予言だけれど、彼らが唱えたのだから、やがて起こることは間違いない。今までも、神と人との争いごとを、嫌というほど当ててきたのだから。

 とはいっても、結局それは今までのように、時が経てば忘れ去られてゆく、取るに足らない物語でしかないんだろうけれど・・・

 

 

 「レイシフトして、はやくもマシュとはぐれちゃったな」

 わたしは周りの木々に目を配りながら、そうつぶやいた。

 わたしはすっかり滅入ってしまった。周りは針葉樹で囲まれていて、一面雪景色だった。肌寒い。およそどこを動いていけばいいのかさっぱりわからない。曇り空で太陽も出ておらず、不気味なほど薄暗い。今がどういった時間帯なのかもさっぱりわからなかった。

 ストームボーダーの通信もまるで繋がらない。一体どうすればいいのか、わたしにはわからなかった。けれどこんなことはいつものことだ。

 「とりあえず、ここから出て、近くの村か何かを探すしかないな・・・」

 そうしてわたしは重い足取りで、肌寒い針葉樹林の間を歩いていった。

 

 

 「白紙化地球上に謎の特異点が発生した?」

 

 「えぇ、そうです、リツカさん。特異点は基本、こちらから観測しているだけでは謎に満ちているものですが、今回は特に謎です」

 

 「特異点の時代は紀元後十世紀あたりといったところですね。場所は黒海の上部、バルト海右あたりの土地で、キエフ・ルーシ国と推定されます。」

 

 「聞いたことがない・・・」

 

 「九世紀ごろに成立した、東スラブ人の国です。

 ただ、今回の特異点の規模的に、そこまで気を張る必要はないかと。いつものように、魔力リソース集めなどをお願いします。では、お気をつけて」

 

 

 わたしは歩き続けながら、ストームボーダー内でのシオンとの会話を思い返していた。

──本当に十世紀の特異点なのかな?

 身体の感覚に違和感を覚える。このマナの感覚は、あきらかに神代のものだった。

 今まで多くの特異点や異聞帯を渡り歩いてきたから、大気中の魔力の質の違いははっきりと理解できる。今はカルデアの魔術礼装のおかげで、どうにか環境に適応できているが、もし礼装がなければ、私はおそらく、この時代のマナに耐えきれなかっただろう。それほどこの特異点のマナは強烈で、不快だった。

 魔獣や精霊の気配も少なくない。まるで大気中に、怪しげな鱗粉が漂っているかのようだった。

 ・・・背後に物音がした?

 わたしは咄嗟に振り返った。すると突然、目の前に大きな獣の腕が振りかかってきた。瞬時に身体を退けて、目の前の獣を直視する。

 それは巨大な体躯の獣だった。見た目はバビロニアで遭遇したウガルのようで、今にもわたしに飛び掛かりそうだった。

 わたしはすぐに右手をかざして、サーヴァントを召喚しようとした。

──あれ?

 うまく影のサーヴァントを召喚できない。

 どうして?もしかして、大気中の魔力が、私の魔術回路とうまく噛み合っていないから?

 わたしが思うに巻かれず困惑しているのを察知するやいなや、獣は凄みを利かせてわたしに飛びかかってきた。

 「しまった、これじゃ避けられな─」

 獣の大きな爪が、わたしの身体目掛けて飛んでくる。わたしはただ茫然と、なすすべなく、目の前の攻撃を見つめていた・・・

 

 その時だった。

 獣の背後に、大きく斧が振り上げられて、獣の背中を勢いよく叩き割った。大きな血飛沫をあげて、獣は目の前で力なく倒れ込んだ。

 「危なかった」と青年はホッとした様子でそういった。

 「怪我はしてない?安心して。野良のバユンはこんなおっかない見た目だけど、結構脆いんだ。身体を的確に叩けばすぐに死ぬ。もう大丈夫だよ」

 力強い斧の一刀が嘘に思えるほど、その栗色毛の青年の印象は穏やかだった。

 わたしはすっかり腰が抜けてしまったのと、状況をうまく飲み込めていないのもあって、しばらくその場で尻込みしていた。それを見かねてか、彼はわたしに手を差し伸べて、上手い具合に立ち上がらせてくれた。

 「助けてくれてありがとう…あなたの名前は?」

 「僕はアレクセイ。みんなからそう呼ばれてる。よろしくね」

 青年はそういって、優しく微笑んだ。

 「ところで、あまり見ない顔立ちだけど、どこの地方の方かな?」

 

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