過ぎし歳月の物語   作:バーベナ/Verbena

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第二話 村落にて

 

 「ところで、あまり見ない顔立ちだけど、どこの地方の方かな?」

 

 青年は気さくな表情で、地面に座り込んだわたしに手を差し伸べた。わたしはいまいち状況を飲み込めないまま、化け物の死骸を尻目に、アレクセイの手を握って起きあがろうとした。

 「ええっと・・・」とわたしは言葉を出そうとしたものの、途端に激しい眩暈に襲われて、姿勢を崩した。アレクセイはあわてて倒れ込むわたしを抱え込んだ。

 「大丈夫かい?すごい熱だ・・・とにかく、僕の村に向かおう。ここだとさっきみたいな精霊がいて危ない。」

 アレクセイの声がくぐもって聞こえた。彼は落ち着いて、わたしを背負い込んだ。

 「ありがとう・・・」

 「大丈夫。とりあえず、今は安静にしていて。」

 アレクセイは雪に足を取られながらも、慎重に歩き出していった。夕暮れの空は色褪せてきていた。

 

 

 あたりはだいぶ暗くなっていた。

 アレクセイの呼吸と振動が伝わってくる。

 静かな雪の森の中で、ただ足音と呼吸だけが聞こえた。

 しばらくすると、眩しい光が閉じた瞼に映った。

 アレクセイは誰かと話している。

 そうしていろんな人がわたしの体に近づいてきた・・・

 

 

 「リツカ、目を覚ましたんだね」

 低く落ち着いた、私を呼びかける声が聞こえた。

 「アレクセイ、わたしは・・・」

 「あぁ、よかった。二日も眠り込んでいたから、どうしたことかと心配してたんだよ。ここは村の診療所だよ」

 「二日って、わたし、そんなに眠ってたの?」

 「うん。ぐっすり眠っていたね。ちょうどリツカの様子がどうなのか見に来たんだよ。お腹は空いてない?少し果物とかあるんだけれど・・・あぁ、リューボフさん、ちょうどよかった。リツカが目を覚ましたよ。」

 アレクセイは近づいてくる老人に向かってそう語りかけた。

 「ここにいたのか、アレクセイ。今朝はどうもお前さんを見かけないと思ったら・・・やあ、リツカさん。体調はどうかな。」

 その人は自分の名をリューボフと名乗った。わたしは一目見て驚いた。その人は全身が毛むくじゃらで、白い髭を生やしていて、アレクセイよりやや小柄だった。穏やかな目つきをしていて、独特の雰囲気が感じ取られた。ドゥモボーイ族というもので、この村の村長をしているらしい。

 わたしが気になってリューボフさんに話をしようとした瞬間、礼装についていた通信機が激しく反応した。水色がかった映像が目の前に表示される。

 『やっと通信が繋がった!大丈夫かい、立夏ちゃん!?』

 「ダヴィンチちゃん・・・」

 『よかった・・・君が特異点に出向いた直後から、通信がまるで繋がらなくて・・・そちらの人たちはどういった方たちなのかな?』

 アレクセイとリューボフさんは物珍しい様子で、わたしの目の前に表示された映像を見つめていた。

 「どうやら村に魔術結界が貼ってあるみたいですね。それによって、われわれの通信が可能になったのでしょう。」とダヴィンチちゃんの横から、シオンが割って入ってきてそういった。「それにしても、そっちのマナはどうも不思議ですね。立夏さんの存在証明が難しくて仕方がないですもの。」

 「シオン!」とわたしはいった。

 「お久しぶりです、立夏さん。この度は私の判断不足で危険に晒してしまい、申し訳ありませんでした。」とシオンはばつの悪そうな顔をしていった。

 「え?いや、別に気にしてないけど・・・」

 「いえ、今回の私の失敗は見過ごすことはできません。まさか、これほどの特異点だったとは・・・特異点を甘く見過ぎていました。リツカさんがレイシフトした後、人理定礎値がなぜか急激に変動して・・・極地使用の礼装にしておけば良かったと後悔しています。お身体は大丈夫でしょうか?おそらく気分の調子はよろしくないと思われるのですが」

 「あぁ、それなんだけれど、身体に入ってくる魔力がすごい気持ち悪くて・・・」

 「どうやら、込み入った事情があるそうだね」とリューボフさんは言った。「少し場所を移そう。ここだと目立つからね。わしとアレクセイの住んでいる家屋に移ろう。病み上がりの人間を歩かせるのも気の毒だが・・・ダヴィンチ、というのかい?再会を惜しんでいる間申し訳ないが、しばらく通信を閉じていてくれないか」

 「ああ、わかった。藤丸くん、リューボフさんたちの家に着いたら、通信機を起動してくれよ」

 そうして通信は切断された。

 「アレクセイ、リツカの付き添いを頼む。ワシは診療所の手続きを済ませなきゃならんから、少し遅れる。」

 アレクセイは頷いた。リューボフさんは家屋にいた人たちに挨拶をして、扉の向こうへと向かっていった。

 「その、ありがとう、アレクセイ。本当に、あなたがいなかったら、わたしどうなってたか・・・」

 「どういたしまして。とにかく、本当にリツカが無事で良かったよ。さぁ、僕の家に向かおう。」

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