診療所の扉を開けると、豊かな景色が目の前に広がった。
家畜小屋や厩戸、人間の子供や、精霊のような存在まで──村の外周には丸太組の外壁がそびえていて、外の針葉樹がちらと見える。
「アリョーシャ」
わたしたちが歩いていると、遠くからアレクセイの名を呼ぶ声がした。目の前から少女が歩いてくる。
「やあ、アーシャ。今朝は元気かい?」とアレクセイはいった。
「えぇ、それはもうとっても。そちらの方は、昨晩の?」
「うん。こないだ僕が外に出かけていた時に救助したヒト。リツカって言うんだ。」
「アザーリャと申します」とその少女は丁寧に私に向かってお辞儀をした。紫のドレスを纏っていて、艶やかなブラウンの髪の毛が肩までかかっていた。わたしもつられてぎこちなく頭を下げた。
「どうか、お身体には気をつけてくださいね。リツカさん。」
「それにしても、綺麗なドレスだね。似合ってるよ。」とアレクセイは彼女に言った。
「ありがとう。そろそろ催される村の祭事のために、村の人にしたためていただいたの。」
彼女は照れ臭そうにそう言った。
「今年の儀式は良いものになりそうね。じゃ、またね」とアザーリャは手を振って、向こうに行ってしまった。
「仲が良くてね。よく彼女と話し合うんだ」とアレクセイは私にそう話した。彼は微笑んでいた。
「・・・そういえば、お互いにちゃんとした自己紹介はしてなかったね」とアレクセイは急によそよそしくなってそう言った。
「そうだったっけ?」とわたしは思わず吹き出してしまった。さっきのアザーリャとの会話からは想像できないような人見知り具合なのが、わたしにはなんだかおかしかった。
「いや、なんというか、その、いろいろあったからね。それに、君のことが気になる。さっきの通信のこととか。リツカもヴォールフフみたいな魔術使いなの?」
「ヴォールフフって?」
「ヴォールフフっていうのはこの国の魔術師のことでね。諸々の儀式や祭事を取り行っているんだ。ほら、あっちの方にいるだろう?」
アレクセイは向かいの方を指し示した。そこには呪術的な装いをした人々が、これまた呪術的な木彫りの像に向かって、なにやら群がっていた。
「近いうちに祭事があるから、ああやって皆活発になってるんだよ」
「わたしはヴォールフフではないけれど、魔術は使えるよ」
「そうなの?珍しいね。リツカは神格でもヴォールフフでもないのに、魔術を使えるなんて。」
「その、神格っていうのは・・・」とわたしはためらいがちに聞いた。
「神格も知らないのかい?」とアレクセイは驚きをまじえて言った。「リツカはいったい、どこから来たの?」
わたしが説明しようと頭を悩ませていると、アレクセイは急に立ち止まった。
「さ、着いたよ。ここが僕とリューボフさんの住んでいる小屋だ。」