過ぎし歳月の物語   作:バーベナ/Verbena

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第四話 話し合い

 

 家屋の中で待っていると、リューボフさんが入ってきた。

 私は約束通り、ダヴィンチちゃんを呼んで、彼女と一緒にこれまでの経緯を説明した。汎人類史やカルデアのことを説明するのは、なかなか骨が折れる作業だった。

 「なるほど・・・要するに、お前さんたちは汎人類史という、別の世界からきて、わしらの世界はまた別の世界・・・ということだよな?」

 リューボフさんは首を傾げながらそう言った。

 「そうだね。私たちの事情はそんなところかな。」とダヴィンチちゃん。「では、次はリューボフさんたちに尋ねる。一体、あなたたちの世界はどういったものなんだい?」

 「難しい質問だな。どこから話せばいいのか…ウラジーミル大帝の改革はそちらの世界でもあったか?」

 「あぁ、あった。その出来事は我々の世界だと、西暦九八八年のことと記されている。立夏ちゃん、ウラジーミル大帝は知ってるかな?」

 「いや、全く」

 「十世紀のロシアの大公さ。それまでのキエフ公国は、スラブの神々が各地で信仰されていたんだ。けれど政治的な事情からか、ウラジーミル大帝はギリシャ正教を国教にした。それと同時に異教の神々を排斥したんだ。リューボフさん、ウラジーミル大帝の改革後、具体的にどういったことがあったんだい?」

 「わしも詳しいことがわからんからね。わたしの知る限りの情報だけを話そう」とリューボフさんはいった。「わしらの国が急激に変貌したのは大帝の死後だ。大帝の息子たちの権力争いが激化した末、キエフ大公は大帝の長男ヤロポルクに変わった。その後キエフ国は統一されていき、わしら神格の信仰はギリシャ正教にとって変わられ、やがては消えていく・・・そう思っていたんだ。神々は人間の信仰を失えば、消えてしまう運命にあるからね。しかし、ヤロスラフがキエフ公になった後、権力争いで敗れたはずのスヴャトポルクというやつが、国の西側からキエフを侵攻してきた。やつはなぜか、かつて消え去ったはずの神格を引き連れて、この国に攻め入ってきたんだ。その後、スヴャトポルクはキエフを占領した。キエフ大公であったヤロスラフは東に押し寄せられ、ノブゴロドという都市を中心とした国を統治している。今現在は停戦状態、と言った方がいいか。どうやらスヴャトポルクの背後にいる大神が、戦争に乗り気ではないらしい」

 「つまり、キエフ国は現在分裂していると?」とシオンは尋ねた。

 「あぁ。わしらの国は今東西で分裂している。スヴャトポルクを元首とするキエフ領域。そして東はヤロスラフを元首とするノブゴロド領域に分かれている。わしらの村は前者の領域だ。」

 「スヴャトポルク、ヤロスラフか・・・」とダヴィンチちゃんは考え込んでいる様子でそう呟いた。「流石にわたしもそこまで把握できてないなぁ。こんな時に名探偵がいてくれたら、助かったのにね」

 「その、神格というのは」とわたしは尋ねた。

 「神格はわしのような精霊のことだ。スラブ地域独特の呼び方でね。土地に住み、人間と共存している神々でね。わしのような小さな伝承に寄るものは小神格と人々に呼ばれている。さっきも話したように、わしはドゥモボーイという家に住み着く精霊の種族の1人だ。・・・まあ、神代が終わるにつれて、姿形が人間の年寄りに近づいていったがね。この村にも時代の変遷の影響を受けたものたちがいる。大神格の中にもそう言った輩はいるだろう」

 「でも、どうして神霊が西暦以降の世界に?」とわたしはダヴィンチちゃんに尋ねた。「西暦以降、神霊たちは消えてしまったんじゃなかったんだっけ?」

 「それなんだよね・・・わたしもさっきデータベースから調べたんだけど、どうやら我々の世界を見るに、キエフ公国ではギリシャ正教が国教となった、ってさっき話したよね?その際にウラジーミル大帝はかつての神々の偶像を破壊して回ったみたいなんだけれど・・・異教の信仰というのは、近現代のロシアに至るまで、民衆の間で細々と続いていたみたいなんだよ。」

 「ギリシャ正教が国教だったのに?」

 「うん。そういうロシア特有の信仰の形を二重信仰、って言ったりするらしい。神霊は人間の信仰が続く限りは、形を残し続ける。ドゥモボーイのような小規模な精霊なら、西暦以降も存在していてもおかしくはない。とりあえず、私たちはスヴャトポルクに話を聞いた方が早そうだ。彼が特異点の発生の謎を知っている可能性は高い。謁見することはできるかな?」

 「いや、難しいだろう。あいつは何をしでかすかわからんからな。やめた方がいい。関わらないほうが幸福というものだ」

 「じゃあ、他の話だ。リューボフさん、あなたは聖杯の話を聞いたことがあるかい?私たちはそれを回収したいんだけれど・・・それと、マシュという少女のことについても。彼女は立夏ちゃんと一緒にレイシフトしたはずなんだけれど、行方が分かってなくてね。」

 「聖杯の噂については多少耳にしたことはある。しかし、それがどういうもので、どこにあるかとかは知らないな。マシュという少女についても、聞いたことがない。」

 「そうかぁ・・・それは残念だ・・・」

 ダヴィンチちゃんは見るからにがっかりした様子でそういった。

 「しかし、マシュについてはこのあたりの村で噂が出ているかもしれない。ただ、ここら辺の村はどこも小規模だからな。田舎の小さな村を回っても期待できない。都市のキエフに向かうのが手っ取り早いだろう。あそこはこの国の中でも世間の話や最新の世情に敏感だからな。喧嘩っ早い奴らもいるだろうが・・・アレクセイが同行するなら問題ないだろう。ドニエプル川の船を経由すれば、それほど時間がかからずにキエフにつく。アレクセイ、リツカに同行してくれないか?」

 「はい。正直、リツカたちの話はよく分からなかったけれど・・・リツカたちの力になれるなら、頑張ります」

 「アレクセイ・・・よし、とりあえず、マシュを最優先で探しに行こう」とわたしはみんなに言った。「特異点や聖杯の情報がわからないとなれば、まずはマシュの安全が先だ。ダヴィンチちゃん、マシュのバイタルは確認できないの?」

 「それがねぇ、君たちのいるキエフ国は、どうも魔力が独特でね。今そこにいる人たちの存在度を確認することすら難しいんだ。」

 「そうなんだ・・・」

 わたしはマシュが心配でならなかった。マシュはサーヴァントであるとはいえ、第六異聞帯でのこともあって、孤立は危険だと感じていた。

 「そういえば、この国の魔力濃度の違和感に、何か明確な心当たりはありませんか?」とシオンはリューボフさんに尋ねた。「先ほどから異様な数値が算出されているのですが・・・これは一体?神代レベルとは行かないまでも、人間の身体に影響を及ぼすレベルではあります。」

 「それはわからないな。たしかに、わしらの村ではここ数年、謎の体調不良を起こすものが増加している。わしら神格は魔力によって生きてはいるが、魔力濃度が云々という事情はわからない。魔力濃度の微々たる差など、魔術師ほど敏感に感じ取ることはできないんだ。ヴォールフフに聞くのが手っ取り早いだろうが、あいつらも気難しい奴らだからな・・・奴らは一体、何を企んでいるんだか・・・」

 「よし、では要点をまとめよう。」とダヴィンチちゃんは言った。「第一の目標はマシュを探すこと。そのために都市のキエフにでむく。ついでに聖杯の噂や、この国の情報も集め、無事この村に帰還すること。聖杯の奪取は後回しだ。それでいいかな?」

  みんなは頷いた。

 「では、健闘を祈るよ。立夏ちゃん、無事を願うよ。私たちはおそらく、君がそこの村から出てしまうと、通信が繋がらなくなるからね。」とダヴィンチちゃんは言った。

 何より大切なのは、2人が無事帰ってくることだ。万が一があったらすぐに帰還するように」とリューボフさんは念入りにいった。「無事帰って、マシュを見つけられたら、村の催事を楽しもう。」

 リューボフさんは優しい眼差しでそう言った。

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