聖霊の軌跡   作:常葉樹

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トールズ士官学院に着くまでのプロローグです。
話を一部、書いている流れに通じるように改定しました。



プレリュード
1 はじまりの旅立ち


いつも見る暗い、怖い夢。

 

私にとっては判らない記憶。

 

ノルドとはまるっきり正反対の場所に私はいた。

私が経験した集落の焼き討ちではない場所。

周りは次々と建物は崩されて、争いの中。

全ては炎に包まれて、人は炎に追われる。

私は若葉色の髪に青竹色の瞳でいつも着ているノルドの民族衣装を身にまとっていた。

 

「くそぅ、ユエはどこなんだよ。」

 

「ユエはお前と一緒じゃないのか?   」

 

「あんたのところにもいないのかよ…ユエを探してくる。待ち合わせはいつもの場所でだよな?」

 

確認するように青年が聞くと、男性は苦渋の顔を浮かべながら、頷いた。そう、あの青年は私の兄弟子だ。

 

「気をつけろ、   」

 

男性は左太股に装着している銃を手渡した。

 

それを受け取ると青年は走り出した。

 

私を呼ぶ男の人と青年。

あんたと呼んでいるが、顔見知り以上の関係だと思う。

聞き取れない、空白の名前。

思い出すなと誰かが止める。

思い出せと誰かが囁く。

 

 

それはまるで警告。

 

「どこにいるんだ!?ユエ」

 

姿も欠落している。私を呼ぶ青年は姿が真っ黒の状態で私の視界には認識される、まるで靄がかかっている。

だけど、青年は必死に叫んで探している。

「おっさん、ユエを見なかったか?」

 

「   、ユエは諦めろ。あの子は俺達、     のために  した。」

 

「ざけんなよ!今、どこにいるんだよ」

 

「もうここには…」

 

「許さねえ。あの野郎、ユエは俺が取り戻す…絶対にだ」

 

「ユエちゃんからこれを預かった…お前にだそうだ。」

 

何かを男から手渡され、それを腰につけたポーチにしまう。

 

毎日、繰り返されるこの夢には慣れていた。あぁ、これでいつも目が覚めるだろうと意識していた。

 

だが、いつもとは違った。

 

「待ってろ、ユエ…必ず迎えにいく。」

 

そこで目が覚めた。いつもと同じ朝の筈が違っていた。

目の前には褐色肌で黒髪の青年がいた。

見慣れた青年の名を口にした。

 

 

「おはようございます、ガイウス。待たせてしまいましたね?」

 

「おはよう、珍しいな。ユエがオレよりも起きるのが遅いなんてな」

 

彼はガイウス・ウォーゼル。私の幼なじみであり、家族でもある。

私は7年前に怪我をしていたところをガイウスに発見されて私は新しくウォーゼル家に迎えられた。

 

「またあの夢か?随分、うなされていたようだが大丈夫か?」

 

「そうみたいです、ゴメンなさい、すぐに着替えて食事の手伝いにいきます」

 

「あまり無茶をするなよ、ユエ。母さん達も気にしていないから。」

 

「大丈夫ですよ、ガイウス。その時はちゃんとガイウスに先に言いますから。」

 

そう言った後に彼はゲルを後にした。

枕元にある緑色の制服にピンクのスカーフがついた民族衣装とは違う衣装―学生服―を緊張しながら見つめた。

 

少ししてから意を決して身につけていた民族衣装から学生服に着替えた。

着替え終わると先程、起こしに来たガイウスも民族衣装からデザインが少し似ている学生服に着替えていた。違うのは彼の制服は夕日のように赤いことだ。

 

「改めて、おはようございます。ガイウス」

 

「あぁ、おはよう。よく似合っているな。」

 

「ありがとうございます、ガイウスは背が高いし、髪を結んでいる紐と同じ赤だからアクセントになってるし、似合います。それにかっこいいです」

 

素直な感想をお互いに述べると少し照れくさい感じになりつつ、ゲルに入った。

 

「おはよう、父さん、母さん」

 

「おはようございます」

 

中にいた男性と女性に挨拶をする2人に男性は声を掛けた。

そちらの男性はラカン・ウォーゼル。ガイウスのお父さんであり、ガイウスや私の武の師匠でもある。

その隣で朝食の準備をしているのはファトマ・ウォーゼル。ガイウスのお母さんで私に料理などを教えてくれた師匠ともいえる。

 

「おはよう、ガイウス、ユエ。制服がよく似合っている。いつ、ここを発つ?」

 

「明日の朝に入学式があるため、最低でも今日の昼には発とうと思います。」

 

 

「あぁ、暫く寂しくなるが身体には気をつけるように」

 

「はい、肝に免じておきます。」

 

「ガイウスに少し話がある。ユエ、ファトマと一緒に朝食の準備を手伝ってくれ。」

 

「分かりました。失礼します」

 

ユエはすぐに女性の元へ向かった。ガイウスとは外に出て、ノルド草原の北側に向かった。

 

「ガイウス、トールズ士官学院にいる間、ユエのことを頼む。ユエはとてもしっかりしているが、あの子はまだ、あの事を気にして、我々に遠慮しているのかもしれない。お前がユエに何かあったら、しっかりと支えてやってくれ」

 

「分かっています。オレも気になってましたから、学院にいる間はユエを支えたいと思ってます。幼なじみとして家族として」

 

 

「頼んだぞ、ガイウス」

 

「はい」

 

「ガイウス…そちらにいたんですね?」

 

「ユエか…すまない。もしかして探してくれたのか?」

 

「えぇ、食事の準備が出来たので呼んでお二人を呼んできて欲しいと」

 

男同士の会話が終わった頃にユエは駆け足で駆け寄り、話をするとガイウスとラカンが急いで向かい、後からユエも後から追うようにウォーゼル家のゲルに向かった。

 

ゲルの中では料理が並ばれていた。

ゲルに入ってきたガイウスとラカンとユエのことを料理を囲んで待っていたのはファトマと自分より年齢が下の少年と少女が2人だった。

 

少年の名前はトーマ・ウォーゼル。ガイウスの弟でとてもしっかりしている男の子。

 

その隣にいるのはシーダ・ウォーゼル。ガイウスの妹で周りに気遣いが出来る優しい女の子。

シーダの隣にいるのはリリ・ウォーゼル。ガイウスの妹で明るく遊び盛りな元気な女の子。

 

 

「あんちゃん、早く!」

 

「分かった、リリ。」

 

ガイウスは急いで座ると、その左隣にユエが座る。ラカンが全員、座ったことを確認する。

 

「頂くとしよう、ガイウスとユエの門出を祝い、風と女神の祝福があらんことを」

 

号令と共に食べ始め、食べたらすぐに向かう準備を始めた。

 

「ユエねえたんの制服、緑だ。ガイウスあんたんは赤いね」

 

「そうだね、もしかしたらガイウスは炎のように強い信念が伝わったから赤だったのかもしれないね。赤もガイウスは似合うからね。私達は緑と青と白だから見慣れない分、よく似合っててかっこいいと思う」

 

「うん、だけどねえたんもかわいい!」

 

「ありがとう、リリ。もう行かないと。しっかり皆の言うことを聞いてね」

 

「うん、やくそく」

 

約束の指切りをして、すぐにゲルを後にした。

 

「ゼン、お待たせ。私がいない間、シーダ達のことを宜しくね」

 

「フゲン、宜しく頼む」

 

ゼンと呼ばれたのは古傷が目立つ馬だった。返事をするようにブルっと唸るとユエはゼンの背中に乗った。

ガイウスもフゲンと呼ぶ黒馬の背に乗ると、すぐに金属で出来た鉄壁の門、ゼンダー門へと走らせた。

 

「ハイヤー!」

 

「ゼン、帰る時は必ず知らせは風に乗せるね。だから、風を走らせてその身に感じながら待ってて」

 

「ヒーン」

そう会話をしながら、向かう先はゼンター門と呼ばれた軍の駐屯地だった。

 

 

「ユエ、もうすぐだ。」

 

「はい、もうすぐですね。」

 

緊張しながら、ゼンダー門前にたどり着くと、そこには案内役であろう兵士がいた。それぞれ乗っていた友馬から降り、荷物を卸すと、ゼンとフゲンは集落の方へ走っていった。

 

「2人とも入学おめでとう」

 

「ありがとうございます。」

 

「今日は中将は帝都に向かわれている関係でいないんだ。」

 

「お会いしたかったのですが、残念です」

 

「あぁ、中将も残念がってたぜ。あっちに用意してあるから、すぐに乗ってくれ。」

 

「分かりました、行こう、ユエ。」

 

2人はゼンダー門の中へ入り、案内役と共に進んだ。

進んだ先の軍用貨物列車に乗り込んだ。

 

揺られる電車の中、2人は外を見つめていた。 

窓の近くにはルーン文字が刻まれた石が置かれている。

 

「試験以来だな」

 

「そうですね、あの時は驚きました。大きな建物に街並み、迷子になったらどうしようかと思いました。」

 

「そうだな、それは俺も一緒だった…そういえば、ユエは俺と同じ十字槍や太刀ではないんだな」

 

布で包まれた長物はガイウスと違っていた。ガイウスより刃が横に長いため何度も布で包んだためか刃の部分が広がっていた。

 

「太刀は儀礼用演舞位なので戦いで扱うには少し構え方を直さないといけません。ガイウスと同じ十字槍では武器の弱点を互いの共闘では補えないので…それに長老から私がいた場所は大鎌を使うのが主流と聞いたので何かきっかけになると思って選択しました。それにガイウスが私を見つけてくれた時に唯一持っていたものですから」

 

「そうか、たまにでいいんだが、鍛錬に付き合ってくれるか?」

「勿論です、十字槍も持ってきていますから、私の方からもお願いします」

 

「あぁ、話しているうちにルーレ駅での乗り換えみたいだな。」

 

「そうですね、行きましょうか?」

 

列車から降りる準備をして、先にガイウスが列車からホームに降りると、ユエも続いて降りようとした時に声を掛けた。

 

「ユエ。足元には気をつけてくれ。」

 

「ありがとうございます。あの時のことを気にしてくれたんですね…面目もありません」

 

「いや、いいんだ。まさか隙間に落ちるなんて予想出来なかったんだ。怪我がなくて良かった」

 

ユエは列車とホームの隙間から落ちてしまい、運が悪く、荷物で落ちた場所を蓋された状態になってしまい、ガイウスがユエを隙間から救出作業を行うことになった。

それを言われて思い出し、慎重にホームへ降りた。

 

「後はトールズ士官学院方面に向かうだけだな。」

 

「そうですね、階段を上って、移動ですよね?」

 

「急ごうか、試験に来てから2回目とはいえ、迷う可能性もないとは言えない」

 

「そうですね、急ぎましょうか」

 

そして反対側のホームにある学院方面の列車に乗り換えて、一息着いた。

はじまりの地にたどり着くまで窓を開けて車窓を眺めた。

はじまりの地の風を聞きながら

 

はじまりの旅立ち FIN

 




読んで頂きありがとうございます。

修正等があったり、のろのろだったりしますが、宜しくお願い致します。

1016 少し追加修正をしました。
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