これは入学後のとある1日の話
「おはようございます、フォルティス。こちらに朝食を置いておきますね」
「すまない。」
「ちょっとガイウスに朝食を渡してきますね」
「気をつけて行ってこい」
4月、入学式が終わり、学院生活が始まった。クラスの皆とは少しずつだがコミュニケーションを取っていた。
早朝、私の日課には朝食とお弁当、いつものように大鎌の鍛錬も欠かさない。
集落では、ガイウスと同じ十字槍を主流にしていたが、ここでは大鎌を主要にすることを決めていた。
私の一族ではガイウスの住む集落とは違い、槍ではなく大鎌を使うのが主流。
理由としては自分が死ぬ時にこの地への未練や魂を断ち切る半身として大鎌を扱われていた。
つまり、風習や言い伝えから武器が大鎌になった。
折れたり、刃が欠けても幼い時に最初に習うことの1つにそれが組み込まれていた。
そのお陰でガイウスの十字槍も一度、折れた時に直すことができた。
ガイウスが起きる前に届けに行く。
第三学生寮のリビングにお邪魔、して机の上に置いていく。
“ガイウスへ”と書き置きを残して、私はすぐに後にする。
第三学生寮を後にすると、私はすぐに部屋へ戻り、荷物を取りに行く。
「ただいま、フォルティス」
「あぁ、旨かったぞ」
「お粗末様…窓とか開けとくから好きにしてて大丈夫です。お昼は後で渡すからいつもの場所でお昼頃に来てくださいね。4時限目が調理実習だからちょっと遅れるかも」
「ああ、そうさせて貰おう。多少の遅れは気にしないから気にするな。」
フォルティスは身体を伸ばして再び休むとユエは荷物を持って、向かった。
Ⅳ組ではリンデとヴィヴィの姉妹が委員長、副委員長で私は書記に任命されている。
理由としては、真面目そうだからその一点だけだったらしい。
私の仕事は、委員長達の補佐とホームルーム等の記録係でホームルームの時間はちょっと忙しい。
終了時間後に記録したノートをまず、時間担当の教官に内容の確認、次にクラスの担当教官からサインを貰い、クラスに戻る。
それを5分以内に終わらせないといけない。休み時間は10分、移動になると遅れると遅刻扱いになるため、付き合おうかと言ってくれるリンデやヴィヴィ、コレットには申し訳ないが、お断りをしている。コレットは夕飯の買い物をしていた時にお店で会ってからよく話す機会が多くなった。
家庭科の時間
Ⅴ組との合同授業は“お弁当”だった。Ⅳ組の女子はⅣ組の男子達に差し入れをするために“胃袋がっつり弁当”というテーマで作ることになった。
男子は確か、コンピューターを使った情報学を受けている最中だ。
女子も男子は同じ授業を受けるが、他クラスとの交流も行うという一貫がこの男女入れ替わりでの交流授業。
普段、集落でも作っているが、今回は父の故郷である東方風にしようと思い、父が残したレシピをフォルティスが前に見つけてくれ、それを見ながら今、作っている。
亡くなった父は料理が母より上手かった。だが、唯一父でも作れなかったあの料理のみ父にも褒められていたが、このメニューは今回の“お弁当”というテーマには難しいため、没にした。魚の塩焼きなどの具を入れたおにぎりと甘めのだし巻き卵、唐揚げは東方風とスパイスを効かせた物の2種類に東方風のポトフである肉じゃが、野菜は多めにしてバランスよくしたつもりだ。
そしてあるレシピを開いた。オリジナルレシピと父の字で書かれたレシピだ。そのレシピには文字と色が褪せてしまった写真を貼り付けたノートだった。それを見てデザートにしようと考えていた。
決まったのは父がよく作ってくれた抹茶ブラウニー。
自分が久々に食べたかったというのもあるが、お腹に溜まりかつくるみなどのナッツ類や砂糖で煮た小豆や豆類を入れた物、ナッツ類とチョコレートを入れた物、ナッツ類のみを入れた物同じ物だが、3種類工夫して栄養価も高いようにしてる。
瑞々しさが少し足りなかったなと反省しつつ、次の機会があったらミルク寒かベリー寒にしようと次回の調理自習に頭を膨らませていた。
「ユエ、早ーい」
「ヴィヴィも早かったね。」
「アタシもリンデも家にいた時は手伝ってたから馴れてるの。リンデとコレットもさっき出来上がったみたいよ」
私は完成したお弁当のお重箱を確認していると、いつの間にか3人はバスケットの中に入れた物を見せ合っていた。
リンデとヴィヴィはなるべく作る物は被らないようにしたらしい。
サンドイッチ系を作っているヴィヴィは、シーチキンを使ったサラダ感覚でマフィンに挟んだサンドイッチが中心でリンデは東方のカツという揚げ物を使ったガッツリしたサンドイッチが中心、メインはヴィヴィは鶏肉のピカタ、リンデは魚の香草焼きがメインだ。
コレットは自炊を始めたばかりでサンドイッチの具のレパートリーを増やしている。サンドイッチはロールパンにハンバーグ系をメインに置いて、ウインナーやうずらの卵など細かく盛りつけている。
「じゃあ、片付けをしてから食べよう。」
「よし、早く片付けよう!お腹空いちゃった~」
「食べるのは待って、男子や先生のも入ってるし、評価用のもあるから」
コレットの号令の元、片付けが始まったが、リンデが慌てて止めた。
そう、女子は2チームに分かれて作っていて、男子はアランさんとカズパルさんで今回の班長がコレットでじゃんけんに負けてマカロフ教官の分も追加している。ある意味、炭水化物が多いため、栄養価的に心配になってきた。
Ⅴ組みたいに分担式にすればよかったと内心、後悔した。
片付けが一段落してから、片付けのために避難させていた完成品を調理机の上に置いて、広げた。
「ユエのはあまり見てなかったけど、豪華そう!」
「ユエはノルド料理作るのかなと思ったけど、東方の料理なんだね」
「東方だからバスケットよりはこっちかなって。昨日、ケルディックで骨董市がやってて偶然、見つけたんだ。お重箱って言うんだって。母さんはノルド出身なんだけど父さんが東方の出身なんだ。いつも集落にいた時はノルド料理だけど、今回、どうしても挑戦したくてね」
「そうだったんだ。じゃあ、この料理はお母さんのレシピ?」
「………残念ながら、母さんは料理がほぼ壊滅的でね。父さんが毎日、作ってくれてたんだ。父さんがマメな人だったからきちんとレシピに書いてくれたんだ」
コレットに聞かれ、答えると、リンデの質問に答えにくそうに答えた。
「成程ね。話、変わるけどⅡ組とⅢ組の調理実習…ちょっと怖いことが起きたらしいから気をつけた方がいいわよ。」
「あの話ね。確か、あれでしょ?Ⅱ組のとある方の料理が独創的だけどちょっと何か違う何かが出来たって話でしょ?」
「私も聞いたことある。クッキーの筈が紫だったという話」
「う~ん、紫芋や紫色の人参が東方であると聞いたからそれなのかな。」
「変な物じゃなくてそうだと良いよね。」
たわいのない噂で盛り上がっていた。
「ここはお昼休み終了まで開放するので、ゆっくりしていってくださいね」
メアリー教官の一声と同時にⅣ組とⅤ組の男子達が乗り込んできた。
「いやっほ~!メシだぁぁぁぁ!」
「腹減った」
「お邪魔するよ。」
「お疲れ様」
「カスパル君とアラン君だ」
「委員長、副委員長、書記とコレットは色んなのがあるな。多分、書記が東方関連だな。」
「俺もそう思う。」
今日の午前中の授業はこの時間で最後のため、ゆっくり食べることが出来る。
書記の仕事も昼休み中に済ませればいいため、食べたらメアリー教官にサインを貰い、更にマカロフ教官を探さなければならない。大体は屋上だからまだ助かる。
その前にフォルティスにご飯を渡す約束をしたため、昼休みでもぎゅうぎゅうの予定だ。
「おー、お前ら行くの早すぎだ」
「マカロフ教官…遅いですよ。私達も作ってお腹空いてるんです」
「お~お、すまん。すまん。うちの姪を見習わせたい位の出来だな。」
ゆっくり調理室に入ってきたのはⅣ組の担当教官であるマカロフ教官だった。
その動作にコレットは頬を膨らませながら言った。
教官の姪はⅢ組のミントさんという方で教官の姉の娘さんらしい。
教官曰わくお姉さん似のため、家事が壊滅的ということで、この授業で何とか出来ないかと思うこともあるらしい。
「ウィンゲルさん、ブラウニーを作ったんですね。」
「はい、父がよく作ってくれたんです。緑色のは東方のお茶である抹茶を使っています。少しほろ苦いですが、父との思い出の味です。抹茶が大丈夫でしたら、召し上がってみてください」
メアリー教官が別にしているバスケットをそっと覗いていた。
「1つ頂いても宜しいですか?」
「えぇ、宜しければどうぞ」
メアリー教官がバスケットから一切れ取ると、口に運んだ。
「ほろ苦いですが、チョコレートの甘さでカバーしてて美味しいですね。ユエさん、先日、配布された資料にあったレシピノートに記録をつけてみてくださいね」
「ありがとうございます」
ユエはブラウニーのレシピをレシピノートに記録した。
ユエは抹茶ブラウニーが得意料理になった。
抹茶ブラウニー
ユエの父が自分の故郷の味を身近で知って欲しいという目的で考案した東方風ブラウニー。
ほろ苦いが、どこか優しい父との思い出の味。携帯食としても持ち運びが出来る。
HP2000・CP30回復
悪夢・睡眠3ターン無効
「メアリー教官、すみません。こちらの記録ノートにサインとコメントを頂いても宜しいでしょうか?」
「はい、こちらは記載したらマカロフ教官に渡しときますね」
「すみません、ありがとうございます。リンデ、ヴィヴィ、コレット、ちょっと図書館で借りたい本が入荷したと連絡が来ていて、ごめん。ちょっと行ってくる」
「行ってこい、書記。この弁当箱、運んどく」
「ありがとう」
調理室から急いで図書館へと向かった。
図書館に行くのは嘘ではない。
クロスベル時報録、その中でも取り寄せが出来るもので年代が近いかつ一番古いものを取り寄せていた。
旧校舎近く大樹上
「フォルティス、お待たせしました」
「慌てなくてもいいぞ、先程到着したばかりだ。」
「ありがとうございます。」
「見ていたぞ。馴染んでいて安心した。多分、あやつ等も生きていたら喜んでいる。ツキタチは少々拗ねるかもしれないがな」
クッククと可笑しそうに笑うフォルティスに抹茶ブラウニーを渡した。
彼は基本、雑食だ。自然の鉱石では雲母を好むが、他は基本なんでも食べる。
渡すと、早速食べる。
「ほろ苦いな…だが、懐かしいな。」
「父さんがよく作ってくれたから…」
懐かしいと思うが、どこか寂しい思い出。
それはユエの中で喪失した思い出だからだ。
よく作ってくれたあの時より後と今の間が欠落している。
「それはクロスベル時報録だろ?載っていたか?」
「残念ながら、取り寄せた物には載っていないみたいです。ノルドにいた時に見た夢に出てきた場所の爆破事件については載っていないみたいです」
「そうか、後はクロスベル市立図書館と審査を通らないと使えないが、王立図書館しかないな」
「王立図書館…?」
聞き慣れない図書館にユエは首を傾げた。
「王立図書館はこの大陸のありとあらゆる本が閲覧が出来る皇族ゆかりの図書館だ。クロスベル市立図書館はこの西エレボニア大陸の中では比較的大きな図書館だ。そこならば資料はある可能性もある。」
「クロスベルなら行けそうだけど、問題は市民しか借りることが出来ないんですよね。」
クロスベル市立図書館は自分でも簡単に調べていた巡回神父であるあの方とゼクス中将ならば大丈夫かもしれないが、残念ながらゼクス中将は予定が掴めない、巡回神父のあの方は行方が掴めないので。
「残念ながらだ。クロスベル市民以外から借りる場合は借りたい資料と目的など細かく書類に書かないといけない。厄介なのは貴重本の場合はクロスベル市民やクロスベルでの労働者の保証人を立てないといけない。王立図書館も同様で皇族達や国や大陸に貢献した功労者が推薦しないと使えないな。後は遊撃士の中でもA級なら知識、実力、知名度的には申し分ないだろう」
「遊撃士か……お父さんなら何とかなったのかな。」
フォルティスの言葉に1人の面影が脳裏に浮かぶ。
ジオ・ランドフィールド。東方からノルドへ剣の修行にやってきたA級遊撃士でありユエの父親だ。
後にユエに剣を教え、とある事件でこの世を去った。
「あいつなら何とかなったかもしれないな。あいつはあいつらと共にもうこの世にはいない」
「そうだね、その原因もしくは手がかりを探すために来たんだから…これだけはガイウスにも内緒にしてくださいね。このことはノルドの集落の皆は関係ないから…。自由行動日とテスト期間に調べに行こうと思います。フォルティス、付いてきてくれますか?」
「任された。乗らないのだろう?」
「そうだね、乗らないで風で渡るよ。クロスベルも行きと帰りで時間もかかるし、ガイウスにバレないならこの方がいいから」
既に判っていても確認する上で聞いてくる。
「さて、次は何の授業だ?」
「確か、軍事学の筈です。」
「軍事学か…面白い。試しに受けてみるとするか。」
「フォルティスが興味を持つなんて珍しいですね。」
「軍事学は戦いの学問だろ?ゼクスとやらの話もなかなか面白くてな。前から興味があったんだ。」
「なら、行きましょうか。職員室に日誌を取りに行かないと」
そう言って木の上を降りると、エニグマが鳴った。
すぐにエニグマを取ると、聞こえてきたのはコレットの声だった。
「はい、ユエ・ウィンゲルです。」
「ユエ?コレットだけど、ごめんね。男子達がお弁当を全部食べちゃって残ってないのと先生達から日誌預かってるよ」
「大丈夫、お腹空くもんね。今、教室に向かうよ。お重箱はどうなってる?」
「男子達に洗わせたから大丈夫。」
「了解。今から教室に向かうよ」
そう言ってユエとフォルティスはⅣ組の窓近くの木へと向かい、窓から入った。
「ユエ!いきなり窓から入ってきてからびっくりした…」
「ごめん、ちょっと間に合うか判らなかったからこっちの方が早いからね」
いきなり、窓から入ってきたことに驚いたのはリンデだった。
「次は軍事学だったよね?確かテキストと資料集は既に配布していて忘れたら連帯責任で訓練セットと反省文だったよね?」
「そうだったわね…」
「ヤベッ、忘れた」
「私も忘れた…」
「ちょっと…何で置き勉しなかったの」
「はい、皆。ちょっとだけで良いから時間と教室に教官を入れさせないで。後、何人忘れてる?」
手を挙げたのは5人だった。
「あれをやるのだな…有効だが触媒はどうする?」
フォルティスの問いにユエはいくつかの七燿石の欠片―セピス―を取り出してみせた。
「妥当だな」
机の上に出したテキストと資料集の色を確認する。
テキストと資料集の色と同じセピスを握りしめた。
「Es eposion leya…」
セピスが砕けた瞬間に現れたのは軍事学のテキストと資料集だった。
「1日しか持たないから自室に帰ったらすぐにライン写しなおして」
そう言ってユエは教科書類を忘れたクラスメイトに手渡した。
「これ、本物?」
「中身まで完璧だよ」
「えぇ、これでも精密に真似たと思う。昔、母さんから教わったことの応用だから」
中身を見比べてみても見破れない位によく出来ていた。
「タネも仕掛けも御座いません。ただ手元にあるのは今から1日しか形を保てない贋作のテキストと資料集で御座います!」
そうお辞儀をしてユエは席についた。
「書記が強い…」
「何度も忘れちゃ駄目だからね…後、他クラスとか教官達には言わないでね。これ、バレたら恐らく、スパルタより酷いクラス連帯責任になりかねないから」
「判った…絶対に言わない。」
溜め息を付きながら、念を押してユエは言うと、クラスメイトは即、そう返した。
ふと思い浮かぶのは、幼き自分と母との特訓だった。
「い~い、ユエ。見たままの道具を真似て、詠んで強化してみて。強化の内容は何でも良いわ。硬度でも中身の精密さでも何でも」
それが母に教わったことだ。見たものをそのまま形まで真似て強化する。
“投影”は私が一族から受け継いだ秘術で修行していて、その中で最も得意とする力だ。
属性は時属性と幻属性。ただ投影したものが形を保つ時間は最大1日しか持たない。
気軽にこの力を使ってもバレなそうな学業外活動があるならやりたいと思うが、部活は把握してないから判らない。
今日の放課後のホームルームで部活動の配置されている場所のマップがエニグマ宛てに配信されるらしい。
「なかなか使いこなしているじゃないか?強化も精密さも前より格段に上がっているのが分かるぞ」
「でも、これだけじゃ半人前。ツキ兄さんは同じ時属性でも空間・重力系だから力的には圧倒的に負けている。」
少し思い出してヘコんでいるのはユエだった。
「ユエ、奴の言葉を思い出せ…あの馬鹿者は何と言った?」
「ユエ、せめて誰にでも強いお前をイメージしろよ。現実では敵わない相手ならば、想像の中で勝て。自身が勝てないのなら、勝てるモノを幻想しろ。今のおまえに出来る事は、それしかない…。それをもって強くなれ、このノルドやお前が誰かを救いたいならば決して諦めるなよ」
脳裏に浮かぶのは赤い短髪にくすんだ金色の瞳をした青年だ。彼は自分の憧れで常に私にこう言っていた。
教室に入ってきたのはがたいのいい身なりをきちんとした金髪の男だった。
ナイトハルト教官否ナイトハルト少佐は帝国正規軍・第四機甲師団から出向してきた軍人だ。
第三機甲師団であるゼクス中将の雰囲気に少し似ているが、何かが違う。
そんなことを思っていると、フォルティスは隣の席に座っている。私の右は空席で誰も座っていない。
フォルティスにも贋作の教科書と資料集を渡すと、彼は器用に風を使ってページを開いた。
「全員、忘れていないようだな。では、教科書28ページを開け」
そして口開かれるは教科書の内容だ。
だが、最新の軍事学でそれを含めて、私がノルド出身だからだろう現在のノルドに配備されている戦車は聞いた話も交えてくれたようだ。
配備されているのは旧型らしい。
テキストの絵を見ても動力部などで分かるが、最新型は機動力は優秀らしい。
だが、優秀故に弱点もある。
あの機動力は少し軽くしているため、防御力はあまり良くはないらしい。
「戦車については6月の中間テストに出すつもりでいるためよく見直すように。以上が本日の授業内容だ。次の時間は軍の仕組みと隊列についてを行う。」
「起立、礼」
リンデの号令で終了した。
授業中、黒板の内容をノートに写しながら、日誌にまとめる作業はなかなか難しい。
いつもなら休み時間にはまとめ終わるけど、日誌で厳しい人がいる。それが日誌三大鬼教官と伝わっているハインリッヒ教頭、トマス教官、そしてこの方、ナイトハルト教官だ。
Ⅴ組は日直による当番制、Ⅲ組はペア当番制でⅣ組は書記による固定でまとまっている。
ナイトハルト教官の恐ろしいところは軍形式による報告書でまとめなければならないのでマニュアルが渡されている。
ハインリッヒ教頭は見やすくかつ丁寧にまとめなければならないのと知事が載せるような正式文章でまとめなければならないため、こちらも見本が渡されている。
トマス教官は内容が授業と一致しているかつ授業に対してのコメントを書かなければならないのと文字数は2000字以上とハードな要求を求められている。
まあ、ノルマと思えば何とかなるかもしれない。10分の休み時間でこなすのは苦行と言える。
何故、Ⅶ組にはないのかといえば特殊カリキュラムがあるため、それ故の免除らしい。
そして役割による日誌制度はくじ引きで決まっているらしく、マカロフ教官が引いたのが固定枠である書記だった。
ただ、それだけなので仕方ないと思う。
「これで大丈夫かな?」
書き終わった日誌の誤字脱字がないか内容に相違点がないか確認すると、質問をしているクラスメイトに囲まれているナイトハルトの元へ向かった。
囲まれている先から突然、自分に向けて腕が伸びてきた。
「ウィンゲル、ご苦労だった」
「お気を使わせてしまい申し訳御座いません。」
ユエはそう一言を添えてナイトハルトに日誌を手渡した。
これで帰りのホームルームでクラスの1日が終わる。
いつもならすぐに来るはずのクラス担当教官であるマカロフが来ない。
代わりにエニグマの通信が鳴った。
鳴ったのはリンデのエニグマからだった。リンデはすぐに着信を取り、応答に答えた。
「はい、リンデです。マカロフ教官?はい、はい、はい…分かりました。皆には伝えます。」
「リンデ、何があったの?」
ヴィヴィはリンデの通話が終わると、話かけた。
「マカロフ教官が急な出張が入ったからホームルームはなし」
「じゃあ、マップは?」
コレットがリンデに聞くと、リンデはマカロフから受けた指示を話した。
「それについては今から送るから大丈夫だって」
その言葉と同時に一斉にエニグマの受信音が鳴った。
エニグマを見ると、部活一覧詳細マップというプログラムが表示され、プログラムがインストールされていた。
「すごーい、学院のマップと部活の詳細が綺麗にまとまってる」
「へえ、こんな部活、あるんだな。行ってみようぜ」
それから、一斉に解散になった。
ヴィヴィ達も気になった部活があるため、先程、それぞれの部活見学に向かった。
それから、ガイウスに向けてプログラムを配信してみる。
上手くいったようだ。
「ユエは部活の見学に行くのか?」
「あまり考えてなかったのが答えです。天体観察の部活はないみたいですし、少し学院散策には行くつもりです」
そう言い、ユエも教室を後にする。
向かった先は屋上だった。
屋上から見えるのは馬術部と園芸部、ラクロス部だ。
後は学生館や校舎にあるらしく、校舎から向かうことを決めた。
真っ先に向かったのは美術部だった。
入った先には見慣れた人物がいた。
「ユエじゃないか」
「ガイウスはやっぱり美術部だったんだね、最初は馬術部かなって思った」
「基本的なことを習いたいと思ってな、ユエは決まったのか?」
「天文学、星に関係する部活を探しているんだけど見つからなくって、ちょっと、迷ってるんだ」
「ユエから貰ったマップにはなかったな」
「まあ、同好会も生徒会に申請すれば可能だけど、活動が主に夜の場合は担当教官の申請も必要って話だから見送りかな。まだ期間もあるから見て回るから、またね、ガイウス」
そう言って、ユエは美術室を後にした。
それから、西から東へと見て回るが、これといった部活は見つからなかった。
釣りは、のんびりでいいかもしれないけど、何かが違っていたため、近くの釣り場とノルドの釣り場のスポット情報交換をした。
占い、星も詠むというのでいいかもしれないと思ったけど、分野が違っていて、フォルティスのことを見ていた視線に危険を感じたため、却下した。
チェス、派閥があるらしく、今日は活動日ではなく、見学が出来なかった。
馬術、ノルド高原のことで話していて、相性はいいと思って、たまに乗せてもらうまで押さえることになった。保留
水泳、水に入るのは好きだけど、泳ぎ方が一族特有で驚かれて、文化の違いが目に見えてしまうため、やめといた。そして、幼い時の傷跡もあるため、余計に気にしてしまいそうだ。そして、泳ぐ勢いが凄い同級生からの視線が強かった。
フェンシング、ルールは知っているけど、アランと貴族クラスの同級生の空気が重いため、避けることになった。フォルティス曰く私のような剣術を進んでいる者は、やってるうちに癖がつくと、直すのが大変だそうだ。せっかく褒められているので、フォルティスが認めてくれたら、考えようで保留。
ラクロス、うちのクラスの子からも声を掛けられたけど、紫色の髪の毛の子からの視線が痛かったため、却下した。悪い方ではないと思う。
園芸、ヴィヴィがいて、話しているうちに園芸部の先輩からお花さんが嬉しそう、遊びに来てねとお誘いで今度、お茶会をすることになった。保留
調理、噂の凄い料理をする同級生から危険な香りがしたため、フォルティスからもやめとけと言われた。却下
吹奏楽、アークスみたいなことが起きたら、楽器が傷んでしまうとつらいため、却下した。
「部活は、無理に入らないでいいかな。星は、自由開放日にクロスベルで専門のところにいくか、図書館に専門書を取り寄せようかな」
「自由だろう、そこは。但し、調理部はやめとけ。あの料理からは、人を惑わせる媚薬の匂いがした」
フォルティスが鳥肌を立てながらも忠告するのは、珍しいことだった。
こうして見ているうちに夕方だ。
何も決まらぬまま、何がいいか、頭に浮かぶ。
見ていないのは工房と呼ばれた施設を利用している技術部という部活のみだ。
技術部と聞くと、エニグマのような現象が起きる可能性が示唆される。
「トワ、生徒会に依頼をしてもいいかな?」
「何かあったの」
「実はカラスに大事なお守りを持っていかれて、捜索をお願いしたいの」
「大丈夫だよ、すぐに依頼として受理するね」
Isa da Sion ,parallel lisha
(さあ、教えて 、ここにはいない愛しい子達よ)
xiss yu xixic lef getie eposion…
(小さな時の囁きよ)
「(こんにちは。半人前の
入学式の時に花と共に舞った
「(こんにちは。そちらの方のお守り、カラスが運んだそうなんです。何か知りませんか?)」
ユエはラピスから映し出したのは、先程の女性の先輩だった。
「(ああ、あのカラスかい?あの旧校舎のところにいるよ。キラキラしたものが好きでね、カラスというよりは小型の魔獣さ。すばしっこくって、更に我ら
「(半人前の
「(報酬は
依頼
浮かれカラス交渉
依頼人 花舞
ミッション内容
旧校舎に暮らす小型魔獣と交渉せよ
クエスト達成条件
旧校舎にいる小型魔獣と交渉又は屈服
小型魔獣から奪われた御守を取り返す
「ユエ、恐らく、この魔獣はノルドに似たタイプがいる。交渉するなら、
「判りました。半人前ですが、頑張ります」
「ありがとう、私達は入口にいるね」
旧校舎に向かい、建物を通り過ぎた森の中に入っていったそして、周りに自分以外がいないことを確認すると、ユエはゆっくりと目を閉じて、再び目を開くと、その姿は変わった。髪は白くなり、耳が少し尖り、羽根が生える。瞳は青竹色がより濃くなっていた。普段のその姿は少し違えど、ユエ・ウィンゲルだ。
丁度、目の前にはターゲットの小型の魔獣がいた。
烏に姿が近いその魔獣に話をかけた。
「すみません、私はノルドの
「審判の意味を持つ
「2つ、お願いがあります。1つ、こちらに住む
「
「ユエ、仕方ないな。セピス塊は予め、用意があるが、魔獣は血の気が多い者が多い。そこはしっかりと諦めろ。
ユエは烏型の魔獣に交渉を持ちかけ、その魔獣から返ってきた内容を横で聞いていたフォルティスが口を開いて、告げた。
その言葉にユエは大鎌を取り出すと、構えた。だが、その魔獣は先手必勝の如くにすぐに攻撃をしてきたが、大鎌で弾き返し、攻防戦が続く一方だ。
「なかなか速いが、どうだ、いけそうか?」
「ノルドの民の槍の方が速い。」
そして、動きを見極めたのかユエは大鎌を魔獣に向かって投げると、大木に大鎌の刃が突き刺さっていた。一言、両手に向けて、呟き、魔獣の背後に身を移し手刀を決めた。その手刀は重く、まるで鋼鉄だった。
「この
「あなたは私が大鎌を使いこなせていないこと、この瞳の色が風の
「セピス塊20個との交換、
「いいだろう、その瞳と容姿、ノルドの空気とその瞳に騙されたが、風属性ではなく、上位属性でも半人前とはいえ、時属性の
ユエは行動の理由、続けざまに交渉内容を言うと、魔獣はそれを了承した。
セピス塊が入った袋を魔獣の側に置くと、ユエとフォルティスはすぐに離れた。魔獣もそれに習い、御守をユエとフォルティスの前に置くと、袋を持って、すぐに森の奥へと帰ってしまった。
御守を手に入れた。御守は瓶にガラス玉に似たものと折りたたんだ紙片が入っていた。
「交渉成立ですね。行きましょう、フォルティス」
「ああ」
ユエとフォルティスも旧校舎の方へ戻るためにその場を後にした。入口の前でフォルティスは姿を見えないようにユエは
「あっ、ユエさん。駄目だよ、旧校舎付近は一般生徒立ち入り禁止なんだから」
「……申し訳ございません、こちらをお渡しします」
トワに御守を手渡すと、すぐに立ち去ろうとしたが、その場を制された。制した行動はユエの目の前に腕を広げていた。
「もしかして、これのために入ってくれたの?」
「……」
何も言わないことを肯定ととり、慌ててすぐに制していた腕を下げた。
「ごめんね、知らなかったから、改めてお礼を言わせて。ありがとう、助かったよ。手がかりがあまりなかったから、依頼の発注に少し困っていたんだ」
トワの言葉にユエは首を横に振って、答えると、トワは言葉に合わせて、首を振ったり、頷いたり反応をして、答えているのをトワは確認しながら、続けて聞いた。
「そっか、ありがとう。もし、緊張しているなら、そのまま聞いて貰ってもいいかな?」
「これは依頼主の子に渡しておくね。あのね、ちょっとお願いがあるんだ。」
「生徒会ではたまに依頼をこうやって発注しているの。1人はⅦ組のリィン君を代表にお願いしているんだけど、今回のような依頼はユエちゃんにもお願いしてもいいかな。これは学院公認ということもあるんだけど、今回の一件のようなことがあると、本当に助かるんだ。担任であるマカロフ教官や担当教科の教官にも私から伝えておくよ」
少し悩んだ素振りをとって、ユエはフォルティス、そして、自分の大鎌にゆっくりと視線を傾けて、トワに目を合わせて頷いた時、トワは目を輝かせながら、詰め寄ってきた。
「ありがとう!よろしくね、ユエちゃん。あっ、さっきからユエちゃんと呼んでごめんね。」
トワの発言にユエは首を振ると、その呼び方を肯定ととった。
そのトワが話している最中にふと浮かんだのは幼い頃の自分とガイウスだ。
「それじゃあ、ユエちゃん。後日、生徒手帳にクエストメモを追加するから、生徒会室に来てね」
「わかりました、宜しくお願いします。トワ先輩
少しだけ違う自分の声にトワが驚いたが、こう続けて、手に何かを握らせてくれた。
飴だ。
「これ、私のおすすめの蜂蜜の飴なんだ。喉にとっても良いから、よかったら、舐めて。春っていっても風が冷たいから、体調には気をつけてね」
「ありがとうございます」
優しいその一言に何かがストンと胸に落ち着いた。
トワはその場を去った後、フォルティスが言った
「ユエ、良かったじゃないか。」
「うん、“嬉しい”ってこういうのかな。」
「ああ、それが“嬉しい”だ」
この一歩は彼女にとって、大切な一歩だろう。
ああ、その一歩をお前達にも見せたかった。
まだまだ頼りないが、確実にお前達の意志を継いだ一歩なのだから。
その理由はまた、先へ
大分、時間がかかっちゃいましたが、ようやく投稿になりました。
閃の軌跡Ⅳに向けて、完結を少しでも目指したいです。